コラム記事

Chat GPTなどで話題のAI(人工知能)がアート業界に与える影響やAI生成アートの例、今後の考察

最近よく聞くAI(人工知能)は、あらゆる業界に新しい風を吹かせています。アート界にはどのような影響があるのでしょうか?

実際にAI生成されたアート作品の例や、業界の反応、今後どうなっていくのかの考察を紹介します。

Chat GPTなど話題のAIとは?

最近話題の『Chat GPT』など、AIについて耳にする機会が増えてきたかと思いますが、そもそもAIとはなんなのかから始めたいと思います。

AIArtificial Intelligence人工知能)とは、人間の介入なしに『知的』活動の実行を可能にする一連の技術のことを指します。知的活動とは、推論、分析、意思決定、問題解決などが含まれます。

昨今はSF映画などで『ロボットにより人間たちが支配される』というようなストーリーが描かれることも多かったり、『AIによって人間の仕事のほとんどが奪われる』と提唱する人もいたりする中で、AIは脅威だ!という印象が強いかもしれませんが、実際はすでに私たちの日常生活の一部になっています。

例えば、カーナビやスマホのマップ機能(交通ルートの調整)、NetflixやSpotifyのおすすめ機能(映画、シリーズ、製品の提案)、チャットボット(カスタマーサポートの一次請け)、iPhoneの顔認証システム、InstagramやTikTokのアルゴリズムなどは、すでにもう何年も私たちの生活になくてはならないものとなっています。

最近では、AIはさらにレベルが上がり、Chat GPTなどのような、テキストの作成や質問への回答、デジタルアートの作成など、よりインタラクティブに人間と関連してサポートする機能が備わったものも一般的に使えるようになってきています。

こちらの投稿でもAIのアートへの影響について触れましたが、今回はより深掘りして多方面からの考察を紹介していきます。

AIが新しい業界に浸透し始めている例

上記で、『AIは最近また新しいレベルに到達している』と触れましたが、その例を2つ紹介します。

1つ目は、AIによる画像、映像の作成です。

今、『既存の有名な映画を違うスタイルで表現したら?』というテーマの画像や動画が、よくSNSでシェアされています。こちらの動画を見てみてください。

この投稿者は、(AIの知識や技術のある)一般人ですが、誰もが知る名作「ハリーポッター」のキャラクターたちと、シンメトリーさや独特の色使いなどが特徴的で「グランド・ブダペスト・ホテル」などのアーティスティックな映画を作ることで知られるウェス・アンダーソン監督の世界観を融合させたら?というテーマで、AIで作られた画像、動画をショートビデオとしてシェアしています。

これはほんの一例で、ここ数週間で『ハリーポッター × ウェス・アンダーソン』の画像や動画はさまざまなクリエイターによって作成され、シェアされては、バズっています。

他には、音楽界を揺るがしそうな、こんな例もあります。

@ai_music_covers AI Travis Scott cover of NewJeans – Cookie #travisscott #newjeans #aicover ♬ Cookie – NewJeans

こちらの動画は、投稿者が『cover.ai』というソフトを使って作成したという、『トラヴィス・スコット(Travis Scott)によるNewJeansの曲「Cookie」のカバー』です。

トラヴィス・スコットは、アメリカ・テキサス州ヒューストン出身のラッパーで、カイリー・ジェンナーの夫としても知られており、NewJeansは今世界的に人気を集める韓国のガールズアイドルグループです。

どちらもアメリカで人気がありますが、AIを使って実現された『全く異色の架空コラボ』として、TikTokなどを中心にバズっていました。トラヴィス以外にも、AI生成の『ラッパーのドレイク(Drake)がNewJeansをカバーした動画』や、一般人がAIで作ったカニエ・ウエストの曲を歌い、AIによってカニエ本人の声を乗せた動画なども注目を集めていました。

これらのAI生成による画像、動画、音楽などは、今やAIの知識やスキルのある一般の人々によって作られ、SNSなどを中心として拡散されています。

コメントには、『AIでこんなものが作れるなんて、すごい時代だ!』『レベルが高い!』などのポジティブな声もあれば、『これからどんな世の中になっていくのか不安』『既存のアーティストたちはどうなっていくの?』などの不安視する声もあり、一般層の受け取り方はさまざまなようです。

アート業界に衝撃を与えたAI生成の作品

アート界にも、もちろんAIの流れがすでに見られています。

2022年末から2023年初めにかけて、ドイツ・ベルリンのミッテにあるSprüth Magersの2階のギャラリースペースにて開催された展示会にて、ジョン・ラフマン(Jon Rafman)の「Counterfeit Poast(カウンターフェイト・ポースト)」など『テキストから画像へのAIアルゴリズムによって生成された不気味なポストヒューマン像のシリーズ』がアートとして展示され、話題になりました。

ラフマンは、AIによって生成された作品を従来のアートと同じように展示することで、『新しいテクノロジーが私たちの芸術をどのように変容させ、その過程で私たち個人や集団のアイデンティティそのものを変容させるのか。』という問いを投げかけました。

また、AIプログラム「Midjourney(ミッド・ジャーニー)」が生成した画像で、ジェイソン・アレン(Jason Allen)による「Théâtre D’opéra Spatial(スペース・オペラ・シアター)」は、2022年のコロラド州アートフェアでデジタルアート賞を受賞しました。

アレンは作品制作にAIプログラムツール「Midjourney」を用いたものの、作品完成までに80時間以上を注ぎ込んで、900以上のバージョンを作成したそうです。(Midjourneyにテキストベースで依頼すると、1回ごとに4パターンが出てくる)

この結果は、アート界で物議を醸し、ネットでも話題になりました。AIを使ってイメージを形にし、最終系に仕上げるまでのかかった労力や時間、また選定のセンスを考えると、必ずしも『AI生成だからアートとは言えない』わけでもないのではないかと個人的には感じます。

他には、ドイツのデジタルアーティストであるマリオ・クリンゲマン(Mario Klingemann)も、2015年から AIを用いた作品を制作しています。AIのニューラル・ネットワークのシステムを使用して作られた、終わりのないポートレート・ストリームを生成する「Memories of Passersby 1 (通りすがりの人の思い出 1)」(2018 年) などの作品を生み出しています。

批判も多いデジタルアートへのAIの使用について、クリンゲマンは、『アーティストは、AI が提供する可能性を受け入れるか、少なくとも試してみるべきだと思います。』と語っており、AIはアート界において、いずれニューノーマルになるだろうと、その期待も示唆しています。

AIがアート界に及ぼす影響|メリットとデメリット

上記で触れたように、まだ台頭し始めて長く経っていないAIに対しては、懐疑的・否定的な声も多くあります。

AIが今後のアート界に及ぼす影響をさまざまなアングルからの考察を紹介します。

クリエイティブプロセスを短縮・簡素化する

AIを用いることで、アートの制作にかかる時間は大幅に短縮されます。

従来のアートの価値の基準として、『希少性』が重要な指標となることを考えると、AIの使用によってアートの制作時間が短縮されることにより多くの作品が世の中に溢れ、飽和状態になってしまうのではないかという懸念は確かにあるでしょう。

また、アートの評価基準として、アーティストの技術力や表現力なども従来のアート作品では重視されるポイントですが、その点もAIの介入によって、工程が簡素化されてしまうことを考えると、逆にAIを用いていない作品は更に価値が高まるかもしれません。

一方で、注文絵画やアーティストがブランドやプロジェクトとコラボレーションする場合など、クライアントに複数のオプションやイメージを事前に提案することが必要な場面では、AIは非常に役に立つのではないでしょうか。

AIの助けにより、アーティストがその創造の幅を広げ、より多くのアイデアを試すことができ、芸術的表現の新しい可能性を開けるかもしれません。

著作権の行方や信憑性の概念の変化

AIによって、簡単にイメージするものを生成することができるため、一般の人々でも方法を学べば、有名な芸術作品の正確なコピー作品を作ることができてしまいます。

このような場合、次々と作られてしまいかねない『元の作品』と『コピー及び類似作品』の著作権についてはどうなるのでしょうか。

また、アート作品を購入したい場合にも、その信憑性や芸術的価値について、これまで以上に疑問が生じてしまいそうです。

贋作かどうかの見分け方については、NFTによってその作品が本物であるか、いつ誰に制作され、どのように取引されてきたかの歴史を記録・管理することができるようになったことから、デジタルアートに関しては心配なさそうですが、NFTとなっていない本来のアート作品については、より一層注意が必要となってしまうかもしれません。

アート制作・表現の多様化

AIがアート界に与えるポジティブな影響の1つとして、作品制作における多様性が増えることが挙げられます。

インターネットが普及している今や、アートは誰でもアクセスできるものだと思われがちですが、まだまだその人の言語的、身体的、文化的、地理的な障壁によって、難しいことも多くあります。

AIがプロセスを短縮・簡素化してくれることによって、『表現したいことがあるけど、さまざまな理由からアートとして物理的な表現ができない』という人にとっては、その道が開けると言っても過言ではありません。

例えば、身体障害のあるアーティストが、これまで諦めていた範囲の表現方法にチャレンジすることができたり、金銭的に余裕のない若者が、オープンソースのAIツールを使用することで、お金がないと手に入らない画材などのツールを使わずに自由な表現をすることができたりと、新たな可能性が期待できます。

アートの独創性と多様性の低下

アート制作でAIを使用することでの懸念の1つとして、アートの標準化と均質化に繋がる可能性があることも指摘されています。

AIは文字通り人工知能によって、アルゴリズム、トレーニング・モデルに基づき、アート作品など、『人間から依頼されたもの』を生成します。そのため、生成されるモノは似通ってくる可能性も高く見られます。

AIによって生成される作品が標準化されてしまうことによって、アート作品の独創性と多様性は低下し、芸術にあるべきそもそもの価値が失われたり、損なわれたりしてしまう可能性も大いにあるでしょう。

また、そもそもAIで使用されるアルゴリズムとトレーニング・モデルには偏りがあるため、社会における既存の偏見やステレオタイプを大きく反映している可能性があります。そのため、AIの使用によって、成果物にも偏りが出てしまったり、時には『差別的』と指摘されてしまう可能性も考えられます。

人間アーティストの代用

AIの脅威を恐れる人々としては、『人間に取って代わられてしまう』という可能性が最も恐ろしく感じる点なのではないでしょうか。

『AIの活躍により、アーティストたちが職を失ってしまうのでは?』という議論はもちろんされています。AIツールを使用すると、人々はより迅速かつ効率的にアートを作成できるというその便利さゆえに、人間のアーティストの需要が減り、市場での雇用機会が減ってしまう可能性は十分にあるかもしれません。

AIによって、アートの制作から技術のプロセスが代替されてしまうと、アーティストにとって大切なのは、AIでアート作品を生成するためにコーディングすること、つまり特定の画像を生成するためにテキストを書くことになってきます。AIが技術面をカバーしてくれるとはいえ、このコーディングや選定、仕上げの工程はアーティストに委ねられるため、想像以上に難しいものではあるでしょう。

実際にジョン・ラフマンは、「Counterfeit Poast」に出てくる全ての肖像画には、何千回もの破棄された試みが含まれていると語っています。

いずれにしても、本来のアートに比べて、独自性や主観性が失われてしまう可能性があるでしょう。

まとめ

現在すでに私たちの日常生活に溢れており、更にレベルアップしてきているAI(人工知能)は、今後さらにアート、エンタメ、音楽などいろいろな業界においてもその影響を強めてくることが予想されています。

アート界においても、AIの使用はすでに物議を醸しており、批判の的となっていますが、ポジティブな見方も多くあります。

すでに開発されているものに歯止めをかけることは極めて難しいということを考えると、私たちはどのように倫理的に、安全に、またより相乗効果を持って、業界や人々の暮らしをより豊かにするためにどのようにAIと共存していくのかを考えていくことが、現実的だと個人的には感じます。

参考

aela「Artificial Intelligence: How AI is Changing Art」https://aelaschool.com/en/art/artificial-intelligence-art-changes/

THE ART NEWS PAPER「’AI will become the new normal’: how the art world’s technological boom is changing the industry」https://www.theartnewspaper.com/2023/02/28/ai-will-become-the-new-normal-how-the-art-worlds-technological-boom-is-changing-the-industry

Berlin Art Link「Portraits of the Posthuman: Jon Rafman and AI」https://www.berlinartlink.com/2022/12/20/jon-rafman-and-ai/

画像引用元:https://kunstkritikk.com/the-old-new-wave/

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。