ウィリアム・ターナーの経歴
イギリスのロマン派画家の先駆者として知られるウィリアム・ターナー(William Turner)は1775年4月23日、イギリス・ロンドンのコヴェント・ガーデンに生まれました。フルネームは、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーです。
幼少期を、母親が精神疾患を抱える中で過ごしたターナーは、学校にほとんど通わず、風景画家のトーマス・モルトンに弟子入りして、画家としての基礎を学んだといいます。
1799年に24歳でロイヤル・アカデミー準会員となり、その後は有力なパトロンに支えられて、風景画の分野で順調にキャリアを積み上げていきます。
主にターナーの作品は、美しいな風景や海岸の景色にインスピレーションを見出して描かれました。ターナーの作品で有名なのは、なんといっても自然の一瞬の姿をキャンバスに写し取る高いスキルによって描かれた風景画の数々でしょう。ターナーの描く光の戯れ、嵐の海のドラマチックな様子、風景の幽玄な美しさは、伝統的な芸術界の常識や限界を超えて、自然の崇高さを大胆に感情的に表現しています。
1819年のイタリア旅行がターナーにとって転機となったそうです。イタリアの明るい陽光や色彩に魅了され、特にヴェネツィアを気に入ったターナーは、この旅行後に大気と光の効果に焦点を当てた、抽象的なスタイルで絵を描くようになったようです。
アカデミーでの生活や、ヴェネツィアやスイス・アルプスを訪れるなどヨーロッパを旅したことは、彼の絵画のスタイルに大きな影響を与えました。
ターナーの画風は、生涯を通じて5回から7回の転換があり、その度に風景画はさらに進化します。卓越した技術力やセンスで芸術の限界を押し広げ、自然の生み出す儚い美しさを描いたターナーは、美術界でも高く評価されています。
生前、主要作品をイギリス国家に遺贈しており、そのおかげもあって現在ではロンドンのナショナルギャラリーやテート・ギャラリーで多くの作品を鑑賞することができます。
ウィリアム・ターナーの有名な作品例
「解体されるために最後の船着き場まで曳航される戦闘艦テメレール号」1839年
ターナーからロンドンのナショナル・ギャラリーに遺贈さ、現在も展示されているこの象徴的な作品は、2005年にBBCラジオの番組内で行われた投票にて、イギリス国内で最も人気のある絵画に選ばれたものです。
トラファルガーの戦いで活躍した最後の2等戦列艦の一つである「テメレーア」が、退役後の1838年に解体されるためにロザーハイズにある最後の停泊地に向かって、テムズ川をタグボートで曳航される痛ましい瞬間を描いています。
儚い様子が伝わってくる、時代の終わりを象徴する絵として知られています。
「奴隷船」1840年
現在では「奴隷船」という名称で一般的に知られている本作品は、1840年にロイヤル・アカデミー展に出品された当時のタイトルは「死者や重病患者を海中投棄する奴隷商人―台風の襲来」でした。
当時行われていた奴隷貿易において、航海の途中で奴隷が死亡した場合は保険でカバーされるのに、病人の場合は保険適応外となるという事情があった背景から、死亡した奴隷と共に病人も海に投げ捨てた商人が出現し、物議を醸しました。
奴隷貿易の非人道的な歴史の中の闇を描いた作品として、強いメッセージ性を持っています。
本作品は現在、ボストン美術館に展示されています。
「雨、蒸気、速度―グレート・ウェスタン鉄道」1844年
「雨、蒸気、速度―グレート・ウェスタン鉄道」は、ナショナル・ギャラリーに展示されるターナーの傑作の一つとして知られています。
雨が横殴りに降り、霧が一面に立ちこめる中で、テムズ川に架かる鉄道橋の上を猛スピードで走るグレート・ウェスタン鉄道の黒色の蒸気機関車を描いた本作品には、極端な遠近法が見られます。
実際には見えない位置にあるはずのボイラーの赤色の火を描き、エンジンの力強さを強調した本作品は、輝かしい産業革命の時代を象徴するような様子が描かれています。
ウィリアム・ターナーの作品を鑑賞できる美術館
テート・ブリテンをはじめとする美術館に足を運べば、ウィリアム・ターナーの作品の素晴らしさを肌で感じることができます。ターナーの作品を収蔵する代表的な美術館を4つ紹介します。
テート・ブリテン(ロンドン)
ターナー作品の膨大なコレクションを所蔵するイギリス・ロンドンにあるテート・ブリテンでは、ターナーの画家としての変遷をたどることができます。
テート・ブリテン(Tate Britain)
https://www.tate.org.uk/visit/tate-britain
住所:Millbank, London SW1P 4RG
開館日:月曜日から日曜日 10:00–18:00
公式サイト:https://www.tate.org.uk/visit/tate-britain
収蔵作品の例
- 「雨と蒸気とスピード – グレート・ウェスタン鉄道」1844年
- 「カルタゴ帝国の衰退」1817年
- 「貴族院と下院の焼失」1835年
- 「雪の嵐: 港口沖の蒸気船」 1842年
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
イギリス・ロンドンにあるナショナル・ギャラリーでは、ターナーの象徴的な作品であり、時代の終わりを象徴する「最後の船着場に引きずり込まれ、解体されるテメレール号」を鑑賞することができます。
収蔵作品の例
- 「解体されるためラストバースまで曳航されたファイティング・テメレール号」1839年
- 「太陽に立つ天使 」1846年頃
- 「カルタゴを築くディド、あるいはカルタゴ帝国の興隆」1815年
- 「スタッファ、フィンガルの洞窟」1832年
ナショナル・ギャラリー
https://www.nationalgallery.org.uk/
住所:Trafalgar Square, London WC2N 5DN
開館時間:10:00~18:00
公式サイト:https://www.nationalgallery.org.uk/
ボストン美術館
アメリカのボストン美術館には、奴隷貿易の過酷な現実を描いた作品「奴隷船」が展示されています。
収蔵作品の例
- 「奴隷船」 1840年
- 「奴隷船(死者を海に投げ捨てる奴隷商人たち、台風襲来)」 1840年
- 「雪の嵐: 港口沖の蒸気船」1842年
- 「浅瀬の蒸気船に警告するロケットと青灯(手近に)」1840年
ボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston)
https://www.mfa.org/
住所:465 Huntington Ave Boston, MA 02115
開館日:火曜日以外の10 am–5 pm
公式サイト:https://www.mfa.org/
まとめ
ウィリアム・ターナーは18世紀末から19世紀初頭のイギリスの風景画家です。イタリア旅行をきっかけに大気と光に焦点を当てた抽象的な作風へと変化しました。
ターナーの作品はイギリスのナショナルギャラリーやテート・ギャラリーに収蔵されており、彼の風景画の進化や多様性を見ることができます。イギリスに行く機会があったら、必ずチェックしてみてください。
参考
Wikipedia ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
画像引用元:https://www.nationalgallery.org.uk/paintings/joseph-mallord-william-turner-dutch-boats-in-a-gale-the-bridgewater-sea-piece https://www.tatler.com/article/british-museum-turner-nfts-auction-lacollection