欧米から始まり、日本でも注目され始めている「STEAMS教育」について、知っていますか?
様々な新しいテクノロジーによって、世の中が大きく変わっていく中、必要とされる人材の資質や能力も時代とともに変化してきています。
これからを担う若者、子供たちが身につけるべき能力を育成するために教育プログラムも時代に合わせて革新されなくてはなりません。
今回はSTEAMS教育とは?そしてその一部であるアートはどのように教育に活かされているのかについて解説します。
STEAMS教育とは?
「STEAMS教育」とは、これからの世の中を生きる上で重要なスキルとなるであろう6つの教育分野の頭文字をとって表した造語です。
Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)、Sports(運動)の6つの分野が、今後の新しい技術が浸透した社会において、競争力のある人材になるために育てるべき能力であると言われています。
1990年代にアメリカ国立科学財団によって始まった「STEM教育」を、2013年にアメリカのオバマ元大統領が重要な国家戦略として取り上げ、のちにArtが加わった「STEAM教育」と呼ばれるようになり、そして最近さらにSportsを含めて「STEAMS教育」として語られるようになったようです。
物事のIT化が進み、あらゆることを人工知能に代用させることが当たり前になってきた世の中で、自分の力で考え、学んで理解する判断力、自発性、問題解決能力を養うことが非常に重要となってきています。
更に興味のあることを見つけ、教養や専門性、多岐にわたる経験を深めていく土台を作ることも目的とされています。
文部科学省・経済産業省も推奨しているSTEAMS教育!
欧米などで取り入れられているSTEAMS教育ですが、日本においても文部科学省や経済産業省が推進している教育法なのだそうです。
例えば、現在日本の小学校では、STEAM教育の一部といえるプログラミング教育が2020年度から必修化となったのが記憶に新しいと思います。
また、これまで日本の一般的な高等学校は、文系・理系に別れて専門分野を分ける傾向がありましたが、この文理の分断からの脱却と、生徒たちに公平かつ個別最適化された学びの機会と場を提供を目指していくと、2018年に文部科学省の教育政策の方針として発表されていました。
更に、経済産業省でも『学びのSTEAM化』を推進するために、人工知能(AI)を社会で活かすことを目的とした、農業へのアプローチとして「農業 × データ科学 × IoT × ロボティクス」、交通渋滞問題へのアプローチとして「数理 × 倫理 × ルール」といった、別々とされていた分野を掛け合わせた改善手段を考える学びのプロジェクト事例などが紹介されているようです。
STEAMS教育にはどのような効果がある?
先ほどの日本の例であったように、STEAMS教育を用いることで、文系・理系といった枠にとらわれず、基礎的な各教科の学びを基盤としつつ科学やテクノロジー、芸術、数学など理数系と芸術系の分野を重視することで、様々な情報を活用・統合し、論理的思考を養いながら課題の発見・解決を自発的に行い、社会的な価値の創造に結びつけていくことができる資質・能力を育むことができます。
また、プログラミング、科学、テクノロジー、芸術などの分野を子供の頃から学ぶことにより、新しいサービスや商品を使う側としてだけではなく、自らの手で作ることができるクリエイティブな人材となります。
STEAMS教育におけるArt(芸術)の役割は?
STEAMS教育の他の分野はもともと「STEM教育」として推進され始めたこともあり科学、技術、工学、数学などと比較的理数系に比重が置かれていますが、Art(芸術)の分野も今後の世の中で役に立つ能力・資質を養うために重要な役割を持っています。
とはいえ、まず知っておきたいこととしては日本と欧米での一般的な美術教育においては、それぞれ文化的な背景もあり方針が異なります。
日本においての美術教育は、美術の歴史などの座学に加えて表現の技法などテクニカルな部分を教えるという、『美術に関連する知識と技術を習得する』ことを目的にしているのに対して、欧米においての美術教育は、美術作品に対するコンセプトやプロセスを重視し、『美術という答えのない物に対して自分で考えたり調べたりしながら自由に表現することで、それぞれの個性を引き出す』ことを目的としています。
STEAMS教育におけるアートとは、欧米における美術教育のように『自主性を重んじる教育』のことを指します。
自分の興味のあるテーマを探して自由に作品を製作したり、美術鑑賞の際に意見や感想を交換する場が設けられたりと、正解のないアートという分野を通じて、自由に自主的に学ぶ場を提供することにより、コミュニケーション力、思考力、観察力、読解力、そして多様性を身につけることができます。
美術に関連する知識やスキルを取得するということに留まらず、アートを通して物事を深く考察し、クリエイティブな感性・知性を身に着けることにより、豊かな人間形成を目標としています。
日本におけるSTEAMS教育の取り組み事例
埼玉大学 STEM教育センター
埼玉大学教育学部の野村研究室の研究プロジェクトとして活動しているのが「STEM教育センター」です。
STEM教育センターでは、社会・学校との連携プロジェクトなどにより、STEM教育を中心とした教育プログラムの改善などに寄与しています。
科学館でのロボットコンテストの開始、プログラミング教育などに関する講演、児童館での夏休み自由研究ワークショップの開催、プログラミング教育・STEM教育についての教員の研修、外部講師の紹介や助成金応募の支援など幅広く支援をしています。
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)は、2002年に始まった文部科学省による制度で、理数系の教育を積極的に行う高校に助成金などで支援するという取り組みです。
SSHに指定されるには、特別な審査があり、ただ積極的に理数系を重視したプログラムを組むだけではなく、STEAMS教育を含む新しい教育方法を用いて独自のテーマ・カリキュラムを作成し、大学などの研究機関と連携を取りながら、成果を報告・発表することで、積極的に教育方法の研究・活用に協力していくことができる高校が指定校となります。
SSHの指定校一覧は、こちらのページからチェックすることができます。
幼児向けのSTEAMS教育の教材
STEAMS教育は、小中学校・高校や大学といった教育機関に入る前の幼児にも推奨されている教育方針です。
そのため、STEAMS教育を柱として作られた幼児向けのおもちゃのような教材は特に欧米ブランドで豊富にあるようです。
いくつかオススメの幼児向けの教材を紹介します。
WonderBox(ワンダーボックス)
ワンダーボックスは、幼児向けの通信教育で、専用のアプリと毎月届くキットであらゆる方向から子供達の知的好奇心を満たせる、楽しみながらSTEAM教育が実践できる教材です。
勉強というより遊びのような感覚の内容ですが、STEAM教育を柱として意図的に構成されているプログラムのよって、子供達が自然と意欲的に物事に取り組む力を身につけることにつながります。
プリモトイズ キュベット プレイセット
プリモトイズから販売されているキュベット プレイセットは、幼児向けの進化系知育玩具としてイギリスで生まれたプログラミングの世界を体験できるおもちゃです。
木製のロボットで遊びながら、プログラミングの基礎を学ぶことができるこの教材は、Bluetoothで接続するだけで、インターネット環境、パソコンやタブレットも必要ありません。
カンヌライオンズのプロダクトデザイン金賞などのような国際的に有名なデザイン賞を受賞しているほか、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で展示されるなど、幼児向けの教材としてだけでなくそのデザイン性も高く評価されています。
ボーネルンド「実験!動きとちからのしくみ」
ラーニングリソーシーズ社のボーネルンド 「実験!動きとちからのしくみ」は、様々な動きと力の仕組みについて体験しながら学ぶことができる教材です。
振り子を使ってどこまでブロックを飛ばせるか実験したり、ツルツルの坂とデコボコの坂、角度がある坂と角度がない坂でどちらが車が早く通れるかを比べるなど、実際に遊び感覚でやってみる中で、その仕組みを学び、問題解決力、論理的思考力を養うことができます。
ベリ・デザイン「クーゲルターン」
ドイツのベリ・デザイン社の知育玩具は、そのデザイン性の高さから、まるでアート作品のように見えます。
ベリ・デザイン社のカラフルなおもちゃは、そのフォルムも美しく、球体や直方体など様々な形の組み合わせを自由に動かすことができ、子供達の知的好奇心をくすぐります。
「クーゲルターン」は、生後6ヶ月の赤ちゃんから遊ぶことができるもので、子供達が遊んでいるうちに、物事を深く考え、解決する力の発達を助けてくれるそうです。
まとめ
日本の一般的な教育を通して、美術の歴史を学んだり、決められたテーマや技法で絵画作品を制作したりといった典型的な日本での美術の授業の経験しかない私は、『美術って特別好きで才能がある人向けのものだ』と以前は思っていました。
欧米の美術教育のプログラムやその意図を知ると、自由な発想でそれぞれの個性を伸ばしながらクリエイティブにコミュニケーション能力や考察力、多様性など総合的な能力・資質を育むことができるようになっていることがわかります。
知識やスキルを学び、習得することも教養としてもちろん役に立ったりするのですが、これからの時代を生きるためには、やはりインプットした知識を溜め込むだけでなく、いかに自発的に物事を考え、課題を探し、解決方法を見つけ、実践の中で経験を積み、必要なものやサービスを作れる能力を身につけることが重要となります。
STEAMS教育の目的や内容を知ることで、アートとの向き合い方も変わってくるかもしれません。
参考
みらいい「STEAM教育とは?その言葉と文部科学省の関わりについて」https://miraii.jp/stem-3
文部科学省「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/mext_01592.html
コエテコ「STEAMS(スティームス)教育とは?」https://coeteco.jp/articles/10633
How Kids「日本と欧米のアート教育の違い|専門家インタビュー」https://how-kids.com/music-art/art/5088/
埼玉大学STEM教育研究センター http://neo.stem-edulab.org/