特定のアート作品を選ぶ理由やそれぞれの作品に惹かれる理由は、直感的な感覚であったり、アーティストごとのスタイルであったり、作品の持つ雰囲気が飾りたい場所にフィットするかだったり、人それぞれ多様にあると思います。
中には、作者であるアーティスト自身の生まれ育ちやストーリーに興味を持ったり、人間的にファンになったアーティストを応援したいと思って、彼らの作品を購入する方々もいると思います。
今回は、これからのアートの世界を担うかもしれない、いま世界で注目されている10代の若手アーティストを紹介します。
NFTでの絵画販売で一躍有名になった若手アーティスト:フュウオシャス
NFT(非代替性トークン)の売買プラットフォームであるNifty Gateway上で、2021年2月14日にミュージシャンでもあるTwo Feetと共同でアート作品を販売し、一躍有名になったのが、18歳のアーティストFewocious(以下、フュウオシャス)です。
2人のNFTアートは、販売額が合計で100万ドル(約1億円)を超えました。
アメリカ・ラスベガスで育ったフュウオシャスは、幼少時代に親からの虐待を経験し、12歳の時から祖父母と暮らすようになりました。祖父母からは彼のアートへの情熱の理解を得られず、夢を応援してもらうことができずにいたそうです。
不安定な幼少時代を過ごした彼は、学校でも休み時間にはずっと絵を描いたり、幼少期からの夢見ていた映画の脚本を作ったりして過ごしていました。
2020年3月に自身の絵をニューヨークのアートコレクターに販売したことをきっかけに、彼はNFTシーンに積極的に乗り出し、ユニークなデジタルアート作品を販売し始めました。
その後彼の絵画作品は順調に平均7,320ドル(約80万円)で販売されるようになり、徐々にアート界隈の人の間でも知られるようになっていきました。
その矢先、ミュージシャンであるTwo Feetやバーチャルスニーカー、アクセサリーなどをリリースしているRTFKTとのコラボレーション依頼が入るようになったといいます。
順風満帆とは言えなかった家庭環境で過ごしてきた中で、アートへの情熱だけは絶やさずに制作に取り組み続けたフュウオシャスだからこそ、あらゆる業界が認める、その独特なスタイルで斬新な作品を生み出し続けられるのだと思います。
カラマ・ハリスに作品を贈った若手アーティスト:タイラー・ゴードン
カラマ・ハリス(以下、ハリス)がアメリカの副大統領に選出された2020年11月に、ハリスを描いた絵画作品の作画プロセスと作品を撮影したビデオをツイッターに投稿し、全米で話題となったタイラー・ゴードン(以下、ゴードン)は、アメリカ・ロサンゼルス在住で当時14歳だった注目の若手アーティストです。
150万回以上動画が再生された後、ゴードンはハリスから直接電話を受け取ることができ、彼は一躍有名になりました。
黒人インド系アメリカ人女性として歴代はじめて副大統領となったハリスは、幼少期に患った聴覚障害やいじめの経験を乗り越えたゴードンにとって、憧れの存在だったといいます。
ゴートンは10歳の頃から絵画を練習していた母からのアドバイスを受けながら絵を描き始め、その後小学校のコンテストに校長の肖像画で応募し、優勝しました。
裕福な家庭環境ではなかったものの、彼の母や姉が休日に働いたり複数の仕事を掛け持ちしたりしながら、タイラーのアート作品の制作活動を支援してきたそうです。
2019年にブルックリンのグロリア・ゲイル・ギャラリーで初の個展を開催して、アート界の関係者からも徐々に知られるようになりました。
ゴードンへの肖像画作品制作の依頼は、2020年12月時点では3500ドル(約38万円)からの受け付けとなっており、10代前半にしてしっかりと若手アーティストとして軌道に乗っていることがわかります。
現在彼の作品のファンには、歌手のジャネット・ジャクソンやNBAスターのケビン・デゥラントなどの有名人も多く、若き天才画家として注目されているそうです。
若手アーティストを支援する取り組み:Graffiti Kingsの例
これまでにアディダスやカルバンクライン、ジャスティンビーバーなど世界的なブランドや有名人とコラボレーション作品を生み出してきた、イギリス・ロンドンのストリートアート専門の会社であるGraffiti Kingsは、史上初の16 歳以下のNFT ショー「Graff Punks」開催を企画・運営しています。
2021年4月に女性アーティスト限定のNFTアートショー「Graffiti Queens」を成功させたばかりのGraffiti Kingsは、NFTにアーティストたちの未来があると信じており、ショーの開催をすることでサポーターを集め、作品が売れるまで、アートだけで生計が立てにくいアーティストたちを支援することに寄与しています。
Graffiti KingsのCEOであるダレン・カレン(以下、カレン)は、彼自身も若い頃からロンドンのストリートカルチャーの中で育ち、グラフィティアーティストとして大成したアーティストの一人です。そうしたバックグラウンドから、カレンは子供達にアートを教育するという熱意を持っています。
2012年のロンドンオリンピックでイギリス政府が唯一支援した公式ストリートアーティストにまでなったカレンは、地元の青少年警察署でのアートプログラムに携わったり、子供達がイギリス中のグラフィティアートプロジェクトに参加できるように支援をしたりと、若いアーティストを熱心にサポートしています。
現在運営されている16 歳以下のNFT ショー「Graff Punks」も、新しいデジタルの世界について若手アーティスト志望者たちを教育・支援するための継続的なプログラムとして機能していくでしょう。
まとめ
例えばジャン=ミシェル・バスキアのように、10代の頃からアートに情熱を持ち制作し続ける中で、運良くアートビジネスの業界人の目に留まるきっかけを得ることができてはじめて作品が世に広まり、その後誰もが知る有名アーティストになっていくというのは良くある話です。
現代は、ソーシャルメディアの普及によって、経済力や人脈がない若者、マイノリティでも、世の中に才能をアピールしやすい接点が多くなっていると思います。
アートに対する情熱や才能のある若いアーティストを支援する1つの手として、彼らの生まれ育ちなどのストーリーを知った上でアート作品を購入するというのも、作品への愛着が増し、いいのではないかと思いました。