歴史的な背景を理解すると、より一層アートを深く楽しむことができます。
「今更聞けない西洋美術史の流れ」シリーズでは、全4回に分けて西洋美術史を振り返ります。
第1回は、原始美術から初期キリスト教美術、第2回は初期中世美術からバロック美術について、代表作品と合わせて紹介してきました。
今回は、ロココ美術からシュルレアリスムまでを解説します。
ロココ美術(18世紀)
第2回までに紹介してきた様々な美術シーンはイタリアを中心としていましたが、18世紀ごろになると、その中心がフランスへと移り、芸術作品がより庶民文化の中へと浸透していきます。
当時のフランスは、ルイ14世が亡くなったことでそれまでベルサイユ宮殿に住まわされていた貴族たちが解放され、より自由なムードになり、その中で優雅で甘美な宮廷美術であるロココ美術が広まっていきました。
西洋美術史の中でも特に華のある時代だったといえるこの時代のロココ美術は、優雅で装飾性が強く、丸みがあって軽やかで、絵画だけでなく建築やインテリア、食器などにも波及しています。
バロック美術の頃には、まだアーティストのパトロンは教会が中心でしたが、ロココ時代には多くの上流階級の貴族たちによって芸術家たちがバックアップされるようになりました。
ルイ15世のお気に入りの妾であったポンパドール夫人が主催したサロンや、1725年に初めて開催された、画家の登竜門ともいわれる公式美術展覧会サロン・ド・パリをきっかけとしてロココ美術は世の中に広がりより多くの人々に干渉されるようになったと言われています。
新古典主義(18世紀中頃〜19世紀中頃)
新古典主義は、ローマやギリシャの時代の美術を復興させようとした美術や建築の潮流です。バロック美術やロココ美術が豪華で装飾的だったのに対し、その対極にある写実的な古典美術への回帰が見られるのがこの時代です。
宮廷の貴族たちの贅沢な生活による慢性的な財政難や「自由・平等・博愛」を訴える新しい思想の広がりなどが要因となり、フランス革命が起きました。その後、ナポレオンがフランスを治め、美術をプロパガンダの一部としてうまく利用していたともいわれています。
新古典主義は、クラシカルで真面目な美術様式で、ナポレオンの肖像画に見られるように厳格で正確なデッサン、安定した構図が特徴的です。
ロマン主義(18世紀末〜19世紀前半)
新古典主義の時代に国を治めたナポレオンが失脚し、また美術の風潮が変化します。
ロマン主義とは、18世紀末から19世紀前半にかけてヨーロッパ各地で興った、芸術、哲学、文学、音楽など様々な分野において、豊かな感情や美しさの表現、非合理性を自由に解放しようという革新的な傾向・運動のことを指します。ロマン主義が広がった背景には、独立戦争、産業革命などのように権力を持っていた宗教や伝統的な社会体制・規範に対しての反発があり、様々な分野の芸術家や哲学者たちが互いに影響を及ぼしあったとも言われています。
リアリズム(19世紀半ば)
リアリズム(写実主義)とは、その名の通り身の回りの現実をありのままに表現する美術運動のことを指し、当時のフランスで一般的であった理想化された美しさを表現すること、歴史画などで神や天使を描くことに反発する形で生まれました。
共産主義的な思想を持ったギュスターヴ・クールベをはじめとするアーティストたちは、それまでは絵画のメインテーマとなることがなく、目立つように描かれてこなかった農民に焦点を当てるなど庶民の貧しい生活風景をありのままに描いたり、人物を描く際にも理想化せずに太った裸婦を描いたりしていましたが、当時のフランスではリアリズムはまだ革新的で、常識に反しているとして批判も多く受けるようになりました。
また、当時起こった産業革命の中で写真技術が発達したことにより、それまでに画家が担っていた記録のための肖像画を描く役割が代替されていきました。
印象派(19世紀)
印象派とは、19世紀に登場した絵画のスタイルで、斬新な方法・アングルで空間や光を表現しました。当時の画家の登竜門であったサロン・ド・パリは保守的だったため、マイナーで中途半端だと評価された印象派の画家たちは、酷評され、出展を拒否されてしまいます。そんな中、次第に一般ブルジョア市民層からの支持を集めるようになり、ある画商のサポートもあって、自由に集まった印象派の画家たちは、独立した展覧会を開催しました。
印象派の絵画は、戸外で制作され、時間ごとの光の移り変わりによって変化する物の色の描写、斬新なアングルで描かれた日常的なシーンなどが特徴的で、当時プロテスタントなどの宗教が中心であったアメリカで特に人気を集めるようになります。
ポスト印象派(19世紀末)
1886年から1905年までの約20年間にフランスを中心に活動し、数々の名作を残したフィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーギャン、ポール・セザンヌなどのような画家たちの作品のスタイルがポスト印象派です。
印象派の時には、当時志を同じくするか画家たちがグループとして活動しましたが、ポスト印象派の画家たちは、個人で活動していくようになります。
モネなどに代表される印象派の作品では、光の移ろいに着目するがゆえに対象となる人物や物体の輪郭が曖昧でしたが、ポスト印象派の絵画作品は、印象派に影響を受けながらも、単色を使ったハッキリとした色彩表現が用いられ、画家個人が自分で新しいスタイルを確立していきました。
フォーヴィズム(1905年〜1907年)
フォーヴィズムとは1905年から1907年にアンリ・マティス、アンドレ・ドラン、モーリスド・ヴラマンクなどの画家が中心となった小さなグループで、原色を基本とした自然にはない強烈な色彩とタッチでダイナミックで自由な表現を追求しました。
細かい描写が簡略化され、力強い表現や平面的な描写が見られます。
当時のアート界ではまるで野獣のようだと批判を受けていたものの、のちの画家たちに大きな影響を与えたと言われています。
表現主義(20世紀)
20世紀初頭にドイツを中心に興った表現主義は、画家の感情など目にみえないものをモチーフに主観的に表現する、非自然主義的な美術、建築の潮流です。
当時は第一次世界大戦などによって、世の中に不穏なムードが流れていた時代でもあります。
世界的に有名な傑作「叫び」で知られるエドヴァルド・ムンクが代表的な画家としてあげられ、不安や恐怖などの精神的な主題を追求した作品を残しています。
キュビズム(20世紀)
キュビズムとは、20世紀にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって生み出された、遠近法などのルールやそれまでの伝統的な美術表現を覆した新たな美術様式で、ヨーロッパのアートシーンに革命をもたらしました。20世紀の美術の土台となった前衛芸術運動とも言われています。
様々な視点から見たイメージを1つの絵画の中に収めている作風が特徴的で、特にピカソの作品は、背景が多く語られず、そのストーリーを自由に想像して楽しむことができます。
シュルレアリスム(20世紀)
絵画のみならず、映画、文学、彫刻、音楽など芸術全体に用いられるようになった前衛的なスタイルが、アンドレ・ブルトンが指導したシュルレアリスムです。美術表現という以前に哲学的な思考として世界中に広まり、政治や社会にまで影響を及ぼしました。
人間の無意識や欲求など、夢と現実を行き来するようなハッキリとしない状態を形として表現することを目指したため、意外な組み合わせや構図が面白く、印象的です。
シュルレアリスムの代表的作家は、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリットなどで、同じ思想のもと作品を制作していましたが、用いられる表現のスタイルは一人一人多様で、強烈な個性を感じ取ることができます。
まとめ
古典・中世の西洋美術は、どちらかというとスタイルが似通っていたり、宗教的な表現が多く用いられていましたが、近代の美術様式はどれも斬新でそれぞれの特徴が顕著にわかるのが興味深いですよね。
世界各地の主要な美術館で一度は目にしたことがある作品ばかりだったのではないでしょうか。
個人的には、全く別々のスタイルである印象派とシュルレアリスムが好みで、どちらも時間を忘れて引き込まれるような魅力を感じます。
西洋美術史の全体の流れをおさらいすることで、今後美術館やギャラリーで新たな角度から作品を鑑賞することができると、アートの楽しみ方のの幅が広がると思います。