【山下清】ドラマ・裸の大将で知られる画家の「花火」「五重塔」など代表作や鑑賞できる美術館、書籍を紹介

Yamashita Kiyoshi
アーティスト紹介
山下清の作品「清水寺」

DATA

ニックネーム
放浪の画家/裸の大将
作者について
昭和の時代に活躍した日本の画家である山下清は、『放浪の画家』『裸の大将』『日本のゴッホ』などと呼ばれ、多くの日本人に親しまれてきました。 日本各地を放浪しながら絵を描き続けたその人生をテーマにした映画・ドラマ「裸の大将放浪記」が大ヒットしたことでも有名です。 山下清の作品は、旅先で見た風景を描いた絵が中心で、色鮮やかな花火大会や富士山の様子や印象的です。

現在の値段

1,468,795円(号単位)

2021年「花」1,150万円 45.5×53.0cm(Shinwa Auction)

山下清の作品は、作品技法などによってその値段が、数万円代から1,000万円を超える値段で取引されるものなど、大幅に変わってきます。
もっとも高額で取引されるのは、ちぎり絵(貼り絵)で、その次がペン画、そして版画作品がもっとも手頃な価格帯になる傾向にあるようです。
山下清の作品の値段

山下清の経歴

山下清の写真
引用:アルトネ「山下清とその仲間たちの作品展」https://artne.jp/event/802

昭和の時代を代表する日本人画家・山下清(以下、山下)は、おそらくドラマ・映画シリーズの「裸の大将放浪記」で多くの日本人にその存在が知られているでしょう。

山下は、1922年に東京府東京市浅草区田中町(現在の東京都台東区日本堤)に生まれました。

翌年に起こった関東大震災によって実家が消失してしまい、一家は新潟県に引っ越します。

3歳の時、風邪を引いた山下はその後重い消化不良を伴い命の危険に陥ります。九死に一生を得ましたが、そのせいで軽い言語障害、知的障害の後遺症を患いました。

山下と家族は、1926年に東京・浅草に戻ります。ところが6年後に山下の父が脳出血によってこの世を去ってしまいました。

知的障害児施設「八幡学園」に通っていた頃に、山下は『ちぎり紙細工(ちぎり絵)』を初めて体験し、没頭していきます。

その後、指導を受けながら更に才能を磨き続けた山下の作品は、多くの人々を惹きつけ、度々小さな展覧会でも展示されるようになりました。

そして1938年山下が16歳の時に、東京・銀座の画廊で初めて個展を開催すると、展示された絵を見た画家の梅原龍三郎などからその才能を評価されたといいます。

『ゴッホやアンリ・ルソーの域に達している!』とも言われたため、「日本のゴッホ」と呼称されるようになったようです。

そして18歳の時に、山下は放浪の旅に出ます。第二次世界大戦中だった当時、兵役を逃れるために放浪することを決めたとも言われているそうです。

18歳から32歳まで日本全国をまわった山下は、その旅の様子を放浪日記に綴り、帰宅してから旅で見た情景の記憶を辿って絵を描きました。

山下の作品を観るとわかるように、その風景画はかなり詳細まで描かれているため、かなりの映像記憶力を持っていた天才だと語られています。

放浪の旅を終えた後の山下は、油彩画や水彩画、ペン画など、ちぎり絵の枠を超えた作品も多く手がけるようになります。

1956年に東京大丸で開催された「山下清展」などで全国を巡回していた山下の作品、約500万人もの観客が来場するほど多くの人から愛されていました。

1961年には、約40日間ヨーロッパも旅して、エッフェル塔などを描いた作品を50点以上制作しました。

晩年の山下は、5年ほどかけて55点の作品を描いたシリーズの「東海道五十三次」を制作しています。

1971年に、脳出血のため49歳の若さでこの世を去りました。

山下清「東海道五十三次」
引用:Lmaga「「東海道五十三次」をキーワードに歌川広重と山下清が競演」https://www.lmaga.jp/news/2020/07/132604/

山下清の代表作品

「上野の五重塔」1940年

山下が放浪の旅を始めた年に制作された作品が「上野の五重塔」です。

ちぎり絵として制作されたこの作品は、川や山の向こうにその姿が見える五重塔を中心としたイメージが描かれており、明るい色彩から天気の良い明るい日の情景が思い浮かびます。

「長岡の花火」1950年

「長岡花火」山下清
引用:長岡花火「山下清が愛した長岡花火」http://www.nagaoka-hanabi.com/view/category/ct18

山下清の代表作として特に有名なのが、28歳の時に描いた「長岡の花火」です。

花火が好きだったことで知られる山下は、花火大会で有名な長岡を訪れた翌年にその情景の記憶を元に作品を制作しました。

夜空に浮かぶ花火の色の対比や、川面に映る花火の光など細かいところまで美しく描かれた、臨場感のある作品です。

「清の見た夢」

「清の見た夢」は、タイトルのように山下が見た夢のイメージをもとに描かれた作品です。

大蛇や巨人、巨大な蜘蛛などを戦車などで攻撃しつつ人々が逃げている様子は、山下の絵のタッチや明るい色使いからか、絵本の1ページかのようにポップに感じられます。

「パリのエッフェル塔」1961年

山下が約40日間のヨーロッパ旅行に行った後に描かれた、「パリのエッフェル塔」は、それまで山下の作品のスタイルの中心だったちぎり絵ではなく、水彩画となっています。

高くそびえ立つエッフェル塔と可愛らしいクラシックカーや雲の様子は、山下の人柄が滲み出たように、柔らかく穏やかな雰囲気を醸し出しています。

「日本平の富士」1965年

「日本平の富士」は、1965年に描かれたちぎり絵作品です。

富士山も花火と並んで、山下が好んで描いたモチーフだったようです。

色鮮やかで清々しい姿が美しい富士山とその周りの雲や木々、川の様子が、綺麗なコントラストで描かれています。

山下清の作品が鑑賞できる美術館

山下清放浪美術館

山下清放浪美術館の入り口の写真
引用:BQ「【長野】 とにかく聴いて!ガイドの話 山下清放浪美術館」https://papicocafe.blog.jp/10687251.html

長野県茅野市にある放浪美術館は、ちぎり絵や点描画、スケッチ作品など様々な山下清の作品が常設されている美術館です。

美術館のある長野県茅野市は、放浪の画家であった山下が、諏訪湖の花火を見るために何度も訪れたというゆかりの地であります。

ドラマ「裸の大将放浪記」で山下が好んだ『おむすび』をイメージした、石で作ったおむすびが入り口で観客を出迎えるなど、山下清のファンが楽しめる場所となっています。

古い町並み美術館

古い町並み美術館の山下清 なりきり撮影スポット
引用:Passme「古い町並み美術館 山下清原画展」https://pass-me.jp/facilities/KS002874

岐阜県飛騨高山にある古い町並み美術館には、ちぎり絵やフェルトペンで描いた作品の原画が120点、記録写真が25点常時展示されています。

所蔵している原画には、「花火」「花」「昆虫」「風景」などをモチーフとした山下清の有名作品が含まれます。

『山下清 なりきり撮影スポット』もあり、山下と同じ衣装を着て、おにぎりを持って写真撮影ができるスポットもあります。

月夜野 上牧温泉辰巳館

月夜野 上牧温泉辰巳館
引用:楽天トラベル「上牧温泉 人気の貸切風呂と炭火山里料理の宿 辰巳館」https://travel.rakuten.co.jp/HOTEL/10715/10715.html

群馬県利根郡にある上牧温泉の辰巳館は、山下が何度か訪れ、長期滞在して場所として知られています。

辰巳館に宿泊している間にも、数々の作品製作を行ったそうです。

山下のちぎり絵の原画をもとにして制作された「はにわ風呂」と「大峰沼と谷川岳」のタイル絵を入浴場にて観ることができる他、併設された「山下清ギャラリー」には水彩・マジック画の作品「登龍」なども展示されています。

山下清の書籍

「日本ぶらりぶらり」

「日本ぶらりぶらり」山下清
引用:https://www.amazon.co.jp/dp/4480033963?tag=booklogjp-item-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1

「日本ぶらりぶらり」は、文藝春秋に連載された放浪画家・山下清のエッセイを纏められた書籍です。

山下清独特の素朴で素直な語り口から、人物像を思い描けるような本のなっています。

文中には、たとえば、

女の人に目方(体重)を聞く
僕は美人も美人でないのもよくわからない。だから目方を聞く。正直に答えてくれる人とそうでない人がいる。目方が多ければ自慢してもよさそうなのに、どうして隠すか分からない。

このような、山下清のピュアな視線から出てきたさまざまなストレートな言葉や世の中への疑問などが、現代なら多くの人々が世間体を気にしてなかなか言えないようなことでもあり、心が洗われるような気持ちになったという読者のレビューも多くありました。

「ヨーロッパぶらりぶらり」

「ヨーロッパぶらりぶらり」山下清
引用:https://www.amazon.co.jp/dp/4480029044?tag=booklogjp-item-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1

「ヨーロッパぶらりぶらり」は、1961年(昭和36年)、式場隆三郎に連れて行ってもらい、初めてヨーロッパの国々を旅した山下清による旅行記です。

ハンブルクの教会やロンドンのタワーブリッジなど、風景・建物の細密画の挿絵が素晴らしく、山下がさまざまな土地を旅しながら感じたことがより深く理解できるような本です。

本の最後には、式場隆三郎による後書きと、日本の前衛美術家、随筆家、作家である赤瀬川原平による解説内容も含まれています。

「山下清の放浪日記」

「山下清の放浪日記」
引用:https://www.amazon.co.jp/dp/4772704760?tag=booklogjp-item-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1

「山下清の放浪日記」は、山下清の日記を書籍化したものです。

自由な山下清の放浪生活の様子や、道中での山下の気持ちなどがありのままに表現されています。

山下の文章は、文章が長く句読点が使われないなど、多少読みづらいというレビューも見られましたが、山下のキャラクターが想像できるような一冊でしょう。

この放浪記は、放浪後に学校の先生に言われて書いた文章であり、記憶を辿って書かれたものだそうです。風景画についてもそうですが、抜群の記憶力の持ち主であることがわかります。

「おにぎり」で有名な山下清のドラマ「裸の大将放浪記」

裸の大将 山下清 塚地
引用:Amazon

「裸の大将」の愛称で呼ばれた山下清の生き様をテーマにしたドラマ・映画シリーズである「裸の大将放浪記」は、1958年に公開された映画をきっかけに、テレビドラマや舞台なども制作され、多くの人々から愛されました。テレビドラマは芦屋雁之助版と塚地武雅版が制作されています。

作品では、ランニングシャツと半ズボンにリュックサックを背負った姿で、独特の口調で話す「裸の大将・山下清」が描かれています。

このような描写からか、たびたび『知的障害者の画家である』という捉え方をされることがあるようですが、本人も家族もそのように考えておらず、そのステレオタイプのイメージに苦しめられることもあったと、山下の甥の山下浩氏は語っています。

山下清は結婚した?子供は?

「裸の大将放浪記」ヨメ子さん
引用:https://www.twellv.co.jp/program/drama/hadaka-taisho/archive-hadaka-taisho/hadaka-taisho-012/

テレビドラマ「裸の大将放浪記」に登場する「ヨメ子さん」は、山下に心を寄せる女性はとして描かれています。

このキャラクターから、実際に山下清は結婚したのか?子供はいるのか?気になる視聴者も多かったようですが、このヨメ子というキャラクターは、脚色されたフィクションで、山下清は生涯結婚せず、子孫も残していないそうです。

実際にヨメ子さんのモデルとなった人物がいたかどうかはわかっていません。

まとめ

昔、私の祖母が好きで見ていたドラマ「裸の大将」から感じる山下清の素直で穏やかなイメージをそのまま感じ取れるような明るく柔らかいタッチの作品からは、鑑賞者の心を掴む魅力を感じます。

日本の風景は様々な画家に描かれてきましたが、山下の作品は晴れ渡った美しい日の風景として描かれており、観ると明るい気持ちになる素敵な作品だなと思います。

参考

NHK「画家・山下清の素顔について考える 前編」https://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/3400/239192.html

This is Media「山下清とは?日本のゴッホと呼ばれた画家の人生や代表作品を解説!」https://media.thisisgallery.com/20222896

SHINWA AUCTION「【絵画オークション落札結果】坂本繁二郎、加山又造ら近代美術の旗手に高値」https://www.shinwa-auction.com/news/20210130/

ABOUT ME
あやね
2018年にアメリカ NYへ移住した、京都生まれの大阪人。日本の伝統工芸が持つ独特で繊細な美しさが好きで、着物や器を集めている。郊外の家に引っ越したことをきっかけに、アート作品やアンティーク家具を取り入れたインテリアコーディネートにも興味を持ち始める。アメリカで日常生活に様々な形でアートを取り入れる人々に出会い触発され、2021年より趣味で陶芸をはじめる。