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【アニメの製作委員会方式は悪なのか?】『チェンソーマン』『ぼっち・ざ・ろっく!』から見る製作委員会方式をとらない新時代のアニメ制作のカタチとは?

2019年のTVアニメ『鬼滅の刃』の社会現象にもなった大ブームをきっかけに従来のアニメファン以外にも幅広い世代から注目を浴びている日本のアニメ。
最近ではデジタル庁がマイナンバーカードの普及促進施策の一環として、TVアニメ『SPY×FAMILY』とコラボするなど活躍の幅はどんどん広がっています。

引用:https://www.kojinbango-card.go.jp/230209_2/

一方でアニメの制作現場には制作費用に対して金銭があまり還元されていない状態が続いていると言われているのをご存じでしょうか?
この記事では、日本のアニメの製作委員会方式と新しいアニメ制作のカタチについて考察していきます。

今の日本のアニメ制作が抱える問題とは?

年々制作される数が増えている日本のアニメですが、1作品作るのだけでも膨大な時間と費用が掛かっています。
対してアニメ制作に投資するコストに対しての興行的な成功確率はギャンブルのようになってしまっている状態です。
なぜ今のアニメ制作のリスクが高くなってしまっているのかについて詳しく知りたい、

そんな方には

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日本のテレビアニメの歴史

日本のテレビアニメの始まりは、1953年にテレビ放送開始から単発で数分程度のアニメーションが番組内の1コーナーやCMにも用いられるようになったところからと言われています。
それから1950年代の間は静止画と部分的なアニメーションを起用したもののみで、今のようなフルアニメーション作品ではありませんでした。

来る1961年、手塚治虫が発足させた「虫プロダクション」が日本のアニメ業界を激震させます。
日本で最初の週1回放送の30分番組としてテレビアニメ『鉄腕アトム』が1963年に放送開始され、その後の日本のアニメの礎を築いていきました。

日本のアニメ製作の歴史

日本のアニメの礎を築いた『鉄腕アトム』と「虫プロダクション」ですが、今の製作委員会方式の元となる形を作ったのも虫プロダクションだと言われています。

引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E8%85%95%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%A0_%28%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%E7%AC%AC1%E4%BD%9C%29

「製作委員会方式といえば成立は最近のことで、それまでは自社で費用を集めてアニメを制作する「自社制作」が主流だった」と思われている方も多いのではないかと思います。
しかし、意外にも虫プロダクションでは、アニメ作品の版権を保有し、スポンサーに海外輸出での収益や著作権のロイヤリティ分配を認めるという権利分割の方式で運営を進めていたのです。

厳密にいえば今の製作委員会方式とは少し違いますが、通じるところが多いと言えるのです。

アニメ製作の昔と今

虫プロダクションが日本のアニメ礎を築き、製作委員会方式の元まで作ったとお話ししましたが、実はそれから約30年の間は製作委員会方式はあまり使われませんでした。

今のアニメ業界と違い1990年ごろまでは、アニメの市場規模も数も今より大きくなく、マルチメディア化やグッズ展開なども控えめであったこともあり、アニメを制作すれば費用分以上のリターンが十分に見込めていました。

それがここ約30年ほどで国内外問わず日本のアニメは人気も市場も見違えるほどに成長し、多くの企業がアニメ業界に参入したことで、企業間での競争が起こるようになりました。

結果、今のアニメは製作/配給時により多くのコストをかける必要ができ、そのリスクを抱え込む自社制制作での制作方式は避けられるようになりました。

製作委員会方式とは?

製作委員会方式とは、アニメ・映画・テレビ番組(主にドラマやバラエティ)などの映像作品や、演劇・ミュージカルなどの舞台作品を作るための資金調達の際に、単独出資ではなく、複数の企業に出資してもらう方式のこと。
複数企業に出資してもらった場合の出資企業の集合体を「製作委員会」と呼ぶ。
建設業等における共同企業体(JV)と同様の形態(パートナーシップ)に相当する。(Wikipediaより引用)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A3%BD%E4%BD%9C%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A%E6%96%B9%E5%BC%8F

自社制作のリスクを分散・回避するために考案されたのが製作委員会方式です。
『新世紀ヱヴァンゲリオン』(テレビアニメ版)の大ヒットを皮切りに、日本の経済界でアニメ産業への投資熱・出資熱が高まり1995年頃からアニメ業界でも起用され始めたようです。

製作委員会方式のデメリット

アニメ制作会社がリスクを負うことなく、安定してアニメを制作する環境を作った製作委員会方式ですが、もちろんデメリットも存在します。

製作委員会に名を連ねている出資企業にはグッズ制作を行っている大規模な企業なども多く、資力がありグッズ等の商品化窓口を持って、複数のアニメ制作に出資してもリスクとリターンが見合うことが多いです。

一方で製作委員会方式ではアニメの制作会社が製作委員会に名を連ねていない場合、どれだけのヒット作を制作しても金銭的なリターンは1ありません。
アニメ制作を行っている会社自体にはアニメ制作以外のビジネス展開の手法を持ち合わせていない企業がほとんどだと言われています。

資力もあまりなく、よほどの自社ブランド力がない限りは自社で製作委員会に出資することも難しいため、ギリギリの水準で仕事を請けなければいけなくなってしまいます。
結果的に現場へのリターンが極めて少なくなってしまい、制作現場へのモチベーションの低下なども起き、ジリ貧の悪循環が続いてしまうのです。

『鬼滅の刃』が変えた製作委員会方式の在り方

長い間アニメ産業を支えながらも、同時にアニメ制作の現場に影を落とす要因にもなっている製作委員会方式ですが、近年ではその流れが変わり出しています。

大きなきっかけになったのは2019年の放送開始から今日に至るまで大人気のTVアニメ『鬼滅の刃』の大ヒットです。

引用:https://anime.nicovideo.jp/detail/kimetsu/index.html?from=nanime_anime-search_list


『鬼滅の刃』は製作委員会方式を採用してはいるものの、これまでの複数の企業に出資してもらうという形ではなく、企画・販売のアニプレックス、原作を出版する集英社、アニメーション制作のufotableの3社のみで制作されました。
通常の製作委員会方式では、テレビ局などを含む10社近い企業からの出資が当たり前で、アニメスタジオが出資することは少ない中、アニプレックスとufotableは共に制作を行った十数年間の作品すべてで同じの出資形式を採用しています。
理由は出資企業が多くなることによりアニメーション制作に表現の規制などの制約が出てしまうことを避けるために行ったことだと明かされていますが、結果的にリスクを負って利益求める自社制作に近い形式での成功を体現した大きな一例となったのです。

2022年秋アニメの自社制作アニメ2選

『鬼滅の刃』の成功事例もあってか、2022年秋シーズンのアニメには注目を集めた自社制作作品がなんと2つも放送されました。
この項目では『ぼっち・ざ・ろっく!』、『チェンソーマン』の2作品について制作形式の違いや反響について紹介します。

【ぼっち・ざ・ろっく!】

『ぼっち・ざ・ろっく!』とは?

引用:https://anime.nicovideo.jp/detail/bocchi-rocks/index.html?from=nanime_2022-autumn_list

友達のいない引っ込み思案な女子高校生の後藤ひとりが、バンド活動を通じて成長していく姿を描く音楽漫画。
キャッチコピーは「陰キャならロックをやれ!!!」で、ライブチケット売りのノルマやライブハウスでのオーディションなど、バンド活動特有の苦労話をコミカルに描いている作品です。

女子高生4人の面白おかしい日常を描くだけではなく、劇中バンド「結束バンド」の楽曲も物語の人物の心情が丁寧に込められた歌詞と耳に残るバンドサウンドを豪華アーティストが提供しており、去年12月に発売されたアルバムは音楽チャートを席巻しました。


また、劇中で登場キャラたちが使用している楽器関連の商品売り上げが数十倍になるなど、社会現象とも言える人気作品となっています。
原作が4コマ漫画だとは思えないほど30分のアニメとしてしっかりと映像化されていながらも、原作にあった漫画チックな表現もちゃんとパワーアップしており、原作ファンからの支持もとても大きいです。

TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』は原作を出版する芳文社を除き、企画・販売のアニプレックスの自社制作となっています。
アニメーション制作はアニプレックスの子会社のCloverWorksが担当、劇中バンド「結束バンド」も自社レーベルのため、アニプレックスの単独出資です。
Blu-ray/DVDの初動売り上げも約17,000枚と2022年秋アニメ作品(2023年2月時点でBlu-ray/DVD未発売の機動戦士ガンダム 水星の魔女を除く)でもトップの売り上げを誇っており、自社制作作品でも大成功した作品と言えるでしょう。

【チェンソーマン】

『チェンソーマン』とは?

引用:https://anime.nicovideo.jp/detail/chainsawman/index.html

舞台は、悪魔が人間に危害を加える事件が多発している世界。
悪魔のポチタから心臓をもらったデンジは、人間でも悪魔でもない存在となり、公安のデビルハンターとして働くことになる。
デンジをはじめ、それぞれの思いから悪魔と戦うデビルハンターたちの姿を描いたダークファンタジーアクション作品です。

登場キャラクターが主人公を筆頭に癖が強く、少年誌でやっても大丈夫なのかと不安なほどに強烈な戦闘シーンや物語のテンポの速さから、原作でも読者の好き嫌いがはっきり分かれる印象の強いチェンソーマン。
一方で漫画ならではの独特な擬音の使い方や、個性的なキャラの瞬瞬必生の生き様、細かく張り巡らされた伏線を綺麗に回収するストーリーの美しさ等に魅了された熱烈なファンも多いです。
満を持して発表されたPVの作画の美しさやキャストの演技、大人気アーティスト米津玄師によるOPに毎週アーティストの変わるEDと放送前の期待値は2022年秋アニメの中でも高かったといえます。

TVアニメ『チェンソーマン』は原作を出版する集英社を除き、企画・販売・アニメーション制作の全てをMAPPA(マッパ)が行った自社制作となっており、アニメスタジオによる自社制作という挑戦的な試みが注目されました。

しかし、本放送が始まると「原作のような独特な画角や勢いが感じられない」と言った原作ファンからの厳しい声が聞かれ、Blu-ray/DVDの初動売り上げも約1,700枚と先述した『ぼっち・ざ・ろっく!』の1/10ほどにとどまる結果となりました。

まとめ

今回は、日本のアニメ制作の簡単な歴史から、アニメ制作のこれからの在り方についてご紹介しました。

一見、製作委員会方式が悪いような書き方をしましたが、アニメ制作会社がリスクを負うことなく、安定してアニメを制作する環境を作っているのも製作委員会であるため、一長一短であるのではないでしょうか?
ですが、いいアニメを作っている会社にはそれに見合ったリターンを受け取ってもらいたいのも事実です。
今回紹介した『ぼっち・ざ・ろっく!』や『チェンソーマン』のような試みをアニメ業界全体ができるくらいのより良い環境になるよう私たちなりに応援していきたいですね。

(C)はまじあき/芳文社・アニプレックス
(C)藤本タツキ/集英社・MAPPA
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
(C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会
(C)TEZUKA PRODUCTIONS

参考:https://paradigm-shift.co.jp/column/139/detail
   https://kai-you.net/article/85143
   https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2
   https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AC%BC%E6%BB%85%E3%81%AE%E5%88%83_(%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1)
   https://mangapedia.com/%E3%81%BC%E3%81%A3%E3%81%A1%E3%83%BB%E3%81%96%E3%83%BB%E3%82%8D%E3%81%A3%E3%81%8F%EF%BC%81-3iy4p4ji1
   https://mangapedia.com/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3-aq281h1l8

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羽稲まを
専門学校時代、ゲームデザイナーを志すも周りに絵を描ける人材がいなかったため独学でイラストを勉強、絵も描けるゲームデザイナーとして重宝された。 道半ばで「自分、デザイン関連の方が向いてるのでは?」と、ウェブデザイナーを志しまたも独学で「ウェブデザイン技能士」を会得するも、大事故に遭い九死に一生を得る。 現在はフリーゲームデザイナーとしても活動中!