ヨゼフ・アルバースの経歴
ヨゼフ・アルバース(ジョセフ・アルバースとも表記される)は、1888年3月19日にドイツの小さな町ボトロップで生まれました。父親は塗装、大工、便利屋の仕事をしており、母親は鍛冶屋の技術を持っていたため、幼い頃からその環境で育ったアルバースは、さまざまな素材を扱ったり、手を動かす仕事をすることに触れてきました。
アルバースはベルリンの王立美術学校、エッセンのクンストゲヴェルベシューレ(工芸学校)、そして後にミュンヘンの名門美術アカデミーで美術教育を受けました。
その後は、小学校の先生として働きながら絵の勉強をしていたアルバースですが、当時は表現主義的な作品や具象画を主に制作していました。
キリスト教徒であったアルバースは、ステンドグラスについても勉強して、制作したステンドグラスを地元の教会に設置したりもしていたそうです。
32歳になった年、1920年に、アルバースはドイツのワイマールにある革新的なアートとデザインの学校、バウハウスに入学しました。当時最高齢の学生でした。当初は学生として参加しましたが、1923年には教員となりました。バウハウスでは、デザインと素材に関するコースを教え、ガラス工房を率いました。彼はステンドグラスや家具を制作し、モダニズムの原則と伝統的な技法を融合させました。バウハウスが掲げる『芸術、工芸、技術の統合』という理念は、彼の作品に深い影響を与えました。
1933年、ナチス政権によってバウハウスが閉鎖されると、彼と妻のアニー・アルバースはアメリカに移住しました。アルバースはノースカロライナ州の実験的な学校であるブラックマウンテン・カレッジで教鞭を執り、1949年まで勤務しました。彼の教育は色彩と形状の研究に重点を置き、学生たちに観察と実験を通じて芸術を探求することを奨励したものでした。
1950年、アルバースはイェール大学のデザイン学部長に就任します。在任中、彼は色彩理論と視覚認知を探求するコースを通じて、アメリカにおける美術教育の形を変革しました。
アルバースは1976年3月25日、コネチカット州ニューヘイブンで亡くなりました。彼の遺産は、彼の芸術、著作、教育活動を通じて今も生き続けています。現在、アルバースの作品はアメリカのグッゲンハイム美術館やイギリスのテート・モダンなどの著名なコレクションに収蔵されています。また、現在もヨゼフ&アニー・アルバース財団は、彼らの芸術とデザインへの貢献を促進し続けています。
アルバースは、1950年から死去する1976年まで続けた絵画シリーズ「正方形へのオマージュ」で最もよく知られています。このシリーズは、異なる色の正方形を重ね合わせ、色がどのように相互作用し合い、影響を与えるかを探求しています。
アルバースは彼の生涯を通じて数多くの栄誉を受けており、名誉学位やニューヨーク近代美術館(MoMA)での回顧展などが含まれます。彼の作品は世界中で展示され、現代の芸術家やデザイナーにインスピレーションを与え続けています。
ヨゼフ・アルバースの有名な作品
「正方形へのオマージュ:ビーム」(1963年)
複数の青・緑系のトーンで構成された正方形を組み合わせた作品で、色彩の微妙な変化や組み合わせを探求しています。
「ホワイトライン・スクエア IV」(1966年)
違う色彩のスクエアと白いラインを並べてその配色の組み合わせやラインがもたらす効果を探求した作品の1つです。
ヨゼフ・アルバースの著書
「配色の設計」(Interaction of Color)1963年
アルバースは1963年に代表的な著書「配色の設計」を出版しました。
この本は、色彩の知覚と相互作用についての画期的な研究書で、色がどのように隣接する色に影響を受けるかを実験的に解明して、視覚効果を学ぶための具体的な演習を提供しています。教育者としても活躍したアルバースの視点からの解説はとても興味深く、アートに興味のある方にとっては楽しめる内容になっています。
実例や図版が豊富で、読者が実際に色彩の相互作用を体感しながら学べる形式になっています。そのため、現在も多くの芸術教育者やデザイナー、アーティストにとって必須の参考書としてよく用いられます。
「ヨゼフ・アルバース 発見と発明 初期グラフィック作品集」(Josef Albers: Discovery and Invention – The Early Graphic Works)2022年
「ヨゼフ・アルバース 発見と発明 初期グラフィック作品集」は、アルバースの初期のグラフィック作品を集めた一冊です。小学校で教えていた初期の珍しい自画像や友人の肖像画などを含め、貴重な作品が多数掲載されています。
ヨセフ・アルバースの作品の特徴
アルバースは、色彩は相対的であり、文脈に依存すると考えました。彼の色彩に対する実験は、隣接する色によって色彩がどのように変化するかを探求したもので、例えば、同じ色でも背景や隣接する色の違いによって、明るさや彩度が異なって見えることを示す実験を多く行いました。これにより、色彩が単なる視覚効果以上のものであることを強調しました。
アルバースは多くの作品で正方形や長方形などの基本的な幾何学形状を使用しています。このシンプルな形状は、鑑賞者が色彩そのものに集中し、形状による余計な影響を排除することを目的としていました。正方形の配置と色の組み合わせを変えることで、深さや動きといった複雑な視覚効果を生み出しました。
まとめ
ヨセフ・アルバースは、色彩の科学的な探求と幾何学的なシンプルさを組み合わせることで、視覚芸術の新たな可能性を切り開きました。彼の研究と教育は、現代アートとデザインに多大な影響を与え、今なお多くの芸術家や教育者にインスピレーションを提供しています。
参考
画像引用元:https://medium.com/re-write/a-brief-color-study-inspired-by-josef-albers-9d6ac9614d21, https://www.artsy.net/auction-result/7204724