KAWS(カウズ)の経歴
KAWS(カウズ)は1974年にアメリカ・ニュージャージー州ジャージーシティにて生まれました。本名は、ブライアン・ドネリーと言います。
ニュージャージーで育ったKAWSは、小学校でグラフィティ画像を紙に書き写すことに夢中になりました。
1990年代初頭にニューヨークでグラフィティアーティストとしてキャリアが始まりました。
KAWSは、看板、バス停、電話ボックスや建物などに作品を施しました。KAWSという名前は、文字の見た目が気に入ったため使うようになったそうです。
ニューヨークのスクールオブビジュアルアーツを1996年に卒業した直後、KAWSはディズニーのフリーランスアーティストとして働き始め、アニメーションの背景を作成していました。
1990年代後半、KAWSは限定版のおもちゃの製造を始めました。
日本で、500体限定で「コンパニオン」という人形を制作し、すぐに完売になりました。この経験がアーティストとしてのターニングポイントになりました。
自分のアートをより多く知ってもらうため、作品の「大量生産」を意識してきました。その結果、KAWSの作品を知る人が多くなり、コレクターや批評家の注目も集めました。
また、ユニクロやナイキなどの有名ブランドとコラボレーションをし、知名度を確立しました。
作品の価格は、15ドルから240万ドルと値段の幅が大きくあります。
2019年のアートネット・インテリジェンス・レポートによれば、2017年に平均販売価格が4万2000ドルから8万2000ドルへとほぼ倍増しました。
急激に価格が上昇した背景には、10年以上長年にわたってKAWSと活動してきたエマニュエル・ペロタン・ギャラリーとSkarstedtギャラリーのサポートがあったためと言われています。
アメリカでは、ギャラリースタッフがマーケティング戦略をアーティストとともに考え、実行する体制が整っているためだと考えられています。
KAWSの有名なアートワーク
億単位の値段で取引される、KAWSのアートワークで有名な作品をピックアップして紹介します。
「In the Woods」2002年
KAWSが2002年に制作した「In the Woods」は、ディズニーのプリンセスシリーズを代表する作品「白雪姫」をモチーフにした作品です。
名作「白雪姫」の世界観のダークパロディといったイメージを持つこの作品は、2019年5月にクリスティーズ・ニューヨークのオークションにて390万ドル(約4億4千万円)で落札されました。
「Untitled (Kimpsons #3)」2003年
2003年にKAWSは世界的に有名なアメリカのテレビ番組「ザ・シンプソンズ」のキャラクターをモチーフとしたシリーズ「Kimpsons」を制作しました。
ザ・シンプソンズの中心となる家族のキャラクターたちが勢揃いしており、KAWSのキャラクターの特徴的なビジュアルで描かれています。
この作品は、2019年4月にサザビーズ香港にて220万ドル(約2億4千万円)で落札され話題になりました。
「The KAWS Album」2005年
「The KAWS Album」は、ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ』のジャケット、そして「ザ・シンプトンズ」をオマージュしたもので、ポップカルチャーのイメージを再構築した作品として注目を集めました。
2019年4月にサザビーズ・香港のオークションにて、日本のストリート界のインフルエンサーであるNIGOの個人的コレクションの中の1つであった本作品は、1480万ドル(約16億7千万円)という驚異的な価格で落札され、大きな話題を呼びました。
「Kurf (Hot Dog)」2008年
「Kurf (Hot Dog)」は、KAWSが2008年に制作した、ベルギーの漫画から生まれた人気キャラクター「スマーフ」のパロディ作品です。
KAWSは他にも「Kurf」シリーズとして作品を制作しましたが、このホットドッグを食べようとしている「Kurf」は、2019年5月にサザビーズ・ニューヨークでのオークションにて、260万ドル(約2億9千万円)で落札されました。
「Armed Away」2014年
2014年、アメリカ・ロサンゼルスのHonor Fraser Galleryで開催された展覧会で発表された「Armed Away」は、一見すると抽象画に見えますが、じっくりと観ると人気アニメシリーズ「トムとジェリー」のキャラクターのイメージが用いられていることに気づくことができます。
KAWSは、ポップアート界の先駆者存在アンディ・ウォーホルのように、様々なポップカルチャーの要素を作品に取り入れて人気を集めていることがわかります。
この作品は、2019年5月にクリスティーズ・香港のオークションにて、300万ドル(約3億4千万円)で落札されました。
KAWSの有名なフィギュア作品
アート・トイの先駆者として知られているKAWSのフィギュアは、高いものでは6桁の値段がつくこともあり、多くの現代アートコレクターからの人気を集めています。
こちらでは、特によく知られているフィギュアをピックアップして紹介します。
「ピノキオ&ジミニークリケット」
2010年に発売されたKAWSのピノキオとジミニー・クリケットがセットになったフィギュアは、KAWSのコレクターの間では人気の定番商品の一つとなっています。
このフィギュアは、2010年にKAWSの『OriginalFakeストア』で限定発売されたものです。
「コンパニオン Flayed Open Edition」
KAWSの作品の中で最も認知度の高いキャラクターであるコンパニオンは、これまでに様々な姿でKAWSの彫刻やグラフィックなど多様な媒体に登場してきました。
KAWSはこのコンパニオンの全身の皮を半分剥いだバージョンを含む6種類のコンパニオンのフルシリーズを2016年11月にアメリカ・テキサス州で行われた「Where The End Starts」展にてドロップ(限定リリース)しました。
「Gone」
KAWSの大規模な彫刻「Gone」シリーズは、2019年にで開催された展覧会「KAWS: Companionship in the Age of Loneliness」における目玉商品として知られています。
KAWSの主要キャラクターであるコンパニオンが、もう一つの有名キャラクターであるBFFの亡骸のようなものを運んでいる姿を表現しており、フィギュアとしても人気の商品だそうです。
話題を呼んだKAWSのインスタレーション
KAWSは、マーケティングの上手さにも定評があります。
特に巨大彫刻やAR技術を用いたインスタレーションは世界中で話題になりました。
KAWSの巨大彫刻インスタレーション「Kaws:Holiday」
KAWSが、パブリックアートのラバーダックプロジェクトで知られるオランダのクリエイティブスタジオAll Rights Reservedと共同で制作した巨大彫刻の移動アートインスタレーション「Kaws:Holiday」は、2018年3月にアート・バーゼル香港の開催期間にあわせて約37メートルもあるバルーン版コンパニオンを香港のビクトリア・ハーバーの海上に浮かべたインスタレーションからスタートし、アジア各地を巡回しています。
台湾の台北では、40トンの重さで固定されたコンパニオンが国立中正に設置されたり、韓国のソウルの石村湖の湖上に28メートルの長さのコンパニオンの巨大彫刻を浮かべたりと、様々なシチュエーションにコンパニオンを登場させ、毎回SNSなどで拡散され大きな話題になっています。
日本でも2019年7月に富士山の麓に位置する「ふもとっぱらキャンプ場」に、全長40メートルのコンパニオンが設置されました。
KAWSはなんども日本を訪れたことがあるといい、今回のコンパニオンと富士山の見える景色のコラボレーションは、彼にとっても夢の実現だったそうです。
オープニングイベント「カウズ:ホリデイ セレモ二アル キャンプ デイ」には、BEAMSの設楽社長やファーストリテイリング・グローバルクリエイティブ統括のジョン・C・ジェイなどのファッション業界人をはじめ、鈴木えみ、水原希子、ローラ、EXILEと三代目 J Soul Brothersのメンバーらが来場し、ライトアップされた巨大彫刻コンパニオンの周りで、食事や音楽を楽しんだといいます。
KAWSのARアートインスタレーション「EXPANDED HOLIDAY」
「KAWS:Holiday」で大きな話題を呼んだKAWSは2020年に、バーチャル空間でアート作品を楽しめるプラットフォームを制作する会社Acute Artと共同で、AR技術を用いた最先端のバーチャルアートプロジェクト「EXPANDED HOLIDAY」を発表した。
「EXPANDED HOLIDAY」は、専用アプリ「Acute Art」を使用して、KAWSの代表的キャラクターコンパニオンの巨大AR彫刻を目の前に置いて、写真や動画を撮影できるというものです。
無料版の期間はすでに終了しましたが、有料版でKAWSのARアートをどこにいても楽しむことができます。
KAWSの展覧会「KAWS TOKYO FIRST」
2021年7月16日から10月11日まで六本木の森アーツセンターギャラリーで開催されたKAWSの国内初の大型展覧会「KAWS TOKYO FIRST」として大盛況となりました。
本展覧会は、KAWSの初期の作品から最新作まで絵画や彫像、プロダクト、体験型のAR作品など150点以上の作品が網羅的に『スタジオ全体を持ち込む』ことをイメージして構成された展示を通じて、KAWSの作品の変遷を楽しむことができる内容となっていました。
KAWSのブランドとのコラボレーション
ポップでストリートなイメージを持つKAWSの作品のアイコニックなビジュアルは、アートファン以外にもファッション好きの心も掴んでいます。
KAWSは、大手のブランドとのコラボレーション商品を数多くリリースしてきました。
代表的な例として、Supremeやユニクロとのコラボレーションが挙げられます。これらのコラボアイテムは瞬く間に完売し、世界中で高い需要を持っています。
KAWSのクリエイティブな視点は様々な業界に影響を与え続けています。
ユニクロ
2018年の夏、KAWSはユニクロのTシャツプロジェクトUTと世界的子供番組「セサミストリート」とのコラボレーションとして、「KAWS x セサミストリートカプセルコレクション」を発表しました。
コレクションには、セサミストリートのオマージュとしてKAWSの特徴的なキャラクターのように描かれたグラフィックの入ったスウェットシャツ、パーカー、Tシャツに加えてぬいぐるみも含まれ、大人気となりました。
中国ではこのコラボTシャツをめぐって大規模争奪騒動が発生するほど、注目されました。
ディオール
KAWSは、老舗高級ブランドであるディオールの2019年・夏コレクションでも、クリエイティブ・ディレクターのキム・ジョーンズとコラボレーションした商品を発表しました。
コレクションには、KAWSの蜂モチーフや他のキャラクターをフィーチャーしたTシャツ、ジャンパー、トラックジャケットが含まれました。
ショーでは、高さ10メートル巨大なKAWSのアイコニックなキャラクター「BFF」のフィギュアがディオールのスーツに身を包み、ゲストを迎えたそうです。
ナイキ x sacai
KAWSは、人気ブランドナイキとsacaiとのトリプルコラボレーションによるスニーカーを2021年11月26日より発売しました。
ナイキのローカットシューズ「ブレーザー ロー」がKAWSのアートワークを彷彿とさせるポップなカラーで彩られ、ソールにもKAWSのアイコニックな“XX”のモチーフがレーザー加工で刻印されています。
Supreme
2021年にリリースされたKAWSとSupremeのコラボでは、Supremeの定番のボックスロゴTシャツや『ANARCHY』やオーガスタス・パブロをイメージした長袖や半袖のTシャツなど、6種類のブランドTシャツが発売されました。
チョークで描かれたように見えるデザインは、Supremeの定番のデザインをKAWSとのコラボで特別なものにしました。
KAWSとSupremeは、2001年に初めて共同作品を発表しており、それ以来、10年ごとにコラボを繰り返しているそうです。
KAWSを愛好するコレクターは?
KAWSのコレクターには、ファレル・ウィリアムス、ドレイク、カイリー・ジェンナー、DJキャレド、BTSのメンバーであるV、RM、J Hopeなどのような世界のセレブ達が名を連ねています。
彼のフィギュアはそのシンプルさ、奇抜なリアクション、希少性から多くのコレクター達を魅了しています。
日本では、何度もKAWSと共に物作りをしてきた20年来の友人でNIGO®️もKAWSの作品を多く所有しており、2019年にサザビーズで開催された「NIGOLDENEYE® Vol. 1」と題したオークションでは、NIGO®️のコレクションのうちの1つの目玉商品として出品されたKAWSの「The KAWS Album」が約16億7千万円で落札されたことで話題となりました。
V(キム・テヒョン:BTS)
韓国の歌手であり、BTSのメンバーでもあるVことキム・テヒョンは、大のKAWS好きとして知られます。可愛らしいペットのヨンタンをKAWSのおもちゃで撮影したり、KAWSのフィギュアでいっぱいのソファでトランペットを演奏したりと、多くのVの投稿には『KAWSコレクター』のタグがさりげなくつけられています。
Vのコレクションには、以下が含まれます。
- KAWS Holiday UKビニールフィギュア グレー
- KAWS Holiday UKビニールフィギュア ブラック
- KAWS Holiday UKビニールフィギュア ブラウン
- KAWS ホリデー・スペース・フィギュア シルバー
- KAWS セサミストリート ユニクロぬいぐるみコンプリートボックスセット
- KAWS BFF ディオールぬいぐるみ ピンク
- KAWS BFF ディオールぬいぐるみ ブルー
- KAWS BFF ディオールぬいぐるみ ブラック
RM(BTS)
BTSのリーダーであり、新進のアートコレクターでもあるRMもまた、KAWSの熱烈なファンとして知られます。
RMが所有するKAWSフィギュアのコレクションには、以下のようなものがあります。
- ベアブリック カリモク×パオ・ローザ 400%フィギュア
- メディコム X KAWS
- ベアブリック 400% / BWWTジャパン カリモク
- ベアブリック×KAWS オリジナルフェイク×ネクサス7 カリモク400% 黒木
- オリジナルフェイク × Neighborhood Zooth Dogs(ホワイト&ブラック)(2個セット)
- KAWS ベープ解剖ベビー・マイロ フィギュア
ファレル・ウィリアムス
世界的に人気のあるシンガーソングライターのファレル・ウィリアムスは、これまでにKAWSとも何度かコラボレーションしているアーティストであり、KAWSの作品の有名なコレクターの一人です。
ドレイク(Drake)
ラッパーのドレイクは、自身の楽曲「Toosie Slide」のミュージックビデオで、他のアーティストの作品とともに、KAWSの作品のコレクションも登場させています。
このシーンでは、玄関に「KAWS Four Foot Dissected Companions」のペアが置かれています。これらは、2009年に発売され、当時6,000ドルからで販売されていましたが、現在では50,000ドルから100,000ドルの価格帯で取引されています。
KAWSの偽物を販売したオンラインストア『HOMELESS PENTHOUSE』
KAWSの作品は多くの現代アートコレクターから人気がありますが、偽造品には注意が必要です。
オンラインサイト『HOMELESS PENTHOUSE』は偽物である絵画、彫刻作品、フィギュア、ラグなど約160点をKAWSの公式商品として販売されていたとして、KAWSは2021年11月にその運営会社や関連企業数社を、商標権および著作権侵害で提訴しました。
世界中のコレクター達を欺いてきた同オンラインストア関係者に対して、その違法行為を終わらせるため、アーティスト自ら立ち上がったことで話題となりました。
KAWSは同オンラインストア関係者らに対し、約11億円の損害賠償および作品の販売差し止めを要求しました。
KAWSが現代アートに与えた影響
KAWSは、ファインアートとストリートアートの境界を曖昧にし、両者の融合を実現しました。彼の作品は、ストリートカルチャーから生まれたものでありながら、現代アートの領域でも高く評価されています。さらに、SNSを通じたファンとの交流や、若い世代に向けたメッセージ性の強い作品は、彼を特別な存在にしていると言えます。
現代のアートシーンにおいて、KAWSの存在は欠かせないものとなりつつあり、彼の作品は今後も多くのアーティストやクリエイターに影響を与え続けることでしょう。
まとめ
KAWSの作品は、インスタグラム上でも人気があり、#KAWSと検索すると158万件の投稿(2021年5月)が出てくるほど、世界的に知られる現代アーティストとしての立ち位置を確立していることがわかります。
ユニクロやディオールのような、カジュアルからハイエンドまで幅広いファッションブランドとのコラボレーションを通じてより多くのファンを増やし続け、巨大彫刻を用いたインパクトのあるインスタレーションをアジア各地で巡回させるなどのパフォーマンスも巧妙なKAWS。
時代のニーズにあった作品を輩出し続けることが、現代アーティストとして活躍する条件の一つでもあると思いました。
参考
The Evolution of KAWS’ Street Art Aesthetic | Brilliant Ideas Ep. 29 https://youtu.be/fPTntCQqXm4
Artpedia「カウズ / KAWSストリート・ファッションとアートの融合」https://www.artpedia.asia/kaws/
The Guardian「The 10 Most Expensive KAWS Works Ever Sold at Auction」https://www.artnews.com/list/art-news/artists/kaws-most-expensive-artworks-1234584753/kaws-untitled-kimpsons-2003/