Chim↑Pom(チン↑ポム)とは
Chim↑Pom(チン↑ポム)は、2005年8月にアーティストの会田誠を通して知り合った6人のメンバーにより東京で結成。東京で結成されたアート・コレクティブ(複数のアーティストが集まり協働する形態)です。映像作品やインスタレーションなどの作品を中心に、社会問題に大胆に切り込んだ作品を発表してきました。
メンバーのうち美術大学を卒業したのはエリイだけで、他のメンバーは正規の美術教育を受けずに、自分たちで表現技術を身につけたアーティストであることからも、その個性豊かなメンバー構成が想像できるでしょう。
メンバーはエリイ、卯城竜太、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求の6人で、2008年に会田誠がアメリカ・サンフランシスコで開催した個展の会場の一部で作品を展示した際に、アート界にデビューしました。
「Chim↑Pom」の名前の由来について、メンバーのエリイは次のように語っています。
「恥ずかしくて普通の人が言えないじゃないですか。女の人がチンポムって言ったらその瞬間にみんなクスクスってなる。それが面白くてつけた」
参考:“Chim↑Pom エリイが見る世界”.DESIGN STORIES.2017-08-12.https://www.designstoriesinc.com/special/interview_ellie1/,(参照2022-02-28)
社会問題に鋭く食い込み、型にとらわれない大胆な表現方法で強いメッセージを発信してきたChim↑Pomは、時には論争や批判を巻き起こしましたがそうした中で知名度も上がり、美術界での評価も高まってきました。
2010年には、アジアの若手現代アーティストのコンテストである「Asia Art Award」の日本代表に選ばれています。
またその年には国際美術展サンパウロ・ビエンナーレにも参加しました。
Chim↑Pomのメンバー
エリイ
Chim↑Pomのフロントウーマンであるエリイは、幼稚園から高校までキリスト教の女子校に通っていました。2001年、エリイは高校在学中に、美術の授業で横浜トリエンナーレを訪れた際に会田誠や塩田千春を含む現代アーティストの作品を鑑賞し、大きな衝撃を受けたといいます。
その影響から武蔵野美術大学に入学したエリイは、在学中にChim↑Pomを結成しました。
2014年に歌舞伎町のホスト、経営者である手塚真輝と結婚し、結婚披露パーティーの後には新宿でデモ行進「LOVE IS OVER」を行い、話題になりました。
写真は、2002年に雑誌「AERA」で子供を抱いたエリイが表紙に掲載されたものです。
卯城竜太
卯城竜太(うしろりゅうた)は、Chim↑Pomの元リーダーで、1977年生まれの東京都出身のアーティストです。異質同士が集まった各メンバー間で食い違う意見をまとめることが難しくなったことから、2018年にChim↑Pomのリーダーを辞め、現在はいちメンバーとして活動しています。
自身も恵まれない環境で育ったという卯城は、『社会正義』や『弱者救済』といったテーマについても自然と自身の育ちの中から体験してきた社会問題へのメッセージとして持って育ってきたそうです。
高校を中退し、その後、会田誠の現代美術演習講座「バラバラアートクラス」に参加しました。そのつながりから、会田誠のサンフランシスコでの個展に参加することでChim↑Pomはアート界でデビューすることとなります。
林靖高
Chim↑Pomのメンバーである林靖高(はやしやすたか)は、東京をベースとして多様なジャンルのアート表現活動を行っています。
Chim↑Pomとしての活動の他にも、美術誌の監修や展覧会キュレーションにも関わっています。
2015年には、Prudential Eye AwardsでEmerging Artist of the Year、デジタル・ビデオ部門の最優秀賞を受賞しました。
水野俊紀、岡田将孝、稲岡求
Chim↑Pomのメンバーである水野俊紀(みずのとしき)、岡田将孝(おかだまさたか)、稲岡求(いなおかもとむ)は、上記で紹介したメンバーに比べてメディアの露出が少ないようです。それぞれのメンバーについての情報をいくつか紹介します。
水野俊紀は、2013年に、Chim↑Pomが広島で開催した「広島!!!!!」展がきっかけとなり、展示のサポートを行った当時TAとして大学で働いていた久保寛子と結婚しています。
岡田将孝は、Chim↑Pom結成当時には葬儀屋のバイトをしていたそうです。
インスタレーション「making of the即身仏」で、稲岡求は、展示期間中断食を続けるパフォーマンスを行いました。
Chim↑Pomの作品例
「スーパーラット」2006年
「スーパーラット」は、街で増え続けるネズミを捕獲して、剥製にし、人気アニメであるポケットモンスターのキャラクター、ピカチュウのように着色して夜の東京の街をバックにしたジオラマ作品です。
作品のタイトルは、駆除剤への抗体を持っているネズミのことを表す造語である「スーパーラット」からきています。
どんな環境下でも図太く生き残り、進化し続けるアーティストの姿を「スーパーラット」として表現しているそうです。
「ヒロシマの空をピカッとさせる」2009年
「ヒロシマの空をピカッとさせる」は、2009年に広島県の原爆ドーム上空に自らチャーターした飛行機により飛行機雲を作り『ピカッ』と描いた作品です。
当時、この作品は被爆者や広島市民などを中心に『原爆の悲劇を強く思い出させる』『被爆者の感情を傷つけた』などと非難され、ネット上でも炎上し、注目されました。
最終的には、謝罪会見も行われるような事態になりました。
広島市現代美術館ミュージアムスタジオでは、その後Chim↑Pomの個展が開催予定でしたが、この騒動により中止となりました。
「気合い100連発」2011年
2011年に制作されたパフォーマンス・映像作品「気合い100連発」は、東日本大震災から約2カ月後の2011年5月に撮影された作品で、福島県相馬市にボランティアに入っていたChim↑Pomのメンバーと、地元の若者6人が、1人10回『気合いを入れるために叫ぶ』という内容です。
『復興頑張るぞ!』からスタートし、『日本最高!』『福島最高!』『原発ふざけんな!』などとそれぞれが思いを叫んでいく様子が淡々と撮影されています。
その中で、『放射能最高!』と叫んだ参加者がいたことから、大きな批判を受けました。中には、『反日的な言葉が隠されているのでは』という誤情報も広まったようです。
「LOVE IS OVER」2014年
「LOVE IS OVER」は2014年にエリイの結婚披露パーティーとして行われた『結婚デモ』で、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの「WAR IS OVER!」にちなんで名付けられました。
歌舞伎町の風林会館で朝まで披露宴としてどんちゃん騒ぎをして、翌朝から警察の監視下で街頭デモ行い、新宿歌舞伎町から西新宿にあるパブリック・アート「LOVE」までを練り歩きました。
篠山紀信とレスリー・キーが撮影を担当という豪華な結婚パレードで、話題になりました。
展覧会「Don’t Follow the Wind」
Chim↑Pomの作品や個展は、たびたび物議を醸したり、その予想外で大胆な表現から、大きな話題を呼んできました。
展覧会「Don’t Follow the Wind」は、2015年3月に東京電力福島第一原子力発電所の事故によって帰還困難区域に指定された地域を会場として、開催されました。
世界のアーティストに参加を呼びかけて集まった作品は帰還困難区域内に展示され、事故が完全に収束する日まで、それらを見ることはできません。
福島第一原子力発電所の事故の被害の大きさや影響を、世界に新しい形で伝えることにつながったインパクトのある展覧会として、Chim↑Pomは更に注目を集めるようになりました。
明日の神話事件
2011年、渋谷駅にある岡本太郎の壁画「明日の神話」に、Chim↑Pomのメンバーが無断で原子力発電所事故を想起させる絵「LEVEL7 feat.明日の神話」をゲリラで貼り付けたことから、書類送検されるという事件がありました。
とはいえ、この行為は『芸術の文脈から行われた』として、Chim↑Pomは岡本太郎記念館館長である平野暁臣からも非難されることはありませんでした。
2013年には岡本太郎記念館とChim↑Pomの合同展が開催されました。
まとめ
Chim↑Pomは、現代の日本の中でも特に目立っている、大胆な表現で社会問題を鋭く指摘するメッセージを発信するアート・コレクティブです。
作品の意図するメッセージを読み取り、提起されている問題について自分なりに考えてみるという作品の見方は、現代アートを理解し、味わう上で鍵となりますが、Chim↑Pomの作品は、過激ながらもストレートに刺さるメッセージで、比較的わかりやすいのではないかと思います。
『社会の体現者』として活動するChim↑Pomのこれからの作品や展覧会にも注目しておきたいです。
参考
Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/Chim%E2%86%91Pom
Chim Pom http://chimpom.jp/
画像引用元:https://adv.asahi.com/series/interview/12167682 https://numero.jp/culture-20140815-ellie/