コラム記事

イギリスのアンティーク家具の様式や歴史的背景まとめ

アンティーク家具の中でも、イギリスの家具は質が高く繊細、優雅で一際存在感があり、多くの人が投資・収集しているアイテムの1つです。

英国家具と一言に言っても、イギリスの歴史・文化との重要な結びつきから、様々な様式があります。

今回は、イギリスのアンティーク家具についてその歴史的背景や特徴を、スタイル別に紹介していきます。

イギリス家具の有名な様式

チューダー様式(15世紀末~16世紀半ば)

イギリスにおいて、15世紀ごろから始まった「ゴシック様式(Gothic)」は、教会で使われた聖堂建築のデザインのことで、幾何学模様やアーチ型の形状が特徴です。

その後、15世紀末~16世紀半ばにヘンリー7世が国を治めていた時代に広まったのがチューダー様式(Tudor)です。ゴシック様式の家具にバラをかたどったヘンリー7世のチューダー家の紋章が装飾として用いられたことがきっかけとされています。

チューダー家バラの紋章から、ポインテッドアーチと呼ばれる先が尖ったアーチの形、メダリオンヘッドと呼ばれる円形の紋、浅浮き彫り(ローレリーフ:Low relief)と呼ばれる彫刻、ゴシック様式の特徴である連続したアーチ型の窓などがチューダー様式の特徴です。

エリザベス様式 (1520〜1620年)

1533年より、女王エリザベス1世が即位しましたが、エリザベス様式(Elizabethan)の家具はルネサンス期に製作されたものを指します。イタリア発祥のルネサンスはフランス、英国にも徐々に広がっていきました。

エリザベス女王の統治によって人々の生活は安定し始め、その影響もあり家具産業は更に発展し、当時の家具のスタイルはゴシック様式から徐々に古典的な影響を受けながら変化していきました。

テーブルの脚や四柱式ベッドに施されたバルボスレッグ(BULBOUS)と呼ばれる重厚な装飾がエリザベス様式の家具の大きな特徴と言えます。バルボスは球根状という意味で、球根のように膨らんだ形をしています。

ジャコビアン様式(1603〜1625年)

ジェームズ1世がエリザベス女王から王位継承した頃から、数世代に渡って使えるような大きい箱型で、オーク材やパイン材を使用した、よりも実用性を重視した家具が作られるようになります。

機械がまだない時代だったにも関わらず、家具職人たちがろくろなどの道具を使いながら、より技術力の問われる華やかな装飾の家具を積極的に作るようになったといいます。

ボビンターニング(Bobbin Turning)というボールを重ねたような見た目のデザインや、リネンフォールドと呼ばれるヒダのようなデザインの彫刻が施されたものなどがジャコビアン様式(Jacobean)の家具の特徴です。

カロリアン様式(1660〜1685年)

君主制の崩壊を経て即位したチャールズ2世は、国外追放されていた時の亡命先でフランスやオランダのバロックの影響を受け、イギリスに持ち帰ります。

この時代のスタイルはカロリアン様式(Carolean)と呼ばれ、フランスやオランダ、スペイン、またシノワズリ(フランス語で『中国趣味』のこと)の影響を受けたデザインの家具が多く製作されるようになりました。

カロリアン様式の家具は、花模様の寄木細工、ベルベットの張り地などで装飾され、彫刻や金箔が施されているのが特徴です。

フランスからウォルナット材を輸入するようになった影響から、それまで主流だったオーク材からウォルナット材の使用が増えていきます。

ウィリアム&メアリー様式(1690〜1730年)

ウィリアム&メアリー様式(William and Mary)は、メアリー2世とその夫ウィリアム3世が共同で統治していた時代の英国家具のスタイルです。

オランダ出身のウィリアム3世がオランダの優れた家具職人を召喚したことから、バロック様式の影響を大きく受けた家具が作られるようになります。

豪華絢爛でシンメトリーな装飾が特徴的なバロック様式は、フランスのヴェルサイユ宮殿がその代表的な建築物として知られています。

ウォルナット材やメープル材が使用されているものが多く、より芸術的な要素の強いデザインが印象的です。

またこの時代には、デイベッドやライティングデスクが発明されたそうです。

クイーン・アン様式(1702〜1760年)

女王アンの治世(1702~1714年)以降に流行した家具のスタイルで、曲線と最小限の装飾が特徴的なクイーン・アン様式(Queen Anne)は、「後期バロック」とも呼ばれます。

曲線的なフォルムやカブリオールレッグCabriole Leg:猫などの様々な動物の足がモチーフになっているテーブルや椅子の脚) 、クッション性のある座面、パッド入りの脚部などが特徴として見られます。

背もたれの中央にシンプルで曲線的なモチーフの板になっており、カブリオールレッグが用いられた椅子「クイーンアン・チェア」はこのクイーン・アン様式の英国家具の代表作として知られているそうです。

ジョージアン様式(1714〜1830年)

ジョージ1世、ジョージ2世、ジョージ3世の時代にデザインされた家具、ジョージアン様式(Georgian)の時代には、ウォルナット材に代わって中南米から輸入されたマホガニー材が家具作りの主材となっていきます。

また1760年に起こった産業革命も相まって、この時代は英国家具の黄金期とも言われています。

デザイナー、トーマス・チッペンデールはこの時代に頭角を現しました。チッペンデールの家具は、ロココ様式やシノワズリ、ゴシック様式など異なる様式をまとめたデザインで、直線的なフォルムに複雑なローレリーフ装飾(浅浮き彫り)が施された家具が特徴的です。

この頃から、それまで上流階級だけのものだった様式家具は、模倣して量産されるようになり、中流階級などにも普及するようになったようです。

また、ジョージアン様式の時代以降は、その時代を統治している王・女王の名前でなく、デザイン名などで様式の名前が付けられています。

ロココ時代(1730〜1770年)

18世紀前半〜半ばにフランスで流行したロココ調の家具の影響をロココ様式(Rococo)では、それまでと違った左右非対称の自由なデザインが見られるようになります。

『ロココ』は、フランス語で貝や岩を意味する「ロカイユ」に由来しており、岩や割れた貝のモチーフが特徴的な様式です。

ロココ調の家具は、西洋美術史におけるロココの時代と同様に、自然の影響を受け、アカンサスの葉、S字やC字のスクロール、飾り罫などの遊び心のあるデザインが特徴としてよく見られます。

ロココ調の家具に施された精巧な装飾は、見ていて気持ちが明るくなるような豪華な雰囲気を持っています。

イギリス家具におけるロココ様式は、フランスのものよりは大衆に向けて実用性のあるデザインとなっています。

ゴシック・リバイバル様式 (1740〜1900年)

1700年代半ば〜19世紀後半にかけての社会的、伝統的、宗教的な保守主義への回帰と併せて、その頃の芸術や建築と同様に、イギリス家具はゴシック様式の影響を再び反映するようになります。この時代の様式は、ゴシック・リバイバル様式(Gothic Revival)と呼ばれています。

テーブルや椅子、ドレッサーなどに、先の尖ったアーチやバラ窓のような形状の彫刻が施されたり、花やフィニアル、紋章、リネンフォールドなどの装飾が施されたものも多く見られるようになります。

ネオ・クラシカル様式(1750〜1830年)

古代ギリシャ・ローマの影響を色濃く受けたこの時代のイギリス家具は、ネオ・クラシカル様式(Neo-Classical)に分類されます。

ネオ・クラシカル様式は古代ギリシャ・ローマのの影響を受けているとは言っても、古代のモデルに対する解釈がそれほど厳密ではなく、よりイギリスの消費者に合わせて制作されました。

直線的なライン、ねじれたフルーティング、古典的なモチーフがよく見られ、すっきりとしたライン、エレガントなフォルム、古代の豪華さを思わせる洗練されたディテールが、全体的な美を際立たせている。

リージェンシー様式(1762〜1830年)

フランスで、フランス帝国様式として広まったリージェンシー様式(Regency)は、ジョージ4世がイギリス国王に即位した頃に生まれました。

古代ギリシャ、ローマ、エジプトの遺物からインスピレーションを受けて、考古学的な発見を厳格に解釈した「ピュア・フォーム」が見られます。

平らな面、繊細な塗装や突板を施した木材、金属象嵌、ロゼットやライオンマスク、金属製の足など、古典的なモチーフが特徴的です。

当時のイギリスで流行していた純粋なクラシック様式のデザインでありながらも、実用性が調和した例といえる。また、リージェンシー・スタイルのインテリア空間にも違和感なく溶け込むように作られています。

ヴィクトリア様式(1830〜1900年)

1837年にヴィクトリア女王が即位し、63年間在位することとなりますが、この間に産業革命が起こり、家具職人たちは女王の支持する中産階級の人々のための家具を生産するようになりました。

当時大英帝国として最も栄えた時代を迎えたイギリスで、家具には多種多様な素材が使われ、さまざまなデザインが混在したより自由なスタイルになっていきます。この時代の家具様式は、ヴィクトリア様式(Victorian)と呼ばれています。

一方で、大量生産により質の悪い家具も増えていった時代だと言えるでしょう。

椅子のデザインにも大きな変化が見られます。「ベントウッドチェア(Bentwood Chair)」は、組み立て式で大量輸送にも向いているものとして、広く流行しました。

また、バネを入れて詰め物をして留めることで座り心地を改善した椅子も1850年代に流行したそうです。

アーツ・アンド・クラフツ様式(1880〜1910年)

19世紀末から20世紀初頭にかけて、重工業化の影響で国際的に広まったのがウィリアム・モリスが主導した芸術運動アーツ・アンド・クラフツ運動(Arts & Crafts)です。

この様式は、手作りの職人技や民芸調の装飾への回帰を目指したもので、イギリス家具においては、哲学、芸術の発展から強い影響を受けています。

特にジョン・ラスキンやウィリアム・モリスがこの時代活躍し、手作業による製作やデザインというクリエイティブな行為への理解を深めることに繋がったとされています。

直線的で角ばったフォルムと、中世やイスラム、日本のデザインを思わせる簡素で様式化されたモチーフがアーツ・アンド・クラフツ様式の特徴だと言えます。

またイギリス以外でも、例えばアイルランドの家具職人たちは、手彫りによる洗練されたデザインを重視するなどアーツ&クラフト様式の影響を受けて発展したり、スコットランドでは、クリストファー・ドレッサーなどの影響を受け、ケルト復興期の要素をアーツ・アンド・クラフツに取り入れた「グラスゴー・スタイル(Glasgow style)」が生まれました。

アール・ヌーヴォー様式 (1880〜1910年)

アール・ヌーヴォー様式 (Art Nouveau)は、ヨーロッパにおいて上記で紹介したアーツ&クラフツ運動と並行して発展しました。「アール・ヌーヴォー」とは、フランス語で「新しい芸術」と言う意味を持ちます。

アーツ&クラフツ様式と同様に手仕事へのこだわりや民芸調の装飾などが見られますが、中国やペルシャなどの東洋の様式からの影響を受け、アール・ヌーヴォー様式の家具はより豪華かつエキゾチックで洗練された装飾が特徴とされています。

アール・ヌーヴォー様式の家具はさまざまなデザインが作られましたが、細長い曲線、植物のモチーフからインスピレーションを得た形、濃い色の木材、半貴石やステンドグラス、貝殻、金箔などの目を引く装飾素材などが共通点と言えるでしょう。

エドワーディアン様式(1901〜1910年)

60歳で国王になり、10年間という短い期間在位したエドワード7世の時代に広まった家具様式がエドワーディアン様式(Edwardian)です。

エドワーディアン様式の家具は、左右対称のデザインで淡い色やパステルカラー、花柄のデザイン、当時の住宅環境に適応させた小ぶりな家具などがその特徴として挙げられます。

アール・デコ様式(1920〜1940年)

1925年にパリで開催されたパリ万国装飾美術博覧会がきっかけでパリから世界に広まったアール・デコ様式(Art Deco)は、幾何学的なラインと華やかな装飾が特徴的です。

一眼でアール・デコ様式とわかるような印象的な特徴を持っているため、イギリスにおいては限定的ではあったものの、その影響を受けた時代だと言われています。

1910年代半ば以降は第一次世界大戦の影響を受け、実用性・機能性を重視してデザインに組み込んだ大量生産のアール・デコ様式の家具が発展しました。

イギリスアンティーク家具に使用されている木材

イギリスのアンティーク家具でよく使われた代表的な木材には、オーク材、ウォルナット材、マホガニー材があります。

時代・様式によって、使用された木材も変化し、デザインや機能性にも影響を与えました。

オーク材

オーク材は、古くからヨーロッパに多く生育していた木材のひとつです。

手に入りやすい素材である上に、耐久性にも優れたしっかりとした木材だったことから、遡ると古代ギリシア・ローマ時代から使われてきた歴史があります。

イギリス家具も、フランスからウォルナット材を輸入するようになった影響でウォルナット材を使い始めたカロリアン様式の頃までは、オーク材がメインとして使われてきました。

オーク材の特徴は、木目がはっきり見えることや重厚さが感じられる質感でしょう。

ウォルナット材

ウォルナット材は、1660年~1720年頃までイギリスで人気を集めた木材です。

木目が細かく、温かみを感じるような柔らかい雰囲気、使い込むうちに油分が馴染む、艶のある木肌が特徴です。

ウォールナット材は、歪みや収縮が少なく、頑丈な家具作りに向いているため、椅子などの日々使う家具によく用いられました。

1709年の冬の大寒波により、ヨーロッパ中のウォールナット材が激減してしまったことから、家具の製作には次の木材、マホガニー材が使われるようになっていきます。

マホガニー材

18世紀に入ってから、木材の輸入税が撤廃になったことがきっかけとなり、ウォルナット材に代わって中南米などから輸入されたマホガニー材が家具作りの主材となっていきます。

やや赤みのある色合いと艶のある木肌が特徴的なマホガニー材は、『赤い黄金』とも呼ばれていた高級木材です。

柔らかく加工しやすいほか、木目が締まっていて、軽い木材であるマホガニー材を用いて、当時の家具にはより繊細な装飾や彫刻ができるようになりました。このことから、イギリスアンティーク家具のデザインの幅は更に広がったとされています。

有名なデザイナーであるトーマス・チッペンデールがさまざまなデザインを生み出して活躍できたのも、マホガニー材のおかげかもしれません

まとめ

イギリスのアンティーク家具には、長い歴史があり、その時代背景や当時の国を収めた王、女王の影響を色濃く受けて、家具の様式が移り変わってきました。

現代の大量生産が当たり前の家具とは違い、職人の手で作られた、精巧で繊細なイギリスのアンティーク家具は、そこにあるだけで室内の雰囲気を格上げしてくれ、長年受け継いで愛用することができます。

イギリスの家具の様式やそれらの歴史的背景を知ることで、アンティーク家具の世界をより楽しめるようになりましょう。

参照

invaluable「15 British Furniture Styles You Should Know」https://www.invaluable.com/blog/british-furniture-guide/

アンティークログ「イギリスアンティークチェアとは?歴史の流れと椅子の様式別デザイン」https://antique-log.com/british-antique-chair-14279

Handle「こんな意味が隠れています!英国家具の歴史と様式」https://handle-marche.com/antique/choose/decoration/mu180406/

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。