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偽物のアート作品、贋作(がんさく)に注意!知っておきたい関連トピック

1980年代の美術品投資ブーム以来、アート作品はアーティスト・アートディーラー・アートコレクターなど専門知識を有する限られた人たちのものではなくなっていく中で、有名なアーティストの作品の贋作の販売による美術品詐欺事件のニュースも増えたといわれています。

過去の記事で、オークションでアートを買うべき理由の1つとして、贋作を購入するリスクが減らせることについて紹介していました。
アート知識の少ない初心者でも、取引前にオークション会社が鑑定してくれていると安心できますし、仮に贋作を購入してしまった場合でも、補償してもらえる場合がほとんどだそうです。

アート作品への投資をする人が確実に増えている中で、贋作への注意は重要で、美術品売買をするにあたって必ず知っておきたいことの1つです。

贋作とは?偽物やレプリカと何が違うの?

そもそも、『贋作』って何?という方も多いと思います。

贋作とは、一言で表すと『芸術の偽造』のことです。

特に有名アーティストのオリジナル作品やイメージを真似して偽物を作成され、作者名を偽り本物であるかのように販売することで、もともと買い手を騙してお金を儲けようという意図で作られたものが贋作と呼ばれています。

美術品は、数百万〜数千万の値段がつくことも多く、アートへの投資を考える人が増える中で、このような機会を悪用する詐欺師が出てきたのです。そのためバンクシーのように有名なアーティストの作品には、贋作が多いと言われています。

引用:The Verge「Banksy launches New York City street art show with satirical cellphone audio tour」https://www.theverge.com/2013/10/1/4792434/banksy-better-out-than-in-nyc-street-art-show-through-october-2013

『偽物』という言葉は、アート作品以外にも広く一般的に使われますが、『贋作』は英語ではArt forgery、その定義は芸術の偽造であるため、偽物という広い言葉の中の1つのカテゴリーとして贋作が含まれているようなイメージです。

『レプリカ』もよく聞く言葉ですが、これは、オリジナル作品をもとに原作者またはその製作工房によって作られたものを指します。『贋作』は、第三者が特定のアーティストのオリジナル作品を模倣しているため、また、製作目的が悪用であるため、レプリカとは全く別物になります。

贋作は、素人の目では本物との見分けがつかないほど精巧に作られています。プロの鑑定士であってもレベルの高い贋作は見分けられない場合があるほどだそうです。

ある意味、贋作の作成者はかなり技術が高いということがわかりますよね。

もちろん贋作を本物と偽って売買することは違法であり、刑法246条1項 詐欺罪に該当し、罪を問われます。

美術品のオークションハウスなどで、作品が贋作だと判明した場合には買取はしてもらえませんし、そもそも詐欺目的で製作されたものを肯定することは世間的に良くないとは思うものの、観て楽しむことを目的とするならば、贋作であってもその技術の高さや作品の美しさは味わえてしまうのが事実なのではないでしょうか。

有名な贋作作成者の例

アートギャラリー、ディーラー、コレクターはもちろん贋作を誤って入手してしまうことを望んでいませんが、数々の本物の名作を見てきたプロフェッショナルからしても、それらをそっくりに模倣できる画家の技術レベルは非常に高いそうです。

アート界を騙して富を築いた有名なアート偽造者の一部は、それ自体で有名人になり、現代のコレクターの中には、偽造品に何千ドルも支払うことをいとわない人もいるそうです。

ジョン・マイアット
引用:Emillion Art「John Myatt」https://emillionsart.com/artists/contemporary-artists/john-myatt/

例えば、『20世紀最大の芸術詐欺』と呼ばれた事件の背後にいる人物として歴史に名を残した芸術家、ジョン・マイアット(以下、マイアット)。
彼は推定200の贋作を製作し、その多くはサザビーズやフィリップスを含む世界最大のオークションハウスによって売買されました。

彼は当初、合法的に偽造品を販売していましたが、常連客が彼の偽物の絵に高値をつけた時を機に、シャガール、ジャコメッティ、マティスなど世界的著名アーティストの作品を模倣して贋作を作成・販売するようになりました。

マイアットは、逮捕され、懲役1年の刑を言い渡されたものの、4ヶ月のみの服役でその後解放されました。

その後もマイアットは偽物と必ず記すことで絵を書き続けていたり、テレビ番組に出演したりしており、贋作をきっかけに有名になった人物の一人です。

贋作鑑定人 ジェイミー・マーティンについて

贋作の製作者は、多くのオークションハウスやギャラリーの鑑定人にも見分けがつかなかったほど非常に技術レベルが高いことがわかりましたね。

贋作を見分けるのが難しいのであれば、美術品の鑑定人のレベルもそれより一枚上手である必要があります。

本物をしっかりと見抜いて売買することの重要性から、老舗オークションハウスであるサザビーズは、2016年に芸術作品の鑑定に科学者を採用しました。その科学者こそが、ジェイミー・マーティン(以下、マーティン)です。

ジェイミー・マーティン
引用:The Guardian「How to spot a perfect fake: the world’s top art forgery detective」https://www.theguardian.com/news/2018/jun/15/how-to-spot-a-perfect-fake-the-worlds-top-art-forgery-detective

現在では科学者、教授、芸術修復家、芸術家と呼ばれるマーティンは、もともと保存科学者として文化財修復や保存のための処理を担当し、美術品の分析をすることで学芸員たちが最も適している材料や方法を用いて美術品の修復ができるようにサポートする役割を担い、科学者としてキャリアをスタートさせます。

その後、FBIの美術品詐欺調査を約20年間担当し、世界的に犯罪捜査と法的手続きの専門家として認められるようになっていきます。

マーティンは2000年に、古代エジプトの工芸品から絵画や彫刻、ワインなど、およそ4000年以上にわたる芸術、文化財、コレクションについて調査するために、マイクロニッチな材料分析およびコンサルティングサービスを提供する会社、オリオン・アナリティカルを設立し、運営していました。

サザビーズはそんなマーティンの会社、オリオン・アナリティカルを買収して、マーティンに同社の最初の科学研究部門の設立、指揮を依頼したのです。

マーティンは美術史に関する幅広く深い知識と、顕微鏡やカメラなどのツールを高度に利用し、歴史的事実と照らし合わせながら科学的に作品を分析することで、判別が難しかった多くの贋作を見分けてきました。

まとめ

アート作品の楽しみ方は様々で、鑑賞を楽しむ場合もあれば、投資目的の場合もあるでしょう。

投資目的の場合には、贋作への注意は必須であるため、オークションハウスなどの信頼できる機関を通じて作品を購入することをお勧めします。

贋作の製作・販売は立派な詐欺罪ですが、多くの人々の目を見破るほどに有名作家の芸術作品を自力でコピーできる技術力には、正直感心してしまいました。

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。