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【1兆6515億円相当?!】エリザベス女王も愛したイギリス王室コレクションの中で知っておきたいアート作品:アンディ・ウォーホルやフェルメールなど

2022年9月8日に、イギリスで最も長い70年という記録的な期間、国のトップに君臨した女王エリザベス2世が96歳で亡くなりました。

エリザベス女王の在位期間、第二次世界大戦やEU離脱、COVID-19によるパンデミックなど世界的なさまざまな出来事が起こりました。国の女王という圧倒的なリーダーとしてだけでなく、アイコン的存在として世界中の多くの人々に親しまれた彼女の死は、多くの人々を悲しませました。

今回は、エリザベス女王が一生を通じて堪能したであろう、イギリス王室コレクションについて、そして代表的な美術品を紹介します。

イギリス王室コレクションとは?

エリザベス女王は、歴代のイギリスのロイヤルファミリーと同様に、多くの美術品を楽しんだコレクターでした。

イギリス王室は、ロイヤル・コレクション・トラストと呼ばれる100万点以上の品々で構成される世界最大の個人美術コレクションを所有しており、13軒の邸宅にそれぞれ所蔵されています。(その一部は、一般公開されています!)

50万枚の版画、3万枚の水彩画やデッサン、7000枚の絵画、タペストリー、家具、陶器、自動車、織物、アンティークレース、馬車、宝石、時計、楽器、植物、書籍、彫刻、輝かしい皇室宝飾品など、そのコレクションは多岐に渡って歴史の深いものばかりです。

これらのイギリス王室コレクションの中には、600点以上のレオナルド・ダ・ヴィンチのデッサン、少なくとも6点のレンブラント、50点以上のカナレットの絵画、少なくとも20点以上のミケランジェロのデッサン、そして、ロンドン塔に保管されている140点の王室儀礼品からなるクラウン・ジュエルなどがあります。中には、530カラットという世界最大のクリアカット・ダイヤモンドである「カリナンⅠ」が含まれています。

『100万点以上のイギリス王室の美術品コレクション』というと、どれぐらいの市場価値があるのでしょうか?

なんと、100億ポンド程(約1兆6515億円)の市場価値だと言われているそうです。

とはいえ、アートの価値はその所有者の変遷、背後のストーリーなどによっても高まるため、現在王室が所有しているということだけでさらに大きな価値があると言っても過言ではないでしょう。

イギリス王室コレクションの歴史は、ヘンリー8世の時代まで遡ることができますが、最も大きな役割を担ったのは、チャールズ1世だと言えるでしょう。

チャールズ1世は、イタリア美術の熱心な愛好家で、ヴァン・ダイクを含む多くのフランドル絵画のパトロンでした。1649年に清教徒革命によって処刑された後、チャールズ1世が収集していたすべての作品は実際に売却されましたが、幸いにも後にチャールズ2世によって回収され、現在のイギリス王室コレクション全体の基礎となったそうです。

女王エリザベス2世の時代には、アンディ・ウォーホルやアニッシュ・カプーアなどのより新しい現代アート作品が新しいコレクションとして追加されました。

では、イギリス王室コレクションのうち、絵画作品ではどのような作品が有名なのでしょうか?

イギリス王室が所有する有名な作品例

「肩と首の表面の解剖学(直腸)」 レオナルド・ダ・ヴィンチ

レオナルド・ダ・ヴィンチは、イタリア・ルネサンス期の三代巨匠の一人として、天才的な芸術家であるだけでなく、解剖学など他数多くの学問にも通じ、人体構造の研究を重ねていました。

当時の人々は人体構造を理解するために、死体の解剖なども行ったそうで、その構造を正確に理解することにより、絵画製作においてもさらに的確な表現を用いることができるようになったと言われています。

レオナルド・ダ・ヴィンチは、数多くの解剖学に関わるデッサンを遺しており、他の絵画作品と同様にその価値は非常に高く評価されています。

「肩と首の表面の解剖学(直腸)」は1510年頃に描かれたデッサンであると言われています。

「ヘルメスの柱像に向かって矢を射る撃つ射手たち」ミケランジェロ・ブオナローティ

「ヘルメスの柱像に向かって矢を射る撃つ射手たち」は、1530年頃に、紙に赤チョークで描かれたミケランジェロ・ブオナローティの作品です。

作品の主題について、文学的な出典は確認されていないようですが、ミケランジェロが新プラトン主義的な思想哲学を持って制作した多くの芸術作品との共通項が見られます。

裸の若い男女がこぞって(見えない)弓を弾いているものの、それらは的の中心には刺さっておらず『下界の情熱の炎に突き動かされた射手たちの熱狂的な行動は、単なる努力では目的を達成することができない。』というようなメッセージさえ感じられます。

「ベツレヘムの嬰児虐殺」ピーテル・ブリューゲル・ザ・エルダー

「ベツレヘムの嬰児虐殺」ピーテル・ブリューゲル・ザ・エルダー
引用:Wikipedia

1565〜67年に、ピーテル・ブリューゲル・ザ・エルダーによって描かれた油彩画「ベツレヘムの嬰児虐殺」は、マタイの福音書に出てくる話がモチーフとなっています。

『新しい王がベツレヘムに生まれたと東方の三博士から聞いたヘロデ王が、自分の王位が奪われるのを恐れてベツレヘムにいる2歳未満の男児をすべて殺せと命じた』というなんともサイコパスなエピソードで、槍や刀で突き刺される子どもたち、殺されて裸のまま母親の膝に横たわる子ども、自分の子どもの命乞いをする父親などが見られ、すさまじい迫力と悲惨な情景が描かれています。

また、手前にいる兵士たちが、槍を突き立てていることから、この仕草がスペイン軍の特徴の一つとして知られており、兵士たちの中心にいる白いひげの男はスペインのアルバ公を暗示しているのではないと考えられ、本作品は、マタイの福音書のエピソードをもとに、スペインによるフランドル支配の残虐性を訴えたものだと解釈されています。

「聖ペテロと聖アンデレの召命」カラヴァッジョ

カラヴァッジョの「聖ペテロと聖アンデレの召命」は、それまで贋作だと思われていて雑に倉庫に放置されていた絵画作品が、2006年に真筆と判断されて話題になった作品です。

1602〜1604年頃に描かれたこの作品は、1637年に当時のイギリス国王チャールズ1世が画商から購入して、イギリス王室コレクションに仲間入りしましたが、「模倣品」だと思われて、ロンドン郊外のハンプトンコート宮殿の倉庫にずっと放置され、雑に管理されていたそうです。

あまりにも状態が悪かったため、2000年から修復作業を行っていたところ、その過程でカラバッジョの作品の特徴が発見され、約110億円以上の価値のある作品だと判明し、世界中で話題となりました。

バッキンガム宮殿に収蔵されています。

「菜食主義を提唱するピタゴラス」ピーテル・パウル・ルーベンス

1618年〜1820年に制作されたバロック絵画の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスの「菜食主義を提唱するピタゴラス」は、古代ギリシャのピタゴラスが菜食主義を提唱するというテーマをもとに描かれています。

ピタゴラスは豊満な体として描かれ、光が当てられており、『菜食主義は健康的で栄養価が高い』という信念を示しているようです。

ピーテル・パウル・ルーベンスはキリスト教や神話を主題にした作品を多く描いた画家で、華やかなな色彩と壮大なスケールが印象的です。

「船大工とその妻」レンブラント・ファン・レイン

1633年に描かれたのレンブラント・ファン・レインの油彩画「船大工とその妻」は、オランダ東インド会社の株主ヤン・ライクセンとその妻グリート・ヤンスを描いた作品です。

本作品は、レンブラントが肖像画家として最も成功し、流行していた時代に描かれました。

妻が部屋に飛び込んできて、手をドアにかけたまま緊急のメッセージを手渡して緊迫した表情を見せている反面、夫はただ苛立ったような表情をを感じているように思えます。

「マグダラのマリアの前に現れるキリスト」レンブラント・ファン・レイン

1638年に制作されたレンブラント・ファン・レインの「マグダラのマリアの前に現れるキリスト」は、新約聖書・ヨハネによる福音書の第20章にある『復活したイエス・キリストがマグダラのマリアの前に姿を現す場面』を描いた作品です。

朝早くまだ暗いうちの出来事を描いているため、本作品は全体的に暗い中で、作品上部の木々の上に見える空が少し明るくなってきていることが見て取れ、聖書の記述に忠実に描かれた宗教画であることがわかります。

イエス・キリストの左後方に描かれている岩のように見えるものが、復活する前に葬られていた墓でしょう。

「チボリから見るカンパーニャの風景」クロード・ロラン

1644から1645年に描かれたフランス生まれの画家クロード・ロランの「チボリから見るカンパーニャの風景」は、イタリア中部の平野、カンパーニャ・ロマーナの風景が描かれている作品です。

本作品は、ロランのパトロン、ミシェル・パサートから依頼を受けて制作されました。美しい田園風景が、夕日に照らされてオレンジに染まる様子からは、目の前でその景色を目にしているように感じられます。

カンパーニャの地形組成が丁寧に詳しく描かれていることがわかります。ロランは人生で2回イタリアに旅行で訪れましたが、1627年の二度目のローマ旅行を期に、フランスへ帰国することなく現地で人生を終えたそうです。

「音楽の稽古」ヨハネス・フェルメール

オランダ生まれの画家、ヨハネス・フェルメールによって1662〜1665年に制作された「音楽の稽古」は、楽器の練習をする女性と指導者の男性が描かれた風俗画です。

ルネサンス・バロック期の音楽においてよく使用されたチェンバロの小型版であるヴァージナルが描かれており、ヴァージナルの蓋にある『MUSICA LETITIAE CO[ME]S / MEDICINA DOLOR[IS]』とは、『音楽は喜びの友、悲しみの薬』を意味します。

また、この二人が恋愛関係にあるかのように感じさせるヒントとなる表現が隠されています。

「エリザベス女王2世の肖像画」アンディ・ウォーホル

エリザベス女王2世の在位60年を祝うダイヤモンド・ジュブリーを記念して購入されたアンディ・ウォーホルによるエリザベス女王2世の肖像画4点も、英国ロイヤル・コレクションに収蔵されています。

1985年に描かれた本作品は、シリーズ「Reigning Queens」の一部であり、エリザベス女王2世の他にはオランダのベアトリクス女王、デンマークのマルグレーテ女王、スワジランドのントンビ・トゥワラ女王のポートレートもあります。

1977年に開催されたエリザベス女王2世のシルバー・ジュブリーの記念としてピーター・グルージョンが1975 年に撮影した既存の写真をもとに制作されました。

まとめ

イギリス王室が所有する100万点以上の膨大な美術コレクション「ロイヤル・コレクション・トラスト」には、世界的な名作の数々が含まれています。

その一部は公開され、各邸宅を訪れると生で見ることができるため、イギリスを訪れる際には、ぜひチェックしてみてください。

参照

アート名画館公式ブログ「エリザベス女王の絵画コレクション」http://blog.meiga.shop-pro.jp/?eid=1246

ART News「Queen Elizabeth II Has Died at 96 — See the Most Notable Artworks in the Royal Family’s Collection」https://www.artnews.com/gallery/art-news/news/queen-elizabeth-death-british-royal-collection-trust-1234638777/

culture trip「The Queen Has the Biggest Art Collection in the World and It’s Worth This Much」https://theculturetrip.com/europe/united-kingdom/articles/the-queen-has-the-biggest-art-collection-in-the-world-and-its-worth-this-much/

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。