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ルーシー・リーやバーナード・リーチ、北大路魯山人など知っておきたい世界の陶芸家10選

アートには、さまざまなジャンルがあり、陶芸もその中の代表的なカテゴリの一つです。

陶芸家は世界中に数えきれないほどいますが、その功績が歴史的に高く評価され、今でも世界中で人気がある陶芸家に、ルーシー・リーやバーナード・リーチ、北大路魯山人などがいます。

今回は、まずは知っておきたい世界的に有名な陶芸家を10人ピックアップし、人物や作品の特徴や価格などについて紹介していきます。

ルーシー・リー(Lucie Rie)

ルーシー・リー(Lucie Rie|1902年〜1995年)は、故郷ウィーンとロンドンで活躍し、晩年までさまざまな釉薬や質感を研究し続け、新たなスタイルを確立し、後の陶芸家のみならず多くのアーティストらに影響を与えた陶芸作家です。

ルーシー・リーの初期の作品は、豊かな色彩と簡素な造形が特徴的で、当時装飾過多な陶芸作品が多かった中、彼女の作品の作品が際立ったそうです。

戦時中には、陶芸作品を制作することができなかった中、生計を立てるために衣料品業界の依頼に応えて陶磁器でボタンを制作し、その間にさらに多様な釉薬や粘土の知識を身につけていったといいます。

その後ハンス・コパーと共同で制作したテーブルウェアを制作したり、新たな表現として掻き落としや象嵌などを生み出したりと、多様な陶芸の表現や技法を探求をし続けます。

1970年以降も晩年まで、高く細い高台をもつ磁器鉢やブロンズ釉など、モダンで洗練されたスタイルの作品を多く生み出しており、現在でもファンが多くいます。

Artsyによると、ルーシー・リーの作品の直近36ヶ月の平均落札価格は530万円となっており、多くのコレクターによって高値で取引されていることがわかります。

日本国内では、流通量が少なく、コンディションなどにより数十万円台から100万円以上と様々な価格帯で買い取られているようです。

ハンス・コパー(Hans Coper)

ハンス・コパー(Hans Coper|1920年〜1981年)は、ドイツ出身の陶芸家です。

ルーシー・リーのロンドンのアトリエで陶芸を学んだ後、1951年には「フェスティバル・オブ・ブリテン」で出品した鉢が高い評価を得て、陶芸家として知られるようになっていきました。

ハンス・コパーは、1981年に亡くなりましたが、遺言にて『自分の生の痕跡を遺さないで欲しい』と残したことにより、彼の写真や自著などは一切残っていないのだそうです。

ハンス・コパーの作品の特徴は、見た目はシンプルながらも複雑な構造、形をもつという点でしょう。

朝鮮時代の月壷などからインスピレーションを得たと言われており、古代の作品にも関心が高かったことから、発掘された土器の擦れたような質感などの表現が、作品からも感じられます。

また晩年には、作品の規模を縮小して台座やドラム缶の上に立つ小さな「キクラデス」ポットを制作しました。これらは、青銅器時代のギリシャの土偶を彷彿とさせます。

Artsyによると、ハンス・コパーの作品の直近36ヶ月の平均落札価格は837万円となっています。

バーナード・リーチ(Bernard Leach)

バーナード・リーチ(Bernard Leach|1887年〜1979年)は、イギリスの陶芸家であり、現代陶芸運動の重要な先駆者の一人として知られています。

陶芸の技術と哲学を学ぶために日本へ渡り、京都の陶芸家である柳宗悦に師事しました。柳宗悦の影響を受け、リーチは日本の伝統的な陶芸技法と西洋の美学を組み合わせた独自のスタイルを築いていきます。日本の陶芸家である濱田庄司とも交流があったようです。

1920年にイギリスに戻り、コーンウォール地方にスタジオを設立した後は、手作りの器や花瓶、茶碗などの日用品を作るだけでなく、日本の哲学や陶芸の美意識を広めるための著作も執筆しました。

バーナード・リーチの作品は、日本の陶芸の影響を強く受けているからか、素朴な風合いや野生のエネルギーが感じられます。地元の素材を使用して焼かれた彼の作品は、シンプルで自然な美しさを追求していることが感じられます。

現代陶芸運動とともに陶芸の評価を高め、西洋の陶芸における日本の美学の影響を広める役割を果たしました。バーナード・リーチのスタイルは、イギリスの後の世代の陶芸家にも大きな影響を与えています。

バーナード・リーチの作品の直近36ヶ月の平均落札価格は、274万円となっています。

世界中で高く評価されており、コレクターや陶芸愛好家にとって非常に価値の高いバーナード・リーチの作品は、高値で取引されることが多いようです。

濱田庄司

日本の有名な陶芸家の一人である濱田庄司(Hamada Shoji|1894年〜1978年)は、20世紀の陶芸界において非常に重要な存在として知られています。

岐阜県出身の濱田は、若い頃から陶芸に情熱を注ぎ、学校を中退して陶芸の修行を始めたそうです。

1920年代にはイギリスへ渡り、コーンウォール地方のスタジオにてバーナード・リーチと面会します。リーチの影響を受けて、濱田は伝統的な日本の焼き物技法と西洋の美学を融合させた作品を生み出すようになっていきました。

濱田の作品は、深い茶色の釉薬や豊かな質感が特徴で、自然の素朴さや土の質感を重視しながら制作されたことが想像できます。美しいだけでなく機能的な作品だとも評されています。また、伝統的な焼き物の技法である「萬古焼き」も用いています。

国内外で高い評価を受けた濱田の作品は、世界各地の美術館に展示されています。

Artsyによると濱田の作品の直近36ヶ月の平均のオークション落札価格は、約82万円となっています。

マグダレン・オドゥンド(Magdalene Odundo)

マグダレン・オドゥンド(Magdalene Odundo|1950年〜)は、ケニア・ナイロビに生まれ、イギリスで活躍する陶芸家です。

エジプト、ギリシャ、日本の古代陶器やアフリカの彫刻の伝統など、多様な文化からインスピレーションを得ている彼女の作品は、有機的なものと抽象的なものの間の調和のとれたバランスを体現しています。

マグダレン・オドゥンドの作品は、エレガントで彫刻のように見え、印象的で個性的です。官能的な曲線、滑らかな表面、複雑な切り込み模様が特徴的で、その形や表面装飾のスキルの高さがうかがえます。

直近36ヶ月間のマグダレン・オドゥンドの作品のオークション平均落札価格は2940万円で、他の過去の著名な陶芸家の作品よりも高値で取引されています。

ラディ・クワリ(Ladi Kwali)

ラディ・クワリ(Ladi Kwali|1925年〜1984年)はナイジェリアの陶芸家であり、20世紀を代表するアフリカの陶芸家の一人として知られます。

ナイジェリアのグワリ地方に生まれ、陶芸が地域文化に欠かせない伝統的な村で育ったラディ・クワリは、幼い頃から陶芸に情熱を持ち、地元の陶芸家たちを観察しながら学ぶことで技術を磨いてきたのだそうです。

後に彼女の才能がナイジェリアのイギリス植民地政府に認められたことから、1950年代にはアブジャ陶芸訓練センターで陶芸を教えることになり、この間にさらに陶芸のスキルを磨き、新しい形やデザインを研究したといいます。

ラディ・クワリの陶芸は、ナイジェリアの伝統的な陶芸技法に現代的なタッチを加えた独特のスタイルが特徴です。粘土を長く巻いて器を作る「コイリング」という技法を多く用いているほか、複雑な幾何学模様や、グワリやハウサの伝統的なモチーフなど、彼女のバックグラウンドからインスピレーションを得たデザインが多く見られます。

ラディ・クワリの作品は、数万円から数千万円まで、幅広い価格で取引されているようです。

トシコ・タカエズ(Toshiko Takaezu)

トシコ・タカエズ(Toshiko Takaezu|1922年〜2011年)は、ハワイ州ペペケオ出身の日系アメリカ人の陶芸家、彫刻家です。

ハワイ大学で絵画とデッサンを学びましたが、1951年にミシガン州のクランブルック美術アカデミーで夏期講習を受けた際に、陶芸に興味を持ったことから、陶芸の道を進みます。ハワイ大学で陶芸を学び、クランブルック美術アカデミーでは、著名な陶芸家マイヤ・グロテルに師事しました。

トシコ・タカエズの作品の特徴として有名なのは、「ムーンジャー」と呼ばれる特徴的な閉じた器のフォルムでしょう。丸みを帯びた抽象的な形で、小さな開口部を持ったデザインが印象的です。

また、陶磁器の専門知識と彫刻的な感覚を融合させた大規模な屋外彫刻も制作したほか、クリーブランド芸術大学やプリンストン大学など、さまざまな教育機関で教鞭をとり、国際的に作品を発表しました。

トシコ・タカエズは、伝統工芸とファインアートのギャップを埋め、陶芸というメディアの境界線に挑戦することに貢献してきたと言えます。

トシコ・タカエズの作品は、数十万円から数百万円で取引されているようです。

エドムンド・デ・ワール(Edmund de Waal)

エドモンド・デ・ワール(Edmund de Waal|1964年〜)は、卓越した陶芸技術とインスタレーションで知られるイギリスの陶芸家・アーティストです。繊細でミニマルな磁器の器や、記憶、歴史、アイデンティティに関する示唆に富む作品で世界的に評価されています。

建築を専門とする家族の影響と、自身の陶芸体験から、エドモンド・デ・ワールは素材や職人技、モノとその周囲の関係に対する深い理解を深めてきました。

微妙なエレガンスとシンプルさが特徴的な彼の作品は、抑制された色調が用いられ、クリーンなラインと正確なフォルムが際立ちます。日本の陶器を好み、多くの影響を受けたそうです。

エドモンド・デ・ワールは陶芸作品だけでなく、大規模なインスタレーションでも知られています。陶磁器にガラスや金属などの素材を組み合わせたインスタレーションは、鑑賞者の感情や感覚を刺激する没入感のある環境を作り出します。記憶、変位、個人的・集団的な歴史を保存するためのモノの意義をテーマとしたメッセージを発信しています。

また、エドモンド・デ・ワールは陶芸作家やアーティストとしての芸術的な活動だけでなく、作家でもあります。回顧録「琥珀色の瞳のウサギ」は世界的なベストセラーとなっています。

ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館やニューヨークのガゴシアン・ギャラリーなど、エドモンド・デ・ワールの作品は世界中の一流ギャラリーや美術館で展示されている他、陶芸の分野への貢献と文学的業績により、数多くの賞も受賞しています。

Artsyによるとエドモンド・デ・ワールの作品の直近36ヶ月の平均落札価格は、約942万円となっています。陶芸作品は数十万円から数百万円で取引されているようです。

北大路魯山人

北大路魯山人(きたおおじ ろさんじん|1883年〜1959年)は、陶芸家、篆刻家、画家、 書道家、漆芸家、料理家・美食家などの様々な側面で晩年まで活躍した日本の芸術家です。

母親の不貞によりできた子として生を受け、生まれる前に父が自殺し、その後養子として転々とするなど、不遇な子供時代を過ごした魯山人でしたが、丁稚奉公をする中で偶然目にした絵画作品などがきっかけとなり、その後多彩な美的才能を発揮していくことになります。

1921年に発足した会員制食堂「美食倶楽部」では、自ら厨房に立って料理を振舞った他に、使用する食器も自ら創作していました。『料理家』『美食家』として知られた魯山人は、そういった観点からも料理を盛る器や花器を深く考え、独自の美的世界を築きあげて制作し続けた作家であると言えるでしょう。

魯山人の陶芸作品は、花模様、美濃陶、銀彩などの華麗な模様や豪胆な雰囲気のフォルムや色使いが特徴的です。魯山人は国内外の骨董品の収集を好んだことでも知られていますが、特に特に江戸期の名工・尾形乾山の意匠が好みだったそうで、影響を受けていると言われています。

魯山人の陶芸作品の価格はどれぐらいするのでしょうか。魯山人の陶芸作品は、愛陶家やコレクターにかなり人気があり、数十万円から数千万円まで、幅広い価格帯で取引されています。

一般的には、魯山人の独自のスタイルが確立され、表現されている晩年の作品がより人気で、高値で取引される傾向にあるようです。例えば、以下の作品はArtsyによると約160万円ほどで販売されています。

パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)

美術界の巨匠の1人として誰もが知っているパブロ・ピカソ(Pablo Picasso|1881年〜1973年)。

多くの人は、彼の「ゲルニカ」や「泣く女」などの絵画作品についてはご存じでしょう。でも彼が陶芸にも情熱を注いでいたことは知っていましたか?

西洋美術史に衝撃を与えたキュビズムの先駆者、またその後のシュルレアリスムにも大きな影響を与えた人物として有名なピカソですが、1946年の夏にマドゥーラの陶芸家ジョルジュとシュザンヌ・ラミーに出会ったことから、陶芸を新たな芸術的媒体とするようになり、その後1971年までの間に633種類の陶器をデザインしています。

ピカソの陶芸作品は、神話や古典をモチーフにしており、ピカソのミューズたちの肖像画や闘牛、自然や風景、動物などを描いたものが多いです。

picasso

上記で紹介した陶芸家と違う点としては、ピカソは陶芸の陶器の生成の部分ではなく、デザインと絵付の部分に重点を置いて取り組んでいたというところです。この点を考慮すると、他の世界的な陶芸家と並べるべきではないのかもしれませんが、やはり美術界でも有名なピカソの陶芸作品は高く評価されているため、中には約1千万円を超えるものもあるように、それ相応の価格で取引がされています。

まとめ

世界の有名な陶芸家たちの作品を見比べて、お気に入りの作家やスタイルは見つかりましたか?

陶芸作品は、その制作過程や技法、形や絵付のデザインなどで、そのアート性はかなり多様だといえます。有名作家の作品はコレクターも多く、価格も数百万円以上するものもザラにあります。

美術館やギャラリーなどを訪れる際には、絵画の展覧会だけでなく陶芸にも注目してみると、新たな楽しむが生まれるかもしれません。

参考

Artsy https://www.artsy.net/

画像引用:https://www.houseandgarden.co.uk/article/lucie-rie

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。