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【前編】ワイチェア/セブンチェアなど家具の価値はどう決まる?北名古屋にある家具屋「ワイズカーサ」オーナーにインタビュー

家具の価値

突然ですが、皆さん「家具の価値」に付いて考えたことがありますか?今回当サイトでは「日本の有名なアーティスト、隈研吾などの建築家がデザインした家具について。LC2などのMoMAに永久収蔵されている家具についても紹介!」や「一生物の椅子を買うなら知っておきたい近代家具デザイナー5選」の記事からアートと家具の密接な関係をお届けしてきました。

今回は実際に愛知県北名古屋市インテリアショップの「ヤマトヤ・ワイズカーサ北名古屋本店」「シルク バイ ワイズカーサ名古屋グローバルゲート店」のオーナーの山田栄作さんをゲストに呼んで、家具の価値や上手にインテリアするコツ、そして愛される家具とはどんなものかを聞いてきました。インタビュー記事を前半・後半にわたってお送りしますのでお楽しみください!

インタビュー

店舗紹介と日本のインテリア

聞き手:今回はインタビューよろしくお願いします。はじめに貴社の歴史を教えてください。

山田社長:当社は私の祖父が立ち上げて2022年で88年を迎えます。元々は名鉄犬山線西春駅の商店街で桐箪笥(きりだんす)を製造・販売していました。父が会社を継いだのですが、父は不器用だったので家具の製造をやめて販売店のみで、北名古屋に店舗を構えて50年が経ちます。当時は日本の経済が発展している時代で、いわゆる郊外型の大型家具量販店というスタイルでした。約1000坪ほどの大きさの家具屋で、日本で1番大きい家具屋だったこともあると父が話していましたね。私の代になって大型家具量販店のスタイルから高級志向のセレクトされた家具を置くようになりました。大型量販店で売っている家具は安いものが多いので家具の寿命がすぐに来てしまいます。もっと価値のある家具をお客様が買えば、メンテナンスしながら家具と長い時間付き合っていけると思っています。今のスタイルにして20年ほど経ちます。当時、日本のバブル景気は終わっていたのですが、住環境に関してはまだまだ伸びてく気がしていました。

店内の様子

聞き手:バブル終了後に、人はお金を使わなくなった印象がありますが、インテリア業界は伸びていったのでしょうか?

山田社長:日本の暮らしを良くしていくのはインテリアの仕事だと思っています。人間の生活で衣食住は欠かせないものですよね。日本はバブルで海外の企業が参入し、どんな服でも買えるようになりました。そして食べるものはどの国に行っても負けません。ただ、インテリア偏差値に関してはまだまだ乏しいと感じています。元々の日本人の暮らしは戦前まではきちっとしたスタイルがありましたが、戦争に負けて海外の文化が入ってきた時にうまく取り込めませんでした。戦前まではちゃぶ台とたんすぐらいしか家の中に家具がありませんでしたから、突然テーブルやベッドを置くのに抵抗があったのかもしれないですね。

プロから教わるインテリアのコツ

聞き手:確かに、日本の家は和式と洋式が組み合わさっている家もあって、まとまりがない家が多いかもしれません。どうしたらインテリア偏差値を上げて、理想の空間を作ることができるのでしょうか?

山田社長:私が提案したいのは「インテリア始まりのお家作り」です。日本は大工さん主体で最初に外観や家の構造から家づくりを進めます。外側から決めてしまうと最後にインテリアを決めることになってしまうので、空間の雰囲気を決めることが最後になってしまいます。欧米は反対で、地震もないし石でできている家が多いので、リノベーションがとても盛んです。リノベーションということは内装の変更で空間を作っていく作業になるので、どのような空間で暮らしたいか最初に考えるそうです。

家を建てる方には「まずは1脚の椅子を決めてください」とお伝えします。椅子が決まればテーブルが決まり、テーブルが決まればソファが決まり、どんどんお気に入りの椅子に合う空間が出来てきます。一生住みたいお家に一生相棒となるような椅子を探していただくと理想の空間を作れるのではないでしょうか。

今回のインタビューで使わせていただいた椅子。背もたれのカーブが心地よかったです!

聞き手:椅子1脚から決めていくという発想は今までなかったです!家づくりのプロセスが日本と欧米では全く逆なのですね!

山田社長:そうですね。椅子を決める際はネットで勉強しても良いですし、家具屋を巡って運命のものに出会っても良いですし、家具屋スタッフのおすすめ商品を買っても良いですし、どんなプロセスでも良いと思っています。

家を建てる時の予算は、インテリアで使う金額をはじめに計算しておくと良いですよ。自分の家を建てるってなったら夢がいっぱいになって予算を家の本体で使い切ってしまいます。しかし私たちは建築コストの1割をインテリアに当ててくださいと伝えています。例えば3000万円の予算であれば300万円でインテリアを買い、2700万円の家を建てるようにします。家に100%の予算を使ってしまう方がいますが、そうすると家具を買うときにお金がなくなってしまいます。

編集長:椅子選びは奥が深いですね。

愛される家具とはどんなもの?

聞き手:貴社に置いてある椅子はどれが一番売れていますか?

山田社長:セブンチェア、Yチェア、アルテックのスツールですね。この辺りの椅子はデザインも素晴らしいですし、価値が下がらないので資産にもなります。どの時代においてもタイムレスな価値をちゃんと持っているから、皆んなが欲しいと思う椅子ですね。新品が欲しい人もいれば、ヴィンテージが欲しい人もいます。ヴィンテージにしか出せない味もありますし、新品とは違う付加価値が付随してきてますよね。セブンチェアは作られて70数年の時間が経っていますが、未来を感じるデザインで、今まで800万脚売れてきたので、800万人に愛された家具だということですよね。デンマークの国自体は650万人なので人口よりも多くの椅子が作られています。

セブンチェアを紹介してくださる山田社長
セブンチェアは色や種類が豊富に揃えられていました!

聞き手:800万脚も製造されているのですね!愛される家具とは具体的にはどういったことでしょうか?

山田社長:家具は道具であると同時に嗜好品です。私の場合は車と家具と女性です。愛されるものには美しさがあると思います。アートもそうですが、愛されるポイントは曖昧さや繊細さ、そして手間暇かけた精密さがあります。私の場合はさらに理屈が加わるとさらに愛着が湧きます。ベストな素材とコンセプトと設計がバチッと噛み合うと、奇跡の瞬間が生まれて多くの人から愛される品物が誕生します。

聞き手:今まで多くの人に愛されてきたセブンチェア、Yチェアは廃れたことがないのでしょうか?

山田社長:70年代後半から90年代中盤までのイタリアンデザインに人気だった時期に、少し売れ行きに陰りが出ました。その頃はキラキラして尖っているデザインが流行っていたので、落ち着いたデザインは好まれにくかったのでしょう。

しかし、1990年代後半から2000年に入ってからクラフトやモダンなデザインが人気になり、再度セブンチェア、Yチェアが見直されました。きっと世界がデジタルになったからこそ落ち着いたデザインや木の材料が使われた家具が普及したと思います。デジタルが行き過ぎたところの裏返しかもしれないですね。

聞き手最近はデジタルが進みすぎたからこそ、田舎に移住する方も増えていますよね。後半では家具の資産価値や投資について伺いたいと思います!

店舗にはカーテンの販売所もありました。プロがトータルでインテリアしてくれるのは嬉しいですね!

ABOUT ME
しおり岡
編集長/ライター。小学生の頃はエジプト文化、中学生では西洋美術、高校生は日本の歴史にハマり、大学在学中に仏像に恋をして、学芸員を取得。卒業後、大手人材会社で営業を経験。その後、飲食店の広報・デザイナーを経て、アメリカ・NYにて転職。コロナウイルスのため帰国し、現在は日本に滞在中。趣味は「美術館や遺跡を経験するための海外旅行」。今まで40カ国以上を旅行をし、世界の建築や文化、食事、アートに触れる。