2020年のパンデミックの影響で、未だ海外を訪れることがしばらく難しそうですが、そのおかげで自宅にいながら世界中の多くの美術館・ギャラリーにオンラインでアクセスし、作品を見ることができるようになりました。
今回は、アメリカで最も影響力のある画商のギャラリーである「David Zwirner Gallery(デイビッド・ズワーナー ギャラリー)」で、オンラインで見ることができるおすすめの現代美術の展示をご紹介します!
David Zwirner Gallery (デイビッド・ズワーナー ギャラリー)について
デイビッド・ズワーナーギャラリーは、世界をリードするギャラリーの1つであり、ニューヨーク、ロンドン、パリ、香港に施設があります。
オーナーであるドイツ出身の画商 デイビッド・ズワーナー(以下、ズワーナー)は、現代美術における最重要人物の1人として知られています。
2020年春にズワーナーは、コロナウイルスのパンデミックにより公共空間で展示会を開催できなくなったNYの12店舗のギャラリーをサポートするため、「Platform: New York」を主導しました。「Platform」とは、通常行われるアートフェアがもたらす偶然の発見と同様の可能性を、オンライン上でも実現することを目的とした取り組みです。
この活動は、自粛を要請されたものの展示を行うためのデジタルのインフラ構築が難しい状況にあった、地元のアートコミュニティの支援に繋がりました。
オンラインで公開中のおすすめの現代美術の展示
現在も、デイビッド・ズワーナーギャラリーのウェブサイトでは、美術館やコレクターと、新しい作品を発表したアーティスト、アートを転売・購入したい人とをデジタル上で繋げることができるよう、作品のオンライン展示を開催しています。
サイト上の多くの展示が、メールアドレスの登録だけで世界中から誰でも閲覧できるようになっています。
URLを貼っておくので、気になるものがあれば是非日本から海外のギャラリーを覗いてみましょう。
ドナルド・ジャッド
ドナルド・ジャッド (1928–1994)
ドナルド・ジャッド(以下、ジャッド)は、アメリカの現代美術に大きな変革をもたらした第一人者です。
戦後のアメリカで、ニューヨークを中心に広まった抽象表現主義の対極であるミニマルアートの代表的なアーティストとして知られています。彼の立体作品には主に鉄、アルミニウム、真鍮などの産業素材が用いられており、作品からは、色、形、素材、空間に対するジャッドの強い関心が感じられます。
ジャッドは製作以外にも、美術評論家として生涯を通じて批判的思考の価値と社会にとっての芸術家の重要性を主張する記事を出版し続けました。
ジャッドは立体作品以外にも、エッチング、スクリーンプリント、木版画などの印刷技術を用いた作品も残しています。彼の作品群の中でも最大規模である10組の木版画から構成されるこの作品は、彼が亡くなった1994年までに完成させることができなかったため、2020年にジャッド財団により、1992〜1993年に制作されたオリジナルの校正刷を使って完成、出版されました。
私自身は、ニューヨークのアップステートにあるDia:Beacon(ディア ビーコン)やMoMa(ニューヨーク近代美術館)でジャッドの作品を見たことがあり、お気に入りのアーティストの1人です。
アーティストの想いを感じ取れるような作品とは違った彼のミニマルな作品は、配置、配色、対称さがとても美しく、展示される空間自体にもこだわりを感じます。
トーマス・ルフ
トーマス・ルフ (1958 – 現在)
トーマス・ルフ(以下、ルフ)は、「編集・再構成されたイメージの巨匠」と言い表されるドイツのフォトグラファーで、天体、建築、都市風景、ヌードなど幅広いテーマの作品を制作しています。
作品のテーマや被写体の広がりを表現するために、自身のカメラでの撮影だけにとどまらず、コンピューターで生成された画像、インターネットや出版物から引用した画像など、様々な要素を取り入れた作品を生み出しています。
1980年代初頭に発表されたルフの肖像画シリーズは、まるでパスポート写真のように無表情な肖像を大きなサイズに引き伸ばした作品で、彼が初めて高い評価を受けた代表作品です。
最新のシリーズ「tableaux chinois」は、毛沢東が率いた中国共産党がヨーロッパ向けに特別製作した「La Chine」(フランス版)から着想を得た作品です。当時政治的プロパガンダに使用された写真は、外国へのアピールのための理想的な国の姿を描いた美しい虚像であり、ルフはそれらを現代のデジタル技術と掛け合わせることで、現実との不一致を表現しています。
ルフの作品は、たいてい一連のテーマに沿ったシリーズであるため、どんな意図が隠されているのかを考えながら見るのが楽しく、惹きつけられます。
JPEGの画像を拡大した時の、あの荒いデジタル画像のような要素を組み合わせた作品は、直感的に曖昧さを感じられるところが面白いと思いました。
リュック・タイマンス
リュック・タイマンス(1958 – 現在)
リュック・タイマンス(以下、タイマンス)は、道徳的な複雑さ、特に「善」と「悪」の共存を扱った独特なスタイルで知られているベルギーのアーティストです。
ホロコーストなどの主要な歴史的出来事から平凡な日常風景まで、多岐に渡るテーマの作品を制作しています。
数十年に渡るキャリアの中で、絵画以外にも短い映像作品も撮影してきたため、クローズアップやモンタージュといった映画的な手法が、その後の絵画作品にも見られます。
パンデミックの最中に制作されたこれらの作品は、タイマンスのこれまでの作品に共通しているように、歴史上の出来事、映画のスチール写真や雑誌、またiPhoneの写真などから生み出されたものです。屋外へのアクセスが制限された環境で、インターネットを通じて見える世界が作品に反映されています。
タイマンスの作品は、比較的無機質でなんだか寂しさを感じるものが多いですが、個人的には彼の描く花は儚い印象で美しく、刹那を感じられるところが好きです。
まとめ
今回はDavid Zwirner Galleryのオンラインで公開されている展示の中から、3つのおすすめをご紹介しました。
現代アートが好きな方にとっては、馴染みのあるアーティストもいたのではないでしょうか?
直接足を運べなくても、日本からオンラインで展示が見られると、解説をじっくり読めたり、気になったアーティストについて検索したりしながら、ゆっくりと作品を楽しむことができると思います。普段と違った良さがあって、おすすめです!
ぜひゆっくりしたい週末に、自宅から世界のアートに触れてみて下さい!
参考
WIDEWALLS「12 NYC-Based Galleries Shown in David Zwirner’s Online Viewing Room」
https://www.widewalls.ch/magazine/david-zwirner-platform-new-york
David Zwirner「Viewing Room」
https://www.davidzwirner.com/viewing-room/