2020年はコロナウイルスによるパンデミックの影響で、世界中の人々が大半の時間を自宅で過ごしていました。近所への外出も自粛ムードが続いていたため、海外旅行はもっての外。
そんな背景もあってか、日本でも、都市部で緊急事態宣言が出された後には、海外旅行に行けない富裕層による需要で、高級品の売り上げが伸びていたそうです。
世界的にも多くの富裕層が今、海外旅行など他の出費に回せない分、オークション会場に行けない状況下でも、サザビーズやクリスティーズのような信用のある老舗オークションハウスのオンラインオークションを通じて、(超)高額商品であるダイヤモンドなどのジュエリーを購入しています。
今回は、世界の富裕層が注目する高級ジュエリーについて、投資する価値があるのかどうか?どのような基準で価値が決まるのか?について、オークション結果や歴史、ジュエリー展示がオススメの美術館を紹介します。
ダイヤモンドなど高級ジュエリーに投資する価値はある?
歴史を振り返ってみても、人々は激動の時代にこそダイヤモンドなどの宝石に投資をしてきたと言われています。
パンデミック最中の2020年6月、老舗オークションハウス・クリスティーズが28.86カラットのDカラーダイヤモンドをオンラインで販売したところ、世界中のバイヤーから31件の入札があり、結果的にオンラインで販売されたジュエリーとして過去最高額210万ドル(約2億3千万円)で落札されました。
優れた品質で価値が認められている高級ジュエリーは世界的に信頼を得られる通貨のようなもので、コロナウイルスによるパンデミックで世界中が先行きの不確実性に不安になっていた中でも、オークション結果などを見るとダイヤモンドは確かな資産とみなされて、取引がされていたことがわかります。
特にダイヤモンドファンドや個人投資家などのここ数十年の動きを見ても、10カラット以上のダイヤモンドなどのようなある一定以上の超高級ジュエリーは、資産として伝統的なポートフォリオと並行して含められるようになっています。
ダイヤモンドは他のジュエリーと比較しても、独立したダイヤモンド機関GIAによって石の品質のグレードが検証・評価されており、世界中どこに行ってもその価値が変わることがないため、より安心して投資することができると考えているバイヤーが多くいるようです。
また、絵画や不動産などに比べて、資産として最も持ち運びやすいのもダイヤモンドのような高級ジュエリーであると言えるでしょう。
ダイヤモンドを所有することは、億単位の資産をポケットに入れて持ち歩ける唯一の手段なのです。
投資のリターン目的以外で考えても、大昔から人々を夢中にさせてきた宝石の美しさは、身につけたり鑑賞して家族代々楽しむことができ、お金を払う価値があるのではないでしょうか。
高級ジュエリーの価値の基準は?
富裕層が購入できるような、一定の基準を満たした高級ジュエリーには、資産価値がありオークションでも高額取引されることがわかりました。
高級ジュエリーといっても、どのような基準でその価値が評価されるのでしょうか?
ダイヤモンドの価値を決める「4C」
ダイヤモンドの価値を決める4つの要素は、その頭文字をとって4Cと呼ばれています。
Carat(重さ)
カラットとは、ダイヤモンドの重さを表す単位で、1カラットは0.2グラムで直径は約6ミリです。
Color(色)
ダイヤモンドはその色の純度によっても評価され、アルファベットでランクづけがされます。
- D・E・Fであれば無色
- G・H・I・Jはほぼ無色
- K・L・Mはわずかな黄色
- N〜Zは薄い黄色~黄色
というように分かれており、D、E、Fが最高級となります。
一方で、色がついた天然物のダイヤモンド(ピンク、青、紫など)が発見されるも稀にあり、それらはファンシーカラーと呼ばれ、その希少性が評価されます。
Clarity(透明度)
ダイヤモンドの透明度は、傷や内包物(インクルージョンと呼ばれる)の状態をもとに評価されます。
- FLは、インクルージョンや傷が見つからないもの
- IFは、若干のキズが表面にあるもの
- VVS(1、2)は、見つけづらいインクルージョンを含むもの
- VS(1、2)は、VVSよりやや目立つインクルージョンを含むもの
- SI(1、2)は、簡単に見つけることができるインクルージョンを含むもの(ただし肉眼では困難)
- I(1、2、3)は、肉眼でも簡単に発見できるインクルージョンを含むもの
Cut(輝き)
ダイヤモンドの輝きは、採掘されたそのままでなく、職人によって加工された後の状態でプロポーション(バランス)、ポリッシュ(研磨状態)、シンメトリー(対称性)の3つを総合し、評価されます。
- Excellent(エクセレント:最上級)
- Very Good(ベリーグッド:とても良い)
- Good(グッド:良い)
- Fair(フェア:まずまず)
- Poor(プア:基準値を下回る)
”ユニーク”なジュエリーは高値がつく!
上記で紹介した、ダイヤモンドの4Cのような一般的な評価の他に、『誰が所有したか』『どのような背景で作られたか』など、独自のストーリーを持っている高級ジュエリーは高く評価され、オークションにおいても高値で取引されます。
まさに、ジュエリーの芸術的価値というよりも歴史的価値の希少性が評価基準になっているのです。
ユニークな歴史的ストーリーを持つジュエリーの例を見てみましょう。
エカチェリーナ2世のエメラルド
2019年5月15日にクリスティーズのオークションで推定価格230万ドル~350万ドル(約2.5億円~3.8億円)とされていた「エカチェリーナ2世のエメラルド」は、その歴史を評価した匿名のバイヤーによって430万ドル(約4.6億円)で落札され、話題になりました。
もともとロシアの女帝エカチェリーナ2世が107.67カラットのスクエアカットのエメラルドとして受け取ったこの作品は、エカチェリーナ2世の死後に王族間で受け継がれていたそうです。
1927年にカルティエがこのエメラルドをロシアの王族から購入し、亀裂や内包物を取り除くために75.63カラットのペアシェイプにカットし直した後、1954年にアメリカの大富豪であるジョン・D・ロックフェラージュニアに売却しました。
マリー・アントワネットの宝飾品
14歳の時に政略結婚のためにフランスに渡り、贅沢三昧の生活を送りながらも孤独に苦しみ、フランス革命により最終的には死に追いやられた『悲劇の王妃』として知られるマリー・アントワネット(以下、アントワネット)。
アントワネットが生前に所有していた宝飾品のうち10点は、イタリア北部のパルマで2018年までなんと約2世紀に渡ってブルボン=パルマ家によって保管されていたそうです。
2018年11月14日に開催されたサザビーズのジュネーブオークションにて、アントワネットのジュエリーはブルボン=パルマ家が所有していた他の宝石90点と合わせて、合計5,300万ドル(約60億円)で落札されました。
推定価格700万ドル(約8億円)を大きく上回り、その特別な歴史がバイヤーによって評価されたということがわかります。
アントワネットが所有していた宝飾品の中で特に注目されたのは、天然真珠とダイヤモンドでできたドロップペンダントです。入札価格約1億円からスタートしたこのペンダントは、約36億円で落札されました。
スミソニアン博物館のホープダイヤモンド
現在、アメリカのスミソニアン博物館に所蔵されている「ホープダイヤモンド」と呼ばれるブルーダイヤモンドは、『持ち主を破滅に追い込む呪われた宝石』という伝説を持つことで有名です。
およそ4世紀にも所有者の歴史的記録を遡ることができるため、高く評価されてきました。
1666年にフランスの宝石商ジャン・バティスト・タヴェルニエによって購入された後、フランスの王室で受け継がれ、その後は盗難にあったり、1851年ロンドン万国博覧会に展示されたりと、何正規にも渡って数々の貴族や宝石商の元を転々としました。
長い歴史の中で、このホープダイヤモンドの所有者が落馬して亡くなったり、自殺したり、野生の犬にかみ殺されたりという『ダイヤモンドが引き起こした不幸』が語られてきましたが、情報源は確かではなく、この伝説は石のミステリアスな魅力を高めるために用いられたマーケティング目的のものだとも言われています。
実際、このような伝説が話題を呼び、多くのメディアにカバーされるなど注目されたため、宝石の価値は高まったそうです。
ホープダイヤモンドは、1947年にニューヨークのダイヤモンド商人ハリー・ウィンストンが購入した後、スミソニアンの鉱物学者ジョージ・スウィッツァーの説得により、1958年国立自然史博物館に寄付されました。
スミソニアン博物館に寄付された際の価値は、2億ドルから2億5000万ドル(約227億円〜約284億円)と推定されているようです。
高級ジュエリーの展示会/ジュエリーの展示がオススメの美術館
「Beautiful Creatures:Jewelry Inspired by the Animal Kingdom」アメリカ自然史博物館
アメリカ・ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館では、2021年6月12日から9月19日まで博物館の150周年を記念して「Beautiful Creatures:Jewelry Inspired by the Animal Kingdom」が開催され、過去150年に渡って作られてきた動物モチーフのジュエリーの数々がキュレーションされました。
南アフリカのキンバリー鉱山が1871年に開坑して以降、フォーマルなジュエリーはほとんどダイヤモンドを用いて作られるようになったことから、この蝶のブローチも約75カラットの大きさのダイヤモンドでできているそうです。
19世紀後半に蝶の収集が流行した背景から、当時は蝶をかたどったジュエリーも人気を集めていました。
1960年代半ばにフランス・パリに住んでいたメキシコの女優マリア・フェリックス(以下、フェリックス)は、生涯を通じて『知恵と強さの象徴』である蛇など爬虫類をテーマにしたジュエリーを集めていたことで知られています。
デザインにリアリティを持たせたいがゆえに、パリのカルティエに生きた赤ちゃんワニを連れて行ったというエキセントリックなエピソードなども有名です。
このネックレスは、フェリックスがフランスの老舗ジュエリーブランドであるカルティエに依頼して作ったものだそうです。
完成までに約2年かかったと言われるこの大蛇を象ったネックレスは、カルティエの熟練工によってダイヤモンドやプラチナ、ゴールドなどが美しく用いられています。
「Jewelry for America」メトロポリタン美術館
アメリカ・ニューヨークにあるメトロポリタン美術館で2019年から約2年の期間(コロナウイルスの影響で予定されていた開催期間より延長)開催されたジュエリーの展示会「Jewelry for America」では、18世紀初頭から現在まで300年に渡るアメリカのジュエリーの歴史を5つの年代順に振り返り、それぞれの時代に用いられたスタイル、素材、技術の変遷が紹介されました。
例えば、18世紀から19世紀にかけては、喪に服するジュエリーとして故人の髪を使用したジュエリーを作る人が多くいたそうです。故人を思い出すための肖像画を入れたペンダントやカメオも人気を集めていました。
メトロポリタン美術館のコレクションから、最近コレクションに仲間入りしたものなどこれまであまり展示されてこなかったジュエリーなどを含むおよそ100点が展示されたそうです。
ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(イギリス)
中世以降のジュエリーが数多く収蔵された美術館としておすすめなのが、イギリス・ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館です。
ダイヤモンドやサファイヤ、ルビーなど有名なもの以外にも膨大な種類を持つ宝石についてや、ジュエリーが持つ役割や歴史について紹介されているコーナー、ジュエリーができる工程や、ジュエリーボックス・時計などの宝石に関連する小物などと、ジュエリーの奥深さを網羅的に知ることができる充実した展示は、ジュエリーが好きな方には最高でしょう。
アート&デザインミュージアム(アメリカ)
アメリカ・ニューヨークのセントラルパーク近くのコロンバスサークルにある、アート&デザインミュージアムには、アートジュエリーが数多く展示されているティファニー財団ジュエリーギャラリーがあります。
自由でクリエイティブなデザインのコンテンポラリーデザインの数々を見ることができ、ファッション好きの地元の人々や、デザインを学ぶ学生などから人気を集めています。
スミソニアン自然史博物館(アメリカ)
前述したホープダイヤモンドで有名なスミソニアン自然史博物館ですが、国立自然史博物館の収蔵品はかなり幅広く、宝石や鉱物を歴史的、文化的、自然科学的背景と合わせて紹介している世界最大の宝石コレクションのひとつとして知られています。
ナポレオン1世がスペイン王カルロス2世の最初の王妃マリー・ルイーズの出産祝いとして贈ったと言われているダイヤモンドのネックレスや、マリー・アントワネットのダイヤモンド・イヤリングなど美しい希少な宝石の数々に限らず、その所有者などの関連人物の歴史など宝石に秘められた物語を知ることができます。
高級ジュエリーのオークションに出品・参加するには?
高級ジュエリーをオークションに出品したり、落札のためにオークションに参加するにはどうすればいいのでしょうか。
オークションにジュエリーを出品したい場合には、サザビーズやクリスティーズのような宝飾品を扱っている大手オークションに依頼をするのが最も安心でしょう。
世界中のジュエリーコレクターを顧客に抱えている大手オークションハウスは、世界各地で行われるライブオークションはもちろん、オンライン販売であってもバイヤーからの信頼度が高いため、高品質のジュエリーを出品する際には信用して任せることができます。
最近では、特に天然ダイアモンドやカラーストーンなどの他、カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペル、ハリーウィンストンのような一流ブランドのジュエリーはオークションでも人気が高く、予想を上回る高額で落札されることもあるそうです。
日本国内では、NJオークション(ネットジャパン・オークション)などが有名です。
NJオークションでは東京にて毎月複数回オークションが開催されており、日本最大級の豊富なラインナップのジュエリーが出品されているようです。
ジュエリーをオークションで落札したいと考えている方は、オークションに参加する前に各オークションハウスのウェブサイトや、先ほど紹介した美術館でジュエリーについて学んでおくと、よりオークションを楽しむことができるのではないでしょうか。
まとめ
ダイヤモンドなどの高級ジュエリーには、太古の昔から現在に至るまで多くの人々を魅了し続ける芸術的・歴史的・文化的美しさがあります。
ジュエリーは婚約指輪のようにギフトとしての役割を持つ場合も多いため、値段に関わらずそれぞれの所有者独自のストーリーがその宝石とともに語り継がれるのがその魅力の一部なのではないかと思います。
数百万円、数千万円、またはそれ以上する富裕層が購入する価格帯のジュエリーには、一定の資産価値が認められるため、資産としてや投資目的で超高額ジュエリーを所有するのも手が届く方にはいいアイデアかも知れません。
参考
一般社団法人日本ジュエリー協会 https://jja.ne.jp/
Natural Diamonds「Inside the ‘Beautiful Creatures’ Diamond Jewelry Exhibit at New York’s American Museum of Natural History」https://www.naturaldiamonds.com/epic-diamonds/diamond-treasures-in-beautiful-creatures-at-new-yorks-american-museum-of-natural-history/
Natural Diamonds「Are Diamonds a Good Investment? Auction Results Say Yes!」https://www.naturaldiamonds.com/epic-diamonds/are-diamonds-a-good-investment-auction-results-say-yes/
JEWERLY TIMES「ダイヤモンドはどんな宝石?由来や歴史、価値を決める4Cとは」https://www.fdcp.co.jp/4c-jewelry/column/18
GIA「2019年春のオークション: 歴史的な作品のプレミア価格」https://www.gia.edu/JP/gia-news-research/spring-2019-auctions-premium-prices-historic-pieces#
Sotheby’s「Marie Antoinette’s Pearls Break Auction Records in Geneva」https://www.sothebys.com/en/articles/marie-antoinettes-pearls-break-auction-records-in-geneva
Wikipedia「Hope Diamond」https://en.wikipedia.org/wiki/Hope_Diamond#Curse_mythology