宮脇綾子の経歴
アップリケ作家、エッセイストとして知られる宮脇綾子(以下、宮脇)は、1905年2月8日に生まれた東京出身のアーティストです。
1927年に油彩画家・宮脇晴と結婚し、それ以降は生涯名古屋で暮らしました。
3人の子どもの母であった宮脇は、もともと縫い物が好きだったといいます。40歳を迎えたころ身近にあった布の端切れを使ってアップリケの制作を始めました。
当時は戦争によって苦しい生活を強いられていた中だったようですが、生活の中でも自分自身が没頭できることを探していたようで、『家の雑用に追われながら、良妻賢母で朽ちて行くのがたまらない気がしていた。家の中で出来ることでと思っている内に、ボロの中に捨て難いものが沢山あるのを私は発見した。』と語っていたそうです。
現代でも家庭と仕事の両立に悩む女性が多いように、当時の宮脇も家庭を支える『良妻賢母』としてだけでなく、他にも自分の能力を活かせる場面を模索しており、アップリケの制作にたどり着いたのでしょう。
宮脇は、公募展や個展などで制作したアップリケ作品を発表する機会を得たことで注目を集め、「アップリケ綾の会」を主宰するなど名古屋を中心に活躍しました。
主婦として家庭を支えてきた女性ならではの視点・感覚で野菜や魚、草花などをモチーフとして制作されたアップリケは、その芸術としての美しさだけでなく心が温まるような趣を感じる斬新な世界観を感じます。
アップリケの他に、1944年から毎日つけられた宮脇の絵日記「はりえ日記」もよく知られています。
その絵日記には、スケッチや小さな作品が貼り付けられており、宮脇の穏やかな人柄が伝わってくるような微笑ましい日々について記録されています。
1995年、宮脇は90歳でこの世を去りました。
現在でも生涯暮らした土地である愛知県近辺を中心に度々展覧会が開催され、宮脇の作品が紹介されています。
宮脇綾子の有名な作品(アップリケ)
「足のとれた蟹」1963年
宮脇は『完璧でない、不完全なもの』にも美しさを見出し、度々作品のモチーフとしました。
「足のとれた蟹」も片足が取れてしまった蟹を題材としたアップリケ作品です。
生活の中で出会う『自然な形』の物にこそ美しさが宿っているのではないでしょうか。
「鶴亀模様の鯛」1979年
鶴や亀の模様の端切れ布を用いて作られた「鶴亀模様の鯛」は、『めで”鯛”』の鯛にちなんで、めでたいモチーフを表現した作品です。
鯛のリアルな鱗のように細かい模様が美しくもあり、遊び心を感じます。
「菊花模様藍型染綴り合せ壁掛」1973年
宮脇のアップリケ作品の多くは野菜や動物などのモチーフを表現したものですが、中には端切れ布を使ったパッチワークの壁掛け作品もあります。
「菊花模様藍型染綴り合せ壁掛」は、バラバラの布地を組み合わせて作られた壁掛け作品ですが、絶妙に全体のバランスが取れてうまくマッチしています。
何かのモチーフを表現するだけでなく、美しい布そのものに注目できる作品です。
宮脇綾子のその他の作品(絵日記、着物、帯)
「はりえ日記」
宮脇の作品はアップリケだけではありません。
1944年、宮脇が39歳の頃から毎日つけられた絵日記「はりえ日記」も有名です。
洋画家であった夫・宮脇晴が亡くなった後に綴られたこちらの日記には、『何を作っても あなたえ(へ)の思いの込めたものばかりです「こんなものができましたよ」と あなたに見せたいです』と綴られており、亡き夫を想う気持ちが込められています。
宮脇綾子の帯
宮脇の作品としては、アップリケが施された着物の帯も人気があるようです。
着物の帯は、その模様や色合いなどで個性が出せますが、宮脇のアップリケは粋で着物にもよく映えます。
宮脇綾子の着物
宮脇は、パッチワークで着物も制作しました。
『ところが布をいじっているうちに、これを染めた人これを織った人、これを着た人の心が届いてきて、はさみをいれることができなくなってきた。こうして、私は、はさみをいれないで、そのまま使える着物に仕立てることを思いついたのだ。日本のきものは直線裁ちであるから』という宮脇の言葉からは、布それぞれへの愛着や経緯さえ感じられます。
宮脇綾子の作品を観ることができる美術館
豊田市美術館
愛知県豊田市にある豊田市美術館は、国内外の近現代の作品を数多く展示している美術館です。
名古屋で生涯暮らした宮脇の作品も、「吊った干しえび」「鴨(背)」「あんこう」などを収蔵しているようです。
宮脇綾子の本・作品集
宮脇綾子の作品集はいくつか出版されており、「アプリケの魚」「アプリケの野菜」「アプリケの花」などがあります。
「アプリケの魚」は、宮脇綾子のアプリケ作品集で、魚をモチーフにした作品を掲載しており、縞の魚百尾、めばる、小鯛の干もの、足のとれた蟹、しゃこ、さよりなどのアップリケ作品をカラーで紹介しています。
まとめ
宮脇綾子の作品からは、日々の何気無いことに命を吹き込んだような暖かく心地の良い雰囲気を感じます。
妻として、母として家庭を支えた女性であった宮脇が40歳からアップリケの制作を始め、現在でもその作品が多くの人々に愛されているのを見ると、現代の仕事と家庭の両立に悩む女性たちにもインスピレーションを与えてくれる存在なのではないかとおもいます。
参照
nostos books「宮脇綾子のあぷりけ。くらしの中に見つけた小さな発見と悦び」
https://nostos.jp/archives/188049