訪問記事

日本におけるアーティストの作品の価格と今後の夢〜画家:寺沢拓也さんインタビューvol.3〜

前回に引き続き、画家兼キュレーターの寺沢拓也さんにインタビューを行います。

最終回としてアートの作品の価格の決め方、そして寺沢さんそしてギャラリー「アート・シップ」の今後の夢を伺います。

第1回「アーティストとしての生き方」第2回「ギャラリー:アートシップ新設について」も合わせてご覧ください。

インタビュー

ー寺沢さんの商品もアートシップで買えるのでしょうか?

寺沢さん:

はい。展示販売していきます。

寺沢さんの作品「ワンダフルワールド」

ー作品の価格はどのように決まっているのでしょうか?

寺沢さん:

私の作品の価格は、NYのギャラリーでの評価額が基準となっています。NYでは、キュレーターやギャラリーがアートの価格を決めるのが一般的です。海外、特にアメリカはアーティストが職業として確立していける土壌があります。

多くの家が広く、絵を飾る文化があり、また投資として絵を売買する市場があります。しかし日本の場合は違って、一般家庭では家も狭く壁にアートを飾る文化があまりありません。せいぜい床の間に掛け軸を飾る習慣くらいのものかと思います。

そのため投資や販売目的でアートを買った後に売却しようとしても、海外と比較して次の買い手市場が見つかりにくいのではないでしょうか。

だからこそアートは自分が良いと思ったもの、心に響いたものを自身のために買っていただきたいと思います。アーティスト側もお買い上げされる人にとってお金には変えられないと思って頂けるような作品を作っていかなければならないと思っています。

アーティストは「夢」を作品にして、お客さんは「その夢を買って」さらにアーティストが「夢」を追って作品づくりをしていく理想的な循環です。

寺沢さんの作品「月の川」

ーなるほど。日本とNYでは価格の付け方が違うのですか?

寺沢:

日本ではバブル時代にアートへ投資するのがトレンドになったことがあります。

しかし、売り手がアート市場を荒らしてしまったような気がします。売り手が高額でアートを売りつけて、バブル崩壊後に売り逃げにしてしまった事例が多かったように思います。

買い手はアートを買って損をしたという思いだけが残ったことで、アートの投資的価値への信用がなくなってしまったような気がしています。

ーちなみに日本でアートの価格を決めるプロセスにおいて思うことはありますか?

寺沢さん:

私の知る価格の決定プロセスはいくつかあり、アーティストによって異なります。 

まず、画廊のオーナーが作家の値段を決める方法があります。知名度のなかったアーティストの作品価格が急騰する多くの場合で、画商が裏でマーケティングしている可能性がある思います。

一方、 アーティストとしての地位を確立した方の場合は、美術年鑑誌などの市場の原理で価格が決まる場合が多いです。 こちらのサイト(当サイトPArtのこと)でも採用されているように、市場評価から導き出された1号あたりの価格を目安に決める方法です

その場合は1号あたりの単価×大きさが、そのアートの価格になります。投資として購入するアートやオークションに出回っている作品はこのように価格が導き出されます。

他のアーティストの中には、制作にかかった時間を換算する時給計算、作品の大きさによって価格を決める計算や価値計算といった自分の価格を自分で決定する「言い値」もあります。

画廊などが関わらない売り方の場合は、自分自身でスポンサーや買い手を見つけなければなりませんが売れた金額は全額自分に返ってきます。だからこそ個展を開き、自分でファンを作っていくのがアーティストとして成功につながる道だと私は思います。

今、画廊側も新しい作家がいなくて困っています。画伯と呼ばれるようなアーティストとして突出する人が少なくなっているので、画廊やギャラリーではグループ展が多く行われています。

寺沢さんのアトリエにて

芸大を卒業した人達でも、アーティストとして生計が立てられないのが現状です。アーティストとして活動していても、カフェやレストランのギャラリースペースなどで作品を展示販売している方もいらっしゃいますが、私はそんなアーティストの人達にアーティストとしてプロを志すなら、本格的なギャラリーで個展を行なって実績を作り、プロ意識と作品の向上を目指して高い評価を受けていけるようにと伝えていきたいです。

自分の作品のイメージにあった展示の仕方やライティングの方法、アートはどのように飾れば、より良く作品を展示できるかなど経験を積んで自分自身と作品の価値を高めていけるようにアート・シップを活用してください。これからは若い世代にそういったレベルの高い展示会や意識を伝えていきたいです。

ーアートシップの収益構造と今後の目標を教えてください。 

寺沢さん

通常のギャラリーは貸しスペース代と作品が売れた際の手数料によって経営を成り立たせています。アート・シップでも同じように、収益化を見込んでいます。貸しギャラリースペース料、企画展や公募展などの出展料、それに加えショップでの物販も行います。

アート・シップの収益ははじめはメンバーが融資した返済にまわしますが、長い目で見て大きな物件へ移るための準備資金として使っていきたいと思っています。何よりもアーティストが自由な作品をより多く作り出すための場所を提供していくのが今後の目標ですね。

編集後記

今回は寺沢さんのアトリエにお邪魔させていただき、インタビューを行いました。ギャラリーの扉を開けると、寺沢さんの作品が壁に飾られており、息を呑む美しさでした。残念ながら、画像では伝わらないほどの細かさです。作品に囲まれるとまるで天国にいるように感じ、寺沢さんがいかに精神を重視して作品を作り上げているかを理解することができました。

以前私はピアノを習っておりそのピアノの先生からも「毎日の行いが全てピアノに通じる」と指導されてきました。芸術作品とはその人を映す鏡であるのだなあと改めて感じました。

当サイトでは、「お金×アート」を中心にお話ししています。寺沢さんのご意見は「アートは本当に気に入ったものを買ってください」とのことでした。今日本ではアートバブルが起きています。売れそうな人を探すより、自分が気に入った作品を持つことで日常生活の癒しや心の支えになりますね。アートは値段以上のものをあなたに与えてくれるかもしれません。

今回はじめての取材でしたがみなさんいかがだったでしょうか?今後、当サイトでも色々なインタビューを行っていきたいと思いますので次回もお楽しみにしていてください。

寺沢拓也 プロフィール

1955年生まれ。名古屋市在住。グラフィックデザイナーとして活躍。「自然の中の宇宙」をテーマに多くのコンクールに出展。2000年「寺沢拓也の宇宙展」を開催、作家デビューする。2002年ニューヨーク・ソーホーのウエストウッドギャラリー「Japan Art Allisnce」に出展Gallery &Stedio,FineArt誌などに記載され「テラサワタクヤの自然に対する見方は非凡な才能というべきで、それを描き出す生き生きとした色合いと、繊細でダイナミックな技法は、誰のスタイルや傾向にも依存せず純粋に芸術上の歴史的先例には関係していない、自身の想像力を追求しその大胆とも言える姿勢は、どのような国においても新鮮さを与えるだろう」と評価されニューヨークデビューする。2012年「アート・シップ」設立。現在、後進の指導及び作家活動中、個展、受賞歴多数。

ABOUT ME
しおり岡
編集長/ライター。小学生の頃はエジプト文化、中学生では西洋美術、高校生は日本の歴史にハマり、大学在学中に仏像に恋をして、学芸員を取得。卒業後、大手人材会社で営業を経験。その後、飲食店の広報・デザイナーを経て、アメリカ・NYにて転職。コロナウイルスのため帰国し、現在は日本に滞在中。趣味は「美術館や遺跡を経験するための海外旅行」。今まで40カ国以上を旅行をし、世界の建築や文化、食事、アートに触れる。