経歴
1969年、東京に生まれた五木田智央(以下、五木田)は、小学校の頃から雑誌に自分のイラストを投稿し始め、高校時代には友人の依頼や母親のジャズバーの客であった編集者からデザインの仕事をバイト感覚で受け始めたそうです。
1988年に美術学校に入学しましたが2年後に学校を中退し、グラフィックデザイナーとしてナイトクラブのチラシや、ミュージシャンのCDのカバーなどの商業デザインを手がけ、特にファッションや音楽業界から注目を集めました。
1960年代と70年代の日本とアメリカのサブカルチャーに触発された作品は、日本の音楽とファッション業界で人気を博しました。
忌野清志郎やTEI TOWAなどの有名アーティストのアルバムジャケットなどもデザインしたことで知られています。
しかし、デザイナー職に息苦しさを感じ、メキシコやインドを旅をした後、五木田は1990年代後半頃から画家へと転向しました。
初期のアート制作は、ヴィンテージ雑誌、映画の静止画、ポストカードなどからインスピレーションを受け、「ランジェリー・レスリング」(2000)を出版。これ以降、海外のギャラリーや個展から声をかけられるようになりました。
1990年代後半からの作品は、主に木炭と墨で制作されました。
ダンサー、レスラー、スターレット、新婚夫婦、ポルノスター、美術史の人物をモデルにしています。白黒のグラデーションが美しく、ミステリアスな雰囲気を醸し出す作品は、特に人気が高いです。
「なぜ白黒なのか?」や「なぜ顔がないのか?」とよく聞かれるのですが、私の作品にはコンセプトなんてないんです。これから先どうなるかも分かりません。
と話しており、彫刻や他の手法の絵画など新しい手法に挑戦しています。
五木田の作品は、作風によって価格帯が様々であるようです。
五木田が世界的に有名になったきっかけはメアリー・ブーンの目に留まったからだと言われています。
2000年に五木田は初の作品集『ランジェリー・レスリング』を出版し、それ以降、海外のギャラリーや展覧会から声をかけられる。それらを積み重ねていた彼だが、あるとき大きな転機が来る。今は有名になった話なのだが、それはこんな具合だ。
アーティストのKAWSの家にニューヨークの有名ギャラリスト、メアリー・ブーンが遊びに来たとき、壁に飾ってあった1枚のペインティングに目が留まり、それを指して聞いた。「これ、誰の絵?」。KAWSは答える。「知らないのかい? 日本人のだよ」。
Fobes JAPAN
メアリー・ブーンは新表現主義、ニュー・ペインティングのムーヴメントを最先端で牽引してきた伝説のギャラリストです。このようにして、五木田の作品は世界で人気を持つようになりました。
五木田智央の作品例
人物の顔を描かず具象的なモチーフと抽象的な表現をうまく融合させた白黒を基調としたミステリアスな雰囲気の五木田の作品は、国内外の個展などを通じてアートコレクターからも注目を集め続けています。
アイコニックな五木田の作品の例をいくつかチェックしてみましょう。
「How to Marry a Millionaire」2015年
「Old Portrait」2016年
「記念撮影」2017年
「妖怪のような植物」2017年
「Wrestling Playmates」2021年
五木田智央の作品集・本
五木田は、作品集などの書籍も多く出版しています。
作品集「ランジェリー・レスリング」2000年
「ランジェリー・レスリング」は、サブカルチャーやアンダーグラウンドの雑誌、趣味のプロレスなどからインスピレーションを得て、木炭やインクで描いた300点あまりのドローイング作品が詰まった作品集です。
刊行された時の定価は、かなり分厚くボリュームのある内容だったのにも関わらずで税抜1600円という破格だったらしく、現在ではなかなか手に入らないそうです。
「シャッフル鉄道唱歌」2010年
2010年に出版された「シャッフル鉄道唱歌」は、五木田による唱歌集で、鉄道にまつわる文を”シャッフル”して生まれた唱歌80本と、唱歌から着想を得た書き下ろしドローイング24点で構成されています。
アーティスト五木田智央の新しい一面を垣間見ることができる、独特の世界観の作品です。
「777」2015年
「777」には、2006年から2015年までに描かれた五木田の777点のドローイング作品が掲載されています。
イラストのようなドローイング作品から人物画・抽象画など、1ページに1つずつ作品が掲載されており、ボリュームのある本作品集では、五木田の作品の世界観をじっくりと味わうことができます。
「Holy Cow」2017年
「Holy Cow」は、2017年に五木田が所属するタカ・イシイギャラリーで開催された同名の個展「Holy Cow」の際に刊行された作品集です。
特徴的な顔のない人物のポートレイトや、目玉や舌のある植物などを題材とした、強烈な印象を残す作品で構成されています。
五木田智央のポスターはどこで購入できる?
五木田の作品のポスターは、ギャラリーショップや個展などのイベント時のほかにも、オンラインアートショップなどで購入することができるようです。
価格はだいたい2〜4万円前後と手頃な価格となっているため、インテリアとして自宅などに飾るファンも多いのではないでしょうか。
最近開催された五木田智央の展覧会・個展
五木田はここ数年でも国内外での展覧会・個展を開催し、積極的に作品を発表しています。
展覧会「五木田智央 PEEKABOO」
2018年4月14日〜6月24日に、東京オペラシティ アートギャラリーにて、展覧会「五木田智央 PEEKABOO」が開催されました。
「五木田智央 PEEKABOO」では、大規模なインスタレーションを含めて約40点の作品が展示されました。展示作品のうち約半分は新作としてこの展示会で初めて発表されたものでした。
新作の数々は、2ヶ月弱という短期間で土日も休みなく作業をして描き上げたそうです。
個展「MOO」2020年
2020年8月28日から9月26日まで、タカ・イシイギャラリーで個展「MOO」が開催されました。
五木田の個展は、タカ・イシイギャラリーでは3年ぶりに行われ、本展が5回目の開催となりました。
これまで白黒をベースとした作品がアイコニックだった五木田ですが、この個展では、キャンバスにカラーのアクリル絵の具とパステルで制作したカラーのペインティング作品を国内で初めて発表しました。
個展「Get Down」2021年
2021年6月12日〜8月22日にアメリカ・テキサスの現代美術館、ダラス・コンテンポラリーで五木田の北米で初となった美術館での個展「Get Down」が開催されました。
この個展では、新型コロナウイルスによるロックダウンの最中に制作された未公開作品なども発表されたそうです。
ピンナップモデルや女子レスラー、家族の肖像、ソーシャルディスタンスを保つ人々やドナルド・トランプ前大統領などの様々なモチーフを描いたパステルカラーのカラフルな作品で、これまでの五木田の作品のイメージに固執せず、新しい印象を受ける作品が多く見られました。
五木田智央のコラボ商品
五木田智央のコラボ商品は人気を集め、ファッション業界でも話題になりました。
TOGA(トーガ)
個性的でエッジの効いたファッションを好む層から人気を集める日本のファッションブランド「トーガ(TOGA)」は、2021年〜2022年の秋冬コレクションにて五木田のアーカイブ作品を起用してコラボレーションしたカプセルコレクション「TOGA × Tomoo Gokita(トーガ × トモオ ゴキタ)」を発表しました。
商品ラインナップはコートやジャケット、バッグ、スカーフなどで全14型と幅広く、トーガ直営各店と公式オンラインストアで販売されました。
ユニクロUT
五木田は2007年〜2008年ごろには、ユニクロのTシャツプロジェクトUTともコラボレーションTシャツを発表していました。
ポップなTシャツは、今でもネットオークションなどで販売されているようです。
まとめ
五木田の絵画は、インスタグラムでアジア人の目に留まったことで価格が高騰したと言われています。
2016年は1点の出品で115万円での落札だったが、2017年においては平均落札価格が816万円に急上昇し、2018年は1000万円を超えてきました。
そして、現在は2000万円から3000万円程でオークションで落札されます。今後も、さらなる価格高騰が見込めるアーティストです。
参考
QUICK MONEY WORLD「【Art Market Review】五木田智央、抽象的な大型作品が内外で人気」https://moneyworld.jp/news/06_00016660_news
HillsLife「Holy Cow「五木田智央」はいかに発見されたのか?」https://hillslife.jp/art/2017/04/06/holy-cow/
Fobes JAPAN「作品にコンセプトなんてない アーティスト五木田智央が語る自身のスタイル」https://forbesjapan.com/articles/detail/25977
美術手帖「五木田智央の北米での初美術館個展。「Get Down」がダラス・コンテンポラリーで開催へ」https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/24061