本城直季の経歴
実際の風景や人物などをミニチュア・ジオラマのように見せるスタイルで有名な日本の写真家である本城 直季(以下、本城)は、1978年1月28日に東京都に生まれました。
東京工芸大学芸術学部では写真学科に在籍した本城は、4年生になって研究室に入ると学からいろいろ機材を借りられるようになったことをきっかけに、『4×5の入門機』として現在も使用しているカメラ、トヨフィールド45All(上記写真のカメラ)を使い出し、現在も愛用しているそうです。
東京工芸大学芸術学部卒業後は、同大学院芸術学研究科メディアアート専攻を修了しました。
本城の特徴的な写真は、大判カメラのアオリ(被写体を大きく見せたり、尊大に見せたりできるもの)を利用して擬似的に被写界深度の浅い写真を撮ることで、風景や人物などがミニチュア・ジオラマのように見えるようになっているそうです。
本城の作品は、ANAの機内誌「翼の王国」での連載をはじめとし、雑誌やポスターなどでも広く採用されており、見かけたことがある方も多いかもしれません。
2004年には写真「新世紀」にて佳作、2006年に「small planet」で木村伊兵衛賞を受賞しています。
生まれ育った町、そして世界に対する『作りもののような違和感』と、『この世界を知りたい、俯瞰したい』という思いが本庄の作品制作の原動力となって、都市、学校、公園、工業地帯、森、サバンナなど様々な場所で撮影を行ってきたそうです。
本城の作品は、メトロポリタン美術館やヒューストン美術館に常設コレクションとして収蔵されています。
回顧展「本城直季 (un)real utopia」
2020年に市原湖畔美術館からスタートした、本城にとって初めて回顧展「本城直季 (un)real utopia」には、学生時代の作品から、展覧会のために撮り下ろされた最新作まで幅広く展示されたそうです。
千葉、高知、岩手、宮崎など各会場で開催されてきた回顧展「本城直季 (un)real utopia」は、直近では東京都写真美術館の地下1階展示室にて2022年3月19日(土)から5月15日(日)までの期間開催されました。
本展覧会タイトルである「(un)real utopia」は、『ユートピア=理想郷を求めれば求めるほど、それらは虚構のように見えてくる』という皮肉混じりのメッセージのようにも取れますが、本城の作品からは対象への温かなの眼差しを感じます。
展覧会では、これまでのシリーズをすべて網羅し一冊にまとめた展覧会図録も販売されました。
見開きが4×5と同比率になる判型の図録で、本城直季の世界感を画面いっぱいに楽しむことができるほか、写真評論家の飯沢耕太郎やファッションデザイナーのポール・スミスからの寄稿も含まれています。
本城直季の代表作品
「Tokyo Tower, Tokyo, Japan」2005年
「small planet」シリーズの「Tokyo Tower, Tokyo, Japan」は、当時高い場所にのぼって撮影をしていた本城が東京のシンボル、東京タワーを被写体とした作品です。
当初、立ち入り可能な場所の中でできるだけ高いところ選んで撮影をしていたそうですが、そのような条件のロケーションはそう多くはありません。
そんな中で、もっと色々な種類の作品を撮りたいと感じた本城は、空撮も始めるようになったのだそうです。
「entrance ceremony, commemorative photo」2009年
空撮の作品として知られる「entrance ceremony, commemorative photo」は、春の風物詩である桜が咲く入学式を撮影した心温まる作品です。
しかし、実はこの瞬間を撮影するために、本城はなんと数年かけてシャッターチャンスを待ったのだといいます。
天気や角度、桜の状態、人の位置などいくつもの条件が揃って初めて、理想とする作品の瞬間がやってくるのだそうです。
「Rikuzentakata, Iwate」2011年
東日本大震災の連作は、回顧展「(un)real utopia」に初出品されています。
東北で起こった悲劇に胸を痛め、恐怖を感じながらも、『これを記録しなければ』という使命にかられ、地震発生から3ヶ月後に被災地を訪れ、ヘリコプターからその想像を絶する光景を記録しました。
人々が暮らしていた場所が無残に廃墟と化してしまう強大な力の大震災の様子は、心が痛くなりますが、そのような瞬間を忘れないために記録に残すのも、写真家としての役目なのかもしれません。
本城直季が愛用するカメラは?
IMA ONLINEによるインタビュー「本城直季 “自分を決定したカメラは、大学で借りたトヨフィールドの4×5”」によると、本城の愛用カメラは「トヨフィールド45All」と「リンホフ マスターテヒニカ」だそうです。
本城が用いている4×5インチのシートフィルムを使う、通称「シノゴ」と呼ばれる大判カメラは、歪みや遠近を補正する機能『アオリ』を使ってピントを調整することで、まるでミニチュアの世界のような本城の作品に特徴的な写真を撮ることができるのです。
両方とも4×5のフィールドカメラではあるが、トヨフィールド45Allは地上で三脚を立てて撮影するとき、リンホフ マスターテヒニカは空撮の時に使っているといいます。
本城直季の写真集・本
「Small Planet」
本城のデビュー作「Small Planet」は、2006年度の木村伊兵衛写真賞を受賞したことで知られています。
私たちの身の回りにある都会のビルや駅、公園、人々などの何気無い風景を高い位置から撮影した作品からは、リアルな世界がミニチュアの作り物の世界かのように感じられる新しい感覚が得られます。
虚構と現実の狭間にいるかのような違和感で、鑑賞者を魅了する作品です。
「東京」
木村伊兵衛写真賞を受賞した写真集「Small Planet」で培った独自の手法に磨きをかけ、空に浮かぶ雲のような東京を撮影しましたのがこの写真集「東京」です。
空撮で撮影された、新しい角度から見た大都会の様子は新鮮で、新しい発見をもたらしてくれることでしょう。
「Shinkirou(蜃気楼)」
写真集「Shinkirou(蜃気楼)」では、四日市市の工業地帯や住宅地を撮影し、ミニチュア模型のように表現されたものです。
ティルトシフトという技法を用いて、大きな建物、人々の集まり、輸送箱、ジェットコースターなど様々な被写体をとらえた作品の独特な世界観に引き込まれます。
まとめ
その特徴的な写真が、雑誌やポスターなどでも多く起用されている写真家・本城直季。
実際の風景をミニチュアのような新しい見せ方で表現された本城の写真たちは、可愛らしい印象だけでなく、普段の日常生活をふと俯瞰して見て、新たな視点を持つことができるきっかけにもなるのではないでしょうか。
参考
美術展ナビ「【レビュー】「本城直季 (un)real utopia」東京都写真美術館で5月15日まで 現実なのに作り物の様に見える違和感の源は」https://artexhibition.jp/topics/news/20220404-AEJ742977/
本城直季 (un)real utopia https://honjonaoki.exhibit.jp/
IMA「本城直季 “自分を決定したカメラは、大学で借りたトヨフィールドの4×5”」https://imaonline.jp/articles/interview/20210824naoki-honjo/
Discover Japan「写真家・本城直季の目を通して見る“まち”の不思議 初となる大規模個展を開催」https://discoverjapan-web.com/article/85642
プリントのポスターなどは、1万円以下などでも購入できます。