日本を代表する現代アーティストとして「お花」などの作品シリーズで知られる村上隆は、アートコレクターとしても、国内外のアーティストの多くの作品を蒐集しています。
2008年に、サザビーズで自身の彫刻作品「My Lonesome Cowboy(マイ・ロンサム・カウボーイ)」(1998年)が1500万ドル(約16億円)で落札されたことが、アートの蒐集を本格的に始めるきっかけとなったそうです。
https://news.artnet.com/art-world/takashi-murakami-gagosian-2327577
- 『自分の作品の価値がわからなくなっていたので、自分が持っているお金をはたいて自分の作品よりも安い作品を買って、コレクターの側からコレクションを体験して学びたいと思った。本当に魅力的なものを見つけたら、いくらで買えるか確認したいので、それまで入札を続けます。』
今回は、村上隆のアートコレクションの一部をピックアップし、紹介していきます。
北大路魯山人「角盆・織部型」

村上は、日本やアジアの工芸品から、江戸時代の絵画や陶器、ヨーロッパの骨董品から現代美術まで、幅広いジャンルの美術品や骨董品をコレクションしています。
日本を代表する陶芸家の一人である北大路魯山人の「角盆・織部型」もその一つです。
美濃国(現在の岐阜県)発祥の織部焼は、千利休の弟子で桃山文化を彩った茶人である古田織部の名前に由来する焼き物で、濃く美しい緑色が特徴です。
優れた料理人としても知られていた北大路魯山人が作る器は、料理を盛り付けた際にも彩りや形が美しく映えます。
荒木経惟「センチメンタルな旅」1971年

アラーキーの通称で知られる写真家・荒木経惟は、緊縛やヌードなどの過激な表現を含む写真が有名です。
「センチメンタルな旅」は、1971年に1000部限定、1000円で自費出版として発売されたことから『幻の写真集』と呼ばれた写真作品集で、村上が所有しているのはそのうちのプリント版として2015年に販売されたものだそうです。
「センチメンタルな旅」に収録されている写真は、荒木が妻・陽子との結婚式から新婚旅行で行った京都、福岡での様子を撮影したもので、彼のミューズの一人である妻・陽子の写真が多くを占めます。
ホルスト・ヤンセン「トーテムの頭を持つエルフ」1982年

ドイツのアーティスト、ホルスト・ヤンセンは、自らを『画狂人』と呼び、ダークで深みのある独特な表現を持つ作品が特徴的です。
ドイツロマン主義絵画の潮流に根ざしながらも、葛飾北斎の浮世絵の影響を受けていると言われており、作品の中に日本語が構成されているものもあるそうです。
「トーテムの頭を持つエルフ」も、細かい描写と暗い色彩、ダークなモチーフなど彼の独特の世界観を感じられる作品です。
奈良美智「ハートに火をつけて」2001年

村上隆と同様に、世界中にファンを持つ日本の現代アーティストである奈良美智は、子供や動物を描いた作品でよく知られています。
「ハートに火をつけて」は、奈良の作品の主要なモチーフである女の子の彫刻作品です。
アンセルム・キーファー「メルカバ」2010年

「メルカバ」は、戦後ドイツのシュトゥルム・ウント・ドラングの詩人、アンゼルム・キーファーによる巨大な機体の残骸を収めたガラス瓶の作品です。
死後の世界を扱ったカバラ主義の文献からインスピレーションを得て作られたそうです。
2010年に、ガゴシアン・ギャラリーでの展覧会でこの作品を観た村上は、分割払いで購入したといいます。
フランク・ベンソン「ジュリアナ」2015年

「ジュリアナ」は、アーティスト、フランク・ベンソンによって制作された、ニューヨークのダウンタウンのDJとして活躍し、人気を集めてきたトランスジェンダーのアイコンであるジュリアナ・ハクスタブルをモデルにした作品です。
裸で横たわりポーズをとっているジュリアナの像は、3Dプリントで作られ、ブロンズに色づけられています。
まとめ
日本の現代アーティストとして世界的に知られる村上隆は、幅広いジャンルの美術品、骨董品をコレクションしているアートコレクターでもあります。
村上のコレクションの一部を見るだけで、彼の日本画をはじめとする世界のアートの歴史や現代アートの発信する作品の背後にあるメッセージを、アーティスト側としての視点でも深く理解していることが感じられます。
自身も制作側であるアーティストがどんな作品を好んで蒐集するのかというのも、面白い視点で参考になりますね。
参考
横浜美術館「村上隆 スーパーフラット・コレクション―蕭白、魯山人からアンゼルム・キーファーまで―」https://yokohama.art.museum/eng/exhibition/index/20160130-458.html
画像引用元:https://towadaartcenter.com/en/events/talk-by-takashi-murakami/
