パブロ・ピカソとは
パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)は、世界的に有名なアート界の巨匠です。西洋美術史に衝撃を与えたキュビズムの先駆者であり、またその後のシュルレアリスムにも大きな影響を与えました。
「アヴィニョンの女たち」や「ゲルニカ」「泣く女」などが特に有名な作品です。
絵画作品だけでなく、彫刻や陶芸作品も、様々なテーマやデザインを表現する、形、色、大きさの変化に富んだ独創的な作品ばかりで、世界中のアートコレクターからの人気を誇っています。
1946年の夏、ピカソはマドゥーラの陶芸家ジョルジュとシュザンヌ・ラミーに出会ったことをきっかけに、陶芸を新たな芸術的媒体とするようになります。
ピカソの陶芸作品には、神話や古典をモチーフに、ピカソのミューズたちの肖像画や闘牛、自然や風景、動物などを描いた作品が多く見られます。
ピカソの経歴や絵画作品などについて、詳しくはこちらの記事を読んでみてください。
ピカソの陶芸作品
ピカソは、1947年から1971年までの間に633種類の陶器をデザインしました。
皿や鉢などの実用品に装飾を施したものの制作からスタートし、後に水差しや花瓶など、より複雑な形の作品を制作するようになります。人の顔の形や動物をモチーフにして解剖学的な部位の形を表現するなど個性的な作品を製作しました。
絵の具を使ったり、粘土の表面に彫刻を施したりと、ピカソは様々な陶芸の技法を実験的に試し続け、主に2つの制作方法に行き着きました。
1つは、オリジナルのオブジェを手作業で丹念に再現し、その形や装飾をできるだけ忠実に再現する方法です。もう1つは、乾いた粘土の型に原型を作って、新しい粘土にデザインを転写する方法で、この方法で作られた作品には「Empreinte originale de Picasso」のマークが付けられています。
ピカソの陶芸作品にはどんなものがあるのかいくつか見てみましょう。
「Canard pique-fleurs」1951年
「Canard pique-fleurs(アヒルの花持ち)」は、アヒルのような独創的なフォルムと色使いが印象的な陶器の水差しです。立体的なキャンバスとして用いられた陶器の上に、女性の顔や縞模様の装飾を大胆に描かれています。
ピカソは、様々なカルチャーから陶芸作品に用いる装飾、形のインスピレーションを得ています。この水差しにおいては、キプロスの文化を参考に表現したのではないかと言われています。
「Tête de chèvre de profil」1952年
遊び心にあふれた陶器作品「Tête de chèvre de profil(山羊の横顔)」は、線、円、アースカラーを駆使して、ヤギの横顔が表現されています。
ヤギの横顔は細かい色使いによって生き生きとしていて、一枚のプレートに描かれていると思えないほど人々の心をひきよせます。
この作品は250点制作され、裏面に「Empreinte Originale de Picasso」と「Madoura Plein Feu」の陶器スタンプが押されているそうです。
「Visage de femme」1953年
「Visage de femme(女の顔)」は、1953年に制作された赤茶色と緑、マドゥーラ焼の白土のコントラストが鮮やかな水差しです。
水差しの形に合わせて、女性の顔が優雅かつ自然に浮かび上がっています。大きな目や唇、ウェーブのかかった髪が水差しのカーブに合わせて艶やかに描かれているのが印象的です。
「Pichet aux Arums」1953年
「Pichet aux Arums(アルムのピッチャー)」は、白いアルム種のユリがその側面を巻いているように表現された水差しです。
背景の黒が白い花や緑色の葉を鮮やかに際立たせています。
水差しの尖った注ぎ口によって、百合の花が正面方向に広がり、花瓶にフィットしていて、陶磁器の物理的な形状に美しい装飾をぴったりと適合させるピカソの芸術性が伺えます。
「Pichet Grave Gris」1954年
ピカソの陶芸作品には、動物がよく登場します。動物たちは、擬人化されて描かれていたり、身体の形のように陶器が象られていたりと、様々な姿で生命を吹き込まれています。
「Pichet Grave Gris(グレーの刻印のピッチャー)」には、ピカソの作品でよくみられるフクロウのモチーフと人の横顔が取り入れられています。
「Pichet espagnole」1954年
1954年に制作された「Pichet espagnole(スペイン風ピッチャー)」は、装飾が印象的なピッチャーです。
ピカソは、鳥をモチーフとしてよく作品を制作していることで知られています。本作品も、その形状や翼のような柄から鳥のように見えますが、人間のような顔が描かれています。
装飾的な釉薬のディテールが作品に命を吹き込んだかのように生き生きとして、可愛らしい作品です。
「Jacqueline au Chevalet」1956年
絵画作品と同様に、ピカソはミューズの女性たちの姿を皿や花瓶などの陶器にも投影しています。
「Jacqueline au Chevalet(イーゼルのジャクリーン)」にも、1953年にマドゥーラで出会い1961年にヴァロリスで結婚したピカソの2番目の妻、ジャクリーン・ロックの顔が描かれています。
「Hibou aux ailes déployées」1957年
「Hibou aux ailes déployées(翼を広げたフクロウ)」は、翼を広げて微笑むフクロウの様子が、赤土のマドゥーラ回転丸皿に、エングローブ装飾とナイフによる彫刻によって描かれている作品です。
皿の下方に広がる細い枝の上に乗ったフクロウは、ふさふさとした羽を扇状に広げている様子が生き生きとして見えます。
エングローブ装飾という技法によって、黒の下にある赤い土器の色を浮かび上がらせて、その細かい表現を際立たせています。
ピカソは、陶器でフクロウを表現することを好んでいたそうです。
ピカソの陶芸作品の値段は?
ピカソはその有名な絵画作品で、現在もアートオークションで最も高い値段で作品が落札されるアーティストの一人ですが、その陶磁器の作品も投資対象として人気です。
種類も豊富で個性がある作品ばかりなので、どんな人でも愛着のある作品を選びやすいでしょう。
ピカソの陶磁器の市場は着実に成長しています。ベテランのアートコレクターも新しいバイヤーも同様に、ピカソのユニークな陶器作品をオークションで落札しているようです。
価格もピカソの他の絵画などの作品よりも比較的低いものの、その価値が上がっていることからも投資対象として注目されています。
陶磁器作品の値段は幅広いですが、数百万円ほどで落札されている例が多いようです。
ピカソの陶芸作品が鑑賞できる美術館
東京・南青山にあるヨックモックミュージアムは、洋菓子ブランド「ヨックモック」が収集したピカソの陶器作品を展示する小さな美術館がとして2021年にオープンしました。
カフェも併設されており、美術館あるいはカフェの利用者は、ピカソ関連の書籍が閲覧できるライブラリースペースも利用することができるようです。
ヨックモックは、世界でも有数のピカソの陶芸作品のコレクターとして、500点以上の作品を所蔵しており、美術館内には100点近くの作品が展示されています。
2階にある展示室の壁面には、ピカソが好んで観戦した闘牛や植物や動物などが描かれた54点のプレートが展示されています。
また、隈研吾建築都市設計事務所から独立した建築家である栗田祥弘氏による美術館の建物の設計は、都会の中心地にあるとは思えないほどゆったりとした時間が流れる、光溢れる空間が迎えてくれます。
ヨックモックミュージアム
住所:〒107-0062 東京都港区南青山6丁目15-1 ヨックモックミュージアム
https://yokumokumuseum.com/guide/
TEL:03-3486-8000
アクセス:東京メトロ「表参道」駅B1出口から徒歩9分/渋谷駅東口より都営バス「新橋駅前」行乗車、「青山学院中等部前」下車徒歩1分
建物:2階・地下階 展示室 1階 カフェ・グッズショップ・ライブラリー
休館日:月曜日・年末年始 2021年12月27日(月)~2022年1月3日(月)・展示替期間
※ただし月曜日が祝日の場合、臨時開館。
開館時間:10時〜17時 ※入館は閉館の30分前まで
チケット代(税込):一般:1,200円 大学生・高校生・中学生:800円 小学生以下:無料
※障がい者手帳をご提示の場合、ご本人と付き添いの方1名は無料。
※学生の方は学生証等の在籍が確認できるものをご提示ください。
ピカソの陶芸にインスパイアされたコレクション
2022年1月にフランス・パリで開催された夏/秋のコレクションのショーにて、パリのクチュールメゾンであるAlaïa(アライア)は、パブロ・ピカソが4世紀のギリシャの女性をモチーフとして装飾した陶器作品の「Tanagra(タナグラ)」シリーズをベースとしてデザインに落とし込まれたドレスを発表しました。
これらのピカソにインスパイアされた 3 つのドレスは、9月にリリースを控えていますが、それに先立って世界トップのギャラリーであるガゴシアンが、新しいファッションとアートのイニシアチブの一環として、アーティストにインスパイアされた商品を持つファッションブランドを招いて、ギャラリーのショップを通じて提供しています。現在、ガゴシアンのオンラインおよびロンドン支店にて購入することができるようになっているそうです。
制作されてから長い年月が経っても、巨匠パブロ・ピカソの作品は、現在もアートの枠を超えてファッションなどの様々な文化に影響を与えています。
写真集「ピカソの陶芸」
2014年に出版された「ピカソの陶芸」は、ピカソの陶芸作品にフォーカスした作品写真集です。
生き生きとした感性が存分に発揮されたユニークな陶芸作品201点を収録しています。
ピカソの人生とミューズたちやフクロウやヤギなどピカソがよく用いたモチーフについても、美術評論家の岡村多佳夫によって解説されており、ピカソの陶芸作品を視覚的に楽しみながら、深く知ることができる一冊です。
まとめ
ゲルニカなどの絵画作品が有名な美術界の巨匠パブロ・ピカソは、実はたくさんの陶芸作品も製作していました。
個性的で愛嬌のあるユニークな作品ばかりで、様々なコレクターから人気を集めており、投資対象としても注目を集めています。陶芸作品は、絵画同様インテリアとしても存在感があるので、気になる方は大手オークションハウスのサイトなどで是非チェックしてみてください。
参考
Artnet「The Story Behind Picasso Ceramics」https://news.artnet.com/market/the-story-behind-picasso-ceramics-45590
Christie’s「Collecting guide: Picasso ceramics」https://www.christies.com/features/collecting-picasso-ceramics-7312-1.aspx
Masterworks Fine Art「Pablo Picasso Ceramics」https://www.masterworksfineart.com/artists/pablo-picasso/ceramics
Artnet「From the Runway to Gagosian: Alaïa’s Creative Director Teams Up With the Gallery to Display (and Sell) Dresses Inspired by Picasso Ceramics」https://news.artnet.com/style/gagosian-alaia-picasso-dresses-2150748
家庭画報「「ヨックモック」が収集したピカソの陶器作品が見られる美術館がオープン」https://www.kateigaho.com/migaku/94359/