訪問記事

【前半】√K Contemporary へ行ってきました。神楽坂の住宅街にたたずむ現代アートギャラリー

今回は、2020年3月に神楽坂にオープンした「√K Contemporary」を取材しました。統括されている加島いち子さんに√K Contemporaryについて伺いました。後半はこちらからどうぞ!

√K Contemporary インタビュー

聞き手:√K Contemporaryさんはどのような構造になっているのでしょうか?

加島さん:1階、2階、地下1階の構造になっています。1階、2階がギャラリースペースです。今は新型コロナウイルスの影響で使えていませんが2階にはバーカウンターとキッチンがあるので、飲食できるイベントなども開催していきたいですね。地下1階では多目的スペースとてしてレンタルしています。

Gil Kuno Solo Exhibition 

聞き手:√K Contemporaryさんはどのようなお客様が多いのでしょうか?

加島さん:アート好きな方やコレクターはもちろんですが、神楽坂という土地柄もあってアートや文化的なことに興味を持つ方がいらっしゃるので割と散歩がてらに来ていただくこともありますし、神楽坂のギャラリーを巡っている方もいらっしゃいます。

聞き手:√K Contemporaryさんはどのような目的で設立されたのでしょうか?

加島さん:当ギャラリーは、京橋で日本美術を扱う古美術商「株式会社 加島美術」が母体となり設立しました。加島美術は1988年から30年余り続けて古美術を扱ってきました。10年ほど前に現社長が就任してから、アートの幅を広げていきたいという思いがあり、√K Contemporaryが誕生しました。

古美術品を販売することは、過去の作家や作品から受け継がれているものを未来に託すことだと思っています。古美術は先祖達が支えてきたからこそ私達が今こうやって手に取ることができています。そのため今の私たちの時代の作品を未来に残していくことが必要だと考えました。そうすることで日本の美術界に少し貢献できると思っています。

また2017年にこの物件と出会ったことがきっかけの一つでもあります。なかなか都内でアートを展示できる広いスペースの物件は出てきません。この物件とご縁があったことで2年ほど構想を寝かしていましたがギャラリーオープンの一歩を踏み出すことができました。それからデザイナーも入れずスタッフの考えや思いがたくさん詰まった√K Contemporaryが誕生しました。

Gil Kuno, Everything|Nothing, 2014

聞き手:ギャラリーを作る上で何か苦労したことはありますか?

加島さん:初めての現代アートギャラリーだったのでどのようなギャラリーにしていくか構想を考えることが大変でした。また加島美術の営業をしながらの開業だったので、スタッフ全員が兼務しながらの仕事で物理的な苦労はありましたね。ただそれ以上に新しいギャラリーができる楽しみや期待感が大きかったので、今になって振り返るとそこまで大変だったと感じることは少ないですね。

聞き手:ギャラリーオープンが2020年ということは新型コロナウイルスの影響はありましたか?

加島さん:ありました。オープンしてすぐ緊急事態宣言が発令されたので、イベントを全て中止しないといけない状況になりました。華々しくギャラリーオープをしたかったのですが、計画通りに進みませんでしたね。

聞き手:√K Contemporaryのコンセプトはどのようなものですか?

加島さん:「スペーシー」です。ギャラリーの内装を見ていただくと分かると思いますが、エントランスにはステンレス素材を使い、宇宙ステーションのような空間をイメージしています。流行りや国境は関係なく、地球規模で素晴らしいアート作品を残していくことをコンセプトにしています。地球という星が育んできた作品を未来に提示していきたいですね。

聞き手:√K Contemporaryの作品や作家の選定基準はありますか?

加島さん:私たち日本人の審美眼を活かした選定を心がけています。

聞き手:日本人の審美眼とは具体的にどういうことでしょうか?

加島さん:日本人ならではの美的感覚いうことです。日本人は海外のアート作品が大好きで、フェルメールやゴッホの展覧会があると人気になりますね。ただ自国の文化・芸術に関しては意識が浅いように感じます。日本人としてもっと自分の国のものに目を向けるべきだと思います。自然信仰があるのも珍しいですし、四季を愛でることなど日本人としての美意識や概念、価値観をもっと大事にしたいです。その文化思想をベースに育まれた審美眼は、日本特有のものがあるのです。それを大切にしたいと思っています。

1階のギャラリースペース

聞き手:√K Contemporaryの今後の展望はありますか?

加島さん:海外のフェア出展をルーティンに組み込んだり、パートナーと呼び合える作家を見つけたり、国内外で認知度をあげていくことですね。

私たちは美術商社の役割もありますので、商社の働きもしていければと思っています。新型コロナウイルスを通して色々な概念が変わってきていてビジネススキーム自体が変化しています。今まで美術品商だけに注力していましたが、これから多角的に私たちのノウハウを活かしながら他の業種や企業とうまく連携していきたいです。そしてそれが日本の美術界全体の底上げにつながり、グローバル市場に日本の美術を位置づけていきたいです。

聞き手:海外と比べて、どういったことが日本のアートに関する問題なのでしょうか?

加島さん:日本の美術市場は海外に比べてとても小さいです。私は日本美術をもっと発信していきたいと思っているので国を挙げて発信していく姿勢にならなければ難しいなと感じています。しかし、日本ではアートブームが到来し、アートという言葉が一人歩きしているように感じています。具体的にいうと「アート」という言葉をつけておけばカッコよく感じたり、ビジネスにアートという言葉だけ組み込んだりすることでなんとなくうまくいきそうに聞こえたりします。アートがファッション的に使われており、もっと国や制度、教育が変わらないと本来のアートという意味が浸透しません。文化・芸術・アートは国に根付いているもので基盤を固めなければいけないと思っています。1つのギャラリーだけでは社会は変わらないので、色々な企業と協力し本来のアートを広げていきたいです。

聞き手:ありがとうございます!続きは後編をお楽しみください。

ABOUT ME
しおり岡
編集長/ライター。小学生の頃はエジプト文化、中学生では西洋美術、高校生は日本の歴史にハマり、大学在学中に仏像に恋をして、学芸員を取得。卒業後、大手人材会社で営業を経験。その後、飲食店の広報・デザイナーを経て、アメリカ・NYにて転職。コロナウイルスのため帰国し、現在は日本に滞在中。趣味は「美術館や遺跡を経験するための海外旅行」。今まで40カ国以上を旅行をし、世界の建築や文化、食事、アートに触れる。