アンディ・ウォーホルの経歴
アンディ・ウォーホル(以下、ウォーホル)は、アメリカ・ペンシルバニア州ピッツバーグに生まれました。両親は、スロバキア共和国からアメリカに移住してきた移民でした。
幼い頃のウォーホルは、学校に馴染めずひきこもりの生活だったそうです。
幼い頃からウォーホルは絵を描くのが大好きでしたが、小学校3年生の頃に「小舞踏病(シデナム舞踏病)」にかかり、学校を休み家に引きこもりがちになります。家ではずっとラジオを聴き映画スターの写真に囲まれて過ごしました。後年のウォーホルによれば、この引きこもり時期が自身のアートスタイルに影響したとのことです。
八光堂
1945年から1949年にかけて、カーネギー工科大学に通いました。その後、1949年にニューヨークに移り住んだウォーホルは、雑誌のコマーシャル・アーティストとして活躍し、広告やウィンドウ・ディスプレイのデザインも手がけました。
1960年代初頭には、広告や新聞の見出し、キャンベル・スープの缶やコカ・コーラのボトルなどをデザインしました。
1962年には、マリリン・モンローのポートレートシリーズを開始しました。マリリン・モンローの作品は、彼女の追悼として制作しました。
この作品から、ウォーホルの人気が高くなっていきます。同年、ニューヨークで開催された「ニュー・リアリスト」展に参加し、ポップアートの第一人者となりました。
他にも、ケネディやエルビス・プレスリーなどをの著名人を描いています。
1963年、ウォーホルは映画の制作を開始しました。彼のスタジオは「ファクトリー」と呼ばれ、若いアーティストや俳優、ミュージシャン、その他の関係者が集まる場所となりました。
その後も精力的にアーティスト活動をし、世界的に有名になったウォーホルは、世界中で作品を発表しました。
特に1970年代からはイラン国王、ミック・ジャガー、ジョン・レノンなどセレブリティからの注文肖像画を多く制作しました。
晩年のウォーホルは積極的にキース・ヘリングやジャン=ミシェル・バスキアなどの若手アーティストとコラボレーションや交流を行いました。
1968年6月3日、ウォーホルが40歳の時に全男性抹殺団(SCUM)のメンバーだったバレリー・ソラナスに狙撃され、その弾丸がウォーホルの肺や脾臓などを貫通し一時重体となったものの、一命をとりとめました。
1987年2月22日、ウォーホルは胆嚢の手術を受けた後、術後の不整脈が原因でニューヨークの病院で急逝しました。
アンディ・ウォーホルの有名な作品
「マリリン・モンロー」シリーズ 1962年
シルクスクリーン作品「マリリン・モンロー」シリーズは、ウォーホルの作品の中で最も有名だと言っても過言ではありません。
マリリン・モンローをはじめとした当時の映画スターや有名人をモチーフにした作品は、当時のアメリカのカルチャー、熱狂的な有名人崇拝、メディアにあふれる底無しの単調さ、消費社会などの風刺的な意味合いも込められていました。
マリリン・モンローが突然亡くなった年である1962年に作品の制作を始めたウォーホルは、まさに大衆が求めているものとそのタイミングをよくわかっていたと言えるでしょう。
大量生産に芸術的な価値を見出されていなかった時代に、ウォーホルはこのシリーズを爆発的にヒットさせ、色や構図を変えて様々なパターンのマリリン・モンローの作品を世に出しました。
「キャンベル・スープの缶」1962年
キャンベル・スープ・カンパニーが販売していた32種類のスープ缶を描いた「キャンベル・スープの缶」は、
シルクスクリーン印刷で制作された本作品は現在でも人気が高く、オリジナル以外にもポスターやレプリカが多く出回っています。
元々イラストレーターとして成功を収めていたウォーホルですが、「キャンベル・スープの缶」を製作する2年前である1960年にファインアートの世界へ転向し、当時と同等の価値と評価されていたポップ・アートをメインストリームに持っていった第一人者となりました。
現在においても、ウォーホルの作品は年々価格が上昇しています。
「ダブル・エルビス」1963年
1963年に制作された「ダブル・エルビス」は、カウボーイの格好をして銃を構えるアメリカのロック歌手、故エルビス・プレスリーを描いた作品です。
ウォーホルはプレスリーの等身大の肖像画をいくつか制作しており、現在この写真の作品はニューヨーク近代美術館(MoMa)にて展示されています。
「電気椅子」1964年
ウォーホルの初期作品で他に有名なのが、「死と惨禍」シリーズです。
1962年の夏に起きた飛行機事故をきっかけに、ウォーホルは死に対する恐怖心や怒りなどを込めて、自動車事故、自殺者などをテーマにこのシリーズを制作しました。
「電気椅子」は、1963年にアメリカにおける死刑執行について物議を醸していた流れに沿って制作された作品で、死刑執行の倫理について考えさせられる内容となっています。
大回顧展「アンディ・ウォーホル・キョウト」
京都市京セラ美術館 新館・東山キューブで開催中の「アンディ・ウォーホル・キョウト」展は、日本で初めてウォーホルの故郷であるアメリカ・ピッツバーグのアンディ・ウォーホル美術館の所蔵作品のみで構成されるウォーホルの大回顧展となっています。
約200点の作品が展示され、そのうち100点以上が日本初公開の作品となっているそうです。
1950年代、ウォーホルがまだ商業イラストレーターとして活躍していた時代の作品から、1960年に事故や死などをモチーフに描いた「死と惨事」シリーズなどのほか、映像作品なども幅広く展示されています。
なお、京都会場以外に巡回展示を行う予定はないようです。
「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」展
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」
会期:2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)
会場時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(但し祝日の場合は開館)、年末年始アンディ・ウォーホル・キョウト 公式サイトhttps://www.andywarholkyoto.jp/
アンディ・ウォーホルの作品が収蔵されている美術館
ウォーホルの作品を所蔵している世界各国の美術館と作品例を紹介します。
日本でもウォーホルの作品を所蔵している美術館が多くあることがわかります。
海外
- ニューヨーク近代美術館(アメリカ・ニューヨーク):「黄金のマリリン・モンロー」「キャンベル・スープ缶」など
- アンディ・ウォーホル美術館(アメリカ・ピッツバーグ):「自殺(シルバーの飛び降りる男)」「牛」「夕陽」「キミコ・パワーズ」「エレーヌ・ロシャス」「ミック・ジャガー」「坂本龍一」「マイケル・ジャクソン」など
- ホイットニー美術館(アメリカ・ニューヨーク):「緑のコカコーラ瓶」「二重のエルヴィス」「毛沢東」など
- グッゲンハイム美術館(アメリカ・ニューヨーク):「オレンジ色の惨事 5番」「花」「セルフ・ポートレート」など
- ハーバード美術館(アメリカ・ボストン):「電気椅子」「マリリン・モンロー」など
- テートモダン(イギリス・ロンドン):「セルフ・ポートレート」「マリリン・ディプティック」「電気椅子」など
日本
- 国立国際美術館:「4フィートの花」
- いわき市立美術館:「16のジャッキーの肖像」
- 福岡市美術館:「エルヴィス」「キャンベル・スープ缶 10点」など
- 東京富士美術館:「キャンベル・スープ缶」「ドロシー・ハミルの肖像」「ブラスナー氏の肖像」など
- 東京都現代美術館:「6枚組の自画像」「マリリン・モンロー 10点組」など
- 富山県美術館「マリリン・モンロー 10点組」「キャンベル・スープ缶」
アンディ・ウォーホルの本・絵本・写真集
絵本「アンディ・ウォーホルのヘビのお話」
1963年、爬虫類の皮を素材にバックやベルトなどのデザイン、製作をしていたファッション・レザー会社Fleming-Joffeのためにウォーホルが制作した絵本「アンディ・ウォーホルのヘビのお話」は、人を惑わすイメージを持っていた蛇をモードのアイコンとして魅せようという試みの元、作られました。
クレオパトラ、ジャクリーン・ケネディ、ロックフェラー、エリザベス・テイラー、ココ・シャネルなど美しく着飾るためにヘビ皮が用いられた装飾品を愛用したセレブリティたちが登場する、ポップでシックな絵本となっています。
「ぼくの哲学」
アンディ・ウォーホルの名言の数々が収録された、自伝的な要素もあるエッセイである「ぼくの哲学」は、ウォーホルの生き方の哲学を垣間見ることができます。
「とらわれない言葉」
「とらわれない言葉」では、ウォーホルが遺した名言が、彼の作品と言葉のセットで見開きで紹介されています。
極めてシンプルながらも示唆に富んだ言葉から、ポップ・アートの巨匠は真理に迫った言葉選びの天才でもあったとわかります。
写真集「SCREEN TESTS/A DIARY」
写真集「SCREEN TESTS/A DIARY」は、1960年代にウォーホルと写真家・詩人・フィルムメーカーであるジェラード・マランガが、作品制作スタジオ「ファクトリー」の訪問者を被写体として撮影した映像作品「Screen Tests」のフィルムの一部をプリントした写真と、マランガの散文詩で構成されています。
元々は1967年に発表されましたが、2017年に日本限定の復刻版が販売されました。
アンディ・ウォーホルの映画
ウォーホルは、有名なシルクスクリーンの作品以外にも映像作品も多く残しています。
こちらでは、特に有名な作品を紹介します。
「Sleep」1963年
ウォーホルの映像作品「Sleep」は、裸で眠っている男性を6時間映し続けるという、極めて前衛的な作品です。
従来、映画とは商業的なイメージを持っているものですが、映画の概念を覆し、挑発するかのような姿勢を感じます。
「チェルシー・ガールズ」1966年
映画「チェルシー・ガールズ」は、チェルシー・ホテルの客室を中心に、様々な場所で暮らす女性たちの生活を並行して描いた、アンダーグラウンドな実験的映画として知られています。
また、ウォーホルは本作で映画作品として初めて商業的に成功したそうです。
2分割された画面に同時並行で映し出されるシーンはモノクロとカラーで、視覚的にも楽しめる作品です。
アンディ・ウォーホルの名言
ウォーホルは、著書やインタビューなどを通して数々の名言を残しています。
それぞれの名言からは彼の哲学、生き方、キャラクターを感じることができます。
ここでは、ウォーホルらしさを最も感じられる彼の名言を3つ紹介します。
【ビジネスは最高のアート】
「お金を稼ぐことはアートだ。働くことはアートだ。ビジネスで成功することは最高のアートだ。」【本質は目に見えているのだ】
「アンディー・ウォーホルのすべてを知りたいのなら、僕の絵、僕の映画、僕自身の表面だけを見てくれればいい、僕はそこにいる。裏側には何もないんだ。」【気にするのは内容じゃない影響力だ】
名言倶楽部「22の名言とエピソードで知るアンディ・ウォーホル[英語と和訳]」https://meigen.club/andy-warhol/
「自分について何か書かれていても、その内容は気にしちゃいけない。大事なのは、どのくらいのスペースが割かれているかだ。」
アンディ・ウォーホルのコラボ商品
ユニクロ
ユニクロTシャツブランドUTは、20世紀を代表するポップアートの巨匠アンディ・ウォーホル、ジャン=ミシェル・バスキア、キース・へリングとのコラボレーション・コレクションを2021年6月に発表しました。
Tシャツに加え、折り畳み傘や豆皿など幅広い商品ラインナップで、ウォーホルのキャンベルスープ缶などのようにアーティストたちの代表的な作品のプリントが施された商品は、大人気となっています。
SK-II
日本を代表する高級化粧品ブランドSK-IIは、2021年のクリスマスコフレ「ピテラ エッセンス アンディ・ウォーホル限定版コフレ」を2021年10月20日より数量限定で販売しました。
ウォーホルが残した3つのメッセージからインスピレーションを得た、ピンク・レッド・イエローのカラフルなデザインボトルが目を引きます。
まとめ
ポップ・アートの巨匠、アンディ・ウォーホルは、大衆的なものに芸術としての意味を持たせ、それまでのアート界における常識を覆し、アートをより商業的にした人物です。
一度見ると忘れられないアイコニックな作品だけでなく、彼の哲学も面白く学ぶことが多いので、興味のある方はぜひ紹介した本や、ウォーホルの映像作品もチェックしてみてください。
京都で開催中のウォーホルの大回顧展も、日本でなかなか観られないウォーホルの作品を一気に観ることができるチャンスなのでぜひお見逃しなく!
参考
八光堂『買取市場でも人気!ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホル作品の魅力とは?』https://www.hakkoudo.com/weblog/2020/12/22/1202/
ASCILL『1万円から有名アート作品のオーナーになれる会員権サービス「ANDART」、アンディー・ウォーホルの作品が本日10月28日12時より販売開始!』https://ascii.jp/elem/000/001/965/1965183/
FASIONSNAP.COM『【連載:現代アートへの旅】お金のはなし編―アンディ・ウォーホル作品から学ぶ価格の上がり方』https://www.fashionsnap.com/article/journey-contemporary-art-02/
HUFFPOST『ウォーホルが98億円…2014年に高値で落札された美術品10選』https://www.huffingtonpost.jp/2015/01/01/2014-most-expensive-artwrok_n_6404886.html
Fashion Snap「アンディ・ウォーホル大回顧展が京都で開催、初期から晩年の作品まで約200点を展示」https://www.fashionsnap.com/article/2021-09-17/andywarhol-kyoto/