ライアン・ガンダーの経歴
1976年にイギリス・チェスターに生まれたライアン・ガンダー(以下、ガンダー)は、イギリスのロンドンとサフォークを拠点としながら活躍する世界的に著名な現代アーティストです。
ガンダーは絵画、彫刻、インスタレーション、執筆など、マルチメディアを駆使した幅広い活動で知られています。
幼い頃に父親に連れられて、初期のブリティッシュ・アート・ショーに参加したことがきっかけとなり、美術に興味を持つようになったそうです。
ガンダーは、1996年にマンチェスター・メトロポリタン大学でインタラクティブ・アートの学士号を取得し、良い成績を修めて卒業します。
美術学校を卒業後は、チェスターのカーペット屋で働き、その後新聞社North Wales Newspapersでジャーナリストとしての訓練を受けようとしていたガンダーは、写真家として短期間雇われたものの、『文章が下手すぎる』という理由でジャーナリストとして不合格となったというエピソードがあるそうです。
1999年から2000年にかけて、オランダのマーストリヒトにあるヤン・ファン・エイク・アカデミーのアーティスト・イン・レジデンスに美術研究参加者として滞在し、2001年、同じくオランダのアムステルダムにあるライクス・アカデミー・ヴァン・ベルデンデ・クンステンのアーティスト・レジデンス・プログラムに参加しました。
2005年のアートバーゼルにて、ビデオ作品「Is this Guilt in You Too? (The Study of a Car in a Field)」でBaloise Art Prizeを受賞し、賞金3万スイスフランを授与されたことが助けとなり、3つの非常勤講師の仕事を辞職してアーティストとしての創作活動に専念できるようになったことから、本格的に現代美術家としてのキャリアがスタートしたのだそうです。
長年の身体障害によって車椅子で生活をするガンダーは、障害がある側の視点での課題を投げかけるようなメッセージを込めた作品も制作しています。
現代アーティストとしてのガンダーの名が広く知られるきっかけとなった、アートバーゼルでビデオ作品として展示された「Is this Guilt in You Too?(あなたも罪悪感を感じる?)」では、ガンダーが部屋を迷路のように障害物で埋め尽くしたインスタレーションを通じて、障害者にとって雑然とした床を移動することがどれほど難しいかを暗に示しています。
また、日本文化に埋め込まれた『象徴主義』に魅了され続けてきたそうで、2017年にイギリスの放送局であるBBCは、日本を訪れるライアン・ガンダーがを追ったドキュメンタリー作品「The Idea of Japan」を制作しました。
ガンダーは、2013年から2016年にかけて、個展「Make every show like it’s your last」でヨーロッパ、アメリカ大陸を巡回したほか、日本国内では2011年に東京・メゾンエルメスにて開催された個展「墜ちるイカロス 失われた展覧会」やヨコハマトリエンナーレ、2016年には岡山芸術交流などにも参加するなど、世界中で活躍し続けています。
展覧会「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」
東京オペラシティアートギャラリーにて2022年7月16日(土)から9月19日(月・祝)まで、展覧会「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」が開催されます。
本展覧会は、ライアン・ガンダーにとって初めての東京での大規模個展となり、活動初期の作品から最新の作品までを幅広く展示する予定で、お金や価値、時間、教育などといった題材を元に制作された作品を見ることができます。
個展での作品の展示と合わせて、美術館の上階では「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」も開催され、国際的に注目を集める現代アーティストであるライアン・ガンダーについてじっくりと知ることができる機会となっているようです。
「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」開催情報
開催期間:2022年7月16日(土)~2022年9月19日(月)
Tokyo Art Beat「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」https://www.tokyoartbeat.com/events/-/2022%2Fryan-gander-the-markers-of-our-time
会場の開館情報:11:00 〜 19:00 *月曜休館
月曜日が祝日の場合は開館し翌火曜日休館、年末年始休館
入場料:一般 1400円、大学生・高校生 1000円、中学生以下 無料
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(http://www.operacity.jp/ag/)
住所:〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2
ライアン・ガンダーの代表作品
「最高傑作」2013年
2017年に大阪の国立国際美術館で開催された展覧会「ライアン・ガンダー ―この翼は飛ぶためのものではない」のシンボルとなっていた目の形をした作品「最高傑作」。
壁についた眉毛、まぶた、眼球を含む『目』が動くようになっており、鑑賞者がアート作品から逆に見つめられるというもので、人によってはまぶたを閉じられたり、そっぽを向かれたりもするそうです。
2016年には、本作品の女性版として「あの最高傑作の女性版」も制作されました。
「摂氏マイナス261度 あらゆる種類の零下」2016年
2019年9月に開催された「岡山芸術交流2019」にて、岡山市立オリエント美術館のロビー天井に展示されたのが「摂氏マイナス261度 あらゆる種類の零下」です。
天井にへばりつくように浮かんでいるグラスファイバー製の黒い風船のテーマは、子供時代の『喪失感』だといいます。
風船を手にして喜んでいたのに手から離れて飛んで行ってしまったときの、あの悲しい気持ちが蘇るような気がします。
「リアリティ・プロデューサー(構造と安定のための演劇的枠組み)」2017年
「リアリティ・プロデューサー(構造と安定のための演劇的枠組み)」は、ロボットのような作品が壁にもたれかかって座り、頭を抱えているような様子が伺えます。
ガンダーの作品は、コンセプチュアルで様々な想像が掻き立てられる、お茶目かつ皮肉っぽいものばかりで、鑑賞者それぞれの目線で楽しむことができます。
ゆるキャラ「ARATAちゃん」
2011年に開催された太宰府天満宮アートプログラムに参加したガンダーは、太宰府天満宮独自の新しい記念日を作ろうと呼びかけ、『清浄無垢な状態に戻って、もう一度、自分にとって本当に大切なもの、未来に伝えていくべき何かを考える』というコンセプトの元、「NEW NEW DAY」と命名された記念日(3月16日)を設定するプロジェクトに参加します。
その「NEW NEW DAY」を象徴するキャラクターが「ARATAちゃん」です。
「ARATAちゃん」はライアン・ガンダーによってデザインされ、マスコットとなり、イベントに参加するほかキーホルダーなどのグッズも販売されています。
まとめ
ライアン・ガンダーの作品は、思わず笑顔になるようなユニークな表現や、皮肉っぽい表現などの様々な事象やメッセージを、インスタレーション、絵画、オブジェ、映像など多様な形で表したコンセプチュアル・アートで、鑑賞者たちそれぞれが自由に楽しむことができます。
日常にありふれた『当たり前』を再考することができるようなテーマとなっているライアン・ガンダーの日本での最大規模となる個展「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」にも、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
参考
Artnet 「Ryan Gander」http://www.artnet.com/artists/ryan-gander/
Wikipedia「Ryan Gander」https://en.wikipedia.org/wiki/Ryan_Gander
FASHION PRESS「ライアン・ガンダーの個展が東京オペラシティアートギャラリーで – “あたりまえ”を再考する作品を展開」https://www.fashion-press.net/news/84116
彫刻作品なども高額で取引がされています。