『70.6%のアメリカ人がNFTについて知らない』というデータがあるものの、NFTやメタバースを牽引している企業やプロジェクトは、アメリカ拠点が多いのが現状です。
今や世界中の人々の生活に根付いているインターネットやSNSなども、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)によって動いていることから、今後さらに広がっていくであろうメタバースの世界でもアメリカ企業が大きなパワーを持っていくのではないかと予想されます。
今回は、NFTやメタバースに関連したアメリカ国内の動きについて、紹介します。
大手アメリカ企業の動き
世界的にあらゆるジャンルで利用されている大手企業の多くがアメリカに集結しています。
各業界のアメリカにある大手企業は、NFTやメタバースをどのように取り入れ、どのような戦略で参入しているのでしょうか?
ウォルト・ディズニー(The Walt Disney Co.)
ウォルト・ディズニー社は、2022年2月15日にメタバース戦略を監督する幹部を任命したとロイター社によって報道されました。
メタバース戦略を監督する幹部は、ディズニーのファンである消費者たちが、メタバースの中でディズニーの世界観やコンテンツをどのように体験するかを定義する役割を担い、ディズニーのクリエイティブ・チームと協働していく予定とされています。
メタバース戦略は、物理的世界と仮想世界の要素を組み合わせることで、長い歴史の中で愛され続けて来たディズニーのストーリーテリングを進化させる次の偉大なフロンティアであるとして、会社の戦略的優先事項の一部とされているそうです。
また、ディズニーはこれまでキャラクターの絵が描かれたアート作品のような株券を株主に配布していましたが、2014年以降ディズニー株を1株でも持っている人しか購入できない『コレクタブル株券』を販売しています。株主に対して、特別な体験を提供する方法としても、この延長でNFTを活用していくというのが想像できるでしょう。
ナイキ(Nike)
大手スポーツアパレルブランドのナイキは、NFTやメタバース事業への参入をいち早く進めている企業の1つです。
2021年10月、ナイキはメタバースへの参入準備として、ブランドのロゴやスローガン「Just Do It」、「エア・ジョーダン」のロゴなど合計7つの特許申請を行いました。
2021年11月には、ユーザーがゲームを作成・共有したり、他のユーザーが作成したゲームをプレイしたりできる新感覚のオンライン・ゲーミングプラットフォーム「Roblox」内で、「ナイキランド(NIKELAND)」の提供を開始しました。
ナイキランドでは、3Dアバターを用いて仮想空間に入り、友達とゲームをしたり、ショールームでナイキブランドのギアを試したり、自分でミニゲーム作ることができたりと、ファッションとゲーム、スポーツを融合した体験ができる場となっています。
また、ナイキは2021年12月に、最先端のイノベーションを活用して、バーチャルアパレル商品などのような文化とゲームを融合させた次世代のコレクタブル商品を提供するブランド「RTFKT(アーティファクト)」の買収を発表し、話題になりました。
実世界でも様々なコラボレーションや革新的なマーケティング手法などで常に注目され、根強い人気を誇るブランドであるナイキは、新たに来るメタバースにおいても先を行き、大きな存在感を示していくに違いないでしょう。
メタ(Meta)
Facebookから社名を変更したことで話題になったメタ社は、その社名の通りメタバース戦略に年間100億ドル以上の投資をするなど積極的な姿勢を見せます。
これまで、メタバースを見越した先駆けの取り組みとして、同社はバーチャル・リアリティゲームの開発や拡張現実(AR)メガネの技術開発などを行って来ました。
2021年3月には、仮想世界と物理的世界を自然な形で融合させるツールとして、手首に付けるデバイスを開発し脳からの神経信号を読み取るAR操作用のリストバンドのコンセプトを公開しています。
FacebookやInstagramなどのSNSを通じて、人々のソーシャルライフに根付いた事業を手がけてきたメタ社ですが、メタバースについて「プレゼンスを感じられるソーシャル・ネットワーク」と言及しており、仮想空間上での新たなソーシャル・ネットワークの構築を中心としてメタバースの世界を切り開いていくことを考えているのかもしれません。
クリエイター・エコノミーとは?
NFTやメタバースの将来を考えるときに、現在アメリカでその規模が拡張し続けている「クリエイター・エコノミー」について、まず知っておくといいでしょう。
クリエイター・エコノミーとは、YouTuberやインスタグラマーなどのSNSを軸にしたインフルエンサー、またフリーランスのアーティストやジャーナリストなどの様々な個人クリエイターたちが、自身のタレントやスキルを活用して作ったコンテンツによって、収益化を行う経済圏のことです。
2000年代に、現在主流となっているYouTubeやInstagramなどのSNSなどのようなコンテンツプラットフォームが生まれた当時、全ての人が自身のスキルを使ったコンテンツを投稿したり、趣味などの自己表現を行えたりするようになったものの、それを直接的に収益化することはできませんでした。
2007年にYouTube広告によって、閲覧数に比例してクリエイターに収益として還元される仕組みが登場しましたが、これには一部のクリエイターしか収益化できないことや、収益化だけを目的とし過激な内容や迷惑行為の投稿をするクリエイターが出現したなどの弊害もありました。
ここ数年で、InstagramやTikTokなどの業界を牽引する企業が、クリエイターの収益化を支援する新機能を追加したり、クリエイター向けファンドを立ち上げたりするなどの動きが出て来ています。
現在クリエイターたちは、プラットフォームを通じて構築した自身のコミュニティに対して、コンテンツやオリジナルグッズなどを販売したり、自身のファンからのサブスクリプションや投げ銭、またイベントの開催などを通じて、利益を生み出せるようになっています。
クリエイター・エコノミーが広がっていく中で、クリエイターたちはSNSなどのプラットフォームに依存しない独自のコミュニティを構築している傾向にあることから、その場所が今後どんどんメタバースへと移行したり、NFTを用いてコミュニティのベネフィットを作ったりしていくことが予想されています。
また、ブロックチェーン技術の活用によって、コンテンツや作品をNFT化することでその所有権がデジタル上で明確に定義されるため、クリエイターと消費者・ファンが直接取引ができ、二次流通の場合にもしっかりとクリエイターに利益が還元されるような仕組みが実現することから、クリエイターたちは今後さらに積極的にNFTを活用したり、メタバースに参入して活動の幅を広げていくことでしょう。
NFTを活用し、メタバースで活動の幅を広げるクリエイター
先ほど触れたように、クリエイターたちがきちんと収益化できる経済圏、クリエイター・エコノミーは、今後メタバースの盛り上がりに伴い更に重要なポイントとなってくるでしょう。
クリエイターたちは、SNSなどを通じてブランディング、マーケティング活動を行って自身のブランドを確立したり、宣伝を行ったり、独自のコミュ二ティを構築してきました。
メタバースは最近バズワードになっているように、まだまだこれから具体化していくフェーズであるものの、いち早くNFTを活用してメタバースでも活動の幅を広げようとしているクリエイターがいます。
コード・ミコ(CodeMiko)
日本ではアニメ業界の人気が高いことも影響し、キズナアイなどのバーチャルタレントやVTuberなどが数年前から注目されていましたが、アメリカにおいてもゲーム配信などで最近注目されているVTuberが増えてきているようです。
その事例として面白いのは、コード・ミコ(CodeMiko)というVTuberで、デジタルとリアルのハイブリットクリエイターとして注目を集めています。
ゲーム配信などで人気のプラットフォームであるTwitch(トゥイッチ)などを活用してできた自身のコミュニティを中心に向けて、配信をしているコード・ミコは、3Dのデジタルキャラクター「Miko」と『中の人』であるリアルの自分を「テクニシャン」として、2つの人物を登場させています。
コード・ミコはその作り込まれたストーリーによって独自な世界観を持つほか、デジタルとリアルを融合させたり、ファンが参加できるインタラクティブな機能を搭載したりとメタバースのコンセプトとかなり相性の良い、最先端のクリエイターだといえます。
デジタルアート販売に留まらないNFTプロジェクト
世界最大級のNFTマーケットプレイスとして知られるOpenSeaでは、日々新しいNFTプロジェクトがローンチされ、どれも盛り上がりを見せています。
現在上位にランクインしているのは、デジタルアバターの販売が多く見られるものの様々なジャンルのNFTプロジェクトが展開されており、それらはどれも販売に留まらず、その先のコミュニティ構築や、メタバースに向けた準備段階にあるように感じられます。
中でも特に注目を集め続け、成功しているプロジェクトが「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」です。
Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」
OpenSeaランキング上位のNFTプロジェクトとして注目を集めている「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」は、見た通り『類人猿』をモチーフとしたデジタルアートを展開しています。
著名人が購入したことなどから大きな話題となり、現在ではかなり高額で取引されています。
Bored Ape Yacht ClubはNFTのデジタルアバターの販売だけに留まらず、コラボレーションによるグッズの販売や、キャラクターを用いたマンガ、メタバースバンドを生み出すなど、ポップカルチャー全体に影響を与えている存在となっています。
また、NFTのデジタルアートを所有している人のみがBored Ape Yacht Clubのクラブのメンバーとして特別なサイトへアクセスすることができ、NFTをアクセスキーとして機能させ、様々なベネフィットを提供しています。
例えば、Bored Ape Yacht ClubのNFTを所有する人だけがアクセスできるプラットフォーム内の『THE BATHROOM(トイレ)』は、メンバー同士が自由にコラボレーションできるグラフィティボードとして用意され、各会員が15分ごとにそのボードにピクセル画を描くことができるというものでした。
更に、「Mutant Ape Yacht Club(ミュータント・エイプ・ヨット・クラブ)」や「Bored Ape Kennel Club(ボアード・エイプ・ケネル・クラブ)」などの派生プロジェクトを次々とローンチするなど、メンバーを飽きさせず、強力なコミュニティが出来上がっていることがわかります。
リアルの世界でも大きな話題になり、しっかりとしたコミュニティ基盤を築いているNFTプロジェクトであるBored Ape Yacht Clubは、間違いなくメタバースでも大きな存在感を示していくことになるでしょう。
まとめ
SF映画のようにメタバースが完全に私たちの普段の生活と連携するのには、まだまだ時間がかかりそうですが、今その入り口が開き、これから少しづつリアルとデジタルの世界が様々な形で融合していくことは確かです。
現在の様々な業界を牽引するプレイヤーがそのまま先頭を切るのか、それとも全く新しいプレイヤーが牽引していくのかまだ予想できませんが、アメリカの大手企業や、新しいプロジェクトの動きに注目していくことで、今後のNFT・メタバース関連の情報をしっかりキャッチしていきましょう!
参考
techcrunch「To rival TikTok and Instagram, YouTube plans to double down on more creator tools, including NFTs, live shopping and more video effects」https://techcrunch.com/2022/02/10/to-rival-tiktok-and-instagram-youtube-plans-to-double-down-on-more-creator-tools-including-nfts-live-shopping-and-more-video-effects/
REUTERS「EXCLUSIVE Disney names executive to oversee metaverse strategy -memo」https://www.reuters.com/business/media-telecom/exclusive-disney-names-executive-oversee-metaverse-strategy-memo-2022-02-15/
The Verge「Nike just bought a virtual shoe company that makes NFTs and sneakers ‘for the metaverse’」https://www.theverge.com/22833369/nike-rtfkt-nft-sneaker-shoe-metaverse-company
The Verge「CODEMIKO WILL SEE YOU NOW」https://www.theverge.com/22370260/codemiko-twitch-interview-stream-technician