伝統工芸品は、アートと呼べるのでしょうか?
昨今では、かの有名な世界最大のアートフェアの開催地であるスイスのバーゼルで、新たに「バーゼル・トレゾア・コンテンポラリークラフト」という国際クラフトフェアが開催されたりと、世界のアート好きが工芸の分野にも注目しているようです。
日本固有の伝統工芸品は、長い歴史の中で受け継がれてきた特別な技術を持つ職人の手仕事によって作られる、まさに逸品です。
国内では、少子高齢化による伝統工芸の次世代の担い手不足が深刻な課題となっており、技術継承に残された時間は多くありません。
安価な海外製品の出現、一般的な日本人のライフスタイルの変化などによって生産額も年々減っており、年々規模が縮小してしまっている伝統工芸業界ですが、アート作品として国内・世界のアート好きから注目を浴びることで、少しでも伝統継承に繋がってほしいですね。
今回は日本の伝統工芸品の中でも漆に着目して、その「アート」としての可能性を探ります。
日本の伝統工芸とは?
まず、日本における伝統工芸品とは、特定の地域から生まれた素材を原料に、長年受け継がれてきた伝統的な技法と職人による匠の技を用いて作られてきた、特別な工芸品を指します。
織物、染色品、漆器、陶磁器など、日本全国各地方にそれぞれの有名な産地があり、デザインや作り方などのそれぞれの歴史に紐づいた特徴が見て取れるのが魅力的なところです。
現在、日本全国には約1,300種類の伝統工芸があります。その中でも経済産業大臣が「伝統工芸品」と指定しているものが約236品目あり、それらはだいたい100年以上の歴史を持ち、製造過程が主に手工業的で、一定の地域でごく少数の職人が製造を行なっている、などの条件で選別されています。
漆の歴史
漆は日本の歴史の中でも初期である縄文・弥生時代から日本人の生活に用いられていたほど、非常に長い歴史を持った、日本が誇る伝統工芸品の一つです。
縄文・弥生時代の人々は漆塗りの土器、農耕具を使用していました。その後飛鳥・奈良時代の仏教の伝来とともに、漆が寺院の木造に塗装されたり、絵画に漆を使用したりと、違った用途でより多く用いられるようになります。
公家、武家が台頭しだした鎌倉・室町時代には、漆器が貴族の食器として使われるようになります。また、武士が使用する防具にも漆塗りが施されるようになるなど、日本人の日常生活に更に根付いていきました。
現在も受け継がれている様々な伝統文化が栄えた江戸時代には、漆の文化もさらにもてはやされました。現在でも有名な石川県の輪島塗や青森県の津軽塗などのような地域ごとの特産品として、多種多様な漆器が生産されました。
開国後に盛んになった海外との貿易で人気を集めた漆器は、「JAPAN」と呼ばれるようになります。当時、西洋の好みに応えるために新しいタイプの漆器も登場しましたが、その後は近代化に伴い生産数が減少していってしまいます。
漆の特徴
そもそも、漆とはなんでしょう?
漆とは、ウルシという木から取れる樹液のことを指します。漆の職人たちは、その樹液から不純物を取り除いた「生漆(きうるし)」をそこからさらに何工程も経て、漆を精製していきます。
漆の木が育つまでには10年以上かかる上に、一本の木から採取できる漆の量はごく少なく、約200ccで、日本産の生漆の価値は、およそ100,000(円/kg)と言われています。デリケートで希少な素材を、十分な知識と経験を持った職人だけが適切に扱えることから、漆がどれだけ貴重なものかがよくわかります。
漆は、木製のお椀である漆器の他にも、蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)のような繊細な漆の技法を駆使した数々の工芸品などでイメージされるような見た目の美しさだけでなく、その性能に着目して耐水性、防腐性に優れた塗料あるいは接着剤としても広く使われてきました。
日本国外での漆
伝統工芸品の中でも長い歴史を持ち日本人に愛され続けてきた漆は、ニューヨークのメトロポリタン美術館などの世界の有名美術館に貯蔵されていたり、クリスティーズのような老舗オークションハウスによってオークションに出品されたりしています。
オーストリアのハプスブルク家の皇女として有名なマリー・アントワネットがかつて所有していた漆のコレクションは、現在パリのルーブル美術館とギメ東洋美術館、そしてヴェルサイユ宮殿にあるそうです。
まとめ
自国の伝統工芸の1つ、漆についてどれぐらいご存知でしたか?
個人的に、日本の伝統工芸品の好きなところは、産地によって多様なデザインや色味、技法に特徴があり、それぞれの美しさやその歴史的背景を知ることで深く楽しめることです。
デジタルが進み続けるこの頃ですが、だからこそ限られた担い手によって長い歴史の中で受け継がれてきた特別でアナログな技術の素晴らしさは世界からの賞賛に値すると思います。
自国の文化を守り続けるためにも、様々な伝統工芸の美しさに目を向け、「アート」として見てもらえるように世界に発信していくことが得策かもしれません。
まずは日本人の私たち自身が、『どうして伝統工芸品は高価値で希少性のあるものなのか』を語れるようになるのが初めの第一歩なのかなと思います。