鈴木ヒラクの経歴

鈴木ヒラク(以下、鈴木)は、1978年に宮城県仙台市生まれた神奈川県出身の現代美術家です。
鈴木は、ドローイングと言語の関係性をテーマに、平面・彫刻・映像・インスタレーション・パフォーマンスなど多岐にわたるジャンルの作品で国際的に活躍しています。
2001年に武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業、2008年に東京芸術大学大学院美術研究科を修了しました。
その後は、文化財団などの助成を受けたり、美術振興財団の在外研修員として派遣されたりして、シドニー、サンパウロ、ロンドン、ニューヨーク、ベルリンなどの世界各地で滞在して創作活動を行ってきました。

2016年からは、ドローイングの新たな研究・対話・実践のための実験室として、それらを記録・共有するために構想されたプラットフォーム「Drawing Tube(ドローイング・チューブ)」を主催しています。
ドローイングと一言に表しても、平面に描くいわゆるドローイングに限らず、『宇宙におけるあらゆる線的な事象を対象として、空間や時間に新しい線を生成していく、あるいは潜在している線を発見していく過程そのもの』も含めてドローイングとして捉えているそうです。
例えば、ダンスは空間へのドローイング、音楽は時間へのドローイング、写真は光のドローイングとして捉えることができます。
2017年には、パリにて開催されたFID Prize インターナショナル・ドローイング・コンテストにて、グランプリを受賞しています。
鈴木は、これまでに音楽家や文化人類学者など他のアーティストや専門家たちともセッションを数多く行ったり、ファッションブランドとのコラボレーション商品などもローンチしてきたことでも知られています。
鈴木自身も高校時代から好きでバンドに参加したりサウンド・クリエーターとして制作活動をしていた流れから、音楽を通してアートや映画を知る機会があったことがきっかけとなり、実験映像作品にのめり込むようになったと語っています。
鈴木ヒラクの代表作品
「文字の部屋」

「文字の部屋」2013年にインドのダハヌで開催されたWall Art Festival in Warliで展示された作品です。
象形文字をイメージさせるような文字のドローイングが室内のいたるところに描かれています。
「GENZO」

2014年描かれているシリーズである「GENZO」は、真っ暗なトンネルの中で、黒い紙とシルバースプレーによって何も見えない状態で瞬発的に描かれたドローイング作品です。
暗室でネガフィルムを現像する写真の工程とも似ていることから、タイトルの「GENZO」は、写真の現像から由来している他、幻像や原像という意味合いも含んでいるといいます。
「発掘された反射」(砂時計)

鈴木の彫刻作品も、空間を活用した表現が印象的な作品ばかりです。
彫刻作品の制作においては、物質と現象、過去と未来、内と外、ネガとポジといった2つの項の反転、あるいはそれらの再接続についての考察を交えて表現されているそうです。
「bactoria sign(バクテリア・サイン)」

「bactoria sign(バクテリア・サイン)」シリーズは、パネル上に敷いた土に、枯葉を埋め込み、一度土で覆った後に葉脈による線を掻き起こして描かれた、まるで化石の発掘かのようなドローイング作品です。
考古学的なプロセスを経て制作された作品が多いのも、鈴木の作品の興味深いところです。
鈴木ヒラクのブランドコラボ商品
COMME des GARÇONS(コム・デ・ギャルソン)× 鈴木ヒラク

鈴木は、日本を代表するブランドであるコム・デ・ギャルソンのファッションデザイナー 川久保 玲にその才能を見出され、コラボレーションしたことでも話題になりました。
コム・デ・ギャルソン北京店の内装を担当した他に、青山、京都、ロンドン、ソウル、香港、北京の直営6店舗にて同時にコラボレーションを展開しました。
agnes b(アニエス・ベー)× 鈴木ヒラク

2005年にアニエス・ベーのアニエスが日本を訪れた際に、鈴木の作品に出会ったことから、1000人以上のゲストが出席するファッションショーの夜のライブパフォーマンスを依頼したのが、ブランドと鈴木の関係性がスタートしたきっかけとなったそうです。
2006年にはアニエス・ベーの日本進出25周年を記念したコレクターズ・バッグを制作するなどとコラボレーションを重ねてきました。
そして2021年には、鈴木のドローイングがプリントされたパーカー、Tシャツ、スウェットシャツやバッグなどが販売されました。
鈴木ヒラクの作品を鑑賞できる場所は?
鈴木は、これまでに石川県の金沢21世紀美術館、東京の森美術館や東京都現代美術館などの日本国内の有名な現代美術館のほか、ポーランドのヴロツワフ建築美術館や中国の銀川現代美術館のような海外の美術館で行われた展覧会にも参加してきました。
最近では、2022年1月21日から2月7日に東京渋谷のPARCO 4FにあるPARCO MUSEUM TOKYOにて、村山悟郎/やんツーと共同での展覧会「Drawings – Plurality」 複数性へと向かうドローイング <記号、有機体、機械>展が開催されていました。
参加中、参加予定の展覧会
「N/world」

現在は、京都のMtK Contemporary Artにて、2022年3月3日(木)~4月3日(日)グループ展「N/world」に参加しています。
会場であるMtK Contemporary Artの設立1周年を記念したこの展示会では、コロナウイルスによって歴史の変わり目かのように大きく変わった世の中の在り方を捉え直すことをテーマに、鈴木ヒラクや名和晃平など14名のアーティストがそれぞれのメディアをとして作品を出品しています。
「MOTコレクション 光みつる庭/途切れないささやき」

光みつる庭/途切れないささやき」 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-220319/
京都現代美術館のコレクション展示室の1F/3Fにて、2022年3月19日から6月19日まで開催される展覧会「MOTコレクション 光みつる庭/途切れないささやき」にも鈴木の作品が展示される予定です。
東京都現代美術館では、戦後美術を中心とした近代から現代に至る約5,500点の作品を収蔵しており、「MOTコレクション」展では、様々な切口で作品を展示し、現代美術の持つ魅力を発信しています。
鈴木が参加する今回の「MOTコレクション光 みつる庭/途切れないささやき」では、2部構成で絵画や版画作品など多彩な作品が展示されます。
鈴木ヒラクの著書
「GENGA」

鈴木ヒラク初のドローイング集「GENGA」は、6年かけて描いた線画を一挙に収録した一冊です。
厚さ6cmの文庫本に数千枚のドローイングを収録した本書は、解読されていない言語の辞書のように感じられます。
「SILVER MARKER―Drawing as Excavating」

「SILVER MARKER―Drawing as Excavating」は、鈴木ヒラクの2010年から2019年までの10年間にわたるドローイングの軌跡を収めた作品集です。
銀のマーカーとスプレーで描かれた平面作品や壁画などの作品が200点以上が、考古学・文化人類学・美術の分野からの寄稿文と合わせて掲載されています。
まとめ
『土から過去の遺物の断片を掘り起こすように、白い紙からペンを使用し、架空の過去の遺物を掘り起こす感覚で描く』という鈴木ヒラク氏の作品は、様々な形で表現され、観る者に多様なイメージを想起させます。
ドローイングの可能性を自身の創作活動や他のアーティスト、ブランド、専門家とのコラボレーションを通して様々な形で開拓する現代アーティスト鈴木ヒラク氏の作品に今後も注目していきたいです。
参考
鈴木ヒラク http://hirakusuzuki.com/
オーディオテクニカ「ドローイングで光の粒子を発掘する。鈴木ヒラクの考える音と光の関係とは」https://www.audio-technica.co.jp/always-listening/articles/hiraku-suzuki/
美術手帖「鈴木ヒラク」https://bijutsutecho.com/artists/48
