アートとファッションは、共に革新的でクリエイティブな表現方法の1つであり、昔からお互いにインスピレーションを与え合う存在として、その関係性に長い歴史を持っています。
素晴らしい品質や耐久性を持ち、一流のスキル、デザインが施される高級ブランド品は、「小売業界における究極の芸術」と言えるでしょう。
高級ファッションブランドにとって、アートとの関わりはブランド自体の価値を上げ、顧客との強く密な関係性を築くための戦略的な動きで、効果的なマーケティング手法の1つです。
実際にファッションブランドがアーティストとコラボレーションすることは、各ブランドの雰囲気、物語を顧客により深いレベルで伝える手段として機能し、顧客とブランドとの繋がりをより長期的にすることができます。
一方で、時間や工数のかかる製作過程やその希少性に対しての価値など、多くの共通項を持つハイエンドブランドとアートの提携は、とても自然な流れでもあるのではないでしょうか。
ファッションとアートの融合は目新しいものではありませんが、その歴史を振り返ると、時代とともにその姿は大きく変化してきています。
アートもファッションも、それぞれの歴史や背景にあるストーリーを知ることで、より作品・商品を楽しむことができ、愛着も湧くのではないでしょうか?
今回はその歴史を大まかに振り返ってみましょう。
ファッション × アートのはじまり|シュルレアリスム
ファッションデザイナーとアーティストのコラボレーションの初期の例として有名なのが、1930年代のエルザ・スキャパレリ(以下、スキャパレリ)とサルバドール・ダリ(以下、ダリ)のシュルレアリスムのグループとの作品です。
シュルレアリスム(超現実主義)とは?
シュルレアリスムとは、哲学者フロイトの提唱した精神分析理論を軸にフランスの文学者であるアンドレ・ブルトンが提唱したことで始まった思想活動です。
人間の無意識的な欲望や感情、あるいは夢などをテーマとして、目に見える現実を超えた真の現実を表現するため、物理的な法則が無視されたりして非現実的な作風のアート表現になります。
日本語訳では超現実主義と言われています。
政治や社会にまで影響を及ぼしましたシュルレアリスムは芸術界においても、絵画だけに限らず、映画、文学や音楽などに幅広く用いられました。
シュルレアリスムの前後の西洋美術史の流れを確認したい方は、こちらの記事もチェックして見てください!
スキャパレリとダリによるアートとファッションのコラボレーション
エルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)
1930年代、40年代最も精力的に創作活動を行なったクチュリエール。その個性的なデザインはイタリアやフランスだけではなくアメリカでも人気となり、一躍ファッションの中心人物となった。その大胆なデザインにはファンが多く、ブロード・ショルダー、骸骨模様を入れたアヴァンギャルドなセーター、刺激的なショッキング・ピンクなどの時代を卓越したアイディアでその評価を高めていった。
Wikipedia「エルザ・スキャパレッリ」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%AA
サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)
スペイン・フィゲラス生まれ。マドリードのサン・フェルナンド王立アカデミーに学ぶ。1925年初の個展をバルセロナで開催。1926年のパリ旅行でピカソのアトリエを訪問。1928年のパリ旅行ではミロと出会い、翌年カミーユ・ゴーマン画廊でパリ初個展を開催、この頃よりシュルレアリスム(超現実主義)運動に参加した。特に詩人アンドレ・ブルトンにより熱烈に支持されたが、後に方向性の違いから決別した。1940年にアメリカに渡り1948年に帰国した。非現実的な夢の空間や奇怪なイメージを精密描写で表現することで、独特の幻覚的な現実感を生み出している。誇大妄想的自己顕示欲こそが想像力の源泉だとする主張から、生涯にわたり奇行や奇癖を行ったことでも知られる。
西宮市大谷記念美術館 収蔵品データベース「サルバドール・ダリ」https://jmapps.ne.jp/otanimuseum/sakka_det.html?list_count=10&person_id=18
スキャパレリとダリのコラボレーション作品
当時のイタリア人ファッションデザイナーたちは、ダリを含むシュルレアリスム(超現実主義)のグループからインスピレーションを受けており、いくつかのコラボレーション作品が発表されました。
モード界のシュルレアリストと呼ばれたエルザ・スキャパレリは、アート界のシュルレアリスムを代表する鬼才の画家サルバドール・ダリとのコラボレーションによって、彼女の最も象徴的なドレス、帽子などの作品を生み出しました。
「ロブスター・ドレス」
「ティアーズ・ドレス」
「スケルトン・ドレス」
ファッションとアートの民主化|ポップアート
1960年代はポップアートの流行が影響し、アートとファッションの関係にとって大きなターニングポイントとなった時代だと言われています。
当時のファッションデザイナーとポップアーティストたちは、1940年代後半から50年代にかけてニューヨークを中心に広まり世界的に注目された抽象表現主義を拒絶しました。
彼らは、民主主義社会の平等性を目指し、大衆が作品にアクセスできるようにするという共通の目標を持って団結し、ムーブメントを主導しました。アンディ・ウォーホル(以下、ウェーホル)とイヴ・サンローラン(以下、サンローラン)は、その代表的な存在です。
アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)
アンディ・ウォーホル(1928年8月6日-1987年2月22日)はアメリカの美術家。ポップ・アートムーブメントを率いた代表的な人物として知られており、ファイン・アートとセレブ文化と1960年代に流行した広告における関係性を表現した。
商業イラストレーターとして成功した後、ファイン・アートへ転身して成功した珍しいタイプである。アメリカ現代美術において最も議論の対象となるアーティストだった。
ウォーホルの美術においては非常にさまざまなメディアが利用される。ドローイング、ペインティング、シルクスクリーン、写真、版画、彫刻、映像、音楽など数えるときりがない。また、1984年に発売されたアミガ社のコンピューターを利用したコンピュータアートの先駆者でもある。
Artpedia「【美術解説】アンディ・ウォーホル「ポップ・アートの巨匠」」https://www.artpedia.asia/andy-warhol/
ウォーホルの有名な絵画・シルクスクリーン作品のキャンベル・スープ缶の絵は、その後キャンベル社のキャンペーン広告のために、当時アメリカで流行していたペーパードレスとして「The Souper Dress」というコラボレーション作品に用いられました。
ウォーホルが活躍した、ポップアートが流行した頃の西洋美術史について知りたい方はこちらの記事も読んで見てください!
イヴ・サンローラン(Yves Saint-Laurent)
イヴ・サン=ローランは、フランス領アルジェリア出身のファッションデザイナー。または、イヴの名を冠したファッションブランド。
ココ・シャネル、クリスチャン・ディオール、ポール・ポワレらとともに20世紀のフランスのファッション業界をリードした。2002年の引退まで、トップデザイナーとして40年にわたり活躍し、「モードの帝王」と呼ばれた。
フランスが誇る世界的ブランドであり、現在はケリングに属する。系列の「イヴ・サンローラン・ボーテ」としてコスメ商品の展開も幅広く行っている。
Wikipedia「イヴ・サン=ローラン」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%B3%EF%BC%9D%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3
サンローランは、オランダ出身の抽象画家であるピエト・モンドリアンが確立した「コンポジション」からインスピレーションを得た、「モンドリアン・コレクション」を1965年に発表しました。同コレクションは、クラシックな60年代スタイルのシフトドレス6点が含まれます。
また1966年には、秋冬のランウェイコレクションとして、アメリカの画家トム・ウェッセルマンの絵画を彷彿とさせる作品を含むポップアートコレクションも発表しました。
サンローランは、ファッションの世界で重要なランウェイという舞台にアートの要素を取り込んだだけでなく、アートという世界にファッションをもたらしました。
美術館でのファッション展示会の始まり
1982年、アート雑誌「Artforum」の編集者だったイングリッド・シシーが、ファッションデザイナーイッセイ・ミヤケの衣装を着たモデルの写真を雑誌のカバーに選んだことを皮切りに、ファッションを高尚な文化的表現の1つと認める世の中の流れが高まっていきました。
その影響から、ニューヨークのメトロポリタン美術館のような世界的に著名な美術館でファッション展示会が開催されるようになり、現在ではごく一般的なものとなりました。
アートのトレンドや哲学を作品に取り入れるファッションデザイナーたち
美術館でのファッション展示会が増えるにつれて、多くの前衛的なファッションデザイナーが、より芸術的なアプローチの作品を発表する傾向が生まれました。
フセイン・チャラヤン、コム・デ・ギャルソンの川久保玲、メイソン・マルタン・マルジェラ、山本耀司などのデザイナーたちは、商業的な視点でなく、より固有の哲学のあるテーマに沿ったデザインのコレクションを発表することで、ランウェイをより芸術的なものにしました。
近年のアートとファッションのコラボレーションの傾向
特に2000年代以降は、村上隆とルイ・ヴィトンのように、アーティストと世界的ファッションメゾンのコラボレーション商品がより一般的に見られるようになりました。独占性の高い期間限定商品や、定番のブランド商品にアーティストによる斬新なデザインが取り入れられたコラボレーション商品は、一種のトレンドとなり、現在も見ない日はありません。
高級ブランドの時計も、アーティストとのコラボ商品を多く出しています。
また、高級ファッションブランドと対局のイメージを持たれがちなストリートアーティストたちも、今では多くのブランドと提携していたり、世界的ブランドが広告の手段としてストリートアートの要素を取り入れたりしています。
2ヶ月毎に変わる、ニューヨークやミラノで見られるグッチの巨大壁画も、その例の1つです。
日本を代表するカジュアルブランドUNIQLOの、コラボレーションTシャツブランドであるUTも、様々な話題のアーティストとのコラボ商品を常に販売しており、要チェックです。
まとめ
歴史を振り返ると、ファッションとアートは長い歴史の中で相互に影響を与えあって進化を遂げてきたことが分かりました。
近年では、多くのハイエンドの消費者が、高級ファッションブランドの商品と同じぐらいアート作品に関心を持っており、ファッションとアートの世界の境界線は混合し、より曖昧になっているようです。
あらゆることのデジタル化が一気に進んだ2020年を経て、アートとファッションの世界が次の10年間ではどのように変化していくのか、これからが楽しみですね!
参考
Artspace「A History of Art & Fashion Collaborations」https://www.artspace.com/magazine/art_101/art_market/art_101_art_and_fashion_collaborations-5804
Fast Company「The real reason why luxury fashion brands love the art world」
https://www.fastcompany.com/90337292/the-real-reason-why-luxury-fashion-brands-love-the-art-world