2019年に「表現の不自由展」にて日本中を騒然とさせた「あいちトリエンナーレ」から早3年という月日が経ちました。
今回は「あいちトリエンナーレ」から名前を一新し「国際芸術祭あいち2022」として新しいスタートを切り、心新たに生まれ変わった「国際芸術祭あいち2022」の常滑会場にいってきました。
国際芸術祭あいち2022のテーマは?
2022年7月30日に開幕した「国際芸術祭あいち2022」ですが、実は「STILL ALIVEー今、を生き抜くアートのちから」というテーマがつけられています。
このテーマ「STILL ALIVE」は、愛知県の出身で世界的に有名なアティストである河原温が、1970年から30年間に渡って約900通もの電報に「I AM STILL ALIVE」と書き綴り、自分が生きていることを世界中の知人へ送った作品からきているそうです。
世界中で地震や感染病、戦争など起こっている中で一つの命が今あることが尊くて美しいものということを再度認識し、アートには何ができるかといったことを追及したテーマとなっています。
いざ、常滑会場へ
今回の「国際芸術祭あいち2022」の会場は全部で「愛知芸術文化センター」「一宮エリア」「有松エリア」そして「常滑エリア」の4つです。
「常滑エリア」は平安時代末期から続く「やきものの町」として有名で日本六古窯として認知されている方もいるかもしれません。
様々な職人たちが常滑という地でやきものの文化を根付かせてきた面影を町のところどころで見かけることができます。
この「常滑エリア」では6つの展示会場があり12組のアーティストが展示をしています。
旧丸利陶管
もともと1970年頃まで土管を生産していた工場と住居があった場所でした。
常滑特有の黒く塗られた木造の建物に赴きのある雰囲気がとても落ち着きます。
デルシー・モレロス
中に入ってみるとシナモンの匂いが漂っており、床には夥しい量の楕円形の物体が展示されてしました。
この楕円形の物体は土やハチミツ、シナモンなどの天然由来の材料で、祖先の宇宙観、死生観を表したようです。
ティエリー・ウッス
アフリカ最大の綿花生産国であるベナンの綿花生産をテーマにしたプロジェクト「イクイリブリアム・ウィンド(均衡の風)」を発表しました。
綿花プランテーションに手作業で従事する労働者たちの映像なども展示されていました。
ふと外を眺めると、なんと綿花の苗が植えられており細やかな演出も見ることができました。
グレンダ・レオン
次はこちらの作品です。
壁に立てかけられている作品は触れて音を奏でることができました。
更に奥に行くと下のような作品が展示されていました。
みなさん。この形なにかわかりますか?
答えは、風の音や馬車の音、鳥のさえずり、火山群、コオロギの鳴き声などを波形表し物体化させたものみたいです。
個人的には音をこうやって可視化しアートにしてしまう発想は面白いなと思いました。
服部文祥+石川竜一
服部文祥+石川竜一は、2015年から登山を中心に協働してきました。
本芸術祭では再びタッグを組み、2021年10月9日から11月7日までの約一か月間、徒歩による北海道南西部での旅をもとにした新作を展示していました。
この度では金銭などを一切持たない代わりに猟銃や米と調味料だけを持ち、サバイバル旅を行ったようです。
中に展示されているものは旅の中で獲った鹿の骨標本や皮、地図や日記、焚火の音とともに聞こえる2人の会話を録音したものなどがありました。
実際旅で使われたであろう地図が壁一面に貼られていました。
よくみると地図に歩いた道のりの記載とそこで起こったできごとも書かれていました。
「セイコーマート10円事件」一体何があったのでしょうか。(笑)
シアスター・ゲイツ
旧丸利陶管工場棟の隣にある経営者の住宅跡は、約5年前から誰にも使われていない場所となっていました。
その場所をシアスター・ゲイツが目を付け、音楽、ウェルネス、陶芸研究のための場所「ザ・リスニング・ハウス」に生まれ変わらせました。
中に入ると広い土間を利用したDJブースがありました。
中に進んでいくとネオンが光るお部屋や瞑想ルームなどもありました。心地よい音楽とどこか落ち着く空間が広がっており何時間でも居られそうな空間でした。
廻船問屋 瀧田家
廻船問屋 瀧田家は江戸から明治にかけて廻船業を営んでいた瀧田家の住跡です。市指定文化財に指定された貴重な建物です。この瀧田家跡の中にもたくさんの魅力的なアートが並んでいました。
トゥアン・アンドリュー・グエン
まず1つめはトゥアン・アンドリュー・グエンの《先祖らしさの亡霊》(2019)という題名の映像作品でした。中は撮影することはできませんでしたが、前後左右に大きなスクリーンがあり4つの映像が同時に放映されていました。
フランスによるベトナムの植民地化の歴史に取材した作品でした。
ニーカウ・ヘンディン
上記の作品は梶の木の樹皮を打ち延ばして作られたバーククロス(樹皮布)と呼ばれるものです。オセアニアではこのバーククロスの文化が広く浸透しているようです。様々な素敵な柄がありましたが天体や星の様子などをあらわしているものが多くありました。
常々(つねづね)
常々は製陶所跡地を利用してギャラリーやカフェを運営している場所です。概ね1970年から1980年初頭にこの建物では盆栽鉢や陶製人形「ノベルティ」の生産が盛んにおこなわれていたそうです。
田村雄一郎
天井が低い場所にあるこの常々(つねづね)の空間に田村友一郎(以下、田村)目を付け、この空間を舞台の奈落に見立てつつ、上階では「プラザ合意」をに関しての人形浄瑠璃の公演が行われるという設定で空間を利用しました。
薄暗い空間に黒衣に身を纏いながら3つの人物が会話を進めている場面がなんとも不気味でした。
旧青木製陶所
ここの旧青木製陶所は以前土管を生産していた場所のようです。1958年から稼働していた窯がそのままの状態で今なお残る場所です。
何年も使用されていないこの製陶所では、煙突に木が生えしまっています。その木もシンボルとして近隣の人々には愛されているようです。
黒田大スケ
黒田大スケ(以下、黒田)はこの世界の中で時間とともに佇み、忘れられ、無視された幽霊のような存在を見出し作品を作り続けています。
もともと彫刻師として活躍していた黒田は、常滑に約半年滞在し、今回の作品を完成させています。
上の写真は彫刻家(内藤陽三、寺内信一、菊池鋳太郎)明治ころ日本に移入された「彫刻」という美学についてオンラインミーティングで語っている映像が流れていました。
黒田の遊び心溢れる展示とは裏腹にオンラインミーティングで話されている内容の深さが印象的でした。
フロンレシア・サディー
フロレンシア・サディール(以下、フロンレシア)の「泥の雨」という黒い球体が連なって吊り下げられている作品が展示されていました。
この「泥の雨」という作品は常滑市の陶芸家である水上勝夫らと共同でつくられたものです。
常滑の土を用いて地元の若い陶芸家たちがつくり上げた1万2千個以上の球体を、サディールが水上らとともに野焼きをして仕上げていったようです。
一つ一つの球体が手作りで作られているため、作り手の個性が出ていて面白い作品でした。
旧急須店舗・鮮魚店
旧急須店舗も鮮魚店も昔ながらの面影が残されており、また工場とはまた違った雰囲気でかつて人の出入りが多く賑わいを見せていた場所です。
外にはイチジクや家庭菜園されているような空間も広がっています。
尾花健一
あまり、尾花健一(以下、尾花)の作品には大きなストーリー性はないものところどころほっこりさせられるような描写など多く描かれていました。
そして、全体的に擬音語の表現も多く誰でも楽しめる作品だなと思いました。
この展示では、この地に生まれ、暮らす「イチジク男」を主人公として人と人との営みや常滑の歴史を語っていました。
INAXライブミュージアム
INAXライブミュージアムは2006年に作られ、全部で6つの建物があります。
窯の歴史を知れる「窯のある広場・資料館」や世界のタイルの歴史が見られる「世界のタイル博物館」などがあり子供から大人まで楽しめる場所となっています。
今回の展示は「窯のある広場・資料館」で展示が行われていました。
鯉江良二
下の作品は「土に還る」という作品で、鯉江良二(以下、鯉江)本人の顔をかたどって作られた作品です。同じような作品があと3つほど連なって展示されており、時系列にどんどん顔の形が崩れていく様子を表していました。
その他、写真撮影は禁止となっていましたが、「チェルノブイリ」といった作品などがシリーズで展示されており、社会への強いメッセージが伝わってくるような作品でした。
まとめ
今回は国際芸術祭あいち2022へ行ってきました。
作品ひとつひとつどれも個性的でユニークなものから、感情に訴えかけてくるような作品まで様々ありとても有意義な時間でした。
まだ、国際芸術祭あいち2022に訪れてない方もぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。