コラム記事

近代家具デザイナー5選:フィン・ユールやウェグナー。一生物の椅子を買うなら知っておきたい

Finn Juhl

部屋の雰囲気を一新したい時、インテリアデザインは重要な役割を果たします。

好きなスタイルに合わせて、クラシック、モダン、ポップなど様々な家具などのインテリア用品をうまく取り入れることでおしゃれな部屋にすることができます。

モダンでシンプル、ミニマルなスタイルが好きな人なら、北欧デザインの家具などに興味のある方も多いのではないでしょうか?

今回は、フィン・ユールやハンス・J・ウェグナーなど、近代を代表する家具デザイナーたちと、それぞれを象徴する椅子を紹介します。

フィン・ユール

フィン・ユール
引用:stiligahem「Danska klassiker: Finn Juhl」https://stiligahem.se/2020/june/danska-klassiker-finn-juhl.html

フィン・ユールFinn Juhl:1912年1月30日〜1989年5月17日)は、デンマークの建築家、家具デザイナーです。

デンマークの近代家具デザインにおける代表的な人物として、ハンス・J・ウェグナーやアルネ・ヤコブセンと同様に世界的に知られています。

1912年にデンマークのコペンハーゲンに生まれ、1934年にデンマーク王立芸術アカデミーを卒業し、1935年より建築家ヴィヘルム・ラオリッツェンの事務所で勤務し始めたフィン・ユールは、1945年より独立しました。

もともと建築家であったフィン・ユールは、個性的で滑らかな彫刻的なデザイン、考え抜かれた形態とディテールの美しさから『家具の彫刻家』とも呼ばれており、その作品の多くは、世界各地のデンマーク大使館やミュージアムの収蔵品となっています。

フィン・ユールが多く使用したチーク材は、加工の難易度が非常に高いことから、その加工方法を改善した上でチーク材をデンマークの家具の主要な材料として確立させたのも、フィン・ユールの功績だと言われているそうです。

複雑なデザインを持つフィン・ユールの作品の製造は難しく、熟練の卓越した技術を持った職人のいる工房のみで製造することができたこともあり、そのデザイン性とクオリティ、希少さなどから、当初はアメリカ人によって評価され注目を浴びるようになったと言います。

もちろん椅子だけがフィン・ユールの有名な作品という訳ではなく、建築家として国連の信託統治理事会の会議場を手がけたことなどでも知られています。

展覧会「フィン・ユールとデンマークの椅子」

東京都美術館で開催される展覧会「フィン・ユールとデンマークの椅子」
引用:PR TIMES「【東京都美術館 企画展】北欧デザインの巨匠、フィン・ユールの魅力を紹介」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000351.000038211.html

東京都美術館にて、2022年7月23日(土)から10月9日(日)に開催される展覧会「フィン・ユールとデンマークの椅子」 では、北欧デザインの巨匠フィン・ユールの魅力を見て、座って感じることができる展覧会です。

デンマークは、デザイン大国として知られており、1940年代から60年代にかけて多くの歴史に残るデザイナー家具が生まれました。

デンマークのデザイナーの中でも特に有名なのがフィン・ユールです。美しい曲線的な椅子は、『彫刻のような椅子』と呼ばれるほどそのデザイン性が優れていることで知られています。

本展覧会では、デンマークにおける家具デザインの歴史やそれぞれのスタイルの誕生背景、そしてフィン・ユールのデザインの魅力に迫ります。

また、椅子研究者の織田憲嗣氏が研究資料として長年収集してきた20世紀の家具、日用品である織田コレクションは、北海道東川町が所蔵していますが、今回初めて東京でまとめて紹介される予定です。

フィン・ユールの代表作品

ペリカンチェア

1940年に発表した「ペリカンチェア」は、フィン・ユールの代表作の1つです。

羽を広げたペリカンに姿が似ていることから、「ペリカンチェア」という呼び名が付いたアームチェアです。

2001年にフィン・ユールの夫人ハンネ・ウィルヘルム・ハンセンにより、フィン・ユール家具の製造と復刻生産に関する専有権を得たブランド「House of Finn Juhl」では、ペリカンチェアは1,048,300円(税込)〜で販売されています。

イージーチェア No.45

フィン・ユールが初期にデザインした、”No.45”「イージーチェア」は、『世界で最も美しい肘をもつ椅子』といわれる名作です。

アームのラインが彫刻のように繊細で、アート作品のように美しいフォルムが印象的です。

どこから見ても美しい曲線が魅力的な「イージーチェア」は、世界各地の美術館にもコレクションされています。

「House of Finn Juhl」では、イージーチェア No.45は1,085,700円(税込)で販売されています。

チーフテンチェア

1949年にデザインされた「チーフテンチェア」は、現在ではデンマーク家具デザインの中でも最も象徴的な存在とも言われており、デンマークのフレデリック国王が注目したことから一気に有名になった作品です。

フィン・ユールが自身の邸宅の暖炉の前でくつろぐためのラウンジチェアとしてデザインしたもので、大きく存在感がある美しいフォルムが印象的です。

チーフテンとは、英語で『酋長:未開の部族の長』という意味を持っています。1940年代後半に国会の会議室を設計した仕事を通じて、アメリカの有力者たちと会う機会があったフィン・ユールは、アメリカ的なものを意識して「チーフテンチェア」と名付けたと言われています。

また、古代エジプトの玉座に使われていた椅子に特徴が似ていることから、「エジプトチェア」とも呼ばれているそうです。

「House of Finn Juhl」では、1,780,900円(税込)で販売されています。

ジャパンチェア

水平に伸びる背もたれと脚のラインなどが厳島神社の大鳥居に着想を得てデザインされたと言われる「ジャパンチェア」は、どの角度から見てもエレガントなフレームが特徴的です。

他の家具のデザインとまた違った印象を受ける「ジャパンチェア」は、日本の伝統的な建築技術にインスパイアされており、シンプルながらも気品のあるデザインになっています。

「House of Finn Juhl」では、ジャパンシリーズのソファは、874,500円(税込)で販売されています。

ハンス・J・ウェグナー

20世紀を代表する世界的な家具デザイナーの一人とされるデンマークのデザイナー、ハンス J. ウェグナーHans J Wegner:1914年4月2日〜2007年1月26日)は、生涯で500脚以上の椅子をデザインした椅子の巨匠として国際的に高く評価されています。

1914年にデンマーク南部、ドイツとの国境の町であるトゥナーにて、靴職人を父の元に生まれ、13歳から家具職人を志して、家具職人 H.F スタルベアーグの元で家具を学んだウェグナーは、17歳の時に家具職人の資格を取得し、その後コペンハーゲンに移って数年間工芸スクールに在籍した後に、デザイナーとしての活動を開始しました。

1943年に自身のデザイン事務所を開設し、1949年には初めて家具職人のカール・ハンセンによってデンマークのオーデンセに設立された家具メーカーであるカール・ハンセン&サンに、椅子をデザインしています。

ウェグナーは、シンプルな美と機能性を追求し、家具の本質を大切にしてシンプルに無駄を削ぎ下ろしていく、ミニマルなデニッシュモダンと呼ばれるデンマーク独特のスタイルを牽引しました。

数々のデザイン賞を受賞し、王立美術大学からも名誉学士号が贈られるなど、世界的に高く評価されており、その作品はアメリカ・ニューヨークのニューヨーク近代美術館(MoMA)やドイツ・ミュンヘンのディ・ノイエ・ザムルングなど著名な美術館に収蔵されています。

ハンス・J・ウェグナーの代表作品

「CH24:Yチェア」

ウェグナーがデザインした椅子の中で最も有名なものの1つが、日本では「Yチェア」と呼ばれる「CH24」でしょう。これまでに世界で70万脚以上も販売されているというベストセラーです。

Yチェアは、量産向きなデザインとして家具メーカー、カール・ハンセン&サン社のために考案されたもので、ウェグナーの初期を代表する作品です。

フォルムの美しさだけでなく、丈夫で座りやすい構造となっており、ウェグナーのデザインした椅子の中ではかなりリーズナブルなようです。

「JH-550:ピーコックチェア」

JH-550、ピーコックチェア ハンス J. ウェグナー
引用:https://donshoemaker.com/building-up-an-icon-mass-produced-part-14/johanneshansenpeacockchair/

扇状に広がる背もたれが羽を広げたクジャクを連想させるようなデザインが印象的な「JH-550:ピーコックチェア」。その名付け親は、フィン・ユールだそうです。

イギリスの伝統的なウィンザーチェアから着想を得たデザインには、クラシカルな美しさだけでなく人間工学に基づいたデザインを取り入れており、ウェグナーらしさが感じられます。

1992年以前は、ヨハネス・ハンセン社で製造されていましたが、現在はPPモブラー社が製造を受け継いで正規品として販売を行なっています。

「FH-4283:チャイニーズチェア」

「FH-4283:チャイニーズチェア」は、1943年ウェグナーが30歳の時に、中国の明朝時代の椅子からインスピレーションを得てデザインされた椅子です。

丸い背もたれが印象的で、取り外し可能な革のシートクッションとチェリー材の、古いものと新しいものを融合させたデザインは、当時とてもユニークなものとして注目されたそうです。

1944年以降、数年間にわたって製造されましたが、1963年にフリッツ・ハンセン社によって復刻され、現在でも製造されています。

この「チャイニーズチェア」を転機として、ウェグナーは数々の優れた作品を次々に発表し始めました。

アルネ・ヤコブセン

アルネ・ヤコブセン
引用:「ARNE JACOBSEN: Defining the Future from Copenhagen」https://learnantiques.com.au/arne-jacobsen-defining-the-future-from-copenhagen/

アルネ・ヤコブセンArne Emil Jacobsen:1902年2月11日〜1971年3月24日)は、デンマークの建築家、デザイナーとして代表的な人物です。

1902年にデンマークのコペンハーゲンで貿易商を営むユダヤ系デンマーク人の両親の元に長男として生まれたヤコブセンは、幼い頃は画家を目指していたようです。1924年にデンマーク王立芸術アカデミーに入学し、1925年のパリ万博・デンマーク・パヴィリオンの椅子の設計に参加するなど、デザインに関わるようになります。

1927年にアカデミーを卒業した後、パウル・ホルセーの事務所に就職し、建築家としてその後も様々なコンペに参加して、モダニズムの形式をとった未来の家などを発表しました。

1950年代初め以降、椅子などをはじめとする家具デザインに着手し始めました。これは後に世界的な評価を得ることになります。

1971年に着工したデンマーク国立銀行は、ヤコブセンにとって初の国家レベルでの仕事でしたが、遺作となってしまいました。

アルネ・ヤコブセンの代表作品

アント・チェア

建築家として様々な設計を手掛けて活躍していたヤコブセンが、家具のデザインも手掛け始めるようになり、1952年にデザインしたのが「アント・チェア」です。

その名の通り、蟻の姿のように見えるその椅子は、滑らかな曲線が独特で印象的です。

セブン・チェア

1955年に設計された「セブンチェア」は、これまでに600万本以上販売されている、人気のデザインチェアです。

背もたれと座椅子の一体成型のシンプルで美しいラインが印象的です。

エッグ・チェア

アルネ・ヤコブセン「エッグチェア」
引用:「アルネ・ヤコブセンの名作 エッグチェア」https://www.republicstore-keizo.com/blog/2022/04/egg-2.html

1956年に竣工したデンマーク国内初の高層ビル「SASロイヤルホテル(現・ラディソンブルーロイヤルホテル)」の設計を手掛けていたヤコブセンは、ビルだけでなく、そのインテリアデザイン、照明、建物内のドアノブや椅子、食器類までの全てを一貫してデザインしました。

その中で、ロビーに置かれた「エッグ・チェア」は、人がくつろぐ空間をイメージして1958年にデザインされました。

まさに卵のように、座る人を優しく包み込むような形状が心地よく、デザインとしても洗練されています

コンスタンチン・グルチッチ

コンスタンチン・グルチッチKonstantin Grcic:1965年〜)は、ミニマリズムの潮流とは一線を画す革新的な作品を生み出すドイツ人デザイナーです。

1965年にドイツ・ミュンヘンで生まれ、1990年にロンドン王立芸術学院を卒業し、その後イギリス人デザイナーのジャスパー・モリソンの事務所で働いた後、1991年に独立し、自身の事務所「コンスタンチン・グルチッチ・インダストリアルデザイン」をミュンヘンにて設立しました。

これまでにプロダクト、家具、照明など多岐にわたるデザインと開発を行っており、カッペリーニ、ドリアデ、フロス、イッタラ社などのデザインも手掛けています。

人間を中心とデザインという考えに機能性を落とし込み、無駄を省いたシンプルなフォルムの中に、強い想いとユーモアのあるデザインが特徴的です。

グルチッチの作品は、ニューヨークのMoMAやパリのポンピドゥー・センターなどの美術館に所蔵されています。

コンスタンチン・グルチッチの代表作品

「Chair-one」

グルチッチの代名詞ともなっている「Chair one(チェア・ワン)」は、三角形をモジュールに立体的に形成された、ユニークでシンプルなデザインの椅子です

モードな印象で、置くだけでその空間がアーティスティックに感じるような存在感があります。

三角形をモジュールに立体的に形成されたムダのない斬新なデザイン。設置するだけで空間がアートなムードに包まれます。

ブループリント賞をはじめとする数々のデザイン賞を受賞しているほか、ロンドンのヴィトリア&アルバート美術館などにも所蔵されており、世界的に評価されている作品です

ニュ-ヨ-ク近代美術館のパーマネントコレクションに加わっています。

「MAGIS-2008:MYTO CHAIR」

MAGIS-2008:MYTO CHAIRは、ポリプロピレン製のキャンティレバーチェアで、表面にパンチング加工を施し、透水性を持たせて水捌けを良くした軽量の椅子です。

座面下と背もたれ上部には持ち運びに便利な手提げが付いており、そのユニークでポップなデザイン性だけでなく便利な機能性も評価されています。

2008年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションにも正式に選定されました。

「ヴィーナス・チェア」

「ヴィーナス・チェア」は、『4本の脚を持つ』という椅子の常識を逸脱した、斬新なデザインが印象的です。

2つの木製のシェルを組み合わせて作られた椅子は、彫刻作品のように滑らかな輪郭で美しく、かなり軽量で移動も簡単になっています。

ロナン & エルワン・ブルレック

兄弟であるロナン & エルワン・ブルレックRonan & Erwan Bouroullec:1971年〜、1976年〜)は、現代のフランスを代表するデザイナーです。

フランスのカンペールで生まれ、兄のロナンは芸術学校を卒業した後すぐに自身のスタジオを設立し、弟のエルワンは芸術学校に通いながら兄の制作を手伝いはじめました。

1999年より、ブルレック兄弟はフランス・パリに事務所を移転し、活動の拠点とします。

カッペリーニやヴィトラ、マジス、フロスなどの世界的な家具メーカーから作品を発表するなど、小物や家具のデザインをはじめとして、公共空間や建築事業など幅広い分野で活躍してきました。

イッセイミヤケのパリの店舗デザインを手がけたことでも知られています。

ブルレック兄弟の作品は、パリのポンピドゥー・センターやニューヨーク近代美術館などにも収蔵されています。

2019年には日本のメガネメーカーのJINSとコラボレーションし、「スガタ(SUGATA)」コレクションを発表したことも記憶に新しいでしょう。

ロナン & エルワン・ブルレックの代表作品

「ベルヴィル・チェア」

『ベルヴィル』とは、ブルレック兄弟のデザインスタジオが位置するエリアの名称で、クリエイティブな人々が集まるカフェやバーで賑わっている地域として知られています。

パリの街の雰囲気や、ビストロのインテリアからインスピレーションを得て2015年にデザインされた「ベルヴィル・チェア」は、クラシックなテイストにもモダンなテイストにも幅広く合わせられるデザインです。

しなやかで美しい曲線が印象的なだけでなく、機能性も優れており、最大5脚までスタッキング出来るように作られています。

一般家庭だけでなくレストランやオフィスなど、幅広い場所で活躍しています。

「アルコーヴ」

アルコーヴ
引用:Vitra「Alcove Work / アルコーヴ ワーク」https://www.vitra.com/ja-jp/office/product/details/alcove-work

「アルコーヴ」は、『部屋の中に部屋を作る』ことをコンセプトとして展開されているシリーズです。

キルティング加工のパネルが特徴的で、その高さはローバックとハイバックの2種類から選択することができます。

一般家庭にもオフィスにもぴったりのデザインです。

まとめ

気に入ったデザインの椅子や、テイストのデザイナーは見つかりましたか?

椅子は毎日の生活の中で欠かせないものであるため、そのデザイン性や機能性はとても重要です。そして、そこには質の良いものにしっかりと投資する価値があると思います。

一生物の椅子として、デザイナーズチェアを取り入れてみてはいかがでしょうか?

参考

HOUSE OF FINN JUHL https://finnjuhl.com/

東京都美術館「フィン・ユールとデンマークの椅子」https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_finnjuhl.html

Wikipedia アルネ・ヤコブセン

MAARKET「Konstantin Grcic (コンスタンチン・グルチッチ)」https://maarket.jp/products/list?designer_id=70

vitra.「ロナン & エルワン・ブルレック」https://www.vitra.com/ja-jp/about-vitra/designer/details/ronan-erwan-bouroullec

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。