2022年5月29日にフランス・パリのルーヴル美術館で起こった、レオナルド・ダ・ヴィンチ による名画「モナ・リザ」にケーキが投げつけられた事件は、世界的なニュースとなりました。
インターネットで動画がすぐに拡散される中、この一連のニュースをユーモアを交えてNFT「Mona Lisa Cake(モナ・リザ・ケーキ)」にした人もいたそうです。
今や、誰もがNFTを作成し、販売することができるようになりましたが、例えば「モナ・リザ」のような名画を素材として使って、二次創作としてのNFTアートを作成し、それを販売することは果たして著作権法違反とならないのでしょうか?
今回は、NFTアートと著作権について紹介します。
NFTとは
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とは、ブロックチェーンの技術を用いて、デジタルデータを「偽造できない証明書付き」にしたものです。
インターネット上に溢れるデジタルデータを見てもわかるように、本来簡単にコピーペーストされてしまうため資産価値を証明するのが難しかったデジタルデータをNFT化することで、その関連情報や歴史をブロックチェーン上に記録することができ、デジタルデータに唯一無二の資産価値を付けることができるようになったのです。
NFTの『トークン』は、NFTが『ミンティング』(ブロックチェーン上での最初の作成と記録)されてから現在の所有権までの取引履歴が公開されているので、その『トークンID』によって資産を追跡することができ、これが『証明書』のような役割となるのです。
対して、ビットコインやイーサリアムのような暗号資産は、Fungible Token(代替可能なトークン)だということを考えるとよりしっくりくるでしょう。
暗号資産のようなFungible Tokenは、通貨としての価値を持っており、そのレートによってその価値が変わります。円やドルなどの通貨でビットコインなどの暗号資産を買うこともできるし、レートが上がったら売ることもできるため、これらが『fungible』つまり交換可能なものであることがわかります。
著作権とは
著作権とは、知的財産権の一種で、作品を創作した者が有する権利のことです。作者は、著作権を有する著作物(思想や感情などを表現した美術、音楽、文芸、学術など)をどのように使うかを決定することができる権利を持っています。
著作権制度は、著作者が時間や労力をかけて創作した著作物に対しての、著作者の利益を守ります。他人によって著作者の許可なくその内容が編集・変更されたり、商用利用されたりすると、著作権法違反として、訴えることができるのです。
著作権法において、著作権は大きく「著作者人格権」「著作財産権」の二つに分かれています。
「著作者人格権」とは、著作物を通じて表現された著作者の人格を守るための権利で、人に譲ることができません。
一方で、「著作財産権」は著作者が著作物の利用を許可した際にその使用料を受け取ることができる権利で、他の人に譲り渡すこともできます。
著作権法は、著作権の内容や著作物の利用方法によって、細かくそれぞれの決まりが定められています。著作権法に定められている方法に沿って著作物を利用する場合にも、利用する前に著作権者の許可をもらうことが必要です。
NFTアートの著作権
ブロックチェーン上に存在するデジタル資産であるNFTアートの著作権については、まだ複雑と捉えられることも多く、多くの混乱やトラブル、そして訴訟が起こっているようです。
そもそも、『NFTアートを保有する』ということは、『そのアート作品の著作権を所有している』ということと、イコールにはなりません。
もしあなたがNFTアートを購入したとして、所有することになるのは、『交換不可能』なトークンへのアクセルであり、それを二次販売(オークションに出品して販売)しようが、メタバースでの自分の家に飾ろうが、所有者であるあなたは自由に扱う権限があります。
デジタルアートが実際の絵画作品と違うところは、インターネット上で誰にでも簡単にダウンロードまたはコピーできてしまうリスクがあるということです。だからこそ、NFTを用いてその希少性を明示し、その歴史を記録する、証明書がコピーされるのを防ぐという概念、システムが生まれたのでしょう。
しかし、あなたは正式にNFTアートのトークンの所有者であるものの、その著作権、知的財産権はその作品を創作した本人であるクリエイターたちにあります。『NFT』自体はそのアート作品の基盤となるメディアそのものではないのです。
一方で有名人などが購入したことから話題となったNFTプロジェクトであるBored Ape Yacht Clubの利用規約では、各Bored Apeの著作権を利用する商業ライセンスを該当するNFTの所有者に付与することで、所有と占有を結びつけています。このように、NFTの購入の際には、一般的なルールを知った上で、利用規約を確認することが大切です。
したがって、あなたが購入したNFTアートのコピーが出回ったとして、その作品が希少性を失い、価値が無くなってしまうということが仮に起こったとしても、NFTの購入者であるあなたには著作権がないため、それを自身の手で差し止めることはできません。多くの場合は、NFTアートを製作したクリエイターに著作権があるため、その著作権を持っている人に、著作権を行使した対処をしてもらうしかないのです。
また、NFTアートをオークションで単に販売するのでなく、何か付加価値を足して販売しようとすると、金融関連の各種法令に触れてしまう可能性についても生じてくるため、注意が必要です。
では、NFTアートの所有者は一般的に何ができて、何ができないのでしょうか?
NFTアートの所有者が持っている権利
- NFTアート作品を所有していることを公開、公言すること
- メタバースなどでの仮想空間の自分の部屋にNFTアート作品を飾ること
- SNSのアイコンとして使用すること
- NFTプロジェクトのエクスクルーシブなコミュニティに入ったり、ウェブサイトにアクセスしてメンバーとなること
一般的に、これらがNFTアートの所有者ができることです。
NFTアートの所有者が持っていない権利
- 購入したNFTアートを商用利用すること
- 作者に許可を取ることなく作品に変更を加えること(無断での二次創作)
これらのように、NFTアートの所有者に『著作権』は帰属していないため、作品を商用利用したり、編集したりすることはできません。
NFTアートを販売または購入する場合には、NFTとその著作権について、しっかりと把握しておく必要があるでしょう。
多くの場合、作品の創作者が著作権を有するため、NFTの購入者は、万が一コピーが出回りそのNFTの価値が下がってしまうことのリスクを考え、防ぐための措置を取ってもらえるように事前に著作者と契約を結んでおくようにすると安心かもしれません。
一方で、NFTアートであるからこそ、所有者や資産価値などの『正式な記録』がブロックチェーンに残され証明されているため、万が一著作権侵害が起こった時にその立証がしやすく、結果的に著作権侵害による損害賠償請求がしやすくなるのではないかとも言われています。
これまで複製防止が難しかったデジタルアートの創作者にとっても、しっかりとその著作権を行使していることを証明できる方法としてNFTが存在するため、結果的に損することなく対価を受け取ることができるでしょう。
NFTについては、曖昧な理解のままで興味を持っている人もまだまだたくさんいるかもしれません。しかし、NFT自体の在り方や、各関係者の立ち位置、関連する著作権法などの法に基づいたルールなどを網羅的に把握しておかないと、予期せぬ損失を生み出したり、訴訟トラブルになってしまう可能性もあるといえます。
まとめ
NFTアートを売買するときには、その著作権を誰が持っているのかや、どのようなことがNFT所有者に許可されているのかを必ず確認しましょう。
NFTの持つ唯一無二の資産価値を保つためにも、創作者の持つ著作権が侵害されないようにするためにも、NFTについて、著作権についてのそれぞれを正しく理解しておくことが大切です。
参考
IT法務.com「NFTアートやNFTコンテンツに関する取引における著作権等利用規約の重要性」https://www.it-houmu.com/archives/1990
REUTERS「What are the copyright implications of NFTs?」https://www.reuters.com/legal/transactional/what-are-copyright-implications-nfts-2021-10-29/
Innovations-i「NFTアートと著作権」