経歴
1948年、東京生まれ。立教大学で社会学と政治学の学士号を取得しました。その後、ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学び、学位を取得した後は、カリフォルニアやヨーロッパを放浪しました。
1974年にアメリカ・ニューヨーク市に移り、自然史博物館内の展示物を撮影し、「ジオラマ」と名付けました。ニューヨーク州政府やグッゲンハイム美術館などから奨学金を獲得し、活動を続けていました。
1978年より始まった「劇場」シリーズでは映画館とドライブインを撮影しました。1980年代にスタートした「海景」シリーズは、日本をはじめ世界各地の海を同じ構図で撮り続けています。特に「海景」シリーズは、杉本博司の代表作となり、国内外より支持を集めています。
1995年には、三十三間堂の千手観音群像を撮った「仏の海」を発表しました。人工的なライティングは一切施さず、東から昇る朝日を使って撮影しています。
建築の分野では、2008年に複合文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を設立しました。
また、演出と空間を手掛けた『At the Hawkʼs Well / 鷹の井戸』を2019年秋にパリ・オペラ座にて上演したり、『苔のむすまで』、『現な像』、『アートの起源』などを執筆したり、写真家意外にも様々な場での活躍が見られます。
杉本博司の代表作品
海景
代表作「海景」の価格は数千万以上!
「海景」の価格は、2018年パリで行われた単独オークションで、大きさ119.2 x 148.5 cmの作品“Sea of Japan, Rebun Island, 1996”が約3997万円で落札されています。同じシリーズの“Bass Strait, Table Cape,1997”も、約3529万円で落札されました。
日本で一番オリジナルプリントが高い写真家とも言われています。そもそも写真は複製しやすいので油絵や西洋画より値段が安く設定されます。森山大道や荒木経惟のプリントが200万〜500万で取引されており、日本だけでなく有名オークションにて数千万円の価格がつく杉本は頭一つ突き抜けた存在感ですね。
「海景」についての解説
1980年代にスタートした「海景」シリーズ。日本をはじめ世界各地の海を同じ構図で撮り続けています。特に「海景」シリーズは、杉本博司の代表作となり、国内外より支持を集めています。
海景は杉本の子供の頃の記憶から着想されたものだそうです。
子供の頃、旧東海道線を走る湘南電車から見た海景が、私の人としての最初の記憶だからだ。熱海から小田原へ向かう列車が眼鏡トンネルを抜けると、目の醒めるような鋭利な水平線を持って、大海原が広がっていた。その時私は気がついたのだ、「私がいる」ということを。
引用:https://www.odawara-af.com/ja/enoura/
杉本は「私たちの記憶の中にある海」を求めて、世界中の水平線を撮影しています。このシリーズの写真はすべて、空と海が分かれており無限を感じさせます。杉本が撮影する海は、特定のものではなく、記憶の中にゆっくりと浮かび上がってくる普遍的な海のイメージです。遠い過去を含めて遡る人間の意識の原点を意識させているそうです。
仏の海
私の好きな作品は、「仏の海」。この作品は、京都の三十三間堂に安置されている仏像を撮影したものです。1988年に構想され、杉本から撮影依頼を出しますが、何度も断られて1995年に実現した作品です。
杉本の光、歴史、時間への関心を表現しています。白黒作品ではありますが朝日を浴びた仏像が美しく心を奪われてしまいます。
ジオラマ
杉本は1974年にアメリカ・ニューヨーク市で活動し、アメリカ自然史博物館内の展示物を撮影し、「ジオラマ」と名付けました。
ニューヨークのMOMA美術館には毎週木曜日にアーティストが作品を持ち込み、キュレーターからコメントをもらえるシステムがあり、杉本はキュレーターのジョン・シャーカフスキーに「ジオラマ」の1作品を250ドルで作品を買い取ってもらいました。
杉本は、ジオラマの魅力を「失われた自然のコレクション」と表現しています。いつかは失われてしまう場所の風景を写真に撮ることで、新たに生まれ変わったように感じます。
劇場
映画全体を1コマで撮影するというコンセプトに惹かれ、1978年からこのテーマで作品を作っています。
最初の作品は、マンハッタンのセント・マークス映画館で撮影されました。映画館だけでなくオペラハウス、劇場なども撮影をしています。
この作品は、カメラの絞りを映画の上映時間中ずっと開けたままにして制作されています。杉本はスクリーンの光を「無知の闇を照らす過剰な光」と呼んでいます。40年以上もこのテーマに取り組んできた杉本は、映画の種類によって光の量が異なり、悲しいドラマのように暗い画面になるものと、コメディーのように明るい画面になるものがあることを発見しました。
小田原「江之浦測候所(えのうらそっこうじょ)」
杉本は写真だけでなく建築の分野でも活躍しています。
2008年に複合文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を設立しました。敷地内はギャラリー棟、野外の舞台、茶室、庭園などで構成され、それぞれに平安、室町、大正といった各時代の伝統的な建築様式が用いられています。
初め、私は「江之浦測候所」を美術館だと思っていましたが、測候所とは地方における気象の観測を行い、天気予報・暴風警報などを発したり、また地震や火山(噴火)などの観測を行う場所です。つまり景色や自然を見る場所ということです。世界や宇宙と自分との距離を測る場としての意味も含まれているそうです。
ここでは、実際に杉本が昔に見た「海景」の景色を楽しむことができます。
江之浦測候所の情報
住所: 神奈川県小田原市江之浦362-1
入館案内:
1日2回:午前の部(10時~13時)、午後の部(13時30分~16時30分)
7月8月限定:夕景の部(17時~19時)
※各回すべて完全予約の定員制、公式サイトより要予約※火・水曜日、年末年始、および臨時休館日
料金:
インターネットから事前にご購入の場合
午前の部、午後の部:3,000円(税抜)/ 夕景の部:2,000円(税抜)
当日券をご利用の場合
午前の部、午後の部:3,500円(税抜)/ 夕景の部:2,500円(税抜)
※中学生未満入館不可
まとめ
私は直島の「護王神社」の展示で杉本博司さんの作品に初めて触れました。近年建物の老朽化が進み、修復が待たれていたが<直島・家プロジェクト>のひとつとして護王神社も再建されることになったそうです。石室と本殿をガラスの階段で結び地下室につなげる展示で、私はその「神聖さ」に圧倒されました。体で感じる神の存在を感じるということはまさにこのことだと確信しました。
参考
IMA「杉本博司」
The short Epic「2018年アート写真オークション高額落札現代アート系が上位を独占」
http://artphoto-site.com/blog/2019/01/30/2018年アート写真オークション高額落札現代アート/
Voug Japan「杉本博司が語る、モノクロの魅力とは。」