日本の歴史を感じることができる古都・京都で昔からその技術が受け継がれてきた伝統工芸品のひとつに、西陣織があります。
西陣織も他の伝統工芸と同じく衰退が危惧されたりしていますが、昔ながらの用途に限らず新しい用途の商品の制作や、アートとしての西陣織、海外事業の開拓など、バラエティを広げているようです。
今回は、日本の伝統工芸の中でも西陣織に着目し、その歴史や開催中の展覧会、アートとしての可能性、海外進出事情などについて紹介します。
西陣織とは?

西陣織(にしじんおり)とは、日本を代表する伝統工芸品の1つで、京都の北西部で作られている絹織物のことを指します。
名称に含まれる『西陣』は地名を示しており、京都の北西部(上京区、北区)のエリアにあたり、西陣の織物業者(織屋)が製造する織物が西陣織と呼ばれているのです。
織物業者によってその製造の工程はそれぞれ多少異なるのですが、12種類の品種が公式に西陣織として指定されています。
「西陣」「西陣織」は登録商標されており、その伝統的な製造方法や工芸品は保護され続けています。
西陣織と聞くと、着物や帯地を想像する方が多いかもしれませんが、最近ではネクタイやショール、服地、インテリア用品やアクセサリーなど新しい分野にも西陣織が取り入れられているようです。
西陣織の歴史

西陣織は長い歴史を持っています。
その始まりは古墳時代と言われており、渡来人の秦氏の一族が現在の京都に養蚕と絹織物の技術を持ち込んだことが起源となったようです。
そういった流れを汲む織物業は、平安時代には高級な絹織物を作る官営の職業として普及し、現在の京都府上京区周辺にあたる地域には、職人たちが集まる『織部町』が作られたそうです。
室町時代になると、高品質な織物が重宝され更に人気を集めるようになりましたが、1467年に京都起こった応仁の乱により、職人たちの工房があった大舎人(おおとねり)町は壊滅してしまいます。
その後避難して助かった職人たちが、応仁の乱で西軍の陣地であった地域(現在の上京区大宮)に戻って織物業を再開しました。
当時この辺りが『西陣』と呼ばれるようになり、それをきっかけとして西陣織の名称がつけられたといいます。
江戸時代には、華やかできらびやかな模様が表現できて、細かな装飾を施すことができた西陣織は、諸大名や豪商などのような富裕層から高い支持を得ていました。
明治時代になると、西洋からジャカート織機が導入されたことにより、より高度な技術が用いられるようになりました。
1976年に国の伝統工芸品に指定された西陣織は、現在は多品目少量生産を続けており、その美しさや希少性、技術力が世界的にも高く評価されています。
西陣織の特徴

現在も日本において最高級とされる地位を保っている絹織物である西陣織は、どのような特徴を持っているのでしょうか?
西陣織は、『多品目少量生産』の先染めの織物であることがその際立った特徴と言えるでしょう。
多品目というだけあって、「綴(つづれ)」「緞子(どんす)」「紗(しゃ)」や「羅(ら)」などの多彩な織り方があり、12種類の品種が国の伝統工芸品に指定されました。
先染めされる西陣織は、生地を先に染めてから織ることにより、一般的な染色法である後染めよりも丈夫かつシワになりにくいという利点があります。
西陣織で生産される製品としては、細い真絹で織られた「紬(つむぎ)」、『お召し』と呼ばれる縮緬(ちりめん)状の本しぼ織り、表裏で異なる色柄が表現できる風通(ふうつう)などがあげられます。
西陣織あさぎ美術館

京都市下京区にある西陣織あさぎ美術館は、日本が誇る伝統工芸の1つである西陣織の美しさを発信するために開館された西陣織に特化した美術館です。
西陣織について学べるだけでなくアートとしての西陣織を鑑賞することができます。
帯や着物のイメージが強い西陣織ですが、西陣織あさぎ美術館では屏風や額装といった形の『美術品としての西陣織』が展示されています。
作品の中には、日本画や西洋美術の印象派の作品を題材に西陣織で表現したものなどが含まれており、絢爛豪華な西陣織の世界を堪能することができるおすすめスポットです。
開催中の企画展「琳派~美の系譜」

西陣織あさぎ美術館では、2022年4月22日(金)から7月3日(日)まで尾形光琳や俵屋宗達を代表とする絢爛豪華な企画展「琳派~美の系譜」を開催しています。
西陣織を用いて作られた名画、名作の数々が展示されている本展示会では、西陣織で制作された尾形光琳の「紅白梅図」「燕子花図屏風」をモチーフにした黄金タペストリーや、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」などを鑑賞することができます。
豪華で美しい作品は、西陣織の中でも細い糸で精緻に織ることのできる「1800口織ジャガード織機」を用いて圧巻の職人技で作られたものばかりです。
西陣織会館
京都市上京区にある西陣織会館では、西陣織の紹介や史料を常時展示しており、無料で来館することができます。
当館では、展示物を観るだけでなく、実際に織物を着たり、織る体験をしたり、着物ショーを観たりと西陣織に関連する多種多様な体験ができるようになっており、子供から大人まで西陣織について学びながら楽める場所となっています。
また、会館内のショップでは財布や名刺入れ、巾着などの西陣織小物や西陣絹ネクタイ、織額なども購入することができるようです。
西陣織 × 現代アート

西陣織は、着物や帯地以外にもネクタイやショール、服地、インテリア用品やアクセサリーなどの新しい用途としても用いられていますが、最近では西陣織と現代アートをコラボさせたプロジェクトもあるようです。
2020年3、4月に開催されたアート×サイエンス・テクノロジーをテーマにした文化・芸術の祭典「KYOTO STEAM-世界文化交流祭-」の第1回は、京都市内複数会場にて開催されました。
メディア・アーティストの鈴木太朗氏と、先端技術を用いた西陣織を提案する有限会社フクオカ機業の福岡裕典氏のコラボレーションによるコンセプト作品「水を織る―西陣織の新たなる表現―」も、第1回「KYOTO STEAM-世界文化交流祭-」に参加しました。
同作は、横糸として織り込んだチューブに2色の色水を流すことで、西陣織にと亀甲文様、七宝文様、矢絣文様といった、古くから西陣の地で愛されてきた織模様を浮かび上がらせた作品です。
チューブに色水が流れる際の緩やかな変化や、色水の生々しい質感が美しい作品は、光の移ろいや風の動きのような自然現象を取り込んだ作品を制作してきたメディア・アーティストの発想と西陣の伝統を引き継ぐ歴史ある企業の技術力が結びつくことで、新しい形の西陣織として発表されました。
西陣織の海外進出

西陣織は、日本国内だけでなく海外にも進出しているようです。
なんと、エルメス、カルティエ、ディオールやシャネルなどの世界的な一流ブランドの店舗の内装に西陣織が使われています。
西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏は、継承者不足などが起因する西陣織の将来に危機感を感じたことからいち早く海外マーケットを開拓してきました。
細尾氏は、海外の建築家から制作の依頼があった際、西陣織の伝統的な生地幅は32センチであり、世界基準の標準幅である150センチ幅で織れる織り機がなかったため、思い切って世界初の150センチ幅を織ることのできる西陣織の織り機を開発しました。
開発に1年かかったものの、150センチ幅の織り機の開発が無事に成功し、細尾氏は、海外事業を一気に加速させます。
その結果、ニューヨークのディオールの店舗に使われる椅子やソファーの張り地、壁紙などに細尾の西陣織が用いられたことを皮切りに、ロンドン、ミラノ、ニューヨーク、上海、香港、ドバイ、サウジアラビア、日本でも銀座や大阪の店舗でも採用され、現在は世界100都市で使用されています。
ディオール以外にも、シャネル、エルメス、カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペル、ザ・リッツ・カールトンなど世界中のハイブランドの店舗の内装に、細尾の西陣織が使用されているそうです。
まとめ
日本が誇る伝統工芸は、継承者や収益源の不足などにより、衰退の危機が懸念され続けています。
高い技術力や伝統、希少性などが、ラグジュアリー業界との相性も良いため、細尾の西陣織のように、より多くの日本の伝統工芸・文化が、海外にも評価されながら、生き残っていく道を探すことができたらと思います。
日本人としても、独自の文化・歴史に根付いた伝統工芸はぜひ保護していきたいですね。
参考
Yahoo!ニュース「世界の名画や国宝級の名作を「西陣織」で再現した美術館がスゴすぎた 最高峰の繊細な技術を展示」https://news.yahoo.co.jp/articles/598fecbbc255584100430905c72b0622d83b057b
西陣織あさぎ美術館 https://asagi-museum.jp/
KOGEI JAPAN「西陣織」https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/nishijinori/
西陣織工業組合「西陣織会館」https://nishijin.or.jp/nishijin_textile_center/
DIAMOND ONLINE「西陣織の海外マーケット進出を一気に加速させた、世界初の発明とは」https://diamond.jp/articles/-/288227?page=3
