経歴
鈴木其一(以下、鈴木)は1796年に近江出身の染物屋の息子として江戸で生まれました。優れた色彩感覚は、幼少の頃から織物に触れていたからだと言われています。
幼少期以降の鈴木の人生は3つの時代に分けられますので、順を追ってお伝えします。
①見習い時代
そして18歳のときに、酒井抱一(以下、抱一)の内弟子となりました。
酒井抱一(さかいほういつ、1761~1829年)は、江戸時代の後期、幕末の頃に活躍した絵師で俳人です。尾形光琳に私淑した酒井抱一は、優雅で粋な琳派の気風に風雅な俳句の世界観を取り入れることで、より洗練された画風を生み出しました。
引用:This is media「琳派とは?知っておきたい琳派の巨匠と代表作」https://media.thisisgallery.com/20199441
鈴木は抱一の住み込みの弟子となり、最も有望な弟子となっていきました。さらに、抱一のはからいで酒井家の家臣になり、安定した暮らしの中で画業にいそしみました。鈴木は絵だけでなく、茶道と俳句を学び文化人との交流もしていきました。
②噲々(かいかい)時代
1828年に抱一が死去した後、古い寺社を訪ね、古書画を学びました。研磨を重ね、抱一の画風から脱却した、色彩鮮やかでダイナミックな絵に転換していきます。
30代半ばから10年間ほど「噲々(かいかい)」という称号を使用しました。特にこの時代の有名な絵画は「風神雷神図襖(ふうじんらいじんずふすま)」です。鈴木らしい独特なセンスを感じます。試行錯誤しながら、一代絵師として活躍していきます。
③菁々(せいせい)時代
1841年から1846年にかけて抱一が出版した「光琳百図」の版木が焼失したため、再出版に向けた複製を始めました。そこで100年前に活躍していた琳派の俵屋宗達や尾形光琳を独学で学び、その後の鈴木の画風に影響を与えます。この頃は菁々(せいせい)と名乗り、多くの大名や豪商の高い支持を得ました。
1858年のコレラ再流行により63歳という若さで急死してしまいました。しかし、近年の所謂「奇想の絵師」達の評価見直しが進むに連れて、琳派史上に異彩を放つ絵師として注目を集めています。平成20年(2008年)東京国立博物館で開かれた『大琳派展』では、宗達・光琳・抱一に並んで其一も大きく取り上げられ、琳派第4の大家として認知されつつあります。
鈴木其一の代表作品と展示されている美術館
『江戸琳派の旗手』として、その才能を現在に至るまで世界的に評価されている鈴木は、数々の有名な作品を遺しています。
各作品をその特徴と合わせてチェックしてみましょう。
「朝顔図屏風」メトロポリタン美術館
「朝顔図屏風」は鈴木の作品の中でも特に有名で、アメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館に展示されており、世界中の人々を魅了し続けています。
輝かしい金色の背景と深い群青色のコントラストが美しく、生き生きと伸びる朝顔に惹きつけられます。
群青色の朝顔は、日本固有の種類だそうです。
「風神雷神図襖」東京富士美術館
風神雷神は、琳派を作り上げ繁栄させた先人である尾形光琳や鈴木の師匠の酒井抱一も描いたことのあるいわば琳派最大の題材といえます。
尾形や酒井が描いた風神雷神と比較すると一見やや印象が薄く感じる鈴木の風神雷神図で、最も目を引くポイントは、陰影と滲みが独特な雲の表現ではないでしょうか。
8枚の襖という巨大なキャンバスに描かれた鈴木の風神雷神図は、琳派の先輩たちの作品と並ぶ名作として観る人々の心を掴みます。
「風神雷神図襖」は、東京富士美術館で鑑賞できます。
「夏秋渓流図屛風」根津美術館
「夏秋渓流図屛風」は、東武鉄道の社長である実業家の根津嘉一郎のコレクションをもとに開館した根津美術館に収蔵されています。
六曲一双屛風の右隻に山百合の咲く夏の景色、桜の葉が紅に染まる秋の景色が描かれています。
写実的描写と抽象表現が混在しているこの作品は、全体の鮮やかな色の対比だけでなく、細かい部分をじっくりと見て楽しむことができます。
本作品は、2020年に重要文化財に指定されました。
「四季花鳥図屏風」東京黎明アートルーム
鈴木がコレラで亡くなってしまう4年前、1854年に制作された屏風です。
西洋からとの交流も少しづつあったと言われる激動の幕末に描かれた作品であるため、もしかすると鈴木も西洋の油絵などの絵画を見て、影響を受けたのかも知れないと思ってしまうような、新しい画風や質感が用いられている作品になっています。
2016年にオープンした東京黎明アートルームに所蔵されています。
鈴木其一の作品の落款
鈴木の作品は年記があるものが少ないのですが、それぞれの作品に用いられている称号である落款の変遷からその画風の展開を追っていくことができます。
落款とは?
落款(らっかん)とは、落成款識(らくせいかんし)の略語で、書画を作成した際に製作時や記名、識語(揮毫の場所、状況、動機など)、詩文などを書き付けたもの、またその行為を言う。
引用:Wikipedia「落款」
先ほど紹介した4つの作品を落款をもとに製作された時期古いものから順に並べると、以下のようになります。
- 「風神雷神図襖」祝琳齋其一
- 「夏秋渓流図屛風」噲々其一
- 「朝顔図屏風」菁々其一
- 「四季花鳥図屏風」菁々其一、左隻:嘉永甲寅初秋 菁々其一
鈴木其一の展覧会「江戸琳派の旗手」
鈴木其一の作品の展覧会「江戸琳派の旗手」は、サントリー美術館、姫路市立美術館、細見美術館にて2016年から2017年に開催されました。
この展示会では、鈴木の門弟時代から壮年期、晩年まで生涯と画風の移り変わりを追いながら、作品が紹介されました。
国内外の各所蔵美術館から、有名な鈴木の作品を一度に揃って鑑賞することができたまたとない展示会は、各会場で大盛況だったようです。
鈴木其一の画集・図録
「鈴木其一 琳派を超えた異才」
2015年に出版された鈴木の画集「鈴木其一 琳派を超えた異才」は、数々の鈴木の作品とともに、彼の人生や画風などが紹介されています。
「江戸琳派の旗手【展覧会図録】」
前述した、2016から2017年に開催された鈴木の展覧会「江戸琳派の旗手」の図録です。
第1部で鈴木の代表作を含む120点を、第2部ではミニサイズの作品や仏画、節句掛などの幅広い作品が収録されています。
まとめ
私はNYに住んでいるころ良くメトロポリタン美術館にいきました。世界各国から集められた美術品が並んでおり、特に私のお気に入りは『日本』の展示でした。
鎖国後日本文化より西洋文化が重んじられ捨てられていった浮世絵や刀など、逆に日本ではみられないお宝も飾られています。
その中で特に目を惹いた展示が鈴木其一の「朝顔図屏風」金色の屏風に真っ青な朝顔。迫力があるのに繊細で美しい印象でした。またいつか絶対に見たい!と思える作品でした。
参考
八光堂「江戸琳派・鈴木其一」https://www.hakkoudo.com/weblog/2016/12/17/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E7%90%B3%E6%B4%BE%E3%83%BB%E9%88%B4%E6%9C%A8%E5%85%B6%E4%B8%80/
コトバンク「鈴木其一」https://kotobank.jp/word/鈴木其一-83832
古美術景和「酒井抱一の継承者として江戸琳派の継承に貢献」https://keiwa-art.com/artist/suzukikiitsu-life
Wikiwand「鈴木其一」https://www.wikiwand.com/ja/%E9%88%B4%E6%9C%A8%E5%85%B6%E4%B8%80
Casa Brutus「これも琳派? 謎の多い鈴木其一の《夏秋渓流図屛風》|ニッポンのお宝、お蔵出し」https://casabrutus.com/art/163720