コラム記事

クロード・モネの「睡蓮」をもっと楽しむために知っておきたいこと

モネの睡蓮

フランス印象派絵画の代表的な画家として知られるクロード・モネは、特に「睡蓮」シリーズで有名です。モネの傑作は、自然界における光と色のはかない効果をとらえるモネの作品の魅力を凝縮したものであり、印象派運動の本質を見ることができることから、日本でもファンが多くいます。

今回は、モネの「睡蓮」シリーズについて、解説していきます。

「睡蓮」シリーズとは

モネの睡蓮
引用:https://www.metmuseum.org/art/collection/search/438008

「睡蓮」シリーズは、モネが1890年代後半から1926年に亡くなるまで描き続けたシリーズの絵画作品です。これらのインスピレーションは、フランスのノルマンディー地方にある小さな村、ジヴェルニーにあるモネ自身の庭にあったとされます。モネは自宅の庭を生きた芸術作品へと変貌させ、中には日本の美学に影響を受けた睡蓮の池や日本の橋が設置されたことでもよく知られます。

「睡蓮」シリーズは約250点からなり、さまざまな時間帯や季節の中で咲く睡蓮が描かれているものです。モネは、光のはかない効果と周囲の自然の美しさをとらえようとする探究心を持ち続け、このシリーズの制作に没頭しました。

モネの「睡蓮」シリーズは、それぞれの作品でモネの庭の美しさをユニークに切り取り、垣間見せてくれます。「睡蓮」シリーズの作品のサイズには小さなキャンバスと大きなパネルの両方があり、例えばニューヨーク近代美術館(MoMA)に展示されている「睡蓮」は、鑑賞者を自然のパノラマ体験で包み込むようにデザインされた巨大なものもあります。「睡蓮」最大のパネルはフランス・パリのオランジュリー美術館にあり、この作品の展示のために特別に設計された2つの楕円形の部屋に展示され、没入感を感じられるよう設置されています。

「睡蓮」の作品の違いとは

このシリーズで、モネの池に咲く睡蓮というテーマを描いているという点は約250点の作品に一貫していますが、このシリーズの絵はそれぞれ異なります。その違いにはいろいろな要因が関わっていますが、以下のポイントに着目するとその違いをさらに楽しめるでしょう。

時間帯と季節

睡蓮モネ
引用:https://www.nytimes.com/2011/03/20/nyregion/0320artct.html

モネの作品の美しさは、時間帯や季節によって変化する光を細かくとらえている点にあると言えるでしょう。朝、昼、夕暮れ、そして夜景など様々な時間帯で移り変わる様子が表現され、それぞれに独特の光と影の戯れが見られます。

例えば春には柔らかく新鮮な光をとらえるために繊細なパステルカラーや鮮やかなグリーンを用いて新芽の成長を表現したり、秋には睡蓮の花の周りに黄色やオレンジ、赤などの秋の木々の色合いを取り入れたりと、季節による風景の違いも繊細に描き分けています。

カラーパレット

モネの睡蓮
引用:https://www.wayfair.com/decor-pillows/pdp/vault-w-artwork-water-lilies-by-claude-monet-painting-print-w003268497.html

空と水の色合いの移り変わりを反映した色彩表現は、多岐にわたる配色でその空気感が伝わってくるような感覚がします。

例えば、青や紫が多く用いられた作品は、夜明けの涼しげな空気感が感じられたり、オレンジやピンクからは穏やかで暖かい夕暮れの様子が感じられます。

遠近法と構図

モネ睡蓮
引用:https://drawpaintacademy.com/water-lilies-by-claude-monet/

モネは、「睡蓮」シリーズにおいてさまざまな視点と構図を試みていることがわかります。睡蓮をクローズアップして細部を強調した作品もあれば、空や周囲の木々の反射を含めて池を広く見渡した作品もあり、一つのテーマでもこれほどまでに構図の違いで見え方が違うという点が鑑賞者目線でも楽しめるでしょう。

筆致と技法

モネの筆致を観察すると、点描画のような繊細なタッチから、大胆なストロークまで幅広く用いられています。この技法の多様性が、「睡蓮」シリーズのダイナミックで生き生きとした性質をさらに高めているといえるでしょう。

例えば、春・夏の睡蓮の池の様子を描いた作品では、この季節のダイナミックな成長と活動を反映し、素早く元気のあるストロークで、よりエネルギッシュで生き生きとして見えます。一方秋・冬の様子は、その静けさが感じられるようなゆっくりとした落ち着いた筆遣いが多く用いられることで、季節の空気感をよりリアルに感じられます。

「睡蓮」シリーズが高く評価される要因

クロード・モネ
引用:https://www.theguardian.com/film/2017/feb/16/i-claude-monet-review-portrait-of-the-artist-impressionist

モネの「睡蓮」が、永続的な意義と魅力を持ち、高く評価されているのには、いくつかの要因があります。

まず、初期の印象派の画家として、モネは光と色彩の儚さを表現する卓越した技術を持っていたことがわかります。「睡蓮」シリーズの作品は水面や葉の上の光など細部にまでその光と影の色彩表現が工夫されており、魅惑的な効果を生み出しているのです。

また、モネは、妻と息子を失い、さらに自身も白内障を患うなど、様々な苦悩や葛藤を抱えた時期にこのシリーズ作品を描きました。「睡蓮」シリーズを製作することは、モネにとって『瞑想的』と言えるようなヒーリングジャーニーだったのかもしれません。このような感情を込めた作品だからこそ、鑑賞者の心に深く響くのでしょう。

さらに、特に大型のパネルに描かれた「睡蓮」は、他にない没入感を生み出しています。鑑賞者はモネの庭の静かで穏やかな夢のような世界に入り込んだような感覚になり、まさに作品を鑑賞することで自然と癒されるのです。

最後に、モネの「睡蓮」シリーズは、後世の芸術家たちに多大な影響を与えました。モネの抽象画の探求や自然の感覚的体験に注目した作品は、後の芸術運動への道を切り開くきっかけを与えたことでしょう。

このように様々な要因から、「睡蓮」シリーズはその特別な価値を持ち続けています。

まとめ

クロード・モネの「睡蓮」シリーズは、モネの天才的な才能と、自然界の美しさを捉えることに生涯を捧げた画家としての信念や辛抱強い努力と探究心を感じられる作品として、長い時代を経た現在でも世界的に高く評価されています。

世界各国に収蔵される約250点の作品について、どんな点に着目すればその違いを楽しめるのかを知っておくことで、より鑑賞時の感動が高まるでしょう。

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。