コラム記事

アートの最高学位MFA(美術学修士)とは?取得できる日本の学校や海外の留学先、社会人に注目される背景を紹介

アートに関連する学位であるMFA(美術学修士/芸術学修士)が、世界的に話題になっています。

キャリアアップや起業を志す人々が、MBA(経営学修士)を取得するというのは一昔前からよく聞く話でしたが、10年ほど前から今もなお、MFA(美術学修士)という学位により注目が集まっているようです。

アーティストを志す人以外に、ビジネスの現場でもアート、デザイン思考が求められている昨今では、MFAの取得によって得られるものも多く、知っておいて損はないでしょう。

MFA(美術学修士)とは?

MFA(Master of Fine Arts:美術学修士)は、芸術・美術学科目の実践的な内容をベースとしており、所定の課程を備えた大学院や教育機関の修士課程を修了することで取得できるのアートの最高学位です。日本語では、美術学修士や芸術学修士などと呼ばれます。

欧米では、MFAが取得できる専門分野は幅広く、ビジュアルアート、芸術評論家、クリエイティブライティング、映画製作、演劇、振付家、ファッションデザイナーなどほとんどすべての芸術分野に及ぶMFAプログラムのある大学院や教育機関が多くあります。

MFA(美術学修士)が注目されたきっかけとは?

ダニエル・H・ピンク
引用:Masterclass「Daniel Pink: 6 Bestselling Books by Author Daniel H. Pink」https://www.masterclass.com/articles/daniel-pink-life-and-work

MFAが評価、注目され始めたきっかけと言われているのが、ダニエル・H・ピンク(以下、ピンク)が2008年にグローバル・マネジメント誌である「ハーバード・ビジネス・レビュー」に寄稿した論文「The MFA is the New MBA」です。

ピンクはアメリカの作家で、4冊の著書でニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーを受賞し、1995年から1997年までアル・ゴア副大統領のチーフスピーチライターも務めた人物で、この論文でピンクが提唱したことがきっかけとなり多くの人々がMFAの価値を再評価し、10年以上経った今でも注目され続けています。

ピンクは、論文の中で、「企業が、今日の在庫過多で物質的に豊かな市場で自社の商品やサービスを差別化する唯一の方法は、提供する商品を超越的なものにすること、つまり物理的に美しく、感情的に説得力のあるものにすることであると認識しつつあります。」と述べました。

なぜ今、MFA(美術学修士)が評価されているの?

MFA 美術学修士
引用:hyperallergic「Reimagining Contemporary Art Education at Purchase College’s New Media Arts MFA Program」https://hyperallergic.com/501444/reimagining-contemporary-art-education-purchase-colleges-new-media-arts-mfa-program/

2015年のForbesの記事によると、『シリコンバレーやシアトル、ボストンやテキサス州オースティンなど、アメリカの主要なテックハブの至るところで、ソフトウェア企業はリベラルアーツの考え方が自社を強くすることを発見している』ことが明らかにされています。

テック企業においてエンジニアが高給取りであることに変わりはありませんが、FacebookやUberのような世界的な大企業では、技術系以外の職種として特に営業やマーケティングでの人材獲得合戦が行われており、その中でもいわゆる『デザイン思考』のできる人材が重宝されているのだそうです。

時代が変わるにつれて、新しい技術が開発・導入され、これから徐々にAI(人工知能)に人間の仕事がとられていくのではという懸念があることは、誰もが聞いたことのある話でしょう。

現代、そして近い将来により高度な技術革新により、人間に求められる能力が変化をしていくということを考慮すると、人間独自の能力=創造力が重要となっていきます。

ビジネスにおける課題解決のためにも、論理的思考だけでなく創造性やデザイン思考を用いる必要性が増えてきており、世界的にMFA保有者が貴重な人材として評価されたり、活躍しています。

MFA(美術学修士)を日本で取得するには?

MFA 美術学修士
引用:PR TIMES「日本初!完全オンラインで芸術修士を取得できる通信制大学院「学際デザイン研究領域」開設初年度の出願者数 242名、合格者数 55名(倍率 4.4倍)。」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000026069.html

日本国内では、MFAが取得できる美術大学・芸術系大学はまだ少数なようです。

2020年に新しく開設された京都芸術大学大学院の「芸術研究科(通信教育)芸術環境専攻 修士課程 学際デザイン研究領域」は、日本初の100%オンラインで芸術修士(MFA)を取得できる修士課程として、忙しくても学びたい社会人のニーズをかなえられるMFAプログラムとして人気を集めています。

完全オンラインのプログラムであるものの、授業時間外にも独自の学習用プラットフォームを通じて業界の第一線で活躍する教員からの手厚いサポートが受けられるようになっているほか、少人数制の指導体制なので、一人一人に指導が行き届く環境が整っているといえるでしょう。

学際デザイン研究領域のカリキュラムは、デザイン調査法、伝統文化研究、デザイン思考・実践などの内容で構成され、『旧きを知る文化・伝統の探究力』と『現在~未来を構想するデザイン思考』の両面からのアプローチで、知識習得と実践を通じて学びを深めていきます。

海外のMFAと国内のMFA

海外でアートを学ぶことは、結果的に国内で勉強する学生よりもかなりに有利になると言っても過言では無いでしょう。

海外でMFAを取得することで、世界クラスの教員から学び、最先端のアート事情に触れられる他、世界各地から集まった学生たちとの出会いや新しい環境での生活によって多くの新しいインスピレーションを得ることができます。さらには、世界的に認められた仕事にアクセスできる可能性もグッと広がるでしょう。

もちろんそのためには高い費用がかかるだけでなく多くの努力が必要となりますが、経済的負担を軽減するためには奨学金や教育ローンなどの選択肢があることも多いようです。

アート留学!MFA(美術学修士)を海外で取得するには?

パーソンズ・スクール・オブ・デザイン
引用:Parsons School of Design https://www.newschool.edu/parsons/

海外では芸術系の専門大学だけではなく、総合大学にも数多くMFAを取得できる大学院があります。

海外でアートを勉強し、MFAを取得することを目指すときに、候補の国として人気が高いのは、アメリカ、イギリス、イタリア、フランス、北欧諸国 (デンマーク、フィンランド、スウェーデン)、オーストラリアです。

その中でもアメリカは特にその選択肢も多くあるようです。例えば、アメリカでは有名名門大学であるスタンフォード大学、イェール大学、コロンビア大学などのような大学でもMFAを取得することができます。

アメリカでは一般的に、大学でアート系の専攻過程を修了することで「BA(Bachelor of Arts :文系の学士号)」や「BFA(Bachelor of Fine Arts:美術学の学士号)」の学位を取得することができます。MFAを取得するためにはその後大学院に進学し、修士課程を修了することが必要となります。

大学院進学には、決められた学位と実技の試験が求められる場合が多いようです。必要な条件はさまざまなようなので、進学したい学校の必要要件を確認しましょう。

一方イギリスでは、小規模なアートスクールなどでもMFAを取得できるケースがあるそうです。

以下で、海外でのMFA取得を目指す場合に知っておきたいことをチェックしていきましょう。

MFA海外留学の資格・要件

『海外でMFAを取りたい!』と言っても、もちろん誰でも簡単にできることではありません。国内での大学受験と同様に、それ相応の資格・要件が必要となります。

まず大前提、海外でMFAを取得するためは大学院での学びを通じて、より高度なレベルでアートを追求することにフォーカスすることになります。そのため、ある程度の学力、教養、英語力が問われるのは当然のことだと言えるでしょう。

要件はその学校によってそれぞれですが、多くの場合、まず芸術に関連する分野の学部を卒業し、学士号を取得していることが理想的と言えます。応募の際には、『より高いレベルでアートを研究していきたい』という候補者の思いと辻褄の合うストーリーが明確にあることがベストです。となると、全く違う分野から突然路線変更してMFA取得を目指すよりも、アート関連の学問を専攻していたという経歴の方が当然しっくりくるため、選考でもMFA取得を目指す候補者としてのポテンシャルをアピールでき、何らかの形で役に立つでしょう。

また、大学を卒業して一度社会人として就職した後に、MFAを取得を決意するというパターンも多くあるでしょう。この場合には、過去の仕事の経歴、ポートフォリオを提出する必要があることが多いようです。あらゆる形でファインアートに関連した実務経験や、自身の感性を表現すること、明確なストーリーを見せられることから、こちらも重要な選考基準だと言えます。

応募する学校によって、ポートフォリオ提出のためのガイドラインはそれぞれ違うため、必ず細かく確認をして、自身のスキルや才能、ポテンシャルについてアピールする必要があります。

MFA海外留学に必要な提出物

MFA海外留学の申請ために、一般的に必要となる提出物について見てみましょう。上記で触れた『MFA海外留学の資格・要件』と同様に、応募する美術学校によってそれぞれ異なりますが、まずは大体のイメージを持っておきたいという方に向けたものです。

  • 修了した大学で取得した学士号の証明
  • 過去の職歴、ポートフォリオ
  • 英語能力試験のスコア(IELTSやTOEFLが一般的、各大学ごとに設定された最低スコア以上の結果である必要があります)
  • GREのスコア
  • 履歴書
  • 推薦状
  • エッセイ
  • 志望動機

海外大学へのMFA取得を目指した留学をしたい場合、多くの場合これらの提出物が必要となると考えておいて良いでしょう。

MFA海外留学の申請プロセス

MFA海外留学の申請プロセスは、原則全てオンラインでできるようになっています。まずは志望する学校の入学ガイドラインをしっかりとチェックし、それの期限やルールを守って申請しましょう。

大抵の場合、候補者はまず申請料を支払い、必要な提出物を添付してオンラインで期限までに提出する必要があります。

また、奨学金の申請も検討している場合には、一般の申請期限よりも早く申請する必要があるでしょう。奨学金の申請については、別途事前にしっかりと確認し、同様にルールや期限を遵守して、申請しなくてはなりません。

MFA海外人気大学ランキング

海外で美術修士号 (MFA) を取得したい場合、まずはどの大学が世界のトップなのか知っておくべきです。2020年に発表された海外のトップランクの美術大学ランキングを見てみましょう。

MFA海外人気大学ランキング
参考:https://studyabroad.shiksha.com/mfa-abroad-eligibility-colleges-fees-exams-jobs-articlepage-2571

海外アート留学・人気大学の例

University of The Arts London(ロンドン芸術大学・UAL)|ロンドン

ロンドン芸術大学(UAL)は、イギリス・ロンドン市内にあるカレッジ制の高等教育機関です。

ロンドン芸術大学には6つの学部があり、学部、大学院、博士課程の教育プログラムを提供しており、芸術、舞台芸術、デザイン、ファッションなど、さまざまな分野の専門知識を身につけることができます。

学生総数の15%が留学生で、世界130カ国からアートに情熱を持った学生が集まっています。

また、18の科目でプレディグリーコースとショートコースを提供しています。UALは、世界130カ国から集まった3,000人の学生を含む、18,000人の国際色豊かな学生で構成されており、学生総数の15%を占めています。

Parsons School of Design(パーソンズ・スクール・オブ・デザイン)|ニューヨーク

ニューヨークにあるファッション・アート専門の私立総合美術大学として有名なParsons School of Designは、世界最大規模のアート・デザインの大学で、最先端のデザイン教育が受けられる学校です。

Design and Technology(デザイン・アンド・テクノロジー)を専攻すると、2年間でMFA取得を目指すことができます。

また、ビジネス系の授業を選択することもできるので、ビジネスに活かせるアートを学びたいという方には一押しです。

Art Center College of Design(アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン)|ロサンゼルス

ロサンゼルスにあるArt Center College of Designは、全米屈指の芸術専門大学として名を馳せています。

デザイナー、画家、建築家などの多様な教授から学べる本校では、広告デザイン・商業アートの分野におけるプロフェッショナルの育成に重点を置いているようです。

Media Design Practices(メディア・デザイン・プラクティス)専攻では、2〜3年でMFA取得を目指せます。

UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)|ロサンゼルス

ハーバードやスタンフォードと並ぶアメリカの名門大学として著名なUCLAでも、Media Arts(メディア・アーツ)専攻により2年間でMFA取得を目指すことができます。

人気校で、全米ナンバーワンの出願数があるため、かなり倍率が高いと言われていますが、大学生の12%、大学院生の22%が留学生だそうです。

一言にアート、デザインといっても専門分野は多岐に渡り、日本に比べて海外の大学院の方が専攻の選択肢も豊富なようです。

海外アート留学に必要な英語力は?

現段階では、日本国内よりも海外の方が、MFA取得の選択肢が多いため、海外アート留学を検討する方も多いのではないでしょうか。

言わずもがな、海外でMFA(美術学修士)を取得するためには、英語力は必ず必要となってきます。

まず海外の学校への応募や住居探しなど、行くまでの準備期間から英語でのコミュニケーションができることが必要です。日本では想像できないようなトラブルが起こることも多いため、英語でしっかりとやり取りができるようにしましょう。

また、海外の学校への応募に際しても、外国人の学生は一定の英語レベルを満たしているかを確認される場合があります。一般的にはTOEFLやIELTSなどが広く使われており、日本でよく聞くTOEICは海外ではほとんど使われません。

特に日本人の場合は、スピーキングとリスニングのレベルが低い傾向があるため、海外留学を検討する際には、実用的な英語力を伸ばしていきましょう。

また、英語でアートについて学ぶと言っても、実技の演習のみではありません。アートについてのディスカッションがあったり、自分自身のアート作品の背景についてきちんと伝わるように説明するシーンがあったりと、英語力が低いと多くの壁にぶち当たってしまうことが予想できます。

美術学修士取得には問題なく海外での生活や専門的なディスカッションができる英語力が必須と言えるでしょう。

MFA(美術学修士)とMA(文学修士)の違いは?

MFA(美術学修士)について調べていると、よく似た『MA』について目にするかもしれません。

MFA(Master of Fine Arts)は美術学修士、MA(Master of Arts)は文学修士のことです。

MA(文学修士)は通常120コースクレジットで構成されるプログラムであるため、フルタイムであれば1年、パートタイムであれば2年ほどで取得できるのが一般的です。

一方で、MFA(美術学修士)に関しては、通常150コースクレジットで構成されているため、MA(文学修士)の取得よりさらに時間がかかると言われています。

これら2つの修士号の違いについて見てみましょう。

よりジェネラルな学び VS より狭く深い学び

MFA(美術学修士)とMA(文学修士)の違いとしてまずあげられるのが、学びの焦点が『広義』か『狭義』かという点です。

MA(文学修士)はより学際的で芸術に限らず人文科学などの幅広い分野をカバーしています。よって、卒業後のキャリアの選択肢としてはフレキシブルにあらゆる方向を目指せるという利点もあるようです。

MFA(美術学修士)は、より特化した分野での専門性を深く掘り下げていくことができます。入学の時点で関心のある分野が決まっている場合は、MFA(美術学修士)の取得により専門家として特別な経験や修士号を得ることができるでしょう。

また、MFA(美術学修士)では自主制作を多く行うなど、より実践を通じた経験を積める傾向にあるようです。

研究 VS 芸術的発展

MA(文学修士)では、より研究志向で、理論に基づいた学習を進めていく傾向があるようです。そのため、実践的な学びよりも論文を読んだり執筆したりすることに時間を費やすことが多いのだそうです。

一方でMFA(美術学修士)は制作に重きを置いていることが多く、個々の学生の芸術的スキルを実践を中心に育てていけるように設計されています。

社会人でアート関連の修士号を取得する場合には、他の経験やスキルなどを活かしながら今後のキャリアを考えていく人が多いかと思います。そのため、多くの社会人がMFA(美術学修士)を取得しているのでしょう。

また、ビジネスの世界でもMFA(美術学修士)の方が重要視される傾向もあるようです。

MFA(美術学修士)取得によって目指せるキャリアは?

MFA(美術学修士)クリエイティブディレクター
引用:Best degree programs「What is the Best Degree Path to Becoming a Creative Director?」https://www.bestdegreeprograms.org/faq/whats-the-best-degree-path-to-becoming-a-creative-director/

MA(文学修士)よりも実践的であり、ビジネス向けだと言われるMFA(美術学修士)ですが、修士号の取得後にはどのようなキャリアが目指せるのでしょうか?

MFA(美術学修士)を取得し卒業した後、最初のキャリア選択としては、まず『実務をこなす役割』か『マネージャーとしての役割』の2種類に分かれるでしょう。

前者は、 美術の世界で実際に制作したり演じたり、自身を直接的に表現していくことができます。
作家、編集者、劇作家、ダンサー、俳優、画家、彫刻家など、美術界で活躍するいわゆるアーティストとしての活動を深めていくのがこのパターンでしょう。

一方で後者は、上記のようなアーティストをマネージメントするような役割で、美術界においてアートキュレーターやギャラリストなどの道がある他、あらゆる業界でのクリエイティブマネージャーなどのように『アートやデザインの知識や思考などを、ビジネスの場に活かしていく』ことができます。

特に、就職などでの実践的なビジネス経験があり、その後社会人として新たな学びを得て、さらにキャリアアップするという目的でMFA(美術学修士)を取得する人は増えており、実際に様々な業界から重宝されています。

ビジネスの現場でアート、デザインの知識や経験、学位を活かして活躍している人物・企業

現代はモノの供給過多になっており、消費者が商品やサービスを購入、利用するかどうかは、モノ自体の品質より前に、まず消費者との接点となる商品自体やウェブサイト、SNSなどのデザインや見せ方がうまくいくかどうかにかかっていると言えます。

また、変遷する消費者の声をスピーディーに取り入れて改善を続けるビジネスモデルや、オンライン、オフライン両方での消費者の体験をデザインするという考え方が、重要となっています。

アメリカでは、MFA取得者の平均年収は約6万1千ドル(約680万円)と言われており、経営層にアート、デザインに精通している人が選出されるケースも増えてきています。

今、世界で活躍している人物や企業にも、アートやデザイン思考を取り入れて成功している例が多くあるので、最後にいくつかご紹介します。

ジョナサン・アイブ

ジョナサン・アイブ
引用:https://iphone-mania.jp/news-105913/

iPodやiPhoneなどの製品が世界的な大ブームを起こし続けているアップル社の元CDO(最高デザイン責任者)として、アップル社のハードウェア、ソフトウェア全般を2019年まで統括していたジョナサン・アイブは、アメリカのロードアイランド・スクール・オブ・デザインで名誉芸術学博士号を授与されました。

元CEOのスティーブ・ジョブズ(以下、ジョブズ)がアップル社に復帰した後、アップル社の製品のブランディングにおいてデザインに重きをおいてきたジョブズの絶対的な信頼を得ていたアイブは、社内で大きな権力を持つようになりました。

商品の内部設計に関わるエンジニアよりも、商品の製造を担当するオペレーション部門よりも、ブランドに与えるデザイン部門の影響は大きく、それゆえに世界を変える製品が続々と生まれ、会社が成功したといっても過言ではないでしょう。

Airbnb(エアービーアンドビー)

2020年に話題になったAirbnbの看板広告(引用:Airbnb公式Webサイト)

現在なら誰でもその名を知るAirbnbは、世界各地の人と部屋の貸し借りが出来るコミュニティー・マーケットプレイスです。そんなAirbnbも創業当初は大赤字、ローンチは何度も失敗していました。そんな状況を、サイトのユーザーインターフェイスやユーザー体験のデザインの改善を行なったことで打破し、今や世界中の人々に使われるプラットフォームとなりました。

当初全く一般の人々から利用されなかった時に、宿泊先の写真をAirbnbメンバー自ら出向いて高クオリティでおしゃれなものに撮り直したり、閲覧した宿泊先をお気に入りに追加するマークを星からハートに変えたり、それぞれの宿泊先についてホストがストーリーテリングができるようにサイトをデザインしたりといった、総合的なデザインの改善によってビジネスを軌道に乗せることができました。

パソコンの前に張り付いてデータを追いかけ、ロジックで改善策で考えるだけでなく、実際に現場に出向き、ユーザーの声を直接聞いてサイト設計やユーザー体験のデザインに反映すること、すなわちデザイン思考が会社を成長させた鍵であったことがわかります。

ジョン・マエダ

ジョン・マエダ(引用:Arkitektura Assembly「DESIGN IN MIND: JOHN MAEDA」https://assembly.arksf.com/podcast/john-maeda

アメリカの経済雑誌フォーブスで「学問分野におけるスティーブ・ジョブス」と称され、インターナショナルマガジン エスクアイアによる「21世紀に最も影響力のある75人」の中に選出されたジョン・マエダ(以下、マエダ)も、アート、デザインを学び、活躍している人物の一人です。

経営者、デザイナー、技術者など多くの肩書きを持つ日系アメリカ人のマエダは、アメリカ西海岸のシアトルで生まれ育ち、理系大学の最高峰であると言われるマサチューセッツ工科大学へ進学し、電気工学とコンピュータサイエンスを専攻したのち、日本の筑波大学大学院の博士課程でデザインとアートを学びました。

マエダはその後、母校マサチューセッツ工科大学へ戻り教授職に就いたのちに、アメリカの名門美術大学であるロードアイランド・スクール・オブ・デザイン学長を経て、シリコンバレーの世界最大級の越境ECサイトeBayのCEO顧問、ベンチャー投資会社クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズのデザイン・パートナーなど様々な業界で活躍してきました。

マエダは、ビジネスの場にアート、テクノロジーの知見を活かしているだけでなく、アーティストとしても知られており、作品がニューヨーク近代美術館、サンフランシスコ近代美術館やカルティエ財団などに常設展示されています。

まとめ

デザインやアートと聞くと一部の生まれ持った才能のある人たちのためのものだと思ってしまうのは私だけではないと思いますが、実際のところ、経営やマーケティングなど一般的なビジネスの分野においてもMFAは重宝されていることがわかりました。

たくさんのモノやサービスで溢れ、消費者、ユーザーとの接点がより一層デジタルに移行している現代では、ビジネスにおいても、論理的な課題解決方法だけでなく、創造的な思考や手順で物事を進める力が求められます。

これからキャリアアップをしたい方や、自社ビジネスを成長させたい方は、MFA取得も1つの良い選択肢かもしれません。

参考

CRIMSON「What is the difference between an MA and an MFA?」https://www.crimsoneducation.org/us/blog/graduate-prep/what-is-the-difference-between-an-ma-and-an-mfa/

the Best Masters Degrees「What Careers Are Available With a Master’s in Fine Arts?」https://www.bestmastersdegrees.com/best-masters-degrees-faq/what-careers-are-available-with-a-masters-in-fine-arts

Payscale「Master of Fine Arts (MFA) Degree」https://www.payscale.com/research/US/Degree=Master_of_Fine_Arts_(MFA)/Salary

「MFA Abroad: Eligibility, Colleges, Fees, Exams and Jobs」https://studyabroad.shiksha.com/mfa-abroad-eligibility-colleges-fees-exams-jobs-articlepage-2571

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。