動物はアートの世界でもよくモチーフにされるテーマの一つです。動物をテーマにした作品を描いたことで知られるアーティストたちとその特徴について紹介します。
藤田嗣治 (1886年〜1968年)
藤田嗣治(レオナール・フジタ)は、独特な乳白色の下地と繊細な線描で知られる日本の洋画家です。藤田はフランスで活躍した、エコール・ド・パリの一員としても知られています。
猫好きとして知られた藤田の作品の中には、猫を題材にしたものが多くあります。彼の猫の絵は、リアルさと愛らしさを兼ね備えており、細密な筆致と独特の表現が特徴的です。藤田はまた、動物を擬人化することなく、その自然な姿を描き出すことに注力しました。藤田の作品からは、猫への愛と、彼のデッサン力の高さが感じ取られます。
デイヴィッド・ホックニー (1937年〜)
イギリス出身の現代アーティスト、デイヴィッド・ホックニーは、色彩豊かで大胆な表現が特徴的です。ホックニーの動物を描いた作品の中で特に知られているのは、愛犬のダックスフンドであるスタンリーとブッジーを描いたシリーズです。
ホックニーは愛犬たちの個性を捉え、家庭的で親密な雰囲気を作品に反映しました。このシリーズは、ホックニーのプライベートな側面を垣間見せるものとしても評価されています。
ホックニーの作品集「DAVID HOCKNEY’S DOG DAYS by David Hockney」には可愛らしい二匹の姿がさまざまな形で描かれています。
フランツ・マルク (1880年〜1916年)
ドイツ表現主義の画家であるフランツ・マルクは、動物を抽象的で象徴的に描いた作品で知られています。ヴィンセント・ヴァン・ゴッホやキュビスムなどに影響を受けたと言われます。
マルクは赤、青、黄などの鮮やかな色彩と大胆な形態を用いて、動物たちの内面や感情を表現しました。「青い馬」シリーズや「動物の運命」などはその代表作であり、人間と自然の調和をテーマにしています。
パブロ・ピカソ (1881年〜1973年)
スペイン出身のパブロ・ピカソは、キュビズムの創始者として知られる20世紀を代表するアーティストです。ピカソは、ミノーと名付けた野良のシャム猫を可愛がっていたことや、ランプと名付けたダックスフンドを愛犬として飼っていたエピソードでも知られます。
彼の動物を描いた作品の中で特に注目されるのは、平和の象徴として描かれた鳩の絵です。また、ブルのモチーフも彼の版画や絵画でしばしば登場し、力強さや情熱を象徴しています。
ピカソが陶芸でも知られますが、陶芸作品もフクロウや羊などの動物モチーフがかず多く見られます。
レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452年〜1519年)
ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチも動物を描いたスケッチを多く残しています。彼のノートには、馬や猫、犬、鳥などの詳細な観察が記録されています。
ダ・ヴィンチは画家としてだけでなく、人体解剖学、動物解剖学、建築、音楽、数学、天文学、地理学など、様々な分野に顕著な業績を残したことで知られていますが、動物学、動物解剖学などの研究の過程で描かれたこれらのスケッチは、科学的研究と芸術的表現を融合させた例として注目されています。中でも馬を描いた解剖学的なデッサンは有名です。
フリーダ・カーロ (1907年〜1954年)
健康状態の悪さによって子供を授かれなかったことも影響してか、自宅兼アトリエであったCasa Azulでクモザルや猫、犬や鳥たちと暮らすようになったメキシコの画家フリーダ・カーロは、彼女自身のペットをたびたび作品に描いたことで知られます。特に、サルや犬、オウムなどの動物が登場する自画像が有名です。
これらの動物は、彼女にとって愛情深い存在であると同時に、彼女の感情や内面を象徴的に表現する手段でもあったようです。
アルブレヒト・デューラー (1471年〜1528年)
ルネサンス期のドイツの画家、アルブレヒト・デューラーは、20代で高品質の木版画でヨーロッパ中にその名声と影響力を確立したアーティストです。デューラーは精密な動物画でも広く知られています。
彼の作品の中でも有名なのが、細密な筆致で描かれた水彩画「野うさぎ」で、現実的かつ自然主義的に描かれた作品です。うさぎの毛並みは1本1本が丁寧に描き込まれており、リアルな質感が見事に表現されています。
デューラーの作品にはうさぎが作品のモチーフとして繰り返し登場しています。
ルシアン・フロイド (1922年〜2011年)
イギリスの画家ルシアン・フロイドは、人物のヌード画で知られていますが、彼の作品には頻繁にペットが登場します。特に、愛犬ホイペットをモデルにした作品は、フロイドの独特のリアリズムとペットへの愛情が感じられるものです。
フロイドの肖像画の中では、床やベッドの上で裸で横たわっている人物と動物とが並列して描かれた「少女と白い犬」や「裸の男とネズミ」のような作品も有名です。フロイトは、ペットと飼い主の関係性に着目して、制作していたそうです。
ピエール・オーギュスト・ルノワール (1841年〜1919年)
ピエール・オーギュスト・ルノワールは、印象派を代表するフランスの画家であり、風景や肖像画が主ですが、動物を描いた作品もいくつか残しています。特に有名なのは、猫や愛犬、農場の動物を描いた絵です。
上の写真の「ジュリー・マネ (猫を抱く少女)」の猫に見られるように、ルノワールは柔らかい筆遣いと暖かい色調で、動物たちの親しみやすい姿を描きました。また、彼の動物画は、人物や風景との調和を重視したものであり、日常の中にある自然な瞬間を捉えています。
竹内栖鳳(1864年〜1942年)
竹内栖鳳は、日本画に西洋画の技法を取り入れた革新的な画家として知られています。竹内の動物画は特に高い評価を受けており、重要文化財となっている「斑猫 (はんみょう)」という猫を描いた作品が代表作です。この作品は、猫の柔らかい毛並みや鋭い目つきを精緻に描き出し、生き生きとした表現で知られています。
竹内は愛らしい犬や猫、鴨から、勇壮な馬や牛、ライオンまで幅広い動物を単なる描写対象としてではなく、精神性や生命力を表現する存在として捉えていました。
まとめ
動物を描いたアーティストたちは、それぞれの時代背景やスタイルを反映しながら、多様なアプローチで動物を描いてきました。
今も昔も、人間の動物への愛は変わらないことが世界各地、各時代のアート作品を通じてよくわかります。
参考
美術手帖「《班猫》だけじゃない。竹内栖鳳の優品、山種美術館に集結」https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/26141
西洋美術ナビ「芸術家には猫好きが多い?ピカソ、ダリ、マティス、ゴーリーなど芸術家と猫の写真まとめ」https://bijunavi.com/notes/artists_with_cats/
画像引用:https://katzenworld.co.uk/2023/03/18/friday-art-cat-tsugouhara-leonard-foujita-1886-1968-2/