経歴
森山大道(以下、森山)は、半世紀以上にわたって写真を撮りつづけており、世界的に評価されているフォトグラファーです。
1938年10月10日に大阪で生まれ、夜間高校を中退した後は、フリーランスのグラフィックデザイナーとして独立してキャリアをスタートした森山は、その後写真家として生きて行くことを決め、1961年より上京します。
写真の仕事以外にも広告や雑誌のデザインなどの仕事も手がけながら、写真家の岩宮武二や映像作家・写真家の細江英公のアシスタントを務めたのち、ストリート写真集の制作・出版をはじめました。
1967年には、日本写真批評家協会の新人賞を受賞し、写真家としての注目されるようになります。
自身でも『街頭スナップ写真家だ』と語る森山の写真作品は、モノクロではっきりとした光と影のような強いコントラストがと印象的です。
その作風が『アレ、ブレ、ボケ』と呼ばれるように、あえて写真の粒子が荒れていたり、激しくブレていたり、画像がボケていたりして、それが森山の写真に独特の深みを作っているように感じます。
森山の有名な作品である「三沢の犬」は2015年にロンドンの老舗オークションハウス・フィリップスで約300万円で落札されました。
現在も東京を拠点に活躍中の森山の作品は、ニューヨーク近代美術館、スイスのFotomuseum Wintherthur、パリのCentre Georges Pompidou、東京都写真美術館などで鑑賞することができます。
また森山は、写真家としてだけでなく大学教授としてフォトグラファーへの道を志す学生たちの教育にも貢献しているそうです。
野良犬の写真が有名!森山大道の代表作品
長いキャリアの中で数々の写真集を出版したり、世界中で展示会をしたりと活躍を続ける森山ですが、特に有名な代表作品をピックアップします。
「三沢の犬」
森山の代表作品として最も有名なこの作品は、「狩人」という写真集に収録されています。
森山は当時、朝日新聞社のカメラ雑誌「アサヒカメラ」の連載のため全国を旅しながら写真を撮ってました。
横須賀のような基地の街の雰囲気が好きだった森山は、昔からアメリカ軍基地があった青森県の三沢市へ連載のために立ち寄り、そこで撮影できたのが「三沢の犬」です。
色々な場所を巡る中で、その瞬間をスナップショットとして収めていくというのが、森山の写真家としてのスタイルでした。
三沢で偶然目の前に現れた野良犬の姿を収めた「三沢の犬」も、その偶然の瞬間の1つでしたが、その犬の佇まいが森山の写真家としての生き様と似ていて、セルフポートレートのようだとよく言われているようです。
「Untitled (Lips 16 Times)」
森山の作品は、どこかセクシーな印象を受けるものが多くあるように感じます。
中でも、唇を被写体として撮影した作品はアイコニックです。
新宿・ゴールデン街で2005年に開催されたアートイベント「GAW展 Part5」では、ただ額に入れて展示するのではなく、小さなバーの内側の壁一面を唇の写真で覆い尽くすインスタレーションを行ったことで話題になりました。
森山大道×ユニクロとのコラボティシャツUT
人気カジュアルブランドであるユニクロのTシャツプロジェクトであるUT。
UTでは森山大道とコラボレーションしたTシャツも販売され、名作である「野沢の犬」を始め、新宿を背景に自身の手を撮影した「手」など、森山大道らしさが溢れる作品がプリントされたコラボTシャツは人気を集めていました。
映画「過去はいつも新しく、未来は常に懐かしい 写真家 森山大道」
写真界のノーベル賞ともいわれることのある「ハッセルブラッド国際写真賞」の受賞を始め、世界で評価されている日本人写真家として知られる森山大道のドキュメンタリー映画「過去はいつも新しく、未来は常に懐かしい 写真家 森山大道」が2020年に上映されました。
これまで詳細な撮影手法やプライベートの姿などについてほとんど知られることがなかった森山の新たな一面や、写真の魅力に迫るため、森山のデビュー写真集だった「にっぽん劇場写真帖」の復刊プロジェクトに密着した内容です。
東京をメインの舞台として半世紀以上も取り続ける森山は、何を考えながら、どのように撮影をして数々の名作を生み出しているのかなど、その裏側に興味のある方にはオススメの映画です。
森山大道の有名な写真集・本
200冊以上の写真集を含む作品を世に出している森山大道。
変わらない独特のスタイルが生まれた軌跡や、森山が好んだ東京の街などそれぞれの写真集・本を通じて森山の世界観を楽しむことができます。
「にっぽん劇場写真帖」1968年
森山が写真家として注目されるきっかけとなった伝説のデビュー写真集が「にっぽん劇場写真帖」です。
それまでの写真の常識を覆し、森山独自のスタイル「アレ・ブレ・ボケ」が有名になったのもこの写真集が始まりでした。
当時の写真家の間では物議を醸したそうですが、多くの若者の指示を得て、一躍人気写真家の1人となりました。
現在この写真集は、コレクターの間で高額取引されており、とても貴重なものとなっているそうです。
また、森山は写真集で日本写真批評家協会新人賞を受賞しました。
「写真よさようなら」1972年
ピントが合っていなかったり、何が写っているのかわからなかったりと、「アレ・ブレ・ボケ」写真の極致が集められたこの写真集は、1972年森山が30代の時に出版されました。
当時の日本の写真界への反発とも言えるような大胆なアプローチの写真集で、批判も多く受けたようですが、同じく世界的に有名な写真家である荒木経惟からは『嫉妬した』と言われたそうです。
森山はこの写真集出版の後に、長いスランプに陥ったといわれています。
「サン・ルゥへの手紙」1990年
写真装置が誕生した土地であるサン・ルゥで撮影されたモノクロ数十点、それぞれの写真にタイトルと撮影地が記されて掲載されているのが「サン・ルゥへの手紙」です。
森山が、写真装置の起源となる地へ、『写真とはなにか』ということをしきりに考えながら報告するような気持ちで撮影されたもので、写真集というよりも手紙というような情緒的な印象を受け取ることができます。
「犬の記憶」2001年
「記憶」をテーマにしながら、世界的写真家の撮影の秘密を明らかにする自伝と写真論が語られた森山のフォト・エッセイ作品です。
カメラ雑誌・アサヒカメラでの連載をまとめたテキストと合わせて写真も多数収録されており、森山の写真に対する哲学にも触れられるためファンにはオススメの一冊です。
「新宿」2002年
森山が写真を撮影する現場として最も有名なのが新宿です。
人々の欲望が絶望的に絡み合い渦巻く独特な景色のある新宿に対して、森山は次のように語っています。
「ぼくの性格と新宿のそれが似ているんでしょうね。こう言っちゃ悪いけど、いかがわしいところとかね。だから、閑静な住宅街に行っても何も面白くない。2年くらい前にある街へ行ったときは、1枚しか撮れませんでしたから。それも無理して撮ったものです(笑)。いろいろな街へ行っても、結局は新宿に戻ってきてしまうんです。『飽きませんか?』ってよく聞かれるけど、飽きてないこともない(笑)。でも、しょうがないじゃないですか、目の前に新宿があるんだから。初めて大阪から上京して来て、新宿の東口に降り立ったときから、ずっとそんな気持ちがあるんです」
UT Magazine「写真家・森山大道さんとのダイアローグ」https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/feature/ut-magazine/s98/
東京・新宿の夜、街中の看板などが多く登場するこの写真集では、森山の視点から写された独特の世界観に触れることができます。
街の明るい一面だけでなく、リアルで暗くディープな姿も映し出している写真には見る者を惹き寄せる力を感じます。
「TOKYO」2020年
森山の最新の写真集は、2020年に出版された「TOKYO」です。
半世紀以上も新宿を中心に東京で写真を撮り続けてきた森山が、改めて東京の観光名所を3年間撮影し続け、ガイドブックを製作しました。
一流写真家が撮影した写真のガイドブックなんてかなり贅沢に感じますが、また違った視点で東京の街を歩くことができるかもしれません。
訪日予定の外国人の方へのギフトとしても素敵だと思います。
写真家・森山大道はどんなカメラを愛用している?
写真家といえば特殊で高額なカメラを愛用していそうですが、森山はスナップショットの撮影を専門としていることもあり、普段からコンパクトなカメラを使っていたり、使用するカメラにこだわりがないという点も森山の特徴です。
「もうずっとコンパクトカメラを使ってるけど、それがなくても撮りたかったら、どんなカメラでもいいから目の前にあるカメラで撮ります、たとえばそれが「写ルンです」でもポラロイドでも大型カメラでも 」
This is Media「森山大道とは?代表的な写真集や作風の特徴、最新映画について徹底解説!」https://media.thisisgallery.com/20216049
リコー GRシリーズ
写真が趣味の人々からの絶大な支持を集めるリコーのGRシリーズは、コンパクトながらもおしゃれなストリートスナップの撮影に向いているデジタルカメラです。
森山はリコーのGRシリーズを、フィルムカメラから高性能でコンパクトなカメラGR Ⅲまで愛用しているそうです。
小型、軽量であることが絶対条件であるストリートスナップ用のカメラとして、とても使いやすいと語っています。
森山大道の主な写真展・個展
森山は、フランス・パリのカルティエ現代美術財団や、アメリカのサンフランシスコ近代美術館などで個展のほか、世界中で大きな写真展を開催し、世界中のファンが足を運びました。
「森山大道展 Ⅰ.レトロスペクティヴ1965-2005/Ⅱ.ハワイ」2008年
東京都写真美術館で2008年に開催された「森山大道展 Ⅰ.レトロスペクティヴ1965-2005/Ⅱ.ハワイ」では、代表作品に加え、未発表の作品200点以上を展示しました。
ハワイの神秘的な自然と人々の日常生活を捉えた写真もこの展示会で発表されました。
「オン・ザ・ロード 森山大道写真展」2011年
2011年に大阪の国立国際美術館で開催された「オン・ザ・ロード 森山大道写真展」は、森山がカメラ雑誌デビューした1965年当時から2011年までの軌跡が、主な写真集10数冊の流れに合わせて展示されました。
400点以上の作品が展示され、モノクロ写真がほとんどを占める森山にしては珍しい、カラー写真も紹介されました。
「ウィリアム・クライン+森山大道」
イギリス・ロンドンを代表する現代美術館テート・モダンで2012年〜2013年にかけて開催された写真展「ウィリアム・クライン+森山大道」は、20世紀の重要な写真家・映画監督であるアメリカのウィリアム・クラインとの合同写真展です。
1950年代から2012年までの、希少なヴィンテージプリントや映画のスチール写真のほか、写真を使ったインスタレーション、アーカイブ資料など、総出品数約300点に及んだこの展示には、多くの現代美術ファンが足を運びました。
森山大道が撮影した芸能人・有名人の写真
森山は、数々の芸能人・有名人のポートレートも撮影してきました。
独特のスタイルを持つ森山の撮影した写真は、被写体の新たな一面を引き出していて、魅力的です。
藤圭子
歌手の宇多田ヒカルの母親で、演歌歌手として活躍した藤圭子。
1971年に撮影されたこの写真は、森山の写真集「Daido Moriyama /-color2-」に収録されています。
そのほかにも週刊プレイボーイなどの雑誌のグラビア撮影なども森山が手がけたことがあるようです。
宇多田ヒカル
藤圭子の娘で国民的歌手の宇多田ヒカルの19歳のポートレイト。
モノクロが映えて美しく、背景の選び方なども東京の街を撮り続けた森山ならではの画角のセンスを感じます。
菅田将暉
写真家・森山の姿を描いたドキュメンタリー映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」のオープニングナレーションを担当した俳優の菅田将暉(以下、菅田)。
菅田は学生時代から森山のファンで、東京・新宿ゴールデン街で2016年に開催された「あゝ、荒野」ポスターの撮影で初対面したそうです。
木村拓哉
2020年4月号の「ELLE Japon(エル・ジャポン)」では、元SMAPの木村拓哉ともコラボレーションしました。
森山も撮影やインスタレーションの場としてよく通った新宿ゴールデン街で撮影が行われたそうです。
森山大道のInstagramは?
森山のインスタグラムを確認してみると、2020年12月から写真が投稿され始め、現在も更新されていました。
モノクロ写真だけでなくカラーの写真も、これまでの作品のアーカイブのようになっており、気軽に森山の作品を作品を覗くことが出来ます。
まとめ
半世紀以上も写真と向き合い続けてきた森山の生き様や街のリアルを感じる写真には世界中の多くの人々が魅了されてきました。
大阪のアートホテル・ロックスターホテルで観てから、私も森山の独特の世界観に惹かれたファンの1人です。
写真自体もかっこいいのですが、生き方や写真への情熱を知るとその人間性も魅力的だと感じました。
80歳を過ぎた今でも、いつの時代もクリエイティブな若者から支持される表現力があり、瞬間を写真に収めた独自の世界観を持つ森山のスナップショットは、今後も色褪せないことでしょう。
参考
ほぼ日刊イトイ新聞「はじめての森山大道」https://www.1101.com/n/s/kotaro_iizawa/2021-04-09.html
GR「【SPECIAL】森山大道、銀座を撮る by GR Ⅲ」https://rentry.jp/note/ricohgriii/
映画「過去はいつも新しく、未来は常に懐かしい 写真家 森山大道」https://daido-documentary2020.com/
This is Media「森山大道とは?代表的な写真集や作風の特徴、最新映画について徹底解説!」https://media.thisisgallery.com/20216049
PHILLIPS「Daido Moriyama」 https://www.phillips.com/artist/2499/daid%C5%8D-moriyama
有名な写真集に収録されている作品などは高額になる傾向が高いようです。
ゼラチンシルバープリント、シルクスクリーンなどそれぞれ様々な印刷方法が用いられています。
※ゼラチンシルバープリントとは、日本語で銀塩写真と呼ばれているもので、19世紀末に発明され、今日でも普通に使われています。モノクロ・ネガフィルムから白黒写真の印画紙(感光材料を塗布した紙)に焼き付けるプリント技法です。(引用:Uno FOTO https://kyoto-muse.jp/shopping-guide/)