サウンドアートとは?
『サウンドアート』とは、『耳で聴くこと』に焦点を当てた、音を主要メディアとして表現されたアート作品のことを指します。
『アート』と聞くと、絵画や写真、彫刻など視覚的な表現を持つものをイメージする方が多いかもしれませんが、サウンドアートは聴覚に訴える表現が用いられた芸術作品として、1980年ごろから1つのアートの表現方法として呼称されるようになったそうです。
音響、電子芸術、メディア・アート、パフォーマンス、フィールド録音、環境芸術、映像などサウンドアートに含まれる表現の様式は様々です。
サウンドアートの歴史
サウンドアートは、1980年代半ばにダン・ランダーが使い始めたとされており、以降聴覚的な表現を中心としたアート作品がそう呼ばれるようになったと言われていますが、それ以前からサウンドアートにカテゴライズされる芸術作品は存在していました。
イタリア未来派の画家・作曲家・楽器製作者のルイジ・ルッソロが複数の音響装置を組み合わせて制作した「イントナルモリ(騒音音楽)」がその先駆けとして考えられています。
ルイジ・ルッソロ以降は、ダダイズム、シュルレアリスム、フルクサスなどの芸術運動に参加していたアーティストたちも聴覚的な表現をアート作品に取り入れて発表してきました。
現在も多くの現代美術家が、音を中心とした表現を用いたアート作品を映像作品やインスタレーション、パフォーマンスなど様々な形で制作しています。
また、近年ではマルチチャンネルやバーチャル・リアリティーといった新しい技術を活用した作品も多く、それらもサウンドアートと密接に関わっているものが多くあります。
サウンドアートの有名なアーティストと作品例
ジョン・ケージ「4分33秒」
サウンドアートと関連が深いアーティストとしてよく知られているのが、ジョン・ケージです。
1952年、40歳頃に発表された実験的なサウンドアート作品「4分33秒」は、4分33秒という決められた演奏時間内で、演奏者が出す音響ではなく、聴衆を含めたその場にいる人や環境から発生した展示会場内で生じる『意図しない音』を作品としたものでした。
1940年代から『沈黙』について考えていたジョン・ケージは、この作品によって、伝統的に芸術においての音として認識されてきた楽器などの音に限らず、あらゆる音をアートとして意識し、表現として取り入れました。
坂本龍一「IS YOUR TIME」
世界的に活躍する日本の音楽家・坂本龍一も、サウンドアート作品を制作しています。
インスタレーションの形式をとった作品「IS YOUR TIME」は、アーティストグループ「ダムタイプ」のメンバーである高谷史郎とのコラボレーション作品であり、『設置音楽』シリーズの2作目として発表されました。
この作品は『転生』というテーマを持っており、東日本大震災の津波で被災し、修復できないほど破壊されてしまったピアノからインスピレーションを受けて制作されたそうです。
世界中の地震のデータを用いて、壊れてしまったピアノが音を奏でているかのように表現しています。
ヤニス・クセナキス「Persepolis(ペルセポリス)」
前衛音楽家で建築家でもあるヤニス・クセナキスのアルバム「Iannis Xenakis」 のDisc2に収録されている代表曲「Persepolis(ペルセポリス)」は、金属の摩擦のような高音域やジェット機のエンジン音を思わせる重低爆音などが何層も重なり合った8トラック・テープによる轟音ノイズが約1時間続く作品です。
この作品は、イランの第5回シラズ国際芸術祭のためにクセナキスが作曲したもので、1971年にペルセポリス遺跡にて初めて発表されました。
会場には100台ものスピーカーが設置され、レーザー光線や歩き回る子供達が持つトーチライトによって遺跡が照らし出されるという視覚的な演出とともに、ペルセポリスが演奏されたそうです。
その後も、様々なバージョンでCDが発売されたり、他のミュージシャンによってもリミックスされたりしています。
クリスチャン・ボルタンスキー「ハートルーム」
フランスの彫刻家・写真家・画家・映画監督・現代アーティストであるクリスチャン・ボルタンスキーは、大規模で強いメッセージ性のあるインスタレーションなどの作品で知られています。
クリスチャン・ボルタンスキーの作品として、サウンドアートのジャンルとして捉えられるのが、瀬戸内海の東部に浮かぶアートの島として知られる豊島にある作品「ハートルーム」です。
クリスチャン・ボルタンスキーは、2008年から心臓音を収集し、アーカイブ化するというプロジェクトを世界各地で行ってきました。
「ハートルーム」は、これらの心臓音を集め、それぞれに同期する電球が光るという作品です。
登録料を支払えば、誰でも心臓音を録音し、登録することができるのも、インタラクティブで興味深く、豊島を訪れるアートファンを楽しませています。
鈴木昭男「点音(おとだて)」
鈴木昭男は、パフォーマンスやインスタレーションなどを通じて音と場の関わり方を探求するアーティストとして知られています。
1996年にドイツ・ベルリンにて発表された、『エコーポイントを探る』自然や都市の風景に耳を澄ます作品「点音(おとだて)」は、世界中の様々な街で行われ、日本では2005年に初めて和歌山県立近代美術館、田辺市立美術館、熊野古道なかへち美術館の共催によって発表されました。
吉村弘「サウンド・チューブ」
日本の環境音楽の第一人者である吉村弘の作品「サウンド・チューブ」は、一見ただの金属の筒に見える音具ですが、水の音を楽しむ作品で、手にとって逆さにすると約30秒間水の音を楽しむことができる作品です。
コポコポとボトルからグラスに水が注がれるときのあの水の音を楽しめるというシンプルな作品ですが、1つ1つにエディションナンバーがついており、傾け方を変えると音の表情も変わります。
神奈川県立近代美術館・葉山館のミュージアムショップ・オランジュブルーなどで購入することができます。
サウンドアートの展覧会
2022年に予定されているサウンドアートの展覧会としては、2022年6月3日から8月21日まで京都の築90年の歴史を持つ京都中央信用金庫 旧厚生センターにて開催される、「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」がおすすめです。
アンビエント・ミュージック(環境音楽)の創始者であり、デヴィット・ボウイやU2、コールドプレイらのヒット作品を手がけた大プロデューサーでありながらもビジュアル・アートに革命をもたらしたことでも知られているイギリスのアーティスト、ブライアン・イーノの大規模展覧会として、日本で行われる複数の作品が展示される個展としては初めての試みとなるようです。
アンビエント・ミュージック(環境音楽)とは、その作品を楽しむリスナーのあらゆる聴き方を受け入れる(音を興味深く聞くことも、ただ聞き流すことも、無視することもできる)作品のことを意味します。
まとめ
アートには様々なスタイルがありますが、一般的である視覚的な表現を中心とする作品以外にも、サウンドアートのように他の知覚を中心として楽しむ芸術作品も多くあります。
AR(拡張現実)などのような新しいテクノロジーの出現により、今後さらに新しい形で新しい知覚で楽しむ形の芸術品のスタイルが確立していくかもしれないと思うととても興味深く感じます。
個人的には、豊島にあるクリスチャン・ボルタンスキー「ハートルーム」の心臓音のアーカイブは是非体験してみたいと思っています。
参考
Time Out「アンビエント・ミュージックの創始者、ブライアン・イーノ日本初の大規模展覧会が開催」https://www.timeout.jp/tokyo/ja/news/brian-eno-ambient-kyoto-030322
現代アートの歩き方「サウンドアート」https://www.contemporaryart-walk.com/genre/sound-art.html
SPICE「“目で見る”+“耳で聴く”、「サウンド・アート」とは?【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.26 日高良祐(首都大助教)」https://spice.eplus.jp/articles/181825