デイヴィッド・ホックニーの経歴
1937年7月9日にイギリスのブラッドフォードで生まれたデイヴィッド・ホックニー(以下、ホックニー)は、ピカソやマティスなどの美術史の巨匠たちに憧れ、幼い頃からアートに興味を持っていました。
1953年からブラッドフォード芸術大学に通い、1959年にはロンドンのロイヤルカレッジオブアート大学院で学びました。
ホックニーはキュビズム、抽象表現主義などのような幅広い美術様式を作品の中に取り入れました。学生の頃からホックニー絵画作品は賞を受賞し、アートコレクターによって購入されました。
自身が同性愛者であるホックニーは、1961年に発表した「We Two Boys Clinging Together」などをきっかけとして、同性愛をテーマに表現した作品を多く描くようになります。
1966年以降は、ロサンゼルスに引っ越し、アイコニックな作品であるロサンゼルスの邸宅とプールサイドの様子を描いた作品シリーズを生み出します。
ホックニーは、絵画作品だけでなく、写真を用いたコラージュ作品を制作したり、写真、リトグラフ、バレエ、オペラ、劇場のセットと衣装のデザインを含むプロジェクトのサポートをするなど、幅広い芸術活動に携わりました。
1980年代後半、ホックニーは絵画を再び彼の制作活動の中心を絵画に戻し、風景、花、恋人の肖像画など様々な対象の絵画を描きました。
また、技術の進歩とともに新しいテクノロジーもすぐに彼のアート作品に取り入れられていきます。1986年にはコピー機で最初の自家製プリントを作成し、1990年にはレーザーファックス機とレーザープリンターを使用し、2009年にはiPhoneやiPadも使用するようになりました。
2011年には、ホックニーは史上最も影響力のある英国人アーティストにも選出された最も重要な現代アーティストの1人です。
2015年に、ホックニーはイギリスの自宅を62万5000ポンドで売却し、現在はカリフォルニアを拠点としながら、ロンドンにスタジオを構えています。
プールの絵などが有名なデイヴィッド・ホックニーの代表作品
デビッド・ホックニーの絵画作品は、ロサンゼルスのプールのある邸宅や室内風景、人物を描いたものが多く、ポップで鮮やかな色調のスタイルが特徴的です。
絵画作品以外にも、スナップ写真を組み合わせて作成したフォト・コラージュや舞台芸術、本なども出版していたりと多彩に活躍するホックニーの代表作品をジャンルごとにみていきましょう。
「芸術家の肖像画―プールと2人の人物」
1972年に描かれたこの作品は、2018年にクリスティーズで約102億円という記録的な高値で落札され話題になりました。
この落札額は、2015年に約65億円で落札された「バルーン・ドッグ(オレンジ)」で現存アーティストの過去最高落札額を記録したジェフ・クーンズをはるかに上回りました。
クリスティーズの現代美術部門のチェアマンは、『人々がホックニーの絵に望む全ての要素が、この作品には存在しています』とコメントしていたそうです。
プールはホックニーの絵画作品においてアイコニックなシンボルの1つとなっており、更にこの作品に描かれた2人の男性は、ホックニー本人と元恋人のピーターだと言われています。
自身が同性愛者であることを公表しているホックニーは、他にも男性同士の恋人の姿を描いた作品を描いています。
「We two Boys Together Clinging」
この作品はホックニーがロンドンのロイヤルカレッジオブアート大学院在学中に制作したものです。
当時まだ同性愛が違法だったイギリスで、このような表現を用いることはリスクのあることでしたが、ホックにーは大胆に同性愛をテーマにした作品をこの頃から描いていました。
「ダックスフンド」シリーズ
「ダックスフンドシリーズ」は、ホックニーが飼っていた二匹のダックスフンド、スタンリーとボジーを描いた可愛らしい作品シリーズです。二匹の何気ない日常の姿をスケッチし始めたことがきっかけとなり、このシリーズが誕生しました。
1990年代にホックニーの主要なテーマの一つとなり、多くの人々に愛されるシリーズとなりました。
デイヴィッド・ホックニーの作品が高く評価される理由
デイヴィッド・ホックニーの作品が近年美術界で高く評価されている理由をいくつか解説します。
作品の革新性と多様性
ホックニーは、伝統的な絵画の技法にとどまらず、写真、デジタルアート、ステージデザインなどさまざまなメディアを取り入れています。1980年代には写真をコラージュする技法を用いた「Joiners」と呼ばれる作品を発表し、視覚の認知や時間の経過を表現する新しい方法を開拓しました。また、2000年代にはiPhoneやiPadを使用したデジタル絵画にも着手し始め、デジタル時代における新しい表現方法に挑戦し続けています。
鮮やかな色彩と独特のスタイル
ホックニーの作品は、明るく鮮やかな色彩が特徴です。特にプールを描いたシリーズやカリフォルニアの風景画では、太陽の光と色彩の豊かさが観る者に強い印象を与えます。これらの作品は、ポップアートの影響を受けながらも、ホックニーの独自の視点と感性が表現されています。色彩と形状の大胆な組み合わせにより、視覚的なインパクトが強いため、記憶に残りやすい作品となっているのでしょう。
普遍的で共感できるテーマ
ホックニーは、日常の風景や人物などをテーマにすることで、観る者が共感しやすい作品を作り出しています。ホックニーの作品には、友人たちの肖像画や身近な日常風景が多く描かれており、これらのモチーフは観る者に親近感を与えているのです。また、彼が取り組んできたテーマには、人間関係や時間の流れといった普遍的なものも含まれており、深い洞察が感じられます。
東京都現代美術館で開催された「デイヴィッド・ホックニー展」
2023年7月15日(土)から11月5日(日)まで、東京都現代美術館にて「デイヴィッド・ホックニー展」が開催されました。日本では27年ぶりとなる大規模な個展として注目を集めました。
本個展では、イギリス各地やロサンゼルスで制作されたホックニーの代表作をはじめ、近年の風景画の傑作シリーズである「春の到来」やCOVID-19によるパンデミック中のロックダウンの渦中に、ホックニーがiPadで描いた全長90メートルにもおよぶ新作「自画像、2021年12月10日」まで、127点の作品が展示されました。
本展は全8章で構成され、今年86歳のホックニーのこれまでの長年のアートキャリアをたどり、各時代の作品をしっかりと堪能できる内容となっています。また、展覧会の後半部分で展示される作品は、すべて日本初公開でした。
ノルマンディーでの制作や本個展について語っているホックニーからのメッセージ動画は、こちらから観ることができます。
デイヴィッド・ホックニー展
会期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)
休館日:月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
※サマーナイトミュージアムの日(7/21、28、8/4、11、18、25)は10:00-21:00まで開館延長
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F
観覧料:一般 2,300 円 (1,840円) / 大学生・専門学校生・65 歳以上 1,600円(1,280円) /中高生 1,000円(800円) /小学生以下無料
【オンライン限定】平日限定ペアチケット 4,000円 / グッズ付チケット 4,400円(限定各200)
【2展セット券】「デイヴィッド・ホックニー展」+「あ、共感とかじゃなくて。」
一般 3,200円、大学生・専門学校生・65歳 2,100円、中高生 1250円※( ) 内は20名様以上の団体料金
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/hockney/index.html
※本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。
※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
展覧会カタログ、オリジナルグッズ
展覧会会場である東京都現代美術館のミュージアムショップや、一部書店などで販売される「デイヴィッド・ホックニー展」の公式カタログには、全長90メートルの大作である「ノルマンディーの12か月」を含む、本展の全出品作品127点のカラー図版が掲載されています。
学芸員による論考や日本語未翻訳の論考、ホックニーのインタビューなども収録されており、本文248ページと見応え・読み応えのある内容となっています。
「デイヴィッド・ホックニー展」公式カタログ
発行日:2023年7月14日
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/hockney/index.html
価格:3,300円(税込)
ホックニー展ショップ、東京都現代美術館ミュージアムショップ 「NADiff contemporary」および一部書店、NADiff Online Storeにて販売
また、展覧会場内のホックニー展ショップで販売される本展のために企画・製作されたオリジナルグッズも注目を集めました。
色鮮やかでポップなタッチが印象的なホックニーの作品がプリントされた、うちわ、トー土バッグ、ポーチ、キーホルダー、カレンダー、ポスター、ポストカード、一筆箋、ノート、マグネット、パズルなどのほか、バラエティ豊富なグッズが販売されました。
デイヴィッド・ホックニーについての本・画集・写真集
多彩なアーティストであるホックニーに関する本や画集も、多く出版されています。
秘密の知識
ホックニーが科学的、視覚的根拠から分析して提唱した西洋美術史への大胆な仮説について、レオナルド・ダ・ヴィンチなど西洋美術の巨匠が描いた名画など500点を用いて実証した本著は、美術界に衝撃を与えた1冊です。
豊富な図版や詳細な解説で読み応えのある内容になっています。
ホックニー画集 ひとつの回顧
ペインティング、ドローイングを中心としたホックニーの作品集です。
クリストファー・ナイト「複合的な視覚」やケネス・E・シルヴァー「舞台のホックニー」などの評論エッセイも収録されています。
David Hockney: A Drawing Retrospective
1954年から1990年代にかけてのホックニーのドローイング作品を集めた画集。
美術学校在学中の作品から、恋人など人物をモデルとしたポートレートなど幅広い作品を見ることができるファン必見の一冊です。
Cameraworks
絵画作品以外にフォトグラファーとしても活動したホックニーの写真集として有名なのがこの一冊です。
ポラロイド写真などを組み合わせたコラージュ作品が100点以上収録されています。
iPadで描かれたデイヴィッド・ホックニーの作品
新しい技術も積極的に取り入れ続けるホックニーは、iPadを巧みに使いこなして多くの作品を制作してきました。
Remember you can’t look at the sun or death for very long
フランスのノルマンディー地方で隔離していたホックニーが、iPadで描いた作品。
太陽が地平線を超えて、周りの風景がどんどん明るく照らされていく様子が描かれ、明るい光の黄色が印象的な風景画です。
A Bigger Interior with Blue Terrace and Garden
キュビズムが取り入れられており、鮮やかな色合いが印象的な作品です。
デイヴィッド・ホックニーのアートポスター
ホックニーは、アートポスターも多く製作しています。
一般的には絵画・写真などの作品に比べるとかなり低価格で購入することができるようです。
Deaains et Gravures
The Other Side
まとめ
一度見ると忘れられない鮮やかな色使いや、美術史の伝統的な技法を取り入れたスタイルを見ると、天才という言葉だけで片付けられず、デイヴィッド・ホックニーの60年ほどのアーティストとしてのキャリアにおいて、貪欲に学び続けていることが表れているのではないかと思います。
80歳を超えても新しい技術を取り入れて使いこなし、新たなスタイルを開拓し続けるホックニーは、間違いなく20世紀を代表するアーティストとして彼が尊敬したピカソらのように、美術史に名を残すことでしょう。
参考
LHM「デビッドホックニーに熱狂し続ける理由」https://www.lottehotelmagazine.com/ja/art_culture_detail?no=163
Art x Together「プールと2人の人物【デイヴィッド・ホックニー】(David Hockney)」https://www.hidekiiinuma.com/db/hockney/
画像引用元:https://artexhibition.jp/topics/news/20230714-AEJ1484908/