訪問記事

【後半】√K Contemporary へ行ってきました。神楽坂の住宅街にたたずむ現代アートギャラリー 

今回は、2020年3月に神楽坂にオープンした「√K Contemporary」を取材しました。統括されている加島いち子さんに√K Contemporaryについて伺いました。前半はこちらをご覧ください。

√K Contemporary インタビュー

聞き手:√K Contemporaryは現代美術を扱うギャラリーですが、古美術と現代美術の違いはありますか?

加島さん:古美術はそもそも数が限られていますし、販売値がしっかりと付いています。しかし現代アートは製造業に近い感覚です。情報情報の発信の方法や営業努力でどれだけでも展開ができます。そのため様々な角度から打ち出すことができます。

展示中の作品

聞き手:現代アートを扱う難しさはあるのでしょうか?

加島さん:生きている作家の作品に価格を付ける難しさは今までの古美術と全く違って難しいです。作家本人の要望や制作過程の原価など様々な点から鑑みて価格を設定しています。

値段のないアート作品に価格をつけてお客様に販売するのは、どこに価値の定義付けをしていくかが重要だと思っています。また私達はギャラリーをとして、価格を上げていく努力も必要なので販売方法や打ち出し方を考えていくことが必要ですね。

聞き手:作家を選ぶときはどのように選定しているのでしょうか?

加島さん:当社のビジョンにあった作家と作品を選んでいます。私たちは「未来に残していく作品」というのを大切にしているので、今お金が欲しいという考えや売れれば良いという考えをしている作家は私たちと見ている方向が違うと感じています。作家とギャラリーが考えを共有しなければ良い企画展にはなりませんしお互いの方向性が変わってしまいチグハグになってしまいます。作家との出会い方は様々で知り合いのご紹介や展示会を見に行って私たちからアプローチすることもあります。今後はもっと作家と知り合うために、アートフェアや美術学校の展示会などにも積極的に足を運んでいきます。

聞き手:企画展の準備はどれくらいかかりますか?

加島さん:作家によって異なりますが、企画展を開催するために最低でも2ヶ月の準備期間がかかります。ギャラリーの仕事というと華々しい職業と思われますが、地味な事務作業や作品の搬入や梱包、展示方法を作るための大工のような力仕事が多いです。テレビでお客様に説明するギャラリーの仕事が映し出されますが、あれは一部を切り取ったものです。アートは必需品でなく嗜好品なので、しょっちゅうお客様が来るわけでもありません。

Gil Kuno, The Antmaster (2022)

聞き手:ギャラリーの仕事の中で作家のブランディングが必要になってくると思いますが、何か大切なことがありますか?

加島さん:まずはアーティストを知ってもらうことが1番大切です。知ってもらった上で非営利団体や美術館にアプローチして作品を飾ってもらう努力は私たちギャラリーの仕事です。稀に市場価値だけが上がっていく作家もいますが古美術商の経験上、将来に名を残せず埋もれていってしまう傾向があります。市場価値はすぐにアップデートされてしまうのです。だから私達は売れ筋商品だから取り入れるということはしないですね。

聞き手:作家の掘り起こしは、誰が仕掛けているのでしょうか?

加島さん:ギャラリーが火付け役のこともありますし、作品の所有者が転売したり、オークション会社がブランディングを行なったりすることもあります。

聞き手:√K Contemporaryではアートを投資として買われるお客様もいますか?

加島さん:もちろん、投資として買われる方もいらっしゃいます。ですが、私たちの場合は、好きだから買うという方が圧倒的に多いですね。私共のお客様で言うと、アートにご自身の知見を持ってらっしゃって、投資よりは自分の好きな作品を買ったり、作家が好きで応援したいという気持ちで買ったりする方が多いですね。

聞き手:投資に向いているアートとはどういったものでしょうか?

加島さん:ある程度市場に出てくる作家や有名なギャラリーで扱っている作家は皆がわかりやすく投資として向いているかもしれません。

√K Contemporaryの看板

聞き手:アート投資についてはどのように感じていますか?

加島さん:最近は資産運用でアートを取り入れる方がいますし、良くも悪くもアートコレクターが増えてきています。私は市場の活性化になるのでアートの資産運用も大事なことだと思いますが、ただ資産価値としてアートを見るだけでは国に根ざしたアート事業にはならないと思っています。

またある程度、アートを見る目を養わなければアートを資産運用として考えるには危険です。例えば、証券会社から「10年後には倍になります」と言われたとして、そのまま信じて買った株が下がってしまったら購入したことを後悔すると思います。色々な意見があると思いますが、未経験から株を保有する際には企業理念や姿勢が好きだから応援したい企業の株を買った方が良いですよね。 お金儲けだけを考えて絵を買い、後で作品の価値が下がってしまったとき、その作品を愛することができないですよね。ですので、アート未経験者はまずは自分の好きな作品を買っていただき、作家の気持ちや作品への想いなどに責任を持って欲しいです。

聞き手:アートを買いたい人はどのようなところから始めれば良いでしょうか?

加島さん:まずは色々なギャラリーに足繁く通って、そこから自分が居心地の良いギャラリーを見つけてください。ギャラリーに行く過程で好きな作家やフィーリングでいいなと感じる作品を見つけることができると思います。最近はSNSやHPから質問下さる方が増えたので、ギャラリーの敷居は以前より下がってきています。まずは何かしらアクションを取ることが最初の一歩ですね。

聞き手:以前に比べて若い方がギャラリーにいくことは増えましたか?

加島さん:はい。それに加え若い層のアートの購買率は上がっていますね。ハイブランドを着たりする感覚でアートを保有することがファッションの一部になっています。SNSの台頭もあってアートを持つことのステータスが上がっていますね。日本でもコレクター同士の、繋がりも増えています。日本よりも中国や韓国の方がアートに力を入れ始めているのがグローバルで目立ってきています。ただ、周りが買っているから自分も買う、というような買い方はしてほしくないですね。しっかりと考えて購入してほしいです。

聞き手:ありがとうございました!

ABOUT ME
しおり岡
編集長/ライター。小学生の頃はエジプト文化、中学生では西洋美術、高校生は日本の歴史にハマり、大学在学中に仏像に恋をして、学芸員を取得。卒業後、大手人材会社で営業を経験。その後、飲食店の広報・デザイナーを経て、アメリカ・NYにて転職。コロナウイルスのため帰国し、現在は日本に滞在中。趣味は「美術館や遺跡を経験するための海外旅行」。今まで40カ国以上を旅行をし、世界の建築や文化、食事、アートに触れる。