コラム記事

オリンピックとアート

オリンピック

コロナウイルスによるパンデミックによって延期され、2021年に開催された東京オリンピック。

開催に対しての様々な意見が飛び交うものの、スポーツを通して世界が繋がる瞬間に感動し、勇気づけられた方も多かったのではないでしょうか。
例年と全く違う予期せぬ状況の中でのオリンピック開催でしたが、歴史の長い、4年に一度の世界的な大会が、自国で開催されるという経験はとても貴重なものだと思います。

皆さんはスポーツ競技とともに受け継がれているオリンピックのアートプロジェクトをご存知ですか?

今回は、スポーツだけじゃないオリンピックの魅力の1つとして、オリンピックとアートについてご紹介します。

オリンピックとアートの関係

オリンピックの歴史
引用:liveaboutdotcom「Olympic Games History」https://www.liveabout.com/olympic-games-history-3259033

オリンピックの起源は、現在から約2800年前にまで遡ります。 古代ギリシャのオリンピア地方で開催されていた「オリンピア祭典競技」からスタートしたといわれており、 もともとは古代ギリシャの神々を崇めるスポーツ・芸術の競技祭だったという説が有力だそうです。

近代オリンピックの始祖でオリンピックの再興者、復興者とも呼ばれるクーベルタンは、青少年の発達にはスポーツと芸術が必要であると考えていました。クーベルタンの主導の元、1912年にスウェーデン・ストックホルムで開催された第5回オリンピック以降7回に渡って、スポーツだけでなく芸術も競技対象となって実施されました。
実は日本もドイツ・ベルリンで開催された第11回オリンピックにて芸術競技での銅メダルを2つ獲得しています。

芸術競技は、参加アーティストがスポーツをテーマにした芸術作品を製作し、採点によって順位が決まるものでした。しかし、芸術はスポーツと違ってはっきりとした勝ち負けを表すことができないこと、作品の輸送に高額な費用がかかっていたことなどから、フィンランド・ヘルシンキで行われた第15回目のオリンピックより、公式競技としてではなくオリンピックに伴ったアートの展示や文化的プログラムを開催するようになり、現在に至ります。

オリンピックは、各国ごとにスポーツで勝敗を競い合う競技としての側面を楽しむというイメージを持っている方が多いと思いますが、文化的側面を見てみると、新しい楽しみ方ができるでしょう。

オリンピック・アート・ヴィジョン

オリンピック・アート・ヴィジョンは、オリンピック文化遺産財団によって主導され、公の場所で現代アーティストによる斬新で大規模なインスタレーションやパフォーマンスなどを開催することで人々を結びつけ、オリンピックの理想やその在り方について語り合ってもらうきっかけを作ることを目的とした取り組みです。

レアンド・ロエルリッヒ
「ボール・ゲーム」レアンド・ロエルリッヒ
引用:International Olympic Committee「IOC announces Ball Game a large-scale commissioned work by Argentinian conceptual artist Leandro Erlich」https://olympics.com/ioc/news/ioc-announces-ball-game-a-large-scale-commissioned-work-by-argentinian-conceptual-artist-leandro-erlich

2018年にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された夏季オリンピックでは、世界的に有名なコンセプチュアル・アーティストのレアンド・ロエルリッヒ(以下、ロエルリッヒ)が、大規模なインスタレーション作品「ボール・ゲーム」を製作しました。

石川県金沢市の21世紀美術館にある人気の常設作品「スイミング・プール」で日本でもよく知られているアーティストであるロエルリッヒの作品は、人間の感覚を刺激して鑑賞者を楽しませることが特徴的です。

2018年のオリンピックのために製作されたロエルリッヒの「ボール・ゲーム」というプロジェクトは、5つの巨大でリアルなスポーツボール(サッカー、バスケットボール、テニス、バレーボール、ゴルフ)によってできており、それぞれの巨大で重いボールを複数の参加者が協力して動かすことで自然と生まれてくる友情や敬意などのオリンピックの精神を、視覚的に表現しました。

グザビエ・ヴェイヤン「オーディエンス」
引用:Artnet「Olympic Organizers in Tokyo Will Put Together a Splashy Art and Culture Initiative to Accompany the Summer Games」https://news.artnet.com/art-world/summer-olympics-art-program-1982879

2020年から延期となり、2021年夏季に開催された東京オリンピックでは、様々な媒体を用いて高度なテクノロジーの両者に触発された作品群を制作してきたアーティスト、グザヴィエ・ヴェイヤン著名なアーティストであるグザビエ・ヴェイヤンによる「オーディエンス」が、オリンピック・アート・ビジョンの一環として初めての常設作品として制作され、開催後も東京の日本橋に引き続き展示されます。

オリンピックを象徴する5色の人間を表現した「オーディエンス」は、多様な年齢、性別、国籍を持ち個性的な5人が1ヶ所に集まることで、小さな『世界の村』を作り、オリンピックの価値の中心である普遍性を表現しているそうです。

オリンピック・アゴラ

戸鋪誠
「連携と協力」戸鋪誠
引用:International Olympic Committee「“Olympic Agora” cultural hub to open ahead of Olympic Games Tokyo 2020」https://olympics.com/ioc/news/-olympic-agora-cultural-hub-to-open-ahead-of-olympic-games-tokyo-2020

オリンピック・アゴラとは、古代ギリシャの人々が集った街の公共の場『アゴラ』からヒントを得たオリンピックの文化・歴史・意義・価値観を世界に紹介し、『スポーツと文化の融合』を促進するための文化プロジェクトです。2021年7月1日から8月15日まで東京都の日本橋にて開催されました。オリンピックを通じてスポーツと芸術の深い繋がりを伝えるため、オンライン・オフラインの両方で世界中の人々に交流の場を提供しました。

オリンピック・アゴラには、オリンピックに関連する「希望」「連帯」「協力」をテーマにした様々な形のアート作品が展示されています。

光のアーティスト戸鋪誠が、4メートルを超える高さのバトンを受け渡すリレーランナーの姿を光で表現したこの作品は、次の世代にオリンピックの価値を受け継いでいくことの大切さを表現しています。

芸術肌なオリンピアンたち

スラヴェン・ディズダレヴィッチ
スラヴェン・ディズダレヴィッチ「Protection」
引用:International Olympic Committee「Slaven
Dizdarevic」https://olympics.com/olympic-agora/en/virtual-tours/olympian-artists/slaven_dizdarevic/

2018年から始まった「オリンピアン・アーティスト・イン・レジデンス」プログラムでは、スポーツの突出した才能だけでなく芸術的関心を持つオリンピアンに、オリンピック開催中あるいは次回大会までの間に新しい芸術作品を制作・発表する機会を提供することで、スポーツと文化の繋がりを称えます。

2021年に開催された東京大会では、「Norenプロジェクト」が行われ、オリンピアンとパラリンピアンのアーティストたちが参加し、彼らの作品が展示されました。

2008年の中国・北京大会の陸上競技にスロバキア代表として出場したオリンピアンであるスラヴェン・ディズダレヴィッチ(以下、ディズダレヴィッチ)は、現在スイスを拠点にスポーツのコーチをしながら、画家・写真家として活動しています。

ディズダレヴィッチは、Norenプロジェクトのために開催国である日本の文化的要素とオリンピックの精神を織り交ぜた作品を描きました。

トーマス・デーリー
トーマス・デーリー選手とオリンピック中に制作されたカーディガン
引用:Pick News「Tom Daley shows off impressive hand-knitted cardigan and raises thousands for touching cause」https://www.pinknews.co.uk/2021/08/05/tom-daley-knitting-olympics/

また、東京オリンピックに出場したダイビングのイギリス代表のトーマス・デーリー選手は、観戦中にも製作していた編み物で話題になりました。編み物専用のインスタグラムアカウントは、フォロワー数100万人を超えて世界から注目を集めています。

スポーツだけでも類い稀ない才能を持つオリンピック選手たちは非常に多彩で、彼らの新たな一面を見ることができるのも面白いですね。

オリンピック・アートポスター

オリンピック ポスター
引用:International Olympic Committee「Tokyo 2020 unveils official art posters to celebrate the Games」https://olympics.com/ioc/news/tokyo-2020-unveils-official-art-posters-to-celebrate-the-games

オリンピックとアートの関わりの中で、忘れてはいけないのは各大会のオリンピック公式ポスターのデザインです。

1964年の東京大会でのカラー写真を使用した公式ポスターや、両ポスターを組み合わせるとカナダのシンボルである楓になる2010年バンクーバー冬季大会のオリンピック・パラリンピックのポスターのデザインなど、各大会で伝えたいメッセージや、歴史的背景が見える公式ポスターは、オリンピックを代表するアート作品といえるでしょう。

まとめ

せっかく自国でオリンピックが開催されたのに、タイムゾーンが真逆のニューヨークにいる私は競技をリアルタイムで観ることができませんでしたが、SNSなどを通じて色々な選手の人柄を知ったり、オリンピックに関連する様々なストーリーを目にしたりして、これまで予想できなかったような形でオリンピックを楽しむことができたのは新鮮でした。

世界どころか、国内の家族や友人とごく普通に集まることさえも難しくなってしまった昨今ですが、2020年東京大会(2021年開催)の基本コンセプト「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」の3つを、開催地から離れた場所からでも競技やアート作品から自分なりに感じることができたように感じます。

今年のオリンピック開催には様々な意見がありましたが、活躍された選手たちや、開催にあたり企画・運営をされた方々、アーティストたちに尊敬と感謝を込めて、オリンピックを芸術的な側面から観る楽しみを、より多くの方に知っていただけたら嬉しいです。

参考

International Olympic Committee:https://olympics.com/ioc

オリンピック・アゴラ:https://olympics.com/olympic-agora/ja

ABOUT ME
あやね
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで、日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、今年は自宅で陶芸も始める予定。