今回は高級ファッションブランドが、どのようにアートに投資することで自社ブランドの一貫したイメージを増幅させ、ファンとの関係性を深めているのかに着目してみます。
私たちが高級ブランドに価値を感じるポイントは、どこなのでしょうか?
きっと、商品のデザイン、品質、ブランドの歴史など様々な要素が積み重なったブランド特有のストーリーやスタイルが、多くのファンを惹きつけているはずです。
それぞれのブランドが、その歴史的遺産を引き継ぎながら、新しい時代にも適応していくために、様々な取り組みを行っています。そのような取り組みの一環として、アートへの投資やアーティスト支援などの慈善活動キャンペーン、また美術館の運営などが見られます。
投資や慈善活動などのような、各ブランドのアートを関連づけた活動を比べてみると、それぞれ固有のブランドのストーリーに基づいていることが感じられます。
世界の有名高級ファッションブランド及びグループから、バーバリー、プラダ、ケリング、カルティエの例をご紹介します。
バーバリー(BURBERRY)
バーバリー(BURBERRY)は、イギリス・ロンドンに本社を置く、1856年に、トーマス・バーバリーによって設立された高級ファッションブランドです。
現在、代表的なアイテムであるトレンチコートをはじめとした既製服、革製品、靴、ファッションアクセサリ0、アイウェア、香水、化粧品などのデザイン・販売をしています。
バーバリーはロンドン証券取引所に上場しており、2015年には、バーバリーはインターブランド社の「ベスト・グローバル・ブランド」レポートで、ルイ・ヴィトンやプラダと並んで73位にランクインしました。
バーバリー・アコースティック
アイコニックなトレンチコートで知られる、イギリスの代表的な高級ブランドであるバーバリーは、「バーバリー・アコースティック」というキャンペーンを通じて、イギリスの若いアーティストを支援しています。
バーバリーはこの活動で歴史ある本物の英国ブランドとしてのアイデンティティに結びつく形で、多くのミュージシャンを紹介してきました。
若いイギリスのバンドとコラボレーションし、バーバリーのためだけに創られた楽曲を、バーバリーのコレクションを参加ミュージシャン達が身に纏って演奏する映像が、ブランドの公式ウェブサイトやYouTubeなどから発信されています。
プラダ(PRADA)
イタリアの高級ファッションブランドであるプラダ(PRADA)は、1913年にマリオ・プラダによって設立されました。
ハンドバッグなどの革製品、トラベルアクセサリー、靴、既製服、香水、その他のファッションアクセサリーを専門としてデザイン・販売しています。
創設者マリオ・プラダの死去後は、時代背景も関わりブランドは低迷期となりましたが、孫娘であるミウッチャ・プラダがオーナー兼デザイナーに就任してから、プラダの高級ブランドとしての人気は再加熱します。
特に、合理的志向を重視した現代女性にヒットした、軽くて耐久性のあるナイロン生地を使用したバッグがきっかけとなって、世界的な高級ファッションブランドとして現在まで変わらぬ人気を集めるようになりました。
プラダ・ジャーナル
イタリアの老舗ブランドであるプラダは、ブランドが主催する文芸コンテスト「プラダ・ジャーナル」を、2013年から開催しています。
このプロジェクトでは、ブランドのファンからテーマに沿った芸術的なコンテンツを募集し、優秀な作品には賞が与えられ、プラダ主催のイベントで大きな評価を得ることができます。
元々は文芸作品にフォーカスし、短編小説や詩を募集して印刷物として出版していましたが、2017年のプラダ・ジャーナルでは、イメージと言葉が芸術的に組み合わされ、よりビジュアル的な要素を取り入れながらストーリーを語る作品を募集していました。
これは、時代の変化とともにブランドがよりデジタルでのキャンペーン施策を取り入れるようになったことが影響しています。
日本からは、精神科医・作家の松嶋 圭さんが「Conversations with Shadows」という作品で、2016年に行われた第3回プラダ・フェルトリネッリ賞を受賞しています。
また、プラダは文芸コンテストにちなんだ眼鏡やサングラスのギャラリーも展開しています。
プラダ財団
同じくイタリアのラグジュアリ-ブランド プラダの財団は、1910年代の蒸留所を増改築し、2015年にミラノに現代アート美術館をオープンしました。
7棟の既存の建築物で構成される極めて広いこの美術館は、アート展示やイベント、映画の上映会、トークイベントやパブリックイベント、そして国際的アーティストが企画した特別プロジェクトの開催の場となっています。
アメリカの映画監督ウェス・アンダーソンがデザインし、古いミラノ式カフェの雰囲気を再現したバー「Luce」などのように、アート作品の展示だけでなく、レストランやバーも併設されており、ミラノを訪れた際には必ず行きたい観光スポットとしても有名です。
グローバル・ラグジュアリー・グループ ケリング(Kering)
グローバル・ラグジュアリー・グループとしてグッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガなど数々の有名高級ファッションブランドを傘下に抱えるケリング(Kering)は、フランス・パリを本拠地とするコングロマリットです。
ケリングは、主にファッション・宝飾品関連カテゴリーにおけるグローバルリーダーとして強力なブランドを所有しており、ルイ・ヴィトンやセリーヌのLVMH、ヴァンクリーフ&アーペルやカルティエのリシュモンと並んで、ファッション業界を牽引しています。
ウィメン・イン・モーション
ケリングは、映画業界における男女の機会均等を目指して、女性アーティストの功績を讃え、活躍の機会をより多く提供するために、2015年に「Women in Motion」を立ち上げました。
このプロジェクトでは、映画業界の女性たち同志の会話や研究的な取り組みを支援するプラットフォームの提供や、カンヌ映画祭のような世界的なアワードでのクリエイティブな現場で活躍する女性の表彰、展示会、研究、出版物の企画などを行っています。
カルティエ(Cartier)
グローバル・ラグジュアリー・グループとしてLVMHに次ぐ第2位の企業であるリシュモンに属するハイエンドジュエリーブランド、カルティエ(Cartier)。
1847年にルイ・フランソワ・カルティエがフランス・パリで創業し、歴史的に王族への宝飾品販売をしてきた世界で最も権威のある宝飾品メーカーのひとつとみなされています。
カルティエ財団
カルティエの財団は、現代美術を支援するために、パリにカルティエ財団現代美術館を創設しました。
カルティエ財団は、写真、絵画からビデオアート、ファッション、パフォーマンスアートに至るまで、現代アートのすべての創造的なジャンルを支援しています。現在、1,000点以上の作品を収蔵しており、世界にコンテンポラリーアートを広めた第一人者と言えます。
1984年に設立されたカルティエ現代美術財団は、フランスにおける企業メセナのあり方に一石を投じ、その発展に尽力してきました。アーティストた ちの創作の場となり、市民とアートの出会いの場となる空間を提供しながら、現代アートの創作活動の促進、およびその社会的普及に努めています。
毎年、テーマを設けた企画展、あるいはひとりのアーティストによる個展を開催する一方で、コミッションワーク(依頼製作)による所蔵コレクションの充実化にも力を注 いできました。現代アートは、現代社会が抱える諸問題を提起する力を持ちます。その創作活動をカルティエは支援し、より多くの市民の目に触れる開かれた場 を提供し続けることで、今日のクリエーションを尊重する企業理念を実践しています。
引用:Cartier「カルティエ現代美術財団」https://www.cartier.jp/ja/%E3%83%A1%E3%82%BE%E3%83%B3/commitments/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A8%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E7%BE%8E%E8%A1%93%E8%B2%A1%E5%9B%A3.html
日本人アーティストでは、これまでに北野武、村上隆、荒木経惟、イッセイミヤケなどの展示が行われました。
まとめ
世界的なファッションメゾンが、様々な形でアートに投資したり、慈善活動としてアーティストを支援したりしながら、ブランドごとのアイデンティティを表現しているようです。
現代のブランドと消費者との繋がりは、時代とともに消費活動がオンラインに移行しているものの、変わらず社会的影響が大きく関わっていると思います。
ラグジュアリーブランドも、時代とともに変化を取り入れているとはいえ、長い歴史と独自の世界観を追求してキュレーションしたコンテンツや、コミュニティを持っていることが分かります。
アートとファッションが長い歴史の中でコラボレーションを続けてきたように、2つの関わりに注目すると、芸術とは至高の高級品で、その価値に深みがあり、高級ファッションブランドのイメージさえも格上げするものだと感じました。
現状はまだ難しいですが、早く気軽に海外旅行ができるようになって、世界中の高級ファッションブランドの財団が運営する美術館にも足を運んでみたいですね。
参考
Wikipedia「BURBERRY」https://en.wikipedia.org/wiki/Burberry
abox「豊かな感性と個性で世界を牽引するブランド「PRADA(プラダ)」。」https://www.axes-net.com/abox/fashion/prada
Prada Group「PRADA JOURNAL(https://www.pradagroup.com/en/perspectives/stories/sezione-progetti-speciali/prada-journal.html)
Wikipedia「Kering」https://en.wikipedia.org/wiki/Kering
Wikipedia「Cartier」https://en.wikipedia.org/wiki/Cartier_(jeweler)
FASHION NETWORK「Kering returns to Cannes with its Women in Motion series」https://in.fashionnetwork.com/news/kering-returns-to-cannes-with-its-women-in-motion-series,815361.html