ピーター・ドイグの経歴
ピーター・ドイグ(Peter Doig)は、1959年4月17日にスコットランドのエディンバラに生まれました。
幼少期をトリニダード島とカナダで過ごした後、ロンドンに定住します。1980年にウィンブルドン・スクール・オブ・アートを卒業した後、セント・マーチンズ・スクール・オブ・アートで美術学士号を取得、チェルシー・スクール・オブ・アートで美術修士号を取得しています。
チェルシー・カレッジ・オブ・アーツを卒業した直後に、ホワイトチャペル・アーティスト賞を受賞し、1991年にホワイトチャペル・アート・ギャラリーで個展を開催しました。この個展では、「Swamped」「Iron Hill」「The Architect’s Home in the Ravine」などの代表作が展示されたことで知られています。
1990年代初頭に、フランスのブリエ=アン=フォレにあるル・コルビュジエのモダニズムの共同生活アパートメント「l’Unité d’Habitation」で活動する建築家やアーティストのグループに関わっていたことから、このアパートでの共同生活を描いたシリーズを制作しました。
トリニダード島やカナダで過ごした幼少期の経験は、鮮やかな色彩や郷愁感など、ドイグの作品のスタイルに大きな影響を与えているようです。また、ドイグの風景画は、ムンク、モネ、クリムトなどさまざまなアーティストの作品にインスピレーションを受けています。
1989年には、イングリッシュ・ナショナル・オペラで衣装係のアルバイトをしていたこともあるようです。
ドイグは1994年に、作品「Blotter」でターナー賞にノミネートされたことが大きなきっかけとなり、現代アートシーンにおける彼の地位を確固たるものにします。これ以来、世界中の一流ギャラリーや美術館で作品を展示するようになります。
1995年から2000年までは、テート・ギャラリーの評議員も務めました。
2002年、ドイグは再びトリニダード島に戻り、ポート・オブ・スペイン近郊のカリビアン・コンテンポラリー・アーツ・センターにスタジオを構えたほか、ドイツのデュッセルドルフにある美術アカデミーの教授になりました。
2003年に、ドイグはトリニダード人アーティストのチェ・ラブレスとともに、自身のスタジオで「Studio Film Club」という週1回の映画クラブを始めました。そこでドイグは映画を選び、上映するだけでなく、その週の映画の宣伝ポスターも制作しました。
2017年のホワイトチャペル・ギャラリーのアート・アイコンにも選ばれるなど、現在も活躍を続けています。
ピーター・ドイグの作品
「White Canoe」1990年
1990年に制作された「White Canoe」は、ドイグの最も有名な作品の一つです。
反射する湖に漂う孤独なカヌーを描いた本作品は、2007年、サザビーズで1,130万ドル(当時約13憶円)で落札されました。これは現存するヨーロッパ人アーティストの作品としては、当時オークション史上最高額として話題になりました。
「The Architect’s Home in the Ravine」1991年
1991年に制作された「The Architect’s Home in the Ravine」は、ローズデール渓谷にあるエバーハルト・ザイドラーのトロント中心部のモダニズムの家を描いた作品です。
キャンバスに油彩で描かれた200×250センチメートルの大作で、絵具の薄いウォッシュを重ねるという技法を用いることで、奥行きと雰囲気の感覚を作り出しています。色彩は淡いながらも豊かで、緑、茶色、グレーの微妙な変化が森の薄明かりと影を彷彿とさせる作品です。
この作品は、2013年初頭に766万ポンド(約11憶円)でオークションにかけられました。
「Canoe-Lake」1997年
ドイグが1997年に描いた「Canoe-Lake」は、1980年に公開されたホラー映画「13日の金曜日」にインスパイアされたものだそうです。
一隻のカヌーが静かな水面に静かに浮かび、その姿が水面下で揺らめいています。周囲の風景は柔らかく幽玄な光に包まれており、そびえ立つ木々や鬱蒼と茂る草木が情景的です。静謐かつ神秘的で、内省的な雰囲気が漂う作品です。
「Country-Rock」シリーズ 1999年
一連の絵画シリーズ「Country-Rock」は、1990年代後半に制作されました。
1972年に匿名のアーティストがドン・バレー・パークウェイ北行きのトンネルに虹を描いて以来、トロント市民にとっておなじみのランドマークとなったトンネルを描いた作品です
この虹は、これまで数々の撤去の試みにもかかわらず、20年以上にわたって40回以上も描き直されていることで知られています。
ピーター・ドイグの技法やスタイル
ドイグの作品は、絵具の薄いウォッシュを重ねるという技法を用いた綿密なレイヤリングで、豊かなテクスチャーを生み出す技法や、彩度の高い色彩からアースカラーまで、鮮やかな色彩を用いていることが特徴的です。
ドイグの風景画は、現実と想像の境界線が曖昧になっているような、静謐な自然環境が描かれることが多いと言えます。
また、彼の作品に描かれる人物や動物などの具象的な要素は、作品のストーリーに深みを与えます。象徴的なイメージは、記憶やアイデンティティといったより広いテーマを暗示しています。
幼少期をトリニダードやカナダで過ごしたドイグの作品には、個人的な経験や記憶が反映されていることがわかります。歴史的な美術界の巨匠からもインスピレーションを得ており、伝統と革新的なアプローチをうまく融合させています。
ピーター・ドイグの作品が収蔵されている美術館
ドイグの作品は、以下のように世界各地の多くの美術館に所蔵されています。
- テルアビブ美術館
- サンフランシスコ近代美術館
- テート・モダン
- 大英博物館
- ウォーカー・アート・ギャラリー
- サウスハンプトン・シティ・アート・ギャラリー
- パリ国立近代美術館
- スコットランド国立美術館
- ボンネファンテン美術館
- ゲッツ・コレクション
- クンストハーレ
- ルガーノ・カントナーレ美術館
- ベラルド現代美術館
- ベラルド美術館
- ベラルド国立美術館
- ニューヨーク近代美術館
- メトロポリタン美術館
- ホイットニー美術館
- ナショナル・ギャラリー(ワシントン)
- ハーシュホーン美術館
- フィラデルフィア美術館
- ダラス美術館
ピーター・ドイグとディオール(Dior)のコラボレーション
2020年、ドイグは高級ファッションブランド、ディオール(Dior)と初めてコラボレーションしました。ディオールのクリエイティブ・ディレクターのマリア・グラツィア・キウリは、ブランドの2021年秋冬メンズウェア・コレクションに、ドイグの絵画からインスピレーションを得た要素をデザインに取り入れました。
雪を頂いた山々や静謐な風景など、ドイグの絵画に描かれたモチーフがディオールの服に使われたことから、美しいアートとファッションの融合が話題になりました。
まとめ
ピーター・ドイグは、近代美術の巨匠たちの作品の構図やモチーフや映画のワンシーン、写真、幼少期を過ごしたカナダやトリニダード島の風景などさまざまな要素をもとに作品を制作しています。
参考
ピーター・ドイグ https://en.wikipedia.org/wiki/Peter_Doig
画像引用元:https://www.sothebys.com/en/articles/looking-beyond-the-surface-of-peter-doigs-painting-of-torontos-rainbow-tunnel https://www.jurriaanbenschop.com/a-kind-of-escape-peter-doig-in-basel/
2021年、フィリップスで「Rosedale」が2,880万ドル(約32億円)で落札されたのがピーター・ドイグの作品の最高落札額となっています。